今日も…来てないなぁ
あの村での一件以降、ハルスちゃんはまともに部屋から出て来なくなってしまった。………引き篭もりの筆頭であるあたしよりも遥かに外出の機会は減っているだろう。
授業すらまともに出てきていない。
「ベルナデッタ、ちょっといい?」
「へ…?な、なんですか?」
急に先生に呼び止められた。一体何の様だろうか。
「ハルについて…良いかな」
そういって、少し人気のない所まで連れて行かれた。て言う事は…聞かれてはまずい話だったりするのだろうか。
「…知ってたよね、ハルのこと」
「な、何のことで………は、はい。知ってました」
先生の眼光に負けた。
多分…あの腕の事についてだろう。私は皆より早く知っていた。あの聖廟の時、ハルスちゃんが体調を崩して看病していた時に見てしまったのだ。
言わない方が良いと思い、今まで気付かぬふりをしていたのだ。
「…ハルのこと、よろしくね」
「は、はい!って、え?ちょ、ちょっと先生!?」
いきなりハルスちゃんを任されたと思えば、先生は立ち去ってしまった。
え、えぇ…?先生ってば、言葉が足りないよぉ…、あたしに何をしろと…?
……ハルスちゃんの部屋の前に、あたしは立っている。
考えたけど、直接話すしかないと思った。私が誰かに頼りにされるなんて…そんなのやるしか無いじゃないか。
「は、ハルスちゃーん?いる?」
扉を叩き、呼びかける。反応は無い。
……もう一回。
「ハルスちゃん、大丈夫…?」
反応は無い。寝ているのだろうか…それなら、また機会を改めて来ようか。起こすのは忍びない。
扉に背を向け、出直そうとした時、後ろから扉が開く音がした。
「……なに?」
ひどく、覇気のないハルスちゃんが扉から顔を出し、こちらを見ていた。
反応…してくれたみたいだ。
「そ、その、お部屋入っても、良いかな?ベルと…ちょっとだけで良いからお話ししよう?」
「……うん」
部屋に入れてはくれた。
でも、暫く無言が続く。
どう話を切り出したものか。試行錯誤するも良い案は思い浮かばなかった。
「……私は人とは、違うの」
先に話を始めたのはハルスちゃんの方だった。弱々しい声で私にそういった。
「う、うん。でも…ちょっとだけ違うだけだよ。ベルだって少なくとも普通じゃないし…」
「…そうじゃ無い。私は…変わってるだけじゃ無いの。人じゃ…無いの」
「ううん。ちょっとだけだよ」
ハルスちゃんにこっちを見てもらう様に、顔に手を当てる。
……ちょっと恥ずかしいなぁ、これ。
でも、今は少し強引に行かないといけない気がする。ハルスちゃんが自分を嫌うんなら、私が…いや、私達が教えてあげなくちゃいけない。
ハルスちゃんの瞳を見つめて、手を握る。
「その、ベルはハルスちゃんのこと好きだよ」
「……は?」
…ちょ、ちょっと!これじゃあ私がハルスちゃんに愛の告白した見たいじゃん!
「ち、違うの!その…」
なんて言えば良いのだろうか。上手く伝えられない。こんな時に口下手が災いするなんて…
……いや、真っ直ぐ伝えよう。
「その、ね。ハルスちゃん。聞いて」
「……な、何なの?」
「ベルはね…いや、皆んな、ハルスちゃんの事が好きなの」
そう言ったら、ハルスちゃんの目が揺れた。このまま押し切れば…良いのかな。
「で、でも…私、気持ち悪い…でしょ」
「ううん。そんな事ないよ。皆んなと違っても良いと思うの」
そもそも、私の学級…というかこの大修道院内には個性的な人が多すぎる。外に滅多に出ない私でもすぐに名前を覚えれちゃうぐらいには。
「その、大丈夫だよ。皆んな気持ち悪がったりしないから。あたしはそれに助けられた事だってあるんだから」
ハルスちゃんがその特殊な体質じゃなかったら、いつしかの戦いで私は山賊にやられていただろう。それが無くたって、ハルスちゃんに助けられた人は多いはずだ。
「…で、でも…」
「いこ?ハルスちゃん。あたしが、付いてるから」
多分、これ以上何を言ってもハルスちゃんは動かないだろう。それなら見せてあげよう。ハルスちゃんの事を軽蔑する人なんていない事を。
無理矢理にでも外に連れ出す。
…引きこもりのあたしが外に連れ出すなんておかしな話だけど。
立ち上がって、扉の前で振り返る。そしてまた手を差し出す。
「あ……べ、ベルナ…デッタ」
ハルスちゃんが、自分の意思で私の手を……
掴んだ
ハルスちゃんにとっては、久しぶりの外だろう。それ故に、どうしてもハルスちゃんに視線は集まる。皆んな心配していたのだろう。
一部の人は久し振りに会えたと話しかけ、最初は怯えていたハルスちゃんも段々いつも通りに戻っていった。
「はーるすちゃん?久し振りだね。もう、大丈夫なの?」
「あぅ…ヒルダ…」
もう、大丈夫そうかな。人が集まって来たので、私はその場から逃げ出した。これで良かったんだよね、先生。
妹ができるって…こんな感じなのかなぁ…やっぱ
「……よし」
ベルナデッタとハルが一緒に部屋を出るのを見届けた。中でどんな会話があったかはわからないが、きっと上手くやってくれたのだろう。
あの役は、私じゃダメだった。私が外に出ろと言えば、間違いなくハルスは外へ出る。でもそれじゃあいけない。
ハルには、皆んなと仲良くなって貰いたかった。自分は秘密があるからと、いつも一歩引いた位置で、皆んなと関わっていた。
隠し事なんて誰しも一つ三つはあるものだろうに、でもハルはそんな自分が許せなかったのだろう。優しすぎるのも考えものだ。
私が強制するのではなく、誰かに支えられてでも、自分の意思で立ち上がって欲しかった。ベルナデッタに頼んで良かった。
「……あいつも、随分人間らしくなったなぁ」
「……父さん?」
いつの間にか父が隣に立っていた。その視線の先には、久し振りにハルに会えた皆が楽しそうに騒いでいる。しかしその発言は如何なものか。
「ん?あぁそう言う意味じゃねぇよ。お前らはどうにも人間味が無かったからなぁ。そう考えれば、帰って来たのは正解だったかもな」
……帰ってきた?私は大修道院の外で生まれたのでは無いのだろうか。今の言い分では私が大修道院内で生まれたかの様ではないか。
「ん……あぁ、しくったな…今度俺の部屋に来い。隠し通すのも無理があったか…」
ハルの生まれについては私でも知らない事が多い。私にも何か隠されている事があるのだろうか。
「……父さん、ハルについて、教えてくれる?」
「……あぁ、その時に、出来る範囲でな」
ハルについてはなんでも知っている、と思っていたが、そんな事は無いと今になって思い出した。
「わ…なに?」
ジェラルトに頭をくしゃくしゃっと掻き回される。撫でているつもりなのだろうか。
「お前は姉なんだから、どんな時もあいつの味方であれよ」
「…うん。わかってる」
私たちの絆は決して切れない。例えどんな事があろうとも。
「そういえば白鷺杯…今ならハルに任せても…」
「おいおい、そりゃあいつは受けねぇだろ」
皆と仲良く出来るチャンスだと思ったのだが、提案した瞬間に断られた。