……先生、それで良いの?
確かにハルスは部屋から出るようになったが、立ち直った…とは程遠いのが現状だった。
寧ろ、不安定さがより増している。
「お、お姉ちゃん…どこ…?どこにいるの!?」
「ハルス、落ち着きなさい!」
「た、助けて…!私を守って…そばに居てよ…!」
先生と少し離れただけでも、呼吸を荒げてパニック状態に陥ってしまう。
今ではずっと先生に張り付きながら、日常を過ごしている。職務の時も、食事の時も、寝る時もずっとだ。
自立、という概念がまるで消失したように。
一番困ったのは出撃の時だ。置いていく予定だったのだが、先生と共にいないとパニックに陥ってしまうので、渋々連れていくことになった。
いつもの様に素手ではなく、槍を携えて共に出撃したのだが、敵を目の前にしている最中だと言うのに、槍を持つ手を震わせ始め、その場で蹲ってしまった。
「はぁっ…はっ…い、嫌ぁ!」
そんな事情を敵が汲んでくれる訳もなく、ハルスに、無情にも武器を振り下ろしてくる。
ハルスは腕でその武器を受ける。戦う気力はなくとも、本能的に身体が動いた様だった。
その影響で、彼女の服が破れて、竜の腕が露出する。
「な…化け物か!」
そんな敵の一言にも、ハルスは過剰に反応してしまう。
「ば…化け物…?ち、違う!私は!」
ヒステリックに叫び散らかし、涙を流す。以前までのハルスは、もういないのだと痛感した。
先生…ハルスが大切なのはわかるけれど、これからもずっと行動を共にするなんて、無茶じゃ無いかしら。時間はかかっても、もっと別の方法を模索するべきでは無いの?
もう、ハルスはボロボロよ。もし貴方が居なくなってしまえば、完全に壊れてしまうわよ。
騎士団が…ソロンを名乗る者達の場所を突き止めた。私達の学級がそれの始末をつけることになったのだが…
「い、嫌だ!私も行く!」
「…駄目よ。貴方は連れていけないわ」
やはり、ハルスが着いて行きたいと駄々をこねる。流石に今回だけは連れていけないだろう。相手の実力は未知数なため、ハルスを守りながら戦える自信はない。
「つ、次は戦える!もう…大丈夫だから!」
その言葉も、何回目だろう。出撃の度にそう言って着いて来る。勿論ハルス自身は本気で言っているが、実際そうなることはない。
「わかってるわよね、先生」
私がどれだけ言っても、きっと伝わらないだろう。先生からの言葉でないときっと聞いてくれない。
「…うん、ごめんね。ここで待っててね。すぐに戻ってくるから、ね」
ハルスは悲観、といった表情をして、目には涙が浮かび始める。
「心配しないで。私は絶対に帰ってくるから」
そう言って先生はハルスを抱き締める。ハルスは声を殺して、胸の中で泣いている。
「……ベルナデッタ」
「ひゃ、ひゃいぃぃ!な、なんでしょう!」
…毎回、話しかけただけで悲鳴を上げないで欲しいものだが…
「良かったら、ここに残ってハルスの面倒を見ててくれるかしら。別の人に任せても良いのだけど…」
「あ……や、やります!ハルスちゃんの事は任せてくださいぃぃ!」
「えぇ、よろしく」
今のハルスはとても一人にしてはおけない。先生は出撃させなければならないし、私もそれは一緒だ。それなら、ハルスと仲も良く…こういってはなんだが、戦力的にもそう気にならないベルナデッタが最適だろう。
「先生にも、この旨を伝えないとね…」
父の仇であるクロニエ、その仲間であるソロンを討ち、大修道院に戻って来た。
私は、ソティスを失った。正確には一つとなったのだが、もう彼女の憎まれ口を聞く事は無いと考えると、寂しい気持ちが湧いてくる。
その所為か髪の色と瞳の色が、ソティスと同じ色に変化してしまった。ただ、だからと言って何かが変わった訳では無さそうだが。生徒達にも多少驚かれたぐらいだった。
ただ、レア…大司教とセテス、エーデルガルトはそうではなく、他の生徒達とは違う様子だったが…。
しかし、聖墓に行けとはどう言う事だろうか。大司教とセテスにそこへ赴く様にと、課題にまでされた。ただその場に行くだけなら、課題になどしなくても良いと思うのだが。
それに、ハルスは連れて行かない様に、と念押しされた。理由を聞いても満足の行く回答は得られなかった。
私と一つになったソティス、それを崇める教団。まだわからない事が多いが、その聖墓とやらに行けば、何かがわかるとセテスは言った。
まぁ、なんだって良い。私が何者でも、ハルがいれば私は大丈夫だ。一緒には行けない様だが、大した時間にもならないだろうから、心配する必要もないだろう。誰か、生徒に私が居ない間は面倒を見てもらう様に頼もう。