夜が明けて、私達はまた謁見の間、だったか。に向かう。道中ジェラルトとも合流した。
「やれやれ、巻き込んじまってすまねぇなぁお前ら。悪りぃがお前らもここで働く事になっちまった」
「傭兵として?」
「いや、それがなぁお前は教師だそうだ。どうやら1人教師が欠けたところをアロイスの野郎が推薦しやがったらしくてなぁ」
ベレスが先生、全然似合わないが大丈夫なのだろうか。それに先生なんてそんな簡単になれるものだろうか。
「ひゃっ!?」
「あら〜あなたが親任の先生かしら!随分とちっちゃくて可愛らしいのね!」
いきなり身体が宙に投げ出された感覚がした。後ろから誰かに持ち上げられたようだ。びっくりして変な声を出してしまった。
「あ、あの私は違くて!」
「あら?知っているわよ。ごめんなさいね。可愛らしかったからつい」
うふふと笑う女性言い振りからしてこの人も教師なのだろう。そして今度は片眼鏡をかけた髭の男性が歩いてきた。
「マヌエラ君…我々は顔合わせに来たのだから、遊びに来たのでは無いのだぞ?」
「わかってるわよ。あなたでしょう、新しい先生は。渋くてなかなかイケてるじゃない!」
「あーいや。俺でもねぇんだよなぁ」
見事に論外の私を含めて3分の一を外したマヌエラという女性。まぁ、無理もない。私でもきっと間違える
「え、もしかして、あなた?」
「ふむ、なかなか若いようだな。しかし教師としての資質があるのならば歳など関係あるまい。私はハンネマン。紋章学者であり教師だ。よろしく頼むよ」
「それもそうね、私は教師兼、医師兼、歌姫のマヌエラよ。よろしくね」
どうやらマヌエラ先生は色々やっているそうだ。しかし歌姫?とやらはよくわからない。
「あのー、歌姫って…」
「あら、聞いたこと無いかしら。ミッテルフランク歌劇団の美しき…」
「こらこら、マヌエラ君。話がずれているぞ」
どうやら何処かで歌姫をやっていたようだ。仲良くなったら聞かせてもらおう。
「さて、君にも一つ学級を受け持ってもらう事になるのだが…」
ここで私についての話がされていない事に気がついた。
「ジェラルト、私は?」
「ああ、言ってなかったな。お前はここの生徒として扱うそうだ。それで、あいつの受け持つ学級に入れるらしい」
「私が、ベレスの?」
私がベレスに勉強を教えてもらうというのか。姉が教師というのは複雑な気分だが。……悪くは無いかもしれない。
「お前を士官学校に入れるのには何も文句はねぇんだが…あいつを教師にする意図はわかんねぇ。レア様も何を考えてるんだか」
確かに、いくら信頼してたジェラルトの子どもとはいえ、いきなり教師にするのは無いだろうと思う。私と同級生になるのもそれはそれで無いと思うが。
2人との話が終わったのかベレスがこちらにやってきた。
「私は校内を見てくる。一緒に来る?」
「うん、ついてく」
とんとん拍子に話が進んでいくが、正直私はついていけていない。生徒になると言うのも全く実感が湧かない。
◇
ベレスと共に大広間までやってきた。今も沢山の人で賑わっている。その大勢の人の中に1人、見覚えのある人がいた。えっと、エーデルガルトさん、だったか。
「あら、昨日ぶりね。あなた、この修道院の教師になるそうね。ええと、ハルス、あなたは?」
しゃがみ込み、私と視点を合わせて話しかけてくる。
「わ、私はその、生徒として入るそうです」
「そう、では改めて名乗らせてもらおうかしら。私はエーデルガルト=フォン=フレスベルグ。アドラステア帝国の皇女であり、第一位の皇位継承者。これからよろしくね」
つまり、エーデルガルトさんは次期皇帝と言うことだろうか。とんでもない人を助けていたようだ。
「あなたはこれからどうするのかしら。良ければこの子を借りても良いかしら」
「……うん、じゃあまたね、ハル」
私はエーデルガルトさんに手を引かれ、テーブルに向かう。
「そ、その、エーデルガルトさん?」
「あら、良いじゃない。別にお姉さんと一緒じゃ無ければいけないわけでは無いでしょう?」
「何か、話したいことでもあるんですか?」
「これから同じ士官学校に通うのだから、親交を深めて置いても良いでしょう?」
ベレスが選ぶ学級次第ではエーデルガルトさんと同じクラスになるのだ。確かにその時には仲良くしたいものだ。しかし彼女の視線はどこか値踏みをする様な感覚がする。裏表の無いジェラルトやベレスと違い私が苦手なのはそこだろう。
「あなたはどの学級に入るか話決まっているのかしら」
「ベレス…じゃなくて、姉の受け持つ所に入ります」
「そうなのね、なら彼女にもっとアピールしておくべきだったかしら」
笑いながらそう言うエーデルガルトさん。私に何を見出しているのだろうか。おそらく聞いても教えてはくれないだろうが。でもそこまでの事はしていないと思うのだが…
「おや、エーデルガルト様、その少女はあなたが言っていた…」
目つきの悪いロン毛の男性がエーデルガルトさんに話しかける。凄く怖い印象だ。エーデルガルトさんの友達…なのだろうか。
「ええ、私を助けてくれた子よ。ハルス、彼は私の従者のヒューベルト。見た目は怖いかも知れないけど、筋の通った男よ」
「ふふ、我が主君を救ってくれた事、感謝しますよ」
「は、はい。どういたしまして」
怖いと言う印象しかやはり浮かばない。エーデルガルトさんが信頼しているので悪い人では無いんだろうが…まだ数人にしか会っていないのに皆んな癖が強い人ばかりだ。
「ところで貴殿は彼女とは似ても似つきませんが、姉妹と聞いておりますが…」
「その、血は繋がってませんから」
「おや、そうですか」
ヒューベルトさんもやはり私を見定めているようだ。しかしエーデルガルトさんのそれとは違う。皇女様を助けて恩を売って取り入ろうとしている。と思われているのだろうか。私に対して、興味より疑いの視線の方が多く感じるのはそう言うことだろうか。もっともあの時は皇女様だなんて知らなかったと言うのをヒューベルトさんは知らないからだろう。
それからしばらく、無言で立ち続けるヒューベルトさんの隣でエーデルガルトさんと喋っていた。エーデルガルトさんの学級の話になったのだが、どうやらベルナデッタさんという私に似た子がいるらしい。人と話す事が苦手で引きこもりがちなのだとか。
確かに私はコミュニケーションは苦手だが断じて引きこもりでは無い。お互い会話が苦手な為に今のところ話すことができる気がしないが。
「お姉さんが帰って来た事だし、お別れかしら。私を選んでくれるかしらね、彼女。ぜひ一言言っておいてくれれば、私と同じ学級になれるかもね」
後ろを見るとベレスが歩いて来ていた。私を迎えに来たのであろう。
「ハル、いくよ」
「あ、うん。エーデルガルトさん。その、また明日」
「ええ、また明日」
ベレスが手を差し出してくる。手を繋げと言う事だろうから、私はその手を取り歩き始める。謁見の間に戻るのだろう。
「ベレス、どの学級にするか、決めた?」
「うん。多分決まった。ハルは、あの子と友達になれた?」
「……まだわかんない。友達ってどんなの?」
今までに年齢が近い人なんて1人もいなかった為に、友達という感覚がわからない。そもそもエーデルガルトさんが私を友達と思っているのだろうか。
「大丈夫。私もわからないから」
微笑みながら私にそう言うベレス。確かに、ベレスも友達がいた事はないだろう。私は笑い返し、少しだけ手を握る力を強くした。
謁見の間にはすぐに着いた中ではレアさんと教師2人、そして強面の男性が待っていた。
○
「士官学校の様子はいかがでしたか?とても活気に満ちた場所でしょう」
「私は反対なのだが、大司教たっての希望でね、3学級のうち一つ、選んだかね。おっと自己紹介がまだだったな。私はセテス。大司教の補佐をしている」
こちらを睨みながら話す緑の髪の毛の男性。おそらく急に教師となったベレスを疑っているのだろう。まぁ、無理もないだろう。
「新任の君から選びたまえ。我々は残った二つの学級を受け持つとしよう」
「
どこの学級を受け持つのだろう。といってもエーデルガルトさんの学級しか私は知らないのだが。
「えぇと、黒鷲の学級がいい」
「エーデルガルトが級長を務める黒鷲の学級ですね。それでは、彼らを真摯に導いてくれる事を願います」
エーデルガルトさんが級長を務める…という事は同じ学級になるということか。喋ったことのある人がいるというのは心強い。他の2クラスにはおそらくいないだろうから。ベレスの選択には少し安心した。
でもベレスはエーデルガルトさんとはそう話していないだろうし…黒鷲の学級に魅力的な人物でもいたのだろうか。
「お兄様!あら?お客人ですの?」
「フレン、今は話の最中だ。急ぎの用事か?」
セテスさんと同じ髪色の、私と同い年くらいの女の子だ。彼女が言うには彼の妹なのだろう。
「いいえ、大した用事では有りませんのよ。それよりも、その方々は…」
「ああ、士官学校の教師を勤める事になるベレスと、生徒として入るハルスだ」
「まぁ!士官学校の先生ですのね!」
驚いた表情を見せるフレンという女の子。そしてこちらに歩いてくる。私の前に立ち私の手を両手で握り、満面の笑みで、
「よろしくお願いしますね。ベレスさんとは、ご姉妹で?」
「う、うん。そうだけど」
「やっぱりそうですのね、名前が似ていたのでそうかもと思いましたのよ!仲良くして下さいな」
「よ、よろしく。フレン…さん」
「あら、フレン、と呼び捨てにしてもらっても構いませんのよ?」
ここの士官学校の人はエーデルガルトさんといい、人と話すのに慣れすぎていないだろうか。初対面の人を呼び捨てになんてできっこない。むしろこのぐらいが普通なのだろうか。
「お兄様、ハルスさんを連れて行ってもよろしくて?」
「ああ。そちらは構わない。君にはもう少し話がある。近日….」
「さ、行きましょう、ハルスさん」
「あ、その、まって…」
手を引かれて大広間へと強引に連れて行かれた。なぜか機嫌が凄く良さそうなフレン…ちゃんにしばらく話し込まれ、私がすっかり話し疲れた時にベレスが迎えに来てくれた。
私とあの子は初対面だよね?