学校生活は毎日が充実していて楽しいなんて事はない。馬車にいきなり押し込まれたかと思えば、あれよあれよと士官学校に入学させられてしまった。そのせいで家に帰る事もできないため、寮の自室で引きこもる毎日だ。
しかし、卒業しなければ帰れる家にも帰れない。だから最低限の授業と訓練をこなして、あとは引きこもって生活する。それが私にとっての安全な学校生活だろう。で、でも友達はちょっと、ちょっとだけ作りたい…かな。
そんな気持ちとは裏腹に、私は学級の端っこで一人蹲っている。なにやら先生が変わったらしくて、今は若い女の先生が担任だ。そして、何やら先生の妹が私達の学級に入るらしい。
そうしてやってきた子は黄色い髪の毛をした私と同じぐらいの身長の女の子だ。みんなに質問攻めにされていてあたふたしている。
大変そうだなぁ。仲良くなりたい気持ちもあるが、あの中に押し入って話しかける勇気は私にはない。しばらくしてその子は学級から出て行って、もうすぐ授業が始まるそう。まだ入学手続きができておらず、今日は顔合わせだけだったらしい。ハルスちゃん、だったっけ。可愛い子だったなぁ。でも同じ学級ってだけでそんなかかわることは無いだろうなぁ。
また、少し億劫な1日が始まる。しかし卒業の為には授業を受けねば。心が沈んでいるせいか身体も重く感じる。憂鬱な気分を押し殺し、教室へと向かう。教室は居心地が悪い。周りが他愛もない世間話で盛り上がる中で私は独り、ぽつんと端っこにいる、その疎外感がとても嫌だ。もっとも私が新しい関係を築こうとしないのが問題なのだろうが。
時間ギリギリだ。もう先生が教壇に立っている。私は急ぎ足で自分の席に向かう。私がいつも使っているいつも通りの長椅子の端。なぜかその隣に一人用の椅子がある。なぜだろうと疑問に思いながらも知らない誰かに両隣を挟まれるのは嫌なので気にせず座ろうと、その椅子に手を伸ばす。
すると、その手が誰かと重なる。
「あ、その、えっと…使います…か?」
「ひゃ…い、いや隣の席使いますから!どうぞ!」
驚きのあまり急いで手を引っ込めた。思いの外に上ずった声が出てしまい、少し小っ恥ずかしくなった。この椅子が先生のハルスちゃんの為に足されたものだと気付いた。仲良くなりたいと以前に思ったが、絶対に今の反応で引かれてしまっただろうか。
私は隣の長椅子に座り、授業の準備をする。なんか、席が端じゃ無くなるだけで凄く違和感だ。
授業の開始が、一番に一日の始まりを感じる為に、また気が重くなる。まぁ、部屋から出るとき程ではないのだが。
「そ、その」
「へ、な、なに?」
これから授業が始まると言うのに、一体なんだろうか。話しかけられるという事は何かしらあるのだろうが、何を言われるのか見当もつかない。ハルスちゃんの行動を待つ。
「その…教科書見せて欲しい…です」
「……え?いいよ」
一瞬、戸惑って固まってしまったが、直ぐに承諾した。初めての授業でいきなり忘れ物とは、彼女は中々抜けているところがありそうだ。少し親近感が湧いた。
ハルスちゃんは次の授業でも忘れ物をしてしまったようで、授業の最中にずっとそわそわしていて落ち着きがなかった。同じ日に2回目は気が引けたのだろう。
可哀想に思えて、私は見せてあげようと声をかけるのだが、上の空で全然話を聞いてもらえなかったので、つい大声を出してしまった。そのせいで学級中から注目を浴びてしまい、大恥を掻いた。
きっとこの時の私の顔は真っ赤だっただろう。何も言わず彼女との間に教科書を差し出す。
「……ありがと」
耳元で囁くような声で、そう言われる。私の顔はやはり真っ赤だろう。今度はいい意味で。……誰かに感謝されるのって、こんなにも嬉しい気持ちでいっぱいになるとは思わなかった。
「あ、あのぉ、ハルスちゃん」
「あ、なに…かな」
授業が終わり、私は勇気を出して話しかけてみた。友達になりたい、その一心で。
「そ、その、私、私と…」
あと一言、あと一言、「友達になろう」と言うだけでいい。それを口に出せばきっと…
「や、やっぱ無理ですぅぅぅ!」
私は踵を返しその場を走り去る。やっぱりだめだ。ハルスちゃんは平民で、私たち貴族とは違う。平民の友達なんて、お父様が許してくれない。昔、初めてできた友達が平民であったが為に、おそらくお父様の手で………仲良くなったその子がいなくなっちゃうぐらいなら、元から作らなければ良い。
そう、これでいい。こうすれば傷つかなくて済む。
でも、寂しいなぁ。