……意識が…ぼんやりとする…。何も……考えが纏まらない…。
何が……あったんだっけ……?
フレン……と話してて……だめだ。何にもわかん…ない。
「ごめんなさい…貴方に危害を加えるつもりは無かったのよ…」
うぅん…何か声が聞こえる…なんて、言ってるの?
「うぅぅ、あ…ん……だ…だれぇ…?」
力を振り絞って、なんとか声を出す。自分でも何を発したのかはわからない。
「……!大丈夫よ…もう少し…眠っていなさい…」
朦朧とする意識の中…このくぐもった声一つしか聞こえない。だけど…なんか、落ち着く声だ。凄く安心する…。
頭に優しい感覚が…枕とは違う何かに乗せられていて…撫でられている…?
凄く…懐かしい感じだ。なんか…この感じ……
「お姉……ちゃん…?」
もうちょっとだけ、寝ちゃおう…かなぁ…。
「ハルス!ハルス!」
ううん……なに…?また、なんか声が…
「ハルス!起きて!」
「先生、落ち着いて!」
なんか…さっきよりも騒がしいなぁ…うーん、もうちょっと寝ていたい…
「ハルス!目を覚まして!」
徐々に鮮明になって行く声。……そうだ、少しずつ思い出してきた。
「そうだ!」
こんな寝ている場合では無かった。ガバっと身体を引き起こす。すると、ゴチン!と、頭をぶつけてしまった。
「い、いてて…」
「痛い…は、ハル、無事で良かった…」
どうやら私はベレスと頭同士をぶつけてしまった様だ。頭がズキズキする。
……そうだ!
「ふ、フレン!フレンは?」
私が気絶した後に、フレンはどうなったのだろうか。私が無事だったとしても、フレンが無事だとは限らない。
「大丈夫、フレンちゃんも無事よ」
「そ、そうなんだ…良かった…」
ウインクをして私に言うドロテア。
でも、私達を襲った奴らの目的は一体なんなのだろう。私目当てのものだったのか、それともフレンだったのかはわからないが、私達両方とも無事だとは…。
「……あ、そうだ、ベレス…って、ひゃぁぁ!」
私が再び口を開いたその時、ベレスに抱き締められる。
「べ、ベレス…ちょっと…」
「良かった…本当に…良かった…」
泣きそうな声でベレスはそう呟く。…どうやら、とても迷惑をかけたみたいだ。こんなに弱々しいベレスは見たことない。
「……私は、大丈夫。ありがとう、ベレス 」
私も、ベレスの背中に手を回し抱きしめ返し、落ち着いて貰うように、優しく声を発する。学級の皆んなが見ているというのは少し恥ずかしい。
「えぇっと、これは一体どう言う状況なのかしら?」
熱い抱擁を交わす私とベレス。その最中にエーデルガルトが顔を出す。凄く困惑した表情だ。
「……まあいいわ。怪我は無いのね?ハルス」
「うん、多分。後ろから一発くらっただけ」
後ろからガツンと一発叩き込まれたが、今は少し痛むぐらいで怪我と言う怪我では無いと思う。
「ベレス…流石にそろそろ…離して…」
いつまでもぎゅーっと締め付けてくるベレス。ベレスの甘い匂いがして落ち着くが、回しからの視線も痛いし、少し締め付けすぎだ。若干苦しい。
「うう…膝枕もハグも人前ではやめて…」
「……膝枕?」
そう。今思えば…曖昧ではあるが、私は膝枕をされながら頭を撫でられていた。
「私、知らないけど」
「へ…?知らない…?あ、いや、なんでもない」
ベレスじゃ…ない?確かに意識は朦朧としていたが、夢では無かった気がするのだが…
一瞬、視界の端でエーデルガルトが震える。どうしたんだろう、大丈夫かな?
「ま、まぁまぁ、話は上に上がってからにしましょう。いつまでもこんな所にいる必要はないわ」
手を叩き、私たちに帰還を促す。そういえばここはどこなのか私は知らない。
長い階段を登った先は誰かの部屋で、大修道院の中であった。あんなしっかりとした隠し部屋があるだなんて、この修道院は凄いなぁ…。
「それじゃあ、ハルスも念のために医務室に行きましょう。先生はセテス殿の元へ行ってあげたらどうかしら」
「…そうだね。ハルのこと、よろしく」
別に身体は大丈夫だと思うんだけどなぁ…自分で歩けるぐらいだし。まぁ、いいか。行っても損は無いだろう。
「ハルス、一体何があったのか聞いても良いかしら」
「え、うん。いいけど」
私はあの時起こった事を軽く説明した。
「そうなの…黒い甲冑の…やはり、例の死神騎士…イエリッツァ殿でしょうね」
「死神…騎士?」
騎士というのは高潔なものだと思っていたのに、死神だなんて、その二つの言葉が両立するとは、変な感じだ。どうやら修道院内で噂になっていたらしい。私は知らなかったが。
そしてその正体とされている人は皆んなに剣術の訓練をしていた人だとか。私は剣術訓練は出た事無いから名前を聞いてもピンとこない。
「それにしても…どうして逃げなかったの?いくらフレンが居たとはいえ、貴方が死んでしまっては元も子もないのよ。それに、フレンを連れたまま逃げる事だって不可能な事じゃないと思うのだけれど…」
あぁ…それ、聞かれちゃうかぁ…あんまり言いたく無いなぁ…
「いやぁ…その…何ていうか…」
視線を逸らして、口籠る私。我ながらここまで怪しい態度を取るとは思わなかった。
「か…勝てると思った…から」
驚きの表情も何も見せず、静かに私を見つめるエーデルガルト。ひぇぇ…無言の圧力が…
「そう…余り無茶はしない方がいいわね」
叱責が来ると思っていたが、意外とあっさりと話題が終わった。
そのあと、私の後頭部をエーデルガルトに軽く見てもらって、医務室を出た。
さて、どうしようか。一応、療養の為に部屋にでも戻ろうか。
「あら、ハルスさん。こんにちは」
「…あ、フレン…」
元気そうで何よりだ。でも…今は、あんまり会いたく無かった。
「そ、その…無事で、良かった。それじゃあ…」
「まぁ、待ってください!少し、お話しませんの?」
即座に立ち去ろうとした私を引き止めるフレン。関係は悪くしたく無い。でも…言及されたく無い。私のとこについて…触れないで欲しい。
「ハルスさん」
「う…あぅ…そ、その…」
心臓の鼓動が激しい。何を言われるのか、どう返せば良いだろうか、そんな事で頭がいっぱいだ。
「本当に、ありがとうございます!」
「う…はい、ど…どういたしまして…でも、助けられなかったし…」
「関係ありませんわ。私の為に戦ってくれた事が、とっても嬉しかったんですのよ?」
こうやって、感謝を真正面から伝えられると少し小っ恥ずかしい。でも……
「で、でも…そ、それだけ…?」
「それだけ……あ、そうですわ。私、ベレス先生の学級に入る事になりましたの」
「ち、違う…そうじゃなくて…私のことについて…」
首を傾げるフレン。本当に私の言いたい事がわからないのだろうか。
「ハルスさん?何かお身体に障ることでも…」
「違う!私…私の、見たでしょ…?」
以前、ベルナデッタの前でやった時は目を瞑ってもらったけど、フレンは間違いなく見ているはずだ。なのに…見て見ぬ振りをされると辛い…
……あれ、なんで…私泣いてるんだろう。それに…触れられないなら良いじゃ無いか。なんか、頭の中がぐちゃぐちゃで…私…どうしちゃったんだろう…
「ハルスさん」
「ふぇ…?」
私の手をフレンは両手で強く握り締める。そして、私の顔を見て優しく微笑む。
「喋りたく無い事も、見られたく無い事も、人にはいーっぱいありますわ。私にだって……。ですから、そうお気になさらなくても良いですわ」
……フレンは、優しい。でも…その優しさが、今は辛い。
「それでも、どうしても…どうしても耐えきれなくなったのなら…私に所にいらっしゃいな。いつでも…お待ちしておりますわ…」
「………ど。どうして…わ、わた、しに…そんなに優しく…するの…?」
会ってから精々数ヶ月、話しかけられても、少し素っ気ない態度ばっかり取ってた私に、どうしてここまで優しくするのか、到底理解できなかった。
「……?だって、私達……
「お友達じゃありませんか」
「………へ?とも…だち?」
何かおかしな事を言ったのか?と言わんばかりに私を見つめるフレン。
……なーんだ。友達、そうか。友達…か
「は…あはは…なんか…私…何やってたんだろう」
一旦涙を拭い、フレンと改めて向き合う。私も…言わなくちゃ…一つのケジメとして。
「フレン…私と………
私の友達になってくれませんか!」
きょとんとするフレン。
それはそうだろう。元から友達だと思っていた相手に友達になってくれなんて言われたのだから。
でも、私がフレンの【友達】になる為には、この言葉が必要だと…私は思う。
「ええ……喜んで!ですけど、こういうのはもっと笑顔で、明るくするものだと私は思いますわ!」
「う、うん…そう…だね」
私の顔は、きっとまだ涙でぐずぐずだろう。だが、どうにか頑張って笑顔を作る。
「フレン…これから…よろしく」
私が泣き止むまで、フレンは隣にいてくれた。それから、私たちは別れて、それぞれの部屋に戻った。
「ハル」
「あ、ベレス 」
「……良いことでもあった?」
「……!……うん。あった」
何も言っていないのに、ベレスは私の事ををすぐに見透かしてくる。
ベレスには…敵わないなぁ。
自分で何書いてんのかわからなくなってきた。
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