M
前回は物資と生存者と
今回は夜になって学校に到着したところから再開です。荷物を抱えてえんやこら、三階の空き教室に荷物を纏めてから追加の寝具を放送室に運びましょう。これなら皆で寝られます。
──と、人数が増えたからとめぐねえが自分も生徒会室で寝ると提案してきましたね。夜中の見回りがしづらくなるからやめてくれよ……
しかし、断るのも不自然ですからね……仕方ないので許可しましょう。
どこかホッとした様子のめぐねえは、マットレスと掛布団を畳んで持ち上げてよたよたと歩き放送室に──転んだら危ないのでアナスタシア姉貴に運ばせましょうね。
では夕食の準備をして、みーくんとKの自己紹介も程々に、寝る時間まで倍速。
めぐねえが寝入るのを待たないといけないので見回りの時間は遅くなりますが、バレて怒られたり好感度が低下するデメリットを考えれば妥協するしかありません。
ほいじゃあ見張りのターン……といきたい所さんですが、何もなかったのでカットします。これはRTAじゃないからまあ、多少はね?
──6日目です。猫はいます。
回収した物資の豪勢な朝食を挟みつつ、空いた時間に武器のメンテナンスをしておきます。そのあとは7日目に備えてバリケードの設置をするのと、各階の空き教室にトラップ用クラフト素材を隠しておきましょう。
明日になったら高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に仕掛けるトラップを変えるのでね。*1
んだらば机を重ねてアナスタシア姉貴のリュックから取り出したワイヤーで縛り、作成した即席バリケードを廊下に設置します。
教室と廊下を隔てる前後の扉を使って移動するように、真ん中に置きましょう。
やつらのアンブッシュを警戒しながらの行動でしたが……なぁんかめぐねえがアナスタシア姉貴をチラチラ見てきますね。惚れたの?
……あー、うーん。十中八九、というかほぼ確実に嫉妬ですねクォレハ。
教師として、大人として生徒を引っ張っていくべき立場に居るのに、部外者である私が突如として颯爽と現れて現場の指揮から戦闘、果てはこうした防衛までこなしている……誰だって嫉妬の1つや114514くらいするでしょう。
しかし現在の好感度から察するに、嫉妬しつつも親愛以上の感情を抱いていますね間違いない。あっ……ふーん。生徒会室に寝る場所を移したのってそういう……関係だったのか。*2
良いのかいめぐねえ、私は女同士でも構わず食っちまう走者なんだぜ?
アナスタシア姉貴は名字が
それではキャラと会話して【日本語】をレベル3にするべく経験値を稼ぎつつ、バリケードの設置を進めながら今回はここまで。
次回、めぐねえと寝ます。*3
──慈の車とアナスタシアの軽トラが敷地内の駐車場に停められ、三階に戻ってから暫く。
生徒会室に、新メンバーである二人と一匹が加わっていた。
「というわけで……祠堂圭でーす!」
「私は直樹美紀です。こっちは太郎丸」
続けてわんと鳴いたジャーマンシェパードの太郎丸。犬種と名前が噛み合っていないことに若干の違和感を覚えるが、それはそれとしてくるみがアナスタシアを座らせてから問う。
「──で、だな」
「ハイ」
「はいじゃないが」
床に正座するアナスタシアの真似なのかその隣にちょこんと座る太郎丸に目線を向けつつ、くるみは一拍置いて続けた。
「名前違うじゃん」
「私も、初めて……知った?」
「なんでドッグミートなんて……非常食みたいな名付け方したんだよ」
「警察署、行くとき、偶然会った。名前ない、不便。ので……付けた」
「……なんで?」
「ちょうどお腹すいてた」
「そっすか…………」
くるみは思考を止めた。
──それから放送室に美紀と圭の分のマットレスと掛布団を運んだとき、慈がアナスタシアにふと提案をする。
「アナスタシアさん、私のマットレスと掛布団を生徒会室の方に運んでも構いませんか?」
「ン、なんで?」
「……いえ、ほら……放送室に六人も寝たら逆に寝苦しそうですし、そちらは一人で寝ているじゃないですか。駄目ですか?」
うーん、と唸るように悩んでから、アナスタシアは断ろうとする。
深夜に一階で見回りと見張りをしている以上、起こしてしまう危険性があるし、なによりバレたら怒られるだろう。短い間の関係だが、慈がそういう類いの善人であると理解していた。
だがそんな事を知る由もない慈の提案を断れば、今度は何故駄目なのかと聞き返される。断るべきだが、理由は話せない。
少し悩んで──アナスタシアは諦めたように誰にも聞こえない小さなため息をついて、慈の顔を見てからコクリと頷いた。
「良いよ」
「──そうですか……!」
何故かホッとしている慈に首を傾げるアナスタシアだが、自分のマットレスを運ぼうとして足元が覚束ない彼女を見てその懸念は消えた。
代わりに部屋へと運んで、夕食を挟み、それから深夜。慈を起こさないようにして見張りをしたが、こうして気を遣った時に限って
──翌日。アナスタシアはこれでもかと回収した物資を小分けにして、一階と二階の空き教室に備えていた。自分だけが持っていて、いざそれが手元に無ければ結局は何も出来なくなる。
故に、戦闘して逃げながらトラップを作成するためにと置いていたのだ。
そうしながら机を重ねてバリケードを設置していると、アナスタシアは視線を感じてそちらに顔を向ける。すると、ばちりと慈の目線と自身の目線が交わったのだ。不思議そうにしていると、慈は気まずそうに目をそらして机を運ぶ。
──まあ、悪い気はしないが。と考えて、彼女は自分の思考に疑問を覚える。
「……ンン?」
ドクン、と心臓が強く脈打つ感覚に困惑しながらも、アナスタシアは、黙々と荷物から取り出したワイヤーでバリケードを作っていた。
──慈はアナスタシアから目を逸らして、自身の中の醜い感情を自覚していた。
「────」
彼女はアナスタシアに嫉妬していたのだ。突如として現れてからずっと校舎の中で中心に立ち、生徒達に瞬く間に信用され、努力で日本語を学び、ぎこちなく話す姿が
だから、アナスタシアが羨ましくて仕方ない。ズルい。叶うことなら、そこには私が居たかった、と。そう──考えてしまう。
しかしてそれが身に余る事だと理解もしている。慈にアナスタシアと同じことは出来ない。自分に出来る事をするべきだとも思う。
「アナスタシア、さん……」
アナスタシアが、アナスタシアは、アナスタシアなら、アナスタシアだったら。
いつの間にか、慈の頭の中にはアナスタシアが居て。彼女のことばかりを考えていて。
ドクドクと心臓が脈を打ち、カッと頬が紅潮する。いったい何時から、こんな風になってしまったのかと、他人事のように自己分析する。
──私のマットレスと掛布団を生徒会室の方に運んでも構いませんか?
どうしてこんなことを突然提案したのか。まだまだ普通に余裕のある放送室から出て、生徒会室で寝たいなどと提案したのか。
どうして、アナスタシアに許可されたとき、
「──ああ……」
その意味を自覚して、彼女はそっと机に顔を付ける。ひんやりとした表面が、燃えるように赤い頬を冷却してくれている。
「……ぅ~~~っ!!」
年甲斐もなく、まるで生娘のように、産まれて初めて自覚した感情に慈は振り回される。よりにもよって、相手が歳上の女性なんて──と。
「──はぁ……アナスタシアさん」
きゅう、と胸が締め付けられる。自覚してしまっては、もはや止める術は無い。それを吊り橋効果だと指摘するには、些か遅かった。
しかし──慈の中に花開いた感情に野暮な指摘をする無粋な者が居ないこともまた事実である。こうして一人の女性は、一人の女性に……どうしようもなく醜くも美しい恋をした。
例えそれが、生徒に示しのつかない行動だと、分かっていても──
次→そのうち