灰燼~アラミゴの風~   作:みずき

5 / 11
感想で情報を頂いたので直してみました。
文章が雑なので後でまた修正するかも知れません。


東の森の中

 意外なことにロージアンはカーサに乗っている間はよく喋った。取引所での様子はなんだったのだろうというほどに自分から話してくる。俺のことを子供だと勘違いしていたのだから仕方ないが、それが理由だとすると逆に解せない気持ちになる。だが俺は大人しくロージアンの話を聞いていた。

 

「グリダニアは地下都市国家ゲルモラの民が建国した、という風潮もありますが……実は彼らは黒衣森には暮らしてはいますが、グリダニアにはなかなか近づいてきません」

 

 語るロージアンの声には少し寂しげな響きが混ざっている。言いたいことは判らなくもない。地下都市国家ゲルモラで暮らしていた民にはエレゼンのシェーダーと呼ばれる部族がいた。この口ぶりといい、肌の色といい、ロージアンは森の民と言われるフォレスター族なのだろう。

 

 グリダニアで暮らすエレゼンの多くはフォレスターだと聞いたことがある。地下で暮らしていたシェーダーは開けたところに馴染みにくいのかも知れない。エレゼンでもフォレスターとシェーダーの間には確執でもあるのだろうか。

 

「あー。ロージアンはフォレスターなんだろ? なのにシェーダーのことを気にしてんのか」

 

 何となく訊いたつもりだったのに、俺がそう言った瞬間、ロージアンがびっくりした顔で振り向いた。

 

「どうして私がフォレスターだと判ったのです?」

「そりゃ肌の色とか? それにあんた、かなり目が良いだろ? さっきから森の中を飛んでるのに怖がってねえし」

 

 俺たちは森の上ではなく、森の中を飛んでいる。ロージアンが知っている道を探す意味もあるが、人目に付かないようにするためだ。上空を呑気に飛んでいたら、誰に見咎められるか知れたものじゃない。

 

 それに、ちょっと確認したいこともあったのだ。森の中だから上空よりはゆっくり飛んではいる。カーサは目が利くから難なく避けてはいるし、俺も慣れている。だが、目が悪い奴には目の前に急に迫った木を避けているように見えるのだ。

 

「この速度でも、木の間を飛んでたら慣れてねえとビビるもんなんだよ。でもあんた、かなり先まで見えてんだろ? 平気で喋ってるし」

 

 そう指摘するとロージアンがちょっと不安そうな表情をしてから前を向く。もしかして何か踏んじまったか? と思ったが、俺は知らんふりをすることに決めた。

 

「いえ、少し驚いたので……私の名前は、その」

「偽名でも何でもいいが? 呼べれば問題ねえし」

 

 困惑したような物言いに俺はすっぱり言い返した。あの間を考えたら誰にでも判る。脛に傷を持つ奴なのか、それとも別の事情があるのかは知らない。だが偽名を使ったところで別段不思議はない。何しろアラミゴに入ってしまったのだ。警戒するのがむしろ当然だと思う。

 

「それに俺はフォレスターにはちょっと世話になったことがあるんだよ。クルザスって知ってるか?」

「ええ。北方の広い地方ですね。温暖で暮らしやすいところです」

 

 そうそう、と俺は相槌をいれた。

 

「クルザスにイシュガルドって国があるだろ? あそこ出身のフォレスターと子供の頃に知り合ってな。色々教えてもらったんだよ」

「なるほど、そうだったんですか」

 

 まだ緊張しているのか、それとも怖がっているのか知らないが、ロージアンの声は強ばっている。仕方ない。ここは話を変えるか、と俺は考えを切り替えた。

 

「ヒューランがクルザスにたくさんいるんだっけか。エレゼンはそいつらに追い出されたって聞いたことがある。だからめんどくさいイシュガルドに行ったり、グリダニアまで南下した部族も多かったんだろ。山越えは相当きつそうだが」

 

 ま、アラミゴの山ほどじゃねえか。と俺が続けると、ようやくロージアンが笑った。

 

「いえ。クルザスに元いたフォレスターもいたのですが、南のパガルザン草原から黒衣森やクルザスに移動してイシュガルドとグリダニアを建国したと言われています」

 

 パガルザン草原。黒衣森の南西に広がる広大な草原だ。放牧するには絶好の土地で、かつてフォレスターの多くはそこで生活していたという。

 

 だがそこにヒューランのミッドランダーが大移動してきた。それに追われる形でフォレスターも移動した、という。なるほど、と俺は頷いた。

 

「あー、確かにイシュガルドはエレゼンが多いらしいもんな。じゃ、あれか。ミッドランダーはあっちこっちにいるってことか」

「そうですね。グリダニアにもけっこういますよ」

 

 俺たちは他愛ない世間話を続けた。大したことではないが、ちょっとだけ情報交換も出来た。

 

 しばらく進んだところでロージアンがあっ、と声を上げた。どうやら見覚えのある景色になったらしい。俺は静かにカーサを着地させ、ロージアンを降ろしてやった。近くには細いが道がある。まだ一応は森の中だが、さすがにここから先は目立つと思っていたからちょうどいい。

 

「お世話になりました。ありがとうございます」

 

 そう言ってロージアンが微笑んで手を差し出す。俺は頷いて握手をした。

 

「次会った時は子供とか言うんじゃねえぞ」

「判りました。それでは、ぺこねこさん、また」

 

 ロージアンが首をちょこんと傾げてから去って行く。あれはもしかして挨拶なのだろうか。不思議な風習だと思いつつ、俺は少しの間、遠ざかるロージアンの背中を見つめていた。

 

 ロージアンの籠に入っていた原木の切り口はかなり古かった。森に入って夢中で木を切っていた、というのはあらかじめ用意していた嘘だったのだろう。それにロージアンは耳も目もかなり良く、身のこなしも悪くなかった。あれで戦闘できないはずがない。が、グリダニアの木こりが戦うなんて聞いたことがない。職人が兵を兼ねるのはアラミゴの荒くれ共だけで十分だ。

 

 ということは。自然に答えが出るのだが、俺は今はそのことは気にしないことにした。

 さて、帰るか。面倒な見張りもいるみたいだからな。俺はカーサに再び飛び乗り、その場を後にした。




パガルザン草原はアマルジャ族がいる辺りの北、東ザナラーンの南の付近、入れないところになるっぽいですね~。
草原って名前なので今が草原なのか、昔がそうだったのかって感じですが……。

フォレスターは元々、そこで放牧とかしていたってどっかに書いてあった気がしたので、元々草原だったのでしょうか。

予想とか想像とかで書いてるので間違ってたらごめんなさい;;

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。