「……んぅ、……あれ…?」
修道院の学生寮の自室にて、少女は目覚めた。部屋には自分一人しかいない。
少女は少し考えて、自分が寝起きだと言うことに気づいた。最近は目を覚ませば、姉か同じ学級の生徒がいるものだが、今回は誰もいない事に違和感を覚えた。
ぼんやりとした頭で、寝る前の出来事を思い出す。
……そうだ、生徒の皆んなを連れて…修道院内のどこかにいったんだっけ。
自分は置いてけぼり、と多少の疎外感を覚えながらも、しょうがないと諦めた様子だ。
もっとも彼女も着いて行きたいと言ったのだが、修道院で一番偉い大司教に止められた為に、こうして部屋で一人ぼっちで帰りを待っているのだ。
もう一度、睡魔に身を任せて眠りにつく。
精神状態も多少は安定してきた。数日前までは一人でいる事が不安でしょうがなかったが、今回、彼女自身がこうして一人で待つことを選択したのだった。
だが、近くに誰もいないと言うことに気付けば気付くほど、不安が胸に押し寄せてくる。彼女の眠りにつくという選択は、眠っている間はそれに気づかないから…自分を誤魔化したかっただけなのかもしれない。
「……ふわぁ…、……だれか…いるの…?」
眠りに落ちる、その寸前に扉の外に何者かの気配を感じ取った。知っている様な、知らない様な、害意は感じられなかったため、彼女は躊躇いなく扉の鍵を開けた。一刻も早く、誰かに側にいて欲しい、私を安心させて欲しい、と。
扉を開けた先には、級長であるエーデルガルトが無言で立っていた。
「……あ、ヒューベルトさんも。お姉ちゃ…あ、ベレスは…どこ?」
そう呼びかけたのに対し、エーデルガルトは何も語らない。ただ口を噤み、彼女を見つめている。優しい、慈しみを込めた瞳。だが、その奥には、燃え盛る様な決意が垣間見える。
「…エーデルガルト、さん…?どうしたの…そんな怖い顔で」
「…さようなら、ハルス。貴女といた時間は楽しかったわ。そして、ごめんなさい。貴女はきっと、私のせいで苦しむことになる」
そう言って、エーデルガルトはハルスを抱き締める。
「…え、えっと、本当に…何が…?」
「エーデルガルト様、時間が…」
なぜ抱きつかれたのか、何を言っているのか、彼女には全くわからない。まるで、もう会えないかな様な口ぶりで何かを語っているエーデルガルトに、不安感を抱いた。
「ま、また…あえる?」
その場から去ろうとしたエーデルガルトの裾を掴んで引き止める。自分の心の拠り所にもなっていた彼女と、もう二度と会えない様な気がした為だ。
「…会うことが無ければ良いわね」
「ちょ、ちょっと!待って!」
伸ばした手は空を切った。ヒューベルトと共に何処かへ転移して、ハルスの目の前から消えた。
「ど、どういうこと…?何があったの…!」
良好な関係が築けていたと思っていた為に、その拒絶は心に傷を残した。
「…ハル!」
エーデルガルトが去ってすぐに、ベレスが駆けつけた。そして、彼女も何も言わずにハルスを抱き締める。
「…お姉ちゃん。何か、あったの?」
聞いても、ベレスは何も語らない。エーデルガルトがいずれこの場所を、軍を率いて侵略してくるなどとは言えなかった。妹にこれ以上の心の負担を負ってほしく無かったからだ。
「…今日は、もう寝よう」
「……?うん、わかった」
早ければ、明日にもエーデルガルトの帝国軍はこの修道院を落としにかかるだろう。寝て起きれば、戦いが始まる。
ベッドの中で、隣で眠るハルスの顔を見る。ハルスの寝息が静かな寝室に響く。起こさない様に、優しく頭を撫でる。
この子だけは、絶対に守ると、断固たる意志を抱き、いつしかベレスは眠りについた。
三人称って…難しいですね。一人称になりかけている部分も所々出ている様な気がします。
次の次ぐらいから二部入りだと思います。ここまで長かった…