絶望への反逆!! 残照の爆発   作:アカマムシ

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界王「コルドが凍るど……なあーんちゃってwwwwwぷぷぷwwwww」


第五話 凍えるコルド

 サイヤ人の王子ベジータは、まざまざと見せられる景色を唖然と眺めている事しか出来なかった。大きな動揺が渦まき、やがて心の深い所へと沈んでいく。握った拳を無性に振るいたくなり、ベジータは今直ぐにでも地球を飛び出して何かを壊して回りたくなっていた。ベジータからして見れば、ただ何となくふと、生活の一部と言ってもいい程にこなれた舞空術で、揺蕩う様に上空を眺めただけだった。後悔はできない。金色の逆立つ髮、青色が斬れる様に鋭く光の線を造り出す。圧倒的なまでの冷酷さと破壊を秘めた、伝説の超戦士。ナメック星でベジータが終ぞ成る事が叶わなかったサイヤ人の真の姿が、上を向くベジータの視界を横切ったのだ。自らを生き残りの数少ないサイヤ人の中でも、特に数が限られるエリートと言って憚らないベジータの意識を、プライドを、戦闘意欲を逆撫でする。無力な自分がただただ悔しく、腹立たしかった。

トランクスの正体を明かそうと意気軒昂に飛び立ったベジータの前に、鰯雲のように砕け散ったフリーザの死骸があった。ベジータの頬を叩く血はまだ熱い。眼前に落ちて来る白と赤に、それがフリーザと分かったのは、目の前まで落ちてきた塊の中、血みどろに脳漿と眼球をぶち撒けながら落下して来た、柘榴色に染まるフリーザの顔を見た時だった。小さい歯と血色の悪い青紫の舌端、鼻先から続けて下顎、首にかけて四つ切られた一部が落ちてくるのを見て、咄嗟に探ったフリーザの気がなくなってしまった事に気がついたのだ。一体どうやって。ベジータが疑問を浮かべるのに時間は必要ない。肉塊となったフリーザの残骸をもう一度見れば須臾の間に氷解する事だろう。呆けたベジータが視界を下に向けると、とてつもなくでかい気の塊が自分の横下から上昇して行く。ベジータの動体視力を持ってすれば塊の中のフリーザの死体も見える程である。薄い空気の壁を灼きながら空を突き抜け、暗黒の宇宙空間へと遠のいて行くエネルギー弾を見送った。

あのフリーザが死んだ。ベジータが全速力で向かっても追いつけない程の早さで殺されている。それだけでも誇りは傷つけられたが、宇宙の帝王を自負するフリーザの終焉が、呆気なさにおぞましく、寒気を感じる。

 

「クソったれッ」

 

思わず悪態付いてしまうベジータに反応も当然と言えるだろう。スーパーエリートである自身が弱者である純然。圧倒的な敗北感。己が前を歩く者は孫悟空だけではなかったのだ。最強は遠く、儚く、絶対的な壁として聳え立つだろう。だが、ベジータの闘志が消える事はない。サイヤ人が闘いを辞める時。それは死ぬ時と決まっている。ベジータは急転直下の静かな怒りをそのままに、超サイヤ人となったトランクスの青い残影を追いかける。一際太い一筋の閃光を残して。

 

 

 

 トランクスは焦っていた。フリーザを殺す事に思いの外時間をかけた事に、ではない。無論それもあるが、何よりの驚きは、殺したフリーザを宇宙の塵にした大きな気弾の存在だった。トランクスの私見では、あれは間違いなくフリーザの父、コルド大王のエネルギー弾である。その場にトランクスが居らず、地球上に孫悟空の気は存在しない。どういう訳かベジータはトランクスを追ってきた様で近くにあり、地上の人々の対抗手段が、全くと言っていい程考え付かなかった。トランクスの背筋を走る白黒の恐怖。戦士達の死は、今のトランクスにとって最悪のシチュエーションだった。

 

「皆さんをみすみす死なすわけにはいかない。孫悟空さんが居ない今、俺が守らなくちゃならないんだ! 待っていて下さい!」

 

暴れる黄金の気炎が、新たに一層を生む。勢いは臨界点を突破し、世界の音さえ遅く刻まれる。ソニックウェーブが雲を切り、空を裂く程であった。垂直落下に近い飛行は暴力凄まじく、自ら創り出した風の流れすら過去へと追い越した。

 

 トランクスが地面に衝突すると、荒野が大きな破裂音と共にめくれ上がる。ただ地面に降り立っただけで、衝撃がフリーザの乗ってきた宇宙船を粉々にし、コルド大王の重厚な巨体を数百メートル以上吹き飛ばした。翻る外套をはためかせ徐ろに着地するコルド大王と、それを睨み、悟飯達を一瞥するトランクス。損耗し、消えかかっているクリリンの気を感じる。ドラゴンボールの為に不可欠なピッコロの気も大幅にダウンしている。遠くながらに見えた二人の腕は、見るに耐えない酷い物だった。ピッコロは肩まで焼かれ、ぼろぼろに黒く変色している。クリリンは手首などの関節が青く腫れ上がり、指は全てが腫れ上がって別の方向へと折れている。天津飯やチャオズ、悟飯とヤムチャには余裕があったが、それでも無傷のコルド大王には手も足も出ないだろう。取り敢えずの生命の安らかなる様を感じ取り、ほっとする反面、コルド大王への怒りがふっと湧いた。隙の間、トランクスの炯眼を目の前にコルド大王が現れる。巨躯の割に中々早いとトランクスは感心した。実際に対面して、コルド大王やフリーザといった者達の強さは感じる事ができる。それは戦士としての身構えが未熟なトランクスも同じこと。最も、トランクスの思考には微塵も敗北という文字は浮かんでこないが。フリーザが居ない事へ疑問を浮かべるコルド大王の視線に、珍しくトランクスが自発的に喋りかけた。

 

「フリーザが居ないのがそんなに不思議か、コルド大王」

 

ニヒルに笑うトランクスの声に、一瞬コルド大王の目が鋭い。コルド大王も薄々フリーザの敗北を覚っていたが、ようやく確信を得た様だ。

 

「おいお前達。フリーザの戦闘力を一応調べろ……。さて、私達の名前を知っていて戦いを挑んでくる地球人が居るとは。驚いたな、貴様の名前はなんと言う?」

「答える必要があるのか。もうすぐ死ぬ貴様に」

「私を殺す? ……フハハハハ、地球人はジョークが下手だな。フリーザ如きを倒したとてこの私と同じレベルに立っていると思ったか。付け上がるなよ、愚か者!」

 

思い切りの良い剛腕の一振りがトランクスの頭上に振り下ろされる。

 

「!」

 

が、トランクスは片腕で苦もなく弾いた。コルド大王も全力ではないが、弾き返されるとは思っていなかった。真逆。自分の手を開いたり閉じたりして目をぱちくりとさせる。思わず自分の力が地球という星に合っていないのではないかと疑い、近場に剥き出た岩盤を手に握り、半円600メートルはあるだろうか、大地の一部を持ち上げる。それだけでヤムチャ達には充分驚きだが、コルド大王はそれを一発の拳圧で砂になるまで砕いて見せた。

 

「パフォーマンスは終わりか。ウド野郎」

 

言うと、トランクスは肩に挿した剣を抜く。冷たい殺意を乗せた笑みを浮かべたままのトランクスをコルド大王が見つめる。煽風が二人の間を舞い、コルド大王の外套とトランクスのジャケットの襟がばたばたと打ちあける。風はやがて小さい渦となり、するりと通り過ぎていく。ふと、トランクスが地球の戦士達をまた一瞥する。釣られてコルド大王がそちらを見ようと視線を移すと、一迅の鋭い音が嘶き、コルド大王の耳をうるさく突いた。

何事か、コルド大王は確認する事も無かった。コルド大王の頭に生える立派な大角がすっと落ち、ごとごとと音を立て地面で跳ねたのだ。

トランクスがやったのか。そう疑ったコルド大王の目に映ったのは、先程となんら代わり映えしないシーンだった。飽く迄も、コルド大王から見た認識に限った話では、だが。クリリン達から見た荒野は、フリーザ達を連れてきた宇宙船を含めて波状に、断裂した地面の境が見て取れた。丁度、コルド大王の真後ろで。恐らく視界に入っていないのだ。コルド大王は腑に落ちないと言った顔で不満そうにトランクスを睨みつけた。トランクスが持つ剣がぬるりと濡れ、涎を垂らす獣の様にきらりと光った事など気付かずに。

 

「その玩具でフリーザを斬ったのか?」

「だったら」

 

――どうする?

言い切る前にコルド大王が消える。次に轟音を鳴らしてトランクス目掛けて拳を打ち付ける。だが、トランクスには初動から見えていた。トランクスと同じくらいの太さのコルド大王の腕に隠れ、腹部に潜り込んだトランクス。既に引いた剣を、一気に胴体へと突き出した。

 

「……案外素早いじゃないか」

 

手応えがない。トランクスは直ぐに悟った。鋒が空を切る感覚を尻目に、地面を蹴って後ろに宙返りした。直後、地面を粉砕する拳と共に、仄かに黒い光を纏ったコルド大王が現れる。身体を反り返す途中のトランクスと、コルド大王の大きな視線が交差する。傍観者から、今度は二人して見えなくなった。戦士の影は彩知らず、虚空の至る所で破壊音と雷撃、礫を弾かせる。クリリン達では察する事すら出来ない激闘が辺りを騒がせる。不思議な事に、攻撃が当たった音は一度もしなかった。

 

「遅い。そんなスピードじゃ私を斬る事はおろか、追いつく事すら出来んぞ!」

 

コルド大王が自慢のスピードで飛び回る。促音だけを残した。トランクスの目を誤魔化す様に擾擾と動くコルド大王を無視し、トランクスは目を閉じていた。項垂れる様にし避けるトランクスに引きも切らず猛攻をかけるコルド大王。項領(はっきりと目立っている首筋。急所)を狙う様にして一撃一撃が打たれるにも拘らず、いっそ羽虫をやかましげに思う様だ。索敵どころか気を読み動く事すら出来ないコルド大王の、愚鈍で蒙闇な襲撃は一髪に触れる事すら出来ない。トランクスはただの実力差だけでなく、綽然とくつろぐ様な自然体だ。宇宙最強を自負する一族の長であると余裕ぶっていたコルド大王だが、進化を続ける超戦士の棲む、世界という大海を知らない、井内無双に過ぎなかった。決して弱いわけではないのだ。それでも越えられない壁が、超サイヤ人であるトランクスという敵として現れただけに過ぎない。一撃で大陸を砕く攻めも、体力を消耗させるのも烏滸の沙汰であった。

 

「なぜだ! なぜ当たらん!」

「見え見えの拳だ。力をいくら込めようが素直過ぎて涼しい物さ」

「なにィ!」

「遅いと言っている!」

 

トランクスの少しばかり上音する声色と共に、戦いを始めて最初の打撃音が木霊した。慮外の一撃が中腹にぶち当たり、早さを失ったコルド大王が呻る。コルド大王の唾血を避け、背後へと移動するトランクス。睨みすらせず、コルド大王を横切った。トランクスと背向する形となったコルド大王に、長い一瞬が訪れる。先の一発は重い一撃だった。油断すらしていないコルド大王の筋肉という装甲を一蹴する様な拳撃は、内部を壊す様に波を立てた。

 

「もうすぐ孫悟空さんが帰ってくる。……一つだけ、聞きたかった事がある。本当はフリーザに訪ねたかったがな」

 

コルド大王は返事も出来ない。身体がマグマを浴びた様に熱く感じた。

 

「貴様ら一族の仕出かした事がこうして返ってきた。あのフリーザでさえも殺さなかった孫悟空という人に復讐心を懐き、結局は俺という半端者に滅ぼされる気分。それは、いったい、どんな気持ちなんだ?」

「ま……、待って、ぐれ。たす……けて、ぐれぇ゛っ」

 

命乞いにトランクスは舌打ちを打つ。両腕を組み、ハンマーの様にして振り下ろす。頭頂部を強打され、コルド大王の巨体が勢いづいて直下した。土煙の中で、蚊の鳴く様な声を出し、蛆虫が這う様にびくついた。トランクスはこれまた鈍い早さでコルド大王へと近づく。地に付け足音を立てた頃にはコルド大王の息は乱れに乱れていた。

虚ろな目で、ふとコルド大王がトランクスの右手を見る。そこには一度も振られていない剣が握りしめられていた。

 

「そ……その剣を、見せ、でくれ゛ない、が」

 

今にも死にそうな声で、コルド大王が提案する。トランクスは少しだけ思案すると、コルド大王の手元へ放った。コルド大王は剣を地に刺し、それを支えにして中腰の姿勢になった。コルド大王の表情は、トランクスには見えなかった。

 

「もし……、この剣が本当にフリーザを斬ったと言うならば……。私を斬る事も可能だろう」

 

ならば、トランクスはどうだろうか。コルド大王の霞む瞳に、棘々しい殺意が芽生える。ずずと脚を引きずり、態勢を整えるコルド大王。トランクスの沈黙を割く様に、最後の力を振り絞った斬撃が瞬いた。

 

 

 

「そうするだろうと思っていた。いつまでも変わり映えのしない奴だよ、貴様は」

 

 死に際のコルド大王、出せうる限りの力を込めた一撃は、トランクスに当たった。

 

「そ……、んな……!」

 

当たっただけだった。剣の鋒は、トランクスの掌に突き立つ形で留まる。止められていた。そして、トランクスは瞠目もせず、無表情のまま掌を勢い良く押し返す。接触部を押されたトランクスの剣の柄は、固まったコルド大王の腕を筋肉事安々と穿き、右肩を破り捨てた。トランクスの剣を持ってすれば――否、トランクスであれば、斬ることすら必要無かった。大男の低い悲鳴が鳴り止まない。いつの間にか、出した掌と反対の手に握ったコルド大王の角を、コルド大王の左肩に捻り込む。トランクスの表情に思いは出そうにない。既に虫の息であるコルド大王の、最後の抵抗すら無碍にされた。

すっかり暗くなったコルド大王の瞳の前に、ぽわりと光る玉があった。トランクスの気功波の類だろう。迫る死に、後ずさる事すら出来ない衰弱した身体と、そして今も昔も行ってきた先祖の廟に刻まれる覇業に。恐怖で震えて竦んでしまっていた。――トランクスの心に刻まれる事なく死ぬだろう。叫ばなければいけない気がして、急き立てた。

 

「チルド以降代々最強はこのコルド大王の一族であった! あの憎き金髪のサイヤ人に泥を塗られる前までは! 私は後悔せんぞ。サイヤ人、貴様らの最期は我々の報いで決まるだろう! 一族に泥を塗ったのだからな! フフハハハハハ、我が一族に、栄光あり――ぐぇっ!」

 

コルド大王、辞世の言葉は世迷い言か誤魔化しのそれであった。小物染みた下手な芝居は、蛙が潰れた様な声で締めをくくる。トランクスの瞳には、両腕を奪われ腹に風穴を開けられたコルド大王の亡骸と、どこまでも広い荒野が映っていた。

 

 

 

 クリリンは見るも無残な傷だらけになった自分の腕を見ていた。実力の差は歴然だった。象と蟻、大人と子供と自笑してしまえる程だろう。それでも打ち負けなかった事に、実感が湧いてこない。まるで自分の腕では無いのではないかと錯覚しそうになるが、痛みが確かな証左となって更に笑いがこみ上げた。

 

「大丈夫かクリリン!」

 

ヤムチャがブルマを肩に抱き、クリリンの元に飛んでくる。コルド大王が死んだ事にも気付かないクリリンの様子に疑問を感じたからだ。ヤムチャに叩かれた肩を抑え、ようやっと死闘が終演を迎えた事を悟った。

 

「あのデッカイの、本当に死んだのか?」

「らしいぜ。あの少年が倒したらしい」

 

俺には全く見えなかったがな、と、愛嬌のあるいたずらっぽい笑いを浮かべながら、ヤムチャが親指で、ある向こうへ指し示す。遠くの方で倒れたコルド大王を足元に、血で汚れた剣の柄部分をコルド大王のマントで拭いている所だった。一瞬訝しんだが、助かった事は間違いない。何より気を張った所でもう意気地が持ちそうも無い、というのもある。空を一目し、トランクスがクリリン達の居る方へと顔を向けたのが、遠くでも何となしにわかった。剣呑な雰囲気が感じられず、戦闘の匂いがしない。萎縮していた悟飯も、徐々に固さが無くなった。

 

「皆さん、ご無事ですかー! もうすぐ孫悟空さんがここから少し行った場所に到着しますのでー! 一緒に待ちませんかー!」

 

身振りを大きくしてトランクスが声を張る。

 

「……どうやら、闘う気はないみたいだな」

「ああ」

 

天津飯とピッコロが顔をあわせる。ボロボロになった両腕を気にしないピッコロを見て、ブルマとチャオズが顔を青くし気色悪がっている。ヤムチャがさり気なく目配せをすると、ピッコロは腕を組み首を縦に振るった。兎に角、戦いの終わった一時の安息を、戦士達はひっしと感じるのだった。

 




1年以上ぶりの更新でござる
やってることは原作の焼き直しで話は進まないでござるよ

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