絶望への反逆!! 残照の爆発   作:アカマムシ

4 / 6
第四話 居た! もう一人の超サイヤ人!

 突如現れた戦士、トランクス。彼を見てもフリーザの表情は変わらない。コルド大王は奇妙な物を見る目で訝しんでいた。既にフリーザ親子は、柳の下で陰に立っている。気が付かないのは幸運か。おくびにも出さないフリーザは、密かに驚いていた。ギニュー特選隊のギニューを除けば、今眼前で虫けらの様に殺された戦闘員達ですら、戦闘力はそこら辺の者よりも遥かに高い。コルド大王も少しだけ興味を持った。

 

「僕は今忙しいんだ。ザコに興味はないよ」

「こいつが超なんたらとかいう奴か?」

「いや、違うね。ソンゴクウはもっと腹が立つ、脳が足りない顔をしているよ。寧ろこいつの目つきは、あのベジータに似ているかな」

「どちらでも構わん。おい、こいつの戦闘力を測って見ろ」

 

親子の自信家振った会話は短く終わる。宇宙船内に居残った部下に指示を出すコルド大王。物臭、と言うよりも幾らか傲慢と言った方が正しいだろうか。当の本人はスカウターを使わない。宇宙船に備え付けた戦闘力計測器と、少ない人数の側近にのみ渡している。最新式のスカウターは、そう時間を掛けず数値を弾き出した。

 

「出ました。戦闘力は……、5? 5と出ました!」

 

戦闘力たったの5。幾らなんでも信じられない数値だ。殺された部下が油断していても、命を落とすレベルに居ない。コルド大王の頭に一瞬スカウターの故障が過る。が、今となっては使い古された言い訳にしかならない。フリーザは冷静だった。

 

「スカウターの故障じゃない。地球の奴らは戦闘力を自由に操作出来るらしいんだ。ナメック星では姑息な手にしてやられたよ」

「ほう、小賢しい手を使う」

 

弱者の戦い方だ。そう言うコルド大王に片手をひらりと揺らし、埃を払う仕草でフリーザは返す。多少はやりそうだと、やる気を出し始めているのがコルド大王には理解出来た。

 

「あーあ、こんなに散らかして。……それで、なんの用だい? 僕は今忙しいんだ。サインなら後にして欲しいな」

 

帝王の余裕か、強者の油断か。肩を竦めて冗談の一つを放つ。しかし、言うやいなや、フリーザは飛んでいた。正確には、『飛ばされた』と言うべきか。斬って返す様に、フリーザの言葉尻にトランクスは掌底を突き出した。それだけで、空波がフリーザの闘気を砕く。天高くに投げ出された身をフリーザが立て直し、視線をトランクスに向けた頃には、白昼夢の様に姿が消えていた。

 

「ど、どこだ! ちっ、また例のキを消すとかいう奴か。芸のない――ぐぁあっ!」

 

そこかしこを探り視線を巡らすフリーザであったが、そうしている間にも、またフリーザの小さい身体が弾かれる。弾丸の様な勢いで天上高く打ち上げられ、コルド大王の目からはもう離れてしまった。息子への信頼か、或いは一族の性質か。自分で動く気の無いコルド大王は、つまらなそうにため息をつく。居なくなったトランクスとフリーザに無聊をかこつ大王は、おもむろに椅子から立ち上がった。

 

「フン、フリーザめ。あれで怒るようではまだまだ子供だ……、まさか尻拭いを父である私がする事になるとは、思わなかったが」

 

黒衣が風に揺らめいた。コルド大王がその剛腕を曲げる様にして上げる。太くごつごつとした五指の先を、目の前に拡がる荒野に向けた。赤黒い気の塊が五つ、指先に収束していく。稲妻が、コルド大王を中心に地を裂き、石は砕けて塵に変わる。徐々に乱され、不安定になって行く足元に、宇宙船内部までその大気の震えが広まった。邪悪な気炎が手に集まりきる。クリリンからは、コルド大王を起点に地球が歪んで見えた。

 

「こっちの方が手っ取り早いと提案したのだ。まだまだフリーザは甘い」

 

手元から放たれるパワーの瀑流。一直線に進む巨大な光弾が空気を燃やしながら貫いていく。進行上には運悪く、戦士達も立っていた。

 

 

 

 まるで地震だ。そう皆は思った。気を抑えている場合ですらない。今すべき事は何か、些か未熟な悟飯は瞬時に判断出来なかった。

 

「おいおいヤバイぞ……! こっちに向かって来る!」

 

ヤムチャは咄嗟にブルマを庇う。プーアルがひしとヤムチャの肩にしがみついた。

 

「気を上げろォ! 技で相殺するしかないっ!」

 

ピッコロが叫んだ。天津飯やチャオズが即座に反応する。悟飯は声に一層慌てた。それに逸早く気がついたのはピッコロだったが、直接近くで見たクリリンが、悟飯に寄り添って肩を叩いた。

 

「悟飯落ち着け。冷静さを欠いちゃ生き残れん。なに、大丈夫さ。お前の師匠はすっかりやる気だぜ?」

「ク、クリリンさん……。ハイッ!」

 

気を取り直した悟飯も気を跳ね上げる。ベジータ、ピッコロの次に高い気を持つ悟飯だったが、それでも遅れが取り戻せない。目の前に迫るコルド大王の『ただの気弾』が、破壊のリズムを立てて近づいた。正しく、既に眼前だ。今直ぐにでも額を掠めそうだと錯覚してしまう程に。一番前に立っていたピッコロはもう気を解放し終わっていた。充実した気炎の殆どを両腕に込める。緑色の特殊な腕に、バチバチと雷光が走る。両腕を突き出し、腰を据えて技を放った。

 

「魔貫光殺砲ォォオ!!!!」

 

貫きの槍。螺旋を描く二つの蛇槍が、厖大な気の濁流に小さな穴を造り出す。ただの破壊ではない。面ではなく点を狙った集中に、ネジで刺すような抉り取る一直線の破壊だ。後追いで、直ぐに天津飯とチャオズも動いた。

 

「チャオズ! 久々のどどん波だ!」

「分かった天さん!」

 

どどん波はかつてかめはめ波を超える威力を放った。応用性には欠けるが、対亀仙人と言える程に相性の悪い鶴仙流の技。二人の冷酷な殺意で出来た技で、魔貫光殺砲によって出来た穴にさらに疵を付ける。

次いでクリリンだ。やはりクリリンと言えば亀仙流お得意のかめはめ波、ではない。練り上げた気を掌に集中し、幾つも出来る気円斬。気が低いながらも、操作が得意なクリリンらしい技だ。かつてフリーザの硬い尻尾を切り落とした技でもある。その斬れ味と言えば、相当な実力差でも切り開く技である。

 

「気円烈斬ッ!」

 

徐々に崩れていく光弾。それでも、余りにでかすぎる気を掻き消す事が出来ない。人よりも遅かった悟飯は、タイミングが測れていなかった。気も充分に溜まっていない。正直に言って、ブルマ達を抜いてしまえば、この場で一番の足手まといだ。幼く未熟だが、賢い悟飯にはよく知る事が出来た。

 

「ピ、ピッコロさんクリリンさんごめんなさい……。僕の気、全然溜められていないんです!」

「クッ、悟飯なんでもいい! 技を放つんだ! 放て!!! だあーっ、こんな時にベジータの野郎はなにやってんだよ!」

「まさかあいつ、逃げやがったのか!?」

 

 死の直面にクリリンは苛立ちを隠せない。名を出されたベジータは、一人だけ離れた場所に居た。コルド大王が光弾を集めている瞬間には、既に気を上げて移動していたのだ。無論、逃亡を図っているだけじゃない。フリーザを攻撃したトランクスが見せた気を感じ、正体が知りたくなったからだ。ベジータには、地球の命運もクリリン達の生命もどうでもよかった。一人だけ移動するベジータ。ベジータこそが、本当の足手まといだった。

 

「もう駄目だ! 少しは速度も威力も削れただろう! 身を護れ!」

「悟飯は俺の背に隠れてろ! 天津飯、チャオズ、二人はヤムチャさんを手伝って上げてくれ!」

「わかった!」

「うん!」

 

ピッコロが両腕で頭を護るように抱える。途端、ピッコロを気が襲った。腕の肉が焼け焦げ、嫌な匂いが漂う。次々に剥がれていく細胞組織。ピッコロは灼熱の太陽に浸かっている様な感覚に包まれ、思わず唸りを上げた。

 

「ピッコロ!」

 

クリリンが叫び、ピッコロの傍に向かう。ほとばしる熱の気流に汗が出る。クリリン程度では近づく事すら出来ない。もたつく足、思わず一歩引いてしまいそうになるが、膝を手で叩き抑えた。気を持ち直したクリリンが、ピッコロの背中側に回った。

 

「クリリン!」

「ああ!」

 

ピッコロの背中から腰を抑え、足に力を入れて地面に突き刺す。ずっぽりと埋まったクリリンを支柱に、残りの二人の気を解放した。少しだけ、押し返す。だがそれもすぐ終わった。威力が落ちた筈の光弾でさえ、簡単にピッコロとクリリン、実力者二人を圧し折りそうな重い一撃である。

 

「クリリンさん! ピッコロさん!」

「大丈夫だっ! お前の師匠を信じろよ! ついでに俺も!」

 

悟飯が悲鳴にも似た叫びを上げる。泣きそうな震える声だった。不安なのだ。またいつかの様に、大事なものを失ってしまう感覚に襲われていた。失いたくない、悟飯は目蓋を閉じて視線を逸らしたくなった。

だが、クリリンは歯を見せて笑っていた。火より熱い流れに、今も押しつぶされそうになりながら、クリリンは笑ったのだ。それをヤムチャは見ていた。危然、確信にも似た考えが浮かんだ。クリリンには何かしらの策がある。クリリンはいつだって、自分よりも遥かに高い実力者と戦ってきた。己の弱さを一番に理解して、嚥下してみせた男だった。弾け飛んだ小石がヤムチャの頬を掠める。もう何度ブルマ達に当たりそうになった事か。しかし、天津飯とヤムチャが共にかばっている。悟飯は圧で後ろに飛ばされそうになるのを抑えるのに必死だ。もう気を溜める事さえ出来ていない。だが、そんな状況下でさえ、ヤムチャに不安はなかった。

 

「へへっ……。なんだか知らねえが、クリリン。一思いにやっちまえよ!」

「くっ、おいヤムチャ、なにか言ったか!」

「いいや!」

 

 

 

 クリリンにまで気が強く当たる様になった。既に身体中が傷だらけになり、血で赤く染まっている。そんなクリリンは、ピッコロに話しかけていた。

 

「不思議なもんだぜ。こうしてお前と共に、悟空の子供を護ることになるなんてよ!」

「けっ、お前に守られなきゃならん程、俺は悟飯を弱く鍛えたつもりはないぜ」

「言ってくれるじゃないか!」

「悔しかったらこの状況をどうかしてみろ!」

「して見せるさ! なんてったって俺は……」

 

意気込んだ時、クリリンの気が大きく爆ぜた。既に腕はボロボロになってしまった。ピッコロを支えているのはクリリン自身の頭だ。首が折れそうな圧力を丸い頭で受け皿にして、砕けた両腕をピッコロの股ぐらから出す。ピッコロも思わず驚いた。

 

「腕が使えなくなるぞ!」

「……ああ!」

 

覚悟の上。

ピッコロはクリリンと初めて闘った時から、既に認めていた。例え悟空を殺しても、最強は簡単ではないだろうとピッコロに感じさせたのは、他でもないクリリンだからだ。今もまた、共闘していて手強さをひしと感じている。不快感は無かった。

爆ぜるクリリンの腕。高温に晒されている筈なのに、凍てつく様に冷たい感覚。過去に感じた事がある。ピッコロ大魔王の部下に殺された時だ。今回違うのは、感じる時間が長い事と、決して死ぬ気はないという所。腕が爆ぜたその瞬間、クリリンの気もまた移動していた。爆発させた気を全て腕に集中させ、地面の方向に力の限り放ったのだ。めり込む小さなサイズの気弾が、地中へと消えていった。

悟飯はそれを見て、何かに失敗したのだと思った。打開策が破綻した。それは絶望的な状況に置いて、絶対に犯してはならない愚行に変わる。疑いだ。悟飯は少しでも疑ってしまった。信じていたからこそ、一入の絶望に落とされた気がした。だが、ヤムチャとピッコロだけが真意に気がついた。クリリンは常日頃から気の操作の練習を怠らない。今日だって、こうしてフリーザ達が現れるまでは亀ハウスでかめはめ波の練習がてら、気のコントロールを鍛えていたのだ。

練度の高い基本と、目覚ましい応用の才能を秘めたクリリンに驚かされて来たヤムチャとピッコロには、微塵の疑いもない。毛細血管よりも細い、一筋の光る道が見えた。

地へと消えた小さな気弾が、コルド大王の光弾にかち当たる。それは奇縁にも、ヤムチャの繰気弾とそっくりな起動を描いて。下方から気流を蹴り上げる様に当たった気弾は、光弾の中へと消え――見事に光弾の軌道を、僅かだが上へと逸らす事に成功したのだった。

 

「なんたてったって俺は……。悟空の! 親友で、ライバルなんだからなっ!」

 

 

 

 

 雲の層を突き破り、白い糸を帯びたフリーザが上空へと飛び出した。宇宙の帝王ともあろうフリーザが、何度もトランクスの気合い砲で弾かれ、空隙に息する暇すら儘ならない。遊ばれている。宇宙最強の誇り。風の中、千鳥となるトランクスを視界の僅かに捉える度に、フリーザのそれをささくれ立たせた。フリーザは四肢を開き、勢いを殺しながら空中で滞空する。空気の薄い、低温の寒空に、怒るフリーザは湯気を立たせる。

 

「あまり調子に乗るなよ小僧! かぁッ!」

 

お得意のサイコキネシスでトランクスの動きを止めようとする。指先が振れる度に、雲海が回穴して斑模様に霧消した。迫るサイコパワーを避け、粟散するトランクスの影。トランクスは毛程も気にせず、フリーザの土手っ腹へと頭から突撃する。フリーザは頭から向かってくるトランクスの動きを視認していた。だが無抵抗。地球人如きの戦闘力では己の堅牢な身体に傷を付ける事など出来ない。そう高を括って、無防備な腹に突き刺さった弾丸は、あろう事かフリーザの内臓を破壊し、筋を幾つも焼き切った。一撃に、俄に甦る憤激。ナメック星でサイヤ人のガキから受けた不意の屈辱を彷彿とさせる軌道と痛み。体を半分に断たれても生きていた生命力を誇るフリーザは、まだまだ余裕が隠されている。しかし、抱いた怒りは既に本気であった。

 

「いいだろう……。新生フリーザ様のフルパワーを見せてやろう!」

 

耳鳴りにも似た感覚と共に、頭が茹で上がる程に熱くなる。一瞬にしてフリーザの筋肉は膨れ上がり、それと同時に機械となった一部がミシミシと嫌な音を立てた。フリーザのフルパワー。それはかつて、ナメック星の闘いで悟空に初披露する羽目になったフリーザの本気。爆発的に身体能力を上昇させる代わり、対価として大きく気を消費する大技だ。もっとも、サイボーグ化されたフリーザには、既に気の大幅なダウンという欠点は消滅していた。

 

「この俺のパワーアップはこれ程の物ではないぞ! このサイボーグとなった身体のお陰で俺の気が減って行く事もない。この意味がわかるか地球人! これでお前は、死あるのみなのだ!」

 

 フリーザの逆巻く悪意に、トランクスとて内心驚いた。下で雲の層が渦を巻き、轟雷は、竜章を描いてこだまする。冷えきった薄い空気の中、トランクスのジャケットと薄紫の細い髮が翻る。フルパワーを揮うサイボーグフリーザの充実していく気に晒されて、地球全体が揺れていた。

 

「恐怖に竦んで声も出せんか? だがそれもここまでだ」

 

フリーザの両腕を天を向く。力を込めると、十メートル大の大きな球が二つ、天上に現れる。赤黒い太陽が怪しく揺れ、雲一つない寛闊とした上層の空を、暗色の血で染め上げる。それは正しくフリーザがナメック星の核を壊した技だったが、トランクスは知る事がなかった。

 

「お前は避けられん。例え避けたとしてもこの星が跡形もなく壊れてしまうだろう! くたばりやがれ!」

 

解き放たれる絶望の双子が、トランクスを食らおうと降り注ぐ。トランクスは逃げる仕草もせず、呆気無く二つとも直撃した。巻き起こる明光と衝撃、はっきりとした手応えにフリーザは勝利を確信した。それが最後の心の躍動だと、永遠に知らずに。

 

 

 硬い水が割れる様な激しい音を立て、世界に沈黙を齎した。フリーザが放った二つのスーパーノヴァは、トランクスに直撃し――いや、トランクスの持つ剣の鋭い鋒に触れ、二つに避けて零れ落ちる。灰白色の雲海に掠めて霧散する、己の力を込めた必殺技に、フリーザは現実を認める心を失していた。何が起こったのかがわからない。あの誇りだけは誰よりも高かったフリーザが、屈辱だとすら思わなかった。

 

「お前に、面白い物を見せてやろう……」

 

戦い始めてから、トランクスが初めて声を出した。静かで、穏やかで。視界が白む程に暗かった。喋っている筈なのに、何も言っていないのではないかと、フリーザは自分の五感を疑ってしまう。獣の叫びではない。どこか宇宙と言う大海で、誰にでも平等に照らし、燃やし続ける太陽を彷彿とさせる感情。フリーザは最近、肌でそれを味わった事がある。立つ筈のない全身の鳥肌が立つのが分かった。分かっただけで、その原因たる感情に気がつく事も無く。

 

「超サイヤ人は、ここにももう一人居たと言う事だ」

 

次の瞬間、フリーザの身体はバラバラに四散していた。フリーザが誇る宇宙一など、トランクスにとっては所詮虫の誇りだったのだ。かつて奴隷の様に扱い殺してきたサイヤ人の、世迷い言だと一笑いに捨て去った伝説の手によって、フリーザの長い長い栄光に、完全なる終止符が打たれた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。