《リシテア》
普段は閉ざされる夜の食堂が、本日に限っては明るく、騒がしい物になっている。その理由は鷲獅子戦という、学級対抗の模擬戦。その打ち上げが行われているからだ。
私の所属する学級は敗北してしまったが、別に気にしてはいない。
今、私が気にしているのはハルスという女の子についてだ。
その理由は、容姿にある。
別に、それの良し悪しの事ではない。もっとも前者ではあるが……
いや、そんなことはどうでもいい。ただ、私と同じ……私にとっては忌々しい真っ白な髪の毛。
このフォドラにおいて、白の髪色は珍しい。特に、若い者であれば。
私のこの髪の毛が白くなった発端は……思い出したくも無い。私にとっての最悪の記憶だ。その影響で、私は二つの紋章をこの身に宿している。誰にも明かせない…私の秘密だ。
彼女は…ハルスは、もしかすると、私と同じ被害者なのかも知れないと、そういう考えがあった。
教師の一人であるベレス先生とは、姉妹の関係であるそうだが、そこに血の繋がりは無いらしい。これはベレス先生本人に聞いたから、間違いは無い。それならば、無くはない話だ……と思い、私は接触を試みる。
現在はヒルダを中心に他の生徒に揉みくちゃにされている。私が入り込む余地は無さそうだ。
しかし、何かの拍子に、食堂の外へ出て行った。今がチャンスだ。
この話は誰にも聞かれたく無い。皆は宴会に夢中だろうし、周りに人の気配は無い。
私も外へ出て行くと、彼女は階段で座り込んでいた。
「はぁ……ヒルダに捕まると碌なことが無いや……嫌じゃ無いけど…さ」
後ろの騒ぎに掻き消され、その呟きは本来は誰かに聞こえる物では無かったのだが、生憎と私は聞いてしまった。これはヒルダには秘密にしておいてあげよう。正直、彼女の気持ちはよくわかる。
「ちょっと良いですか」
「うひゃう!?い、いや…何も言って無い…ってあれ?」
ヒルダに聞かれたとでも思ったのか、急いで弁明をするが、私である事に気づいて、首を傾げる。
「え、えっと…だれ?」
向こうからしたら私は、顔は見たことはある…ぐらいだろう。
「リシテア、です。少しだけ、お話ししても良いですか」
「は…はい、良いですけど…」
とは言ったものの、どう切り出したものか。「身体を弄られましたか?」とは流石に言えないだろうから……
「その…どこか、身体に異常はありませんか?その、無いなら良いんですけど」
差し当たりの無いような言葉を選んで、なんとか聞き出そうとする。いや、何も無いなら良いのだが、もし有った時の為に、念には念をおいて、だ。
「異常………!?え…ど、どうして…!?」
一瞬考え込んでから、急に動揺を見せた。この反応は…
「な……何も無い……です…」
「……そうですか。何も無いなら、良いです」
目線を逸らしながら、明らかに何かに怯える素振りを、ハルスは見せた。
もしかしたら……私の予想は当たった…当たってしまったのだろうか。
先生はもちろん…この事を知っているのだろう。私の言った事で、思い出したくない事を思い出させてしまったかも知れない。
「私が…支えてあげなくちゃ」
歳下か、同じくらいの年齢だろうから、年長者(仮)としても同然でしょうし。
だとすると…私が行うべきことは…
「その…ベレス先生、お話があるのですが……」
《セテス》
「うむ、よく来てくれた」
「あ、あのぉ…何の話を…」
ハルス=アイスナーを、私の執務室へ呼び出した。少し聞きたいことがあったからだ。しかし、どうにも怯えた素振りを見せる子だ。
……私はそこまで強面だろうか。
「そうだな…聞きたいことはいくつかあるが…まずは、改めて感謝を伝えよう」
「……何の?」
「フレンから聞いたよ。フレンの為に戦ってくれたのだろう。ありがとう」
フレンは私の大切な妹……ではなく娘だ。何の打算なくフレンを守ってくれた彼女には、良好な関係を築いていたい物だ。
しかし…フレンも言っていたが、彼女と私達の間には何かがある。言葉で表せる物では無いが、その何かを本能的に感知している。
「ここからが本題だ。君はジェラルト殿に拾われる前は、どうしていたのかな」
「さ、さぁ…わかんないです。物心が付いた時には傭兵団だったので…ジェラルトが言うには…森の中に捨てられてた…です」
彼女の言に不審な点は見受けられない。いや、赤子が捨てられていたという事実は不審ではあるが。
「そうか、では次は…君のその魔法、誰に教わったのだろうか」
「ぅ……」
……表情が曇った。これは…聞かれたく無い事なのだろうか。
「が…我流、です」
目を逸らしながら、そう答える。嘘を吐いている雰囲気は無いが、何かを誤魔化しているのは間違いない。この質問に対する答えを聞き出せれば、彼女の本質がわかるだろうか。
しかし…無理に聞き出すのはやめておこう。娘の友人が隠したいと思っている事を暴くのは気が引ける。不明な点は多いが…決して害をなす存在では無いだろう。
「うむ。では、聞きたいことはこれだけだ。これからもフレンをよろしく頼むよ」
「……はい」
姉妹共々、フレンに良い影響を与えてくれる事を信じよう。