灰燼~アラミゴの風~ 作:みずき
徒歩で進む途中、エレゼンの老いた木こりに出会った。
「西に進んだところに看板があるから、そこからちょっと南に行くと大きい樹がある。獣もおらんからおまえさんでも拾えるだろう」
「ありがとじいちゃん。腹ぺこだったんだ!」
俺が子供だと勘違いした木こりは親切にも木の実が拾える場所を教えてくれた。助かった。これで昼食にもありつける。今は腹ぺこって程でもないが、ぺこねこって名前だしいいだろう。心の中でそう付け足して俺は老人に元気良く手を振り、言われた道を辿った。
それにしてもエレゼンの年齢も俺から見ると判りづらい。俺は言葉に方言が入っているかどうかで判断している。今のところ外したことはないからいいが、相手によっては気をつけないとな。
俺は老人が見えなくなるところまで進んでから、ローブの下に仕込んだポケットから紙を取り出した。紙にはグリダニアを覆うように広がっている黒衣森の地図が大雑把に書いてあるのだが、看板の位置を付け足す必要がある。俺は書かれた道の傍に手早く細い墨で印をつけた。
この地図は下書き用に持ち歩いている。歩きながら書いたりするので下書きはどうしても読みにくくなる。だから清書は帰ってからすることにしているのだ。清書された地図は兵舎の部屋に隠してある。他の奴に見つかると面倒なので、予備のパイクの柄の一部をくりぬき、そこに保管しているのだ。
地図は移動の時にどうしても必要になる。特にアラミゴからグリダニアに続く道が記されたものは貴重だ。地図はアラミゴ側もだが、グリダニア側も欲しいと思っているはずだ。だからロージアンのような弓兵を派遣したのだろう。
ロージアンがアラミゴに入った目的は地形や地理の確認のためだ。そこにたまたま職人が居合わせてしまって動きが取れなくなった、というところだろうか。下手に言い訳すれば怪しまれるから、迷ったということにしたとすれば辻褄は合う。
いや。今は考えても仕方がない。俺は地図をしまい込んで先を急いだ。木の実がなっているという木はすぐに見つかった。俺は幹の窪みに手を掛けて軽く地面を蹴った。木の枝を伝って木登りをするのは得意だ。それにしても大きな木だ。かなりの高さまで登ったのに、枝はしっかりしていて俺が乗ってもびくともしない。
黒衣森の生い茂る木々がよく見える。うっそうとした森がどこまでも続いているかのような光景は黒衣森独自のものだろう。俺は木の上から再度、地形を確認した。木々で見えにくいところもあるが、今のところ地図に間違いはない。ここから中央の森に入りたいところだが、その前に寄る場所がある。
俺は老人が教えてくれた木についた木の実を採った。グリダニアでは自然食が好まれる傾向がある。自然を荒らさないように実りを分けてもらう、という考え方だ。自然を活かした農耕なども営まれてるため、植物寄りの食事が多い。味付けはシンプルなものが殆どで、濃い味付けのものはここでは食べたことがない。
伸びた枝を伝って飛ぶのが早いのだが、俺は大人しく登った木から下りた。落ちていた細い枝を拾い、袋に詰めた木の実をその先に結わえて肩に担ぐ。この格好ならグリダニアに暮らす子供か、旅人に見えるだろう。竿や木や草を刈るための斧や鎌を担いでもいいのだが、全く使わない道具は逆に怪しまれる。使い込んだ道具というのは、その道の職人が見たらすぐに判るものだ。逆に全く使っていないことも看破されるだろう。
小道が少しずつ広くなっていく。進むうちに通りすがる者も増えてくる。俺は緊張しつつ先を急いだ。途中で獣に絡まれないよう、出来るだけ道から外れないように歩く。絡まれても狩る自信はあるのだが、さすがにこの姿でやると不自然だ。
やがて小さな小屋いくつかが見えてくる。俺はそれを見つけてほっと息を吐いた。目的の集落に到着したのだ。近場の高台には監視哨が建てられている。エレゼンの兵が時折、姿を見せることはあるものの、この集落を監視している様子はない。目が利く者が遠くを見渡している、という感じだ。
小屋の中には簡素ではあるが食事が出来るところもある。酒も頼めば一応は出てくるが、この姿で注文したらまず店の主人に笑われる。一度試したことがあるが冗談だと思われてしまった。……まあ、試しただけだから流されてほっとしたのだが。
いつものようにチョコボのところに行く。都市国家の集落にはチョコボを貸し出ししているところがあるのだ。特にグリダニアではチョコボを飼育しているだけあって、質の良いチョコボが揃っている。中でもよく走るチョコボは買い上げられて別のところで調教されているとも聞いた。交配に使う、種チョコボとしての役割もあるのだそうだ。
俺は目配せをしてチョコボの留め人に頷いてみせた。すると留め人がにっこりと笑う。
「ボウズ。どうした? 迷子か?」
わざとらしい、とは思うが留め人が初対面という素振りで話し掛けてくる。俺もそれにならって笑顔で応えた。
「迷子じゃないよ。木の実を拾ってきたんだ!」
元気いっぱいな少年……という風に見えるように俺は元気良く返事した。幸いというか何というか、俺の声はそれほど低くない。そんな俺が意識して高くすると、子供と疑われない声になるのだ。でもかなりキツいから長話は出来ない。
俺は見せびらかすようにして木の枝にくくりつけた木の実入りの袋を見せた。すると留め人が感心した顔で袋を探り、中を見て驚く。
「こんなにすごいな。一人で拾ったのか」
驚きの声を上げた留め人は袋に入っていた紙片をさりげなく抜いてポケットにしまい込み、代わりに別の紙片を袋に忍ばせる。俺はにっこり笑って袋の口を結わえなおした。
「うん! 木を伐ってた人に教えてもらったんだ」
そう言いながら俺は袋を結わえる時に指に挟んだ紙片をズボンのポケットにねじ込んだ。この角度なら誰にも見えないはずだ。
「この量ならそこで料理もしてもらえるだろ。行ってみな」
「ほんと!?」
……ほんと、じゃねえよ、俺。
毎回、この手の演技をするたびに俺は心の中で自分にそんなことを言う。わざとらしく見えないようにしてはいるのだが、自分では情けない気持ちになるのだ。何しろ化けているのは子供だ。無邪気とかそういうものとは無縁な性格なので、余計に自分とは全く違う何かを感じてしまう。
俺はローブで顔を隠したまま、いそいそと木の実入りの袋を抱えて酒場兼料理屋のある小屋のドアを開けた。グリダニアでは家畜そのものが御法度らしく、家畜の肉などは料理では出てこない。が、野獣の肉は別らしい。だが薄味なのでどうしても野性味溢れる……といえば聞こえはいいが、つまり肉料理は野獣臭いまま出されるのだ。
その香りが店に満ちている。我慢だ、と自分に言い聞かせて、俺は昼間から酒をかっくらっている連中がついたテーブルの間を抜けるように歩いて店の奥に向かった。質素なカウンターの向こうにいる店主に話し掛ける。
「これ、料理してもらえるって聞いたんだけど……」
家畜が駄目ならチーズを売れば儲かるだろうな。などと思いつつ、俺は木の実の入った袋をカウンターにのせた。恰幅のいい中年の店主が袋を見て意味ありげに笑う。
「ああ、料理は出来るが」
「じゃ、食べない分と交換でいい?」
俺は袋を傾けて木の実をカウンターに半分ほどのせた。自分が食べる分だけ袋に残して差し出してみる。すると店主が頷いて袋と木の実を皿に移した。
ここの木の実料理は炒ったものが多い。酒のつまみならともかく、俺はさすがにそれを主食には出来ない。嫌いではないのだが味が薄すぎるのだ。俺はカウンターに乗り出して店主に小声で言った。
「あの、パイとか、できる?」
憧れのパイ、とかいう感じに出来ただろうか。ちょっと恥ずかしそうにしつつ、こっそり言った俺に店主が苦笑しつつも頷いてくれた。良し、上手くいった。これで炒り木の実以外の飯が食べられる。
俺は料理が出来るまでの間、散策に出ることにした。
グリダニアの料理は薄い、というのをよく見かけます。
自然サマに逆らうと精霊パンチを食らうらしいので仕方ないかもですが……。
家畜も駄目らしいんですよねー。