話の内容の薄さを話数でカバーしていく
「ハル、大丈夫?」
「うん、だいじょぶ」
あの後、ベレスは学級に顔を出したようだが、私は部屋に戻って休んだ。
月末には学級対抗の模擬戦があるようだが私はそれには参加できないらしい。
というより、ベレスは居なくなったらしい教師の引き継ぎという形になったのですんなり終わったらしいが、私は飛び入りで入学することになったので手続きが遅れているそうだ。
顔合わせぐらいはしておけとセテスさんに言われたので、一日経った今日、今から顔を出しに行くところだ。
……今更ながら凄く緊張する。中には多分エーデルガルトさんはいるだろうが、知らない人ばかりだろう。扉の前で立ちすくんでいると、容赦無くベレスが扉を開ける。
「あ、ちょ、ちょっと!」
扉が開き、こちらに視線が集まる。「誰?」と首を傾げるものが大半だが、エーデルガルトさんは私を見て意地悪そうな笑みを浮かべる。助けてはくれなさそうだ。
「ん?あんた、誰だ?もしかして学級間違えてねぇか?」
「あ、いや、そうじゃなくて…」
快活そうな少年が私の前に立つ。エーデルガルトさんやベレスは私が来るって言っておいてくれなかったのだろうか。
「カスパル君、昨日先生とエーデルちゃんが言ってたでしょう。1人遅れて来る子がいるって。その子じゃないかしら」
綺麗なお姉さんが助けてくれた。一応私が来る事は2人とも伝えておいてくれたようだ。
「ほら、ハル」
「う、うぅ。わかったから」
ベレスに肩を押され、前に出る。自己紹介を私の口からしろという事だろう。しょうがない。覚悟を決めよう。
「ハ、ハルス・アイスナー…です。ええっとその、よ、よろしくお願いします…」
これで良いのだろうか。言い終わったらすぐ、橙色のの髪をした男の人が立ち上がり、
「うむ、よろしく頼む。私の名はフェルディナント・フォン・エーギル帝国の重鎮である誇り高きエーギル家の…」
「ふぇ、ふぇるでなん…?」
「もう、フェルくんたら、顔合わせぐらいの自己紹介なんて簡単で良いのよ。ええと、ハルスちゃん?私はドロテア。ここに来る前は歌劇団に所属していたのよ。これからよろしくね?」
「あ、はいよろしくお願いします」
ドロテアさんと言うのか。なんと言うのだろう、抱擁力があるというか、この人はとても話しやすい。
「ククク…姓が先生と同じようですが、偶然ですかな」
「……え?あ、妹ですから…」
私達が姉妹だとこの人は知っているのに、どうしてそんな事を聞くのだろうか。
「ええ!?あんた先生の妹なのかよ!?強いのか?」
さっきの男の子を筆頭に辺りがざわざわしている。さっきまで机に突っ伏していた男の人や端っこで蹲っていた女の子もちらりと私を見ている。
そうした時、エーデルガルトさんが立ち上がり、
「よろしくね、ハルス。これからあなたも黒鷲の学級の一員よ。平民だろうと貴族であろうと、分け隔てなく接してちょうだい。先生も、妹だからと言って…ね?」
「…うん。ハルスも、私を先生と呼ぶように」
「えっ?」
あたりから笑い声が湧き上がる。ヒューベルトさんやエーデルガルトさんはこれをやりたかったのだろうか。全く…ベレスもベレスでこの流れにノッているし…。
「ハル…スは今日は部屋に戻って、皆んなは席について」
ベレスも私を特別扱いをしないために呼び方を変えようとしている。私だけを部屋に戻すのは私の席がまだないためであろう。おそらく用意されるのは来月から、だろうか。
私は部屋に戻ろうとしたが、部屋に戻った所で何かがあるわけではない。折角なのでこの大修道院を散策する事にした。
大修道院内には色々な施設がある。訓練場や食堂はもちろん、植物を育てる為の温室や、釣りができる池、蒸し風呂などもある。
好奇心の赴くままにぶらぶら歩いていると、
「あら、こんな所にいましたのね」
「あ、フレン…ちゃん」
何かの服を持っている。私を探しているような口ぶりだったが、何か用事でもあるのだろうか。
「はい、士官学校の制服ですわよ。お兄様に頼まれて、持ってきましたの」
「あ、ありがとうフレン…ちゃん」
「いいえ、構いませんことよ。それより、今はお暇なので?」
「う、うん。暇だけど」
フレンは苦手と言うかなんと言うか、上手く言葉で言い表せない。なぜか胸の奥がざわつくのだ。
「それなら、一緒に釣りでもしませんこと?私、あなたともっと仲良くなりたいんですのよ」
「う、うん。いいよ」
満面の笑みを浮かべ私の手を引くフレン。池まではすぐに辿り着いた。2人で並んで釣り糸を垂らす。
……気まずい。確かに釣りは静かにするものだが、それでも今は何か会話があった方が良いのでは無いだろうか。かと言って何か話題がある訳ではない。隣をチラリと見てみる。
目が合った。フレンも同じタイミングでこちらを見た様だ。どこか余計に気まずくなった気がして、私は視線を再面へと戻す。ウキが動いている。おそらく魚が食いついたのだろう。
「うふふ、ハルスさんはとても可愛らしいのですわね」
「え、ふぇ!?い、いきなりどうしたの?」
「いえ、そう思っただけですわ。あら、引いてますわよ?」
「……え、あ、そうだった!」
急いで竿を引き上げた頃にはもう遅かった。餌は食べられ、魚はもうどこかへ泳いで行ってしまっている。
「その、気を散らしてしまったみたいで、ごめんなさい」
「い、いえ。気にしてませんのでそんな…」
またしばらく無言が続く。もう釣りには全く集中できない。この状況をどうにかするにはどうすれば良いのだろう。話しかけるか。いや、それしか無い。無いのだが。
そう思っているうちにフレンが隣で中々の大きさの魚を釣り上げる。
「後で食堂に行って焼いてもらいましょう」
釣った魚はどうやら食堂で焼いてもらえるらしい。フレンが魚を釣ったと言うことで、それを話題にするとしようか。
「あ、そ、その」
無理だった。どうして、彼女の前ではこうも喋れなくなってしまうのだろう。フレンが悪い子だとは思わない。それでも何故か、胸の奥のざわつきが収まらない。
「大丈夫ですの?落ち着いて、深呼吸、ですわ」
優しく、諭すように私に言う。フレンはきっと、私の言葉を待っている。でも…
「その、ごめん。またね」
釣り竿を池の管理人に返して、フレンにそう告げる。
「えぇ、また会いましょう。ハルスさん」
私は逃げる様に立ち去って行く。誘ってくれたのに、結局こうなってしまった。彼女に対しての罪悪感、自分に嫌気が差す。部屋に戻り、布団の中に潜り込む。
フレンには、明日謝ろう。ベレスが帰って来て、
「……?ハル、どうかしたの」
私は何も言わずに、ただうずくまり続けた。私はこんな私が大嫌いだ。