ダンジョンで英雄を目指さないのは間違っているだろうか   作:神無月雫

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第一章 彼が目指すものは
プロローグ


「ふっ」

 

剣を振り下ろしゴブリンを両断する。両断されたゴブリンは魔石とドロップアイテムを残し灰となった。

振り下ろした剣を構えなおし次の標的をみやる。目の前には6匹のウォーシャドウ、そしてその奥には単眼のカエル、フロッグ・シューターが見える。

ゴブリンが様子を窺うようにじりじりとにじり寄る中俺はウォーシャドウの動きに注意しつつその後ろのフロッグ・シューターの様子をうかがう。ウォーシャドウは動きが素早いが単調なため複数体にとびかかられても対処はできる。だが、ウォーシャドウに気を取られている最中にフロッグ・シューターの長い舌に攻撃されると面倒だ。万一掴まれでもしたらその時は周りのウォーシャドウの爪の恰好の的になる。

 

例え一撃で倒せるような相手でも数が増えればその限りではなくなる。最悪を想像しろ、予測しろ。そこから己が何をしてはいけないのか、何をしなければいけないかを考えろ。戦場では決して思考を止めるな。たとえ至極単純、結果誰が見ても当たり前だという結論に至っても。その思考がお前周りを生かす。

 

故郷で師匠から教わったことを実践する。最悪とはフロッグ・シューターの舌に捕まること。そしてウォーシャドウに囲まれること。ならば俺がすることは・・・

 

「はぁ!」

 

一息で一番近いウォーシャドウに近づき横薙ぎにする―――1匹目。

 

驚きひるんだ一瞬をつきもう1匹の首を刎ねる―――2匹目。

 

鳴き声を上げウォーシャドウがこちらに向けて腕を振り上げる。

が、振り上げている間にもう1匹の胴体を切りつける。―――3匹目。

 

振り下ろしてきた爪をよけ数歩下がる。フロッグ・シューターを確認する。じりじりとこちらに近づいてきているが動きはゴブリンよりもトロい。舌を出していないということはまだ射程範囲外ということ。

フロッグ・シューターに詰め寄ろうとするとウォーシャドウに囲まれる。対処できなくはないがそこでフロッグ。シューターに背中を見せるとその下に絡め取られる。

屈んで様子を見ながら足元にある石を2つ握る。

 

ならば俺がしてはいけないのはウォーシャドウに囲まれないこと。

フロッグ・シューターに背を向けないこと。

そしてやるべきことはウォーシャドウを一匹ずつ確実に倒し、最後にフロッグ・シューターをつぶすことだ。

 

一番近いウォーシャドウに目掛け石を放る。顔面に直撃しひるんだところを切りつける―――4匹目。

 

2匹から振り下ろされる爪、1つを躱し1つは受け流す。懐に入り込み一息で2匹の胴を両断する。―――5、6匹目。

 

そして、フロッグ・シューターに意識を向ける。標的はいまだのそのそとこちらへ向かっている。舌を出す気配はない。

走りだすと同時に持っていたもう1つの石をフロッグ・シューターの目に向け投げつける。直撃しフロッグ・シューターが痛みで暴れだし舌を大振りしてくる。横薙ぎにされた舌を体勢を低くし剣で受け流す。そして飛び上がり無防備なカエルの背に剣を突き立てる。―――7匹目。

 

灰になり体が崩れたのを確認すると同時に周囲を警戒。

周囲に敵影なし。新しくモンスターが出現する気配なし。

 

「はぁ・・・」

 

そうして初めて息をつく。

周囲は気にしつつも気持ちを落ち着かせ、先ほどまでの戦闘を顧みる。

敵の攻撃こそ受けなかったが納得はしていない。まだまだ力が足りない。速さが足りない。手が足りない。思考が遅い。判断が遅い。ダンジョンで冒険をし始めてから早2ヵ月、自分の戦闘に満足した日はない。いや、それよりも前、師匠から修業を受けていた時、もしかしたら師匠と出会う前に1人で強くなろうと躍起になっていた時からそうだったかもしれない。

 

「ホント、まだまだだな」

 

そう、一人吐き出すと自分の後ろから拍手が聞こえる。今日ずっと俺の戦いを見守っていた長い金色の髪を揺らした少女が近づいてくる。

 

「お疲れ様です。もうこの辺りのモンスターだとわたしの回復はいらないみたいですね~。ここのところずっと無傷ですし~」

 

少々間延びした口調で話しかける少女。彼女の名はソフィア。自分と同じ歳でありながら数年前からファミリアに所属し冒険してきた先輩冒険者だ。

 

「この2か月ずっと潜っていたからモンスターの動きもだいぶ慣れてきた。油断さえしなければ大丈夫」

 

「でも無理はしないでくださいね。アルは目を離すとすぐ無茶しちゃいそうなので~」

 

モンスターの血で汚れた剣を布で拭っている横でソフィアがドロップアイテムの魔石やウォーシャドウの指爪を拾う。

 

「悪い、拾うよ」

 

「いえいえ大丈夫ですよ~。今回私はサポーターで補助でお目付け役で来てますから。アルはここまで戦いっぱなしですので休んでてください。休めるときに休むこともこのダンジョンでは大事なことですよ~」

 

そう笑顔でいいながら慣れた手つきでひょいひょいと魔石を拾うソフィア。彼女のいうことも分かるが、体力はまだまだ残っているうえ、敵の気配もない。何より自分の勝手でついてきてもらったのにも関わらず雑用ばかりさせるのは正直気が引ける。そう思い自分も自分で倒してきたモンスターのドロップアイテムを拾っていく。

ソフィアも困ったように笑いながら「ありがとうございます~」、と礼をいいながら魔石を拾っていった。

 

 

 

 

 

ここは【迷宮都市オラリオ】。モンスターが生まれ出でる【ダンジョン】に蓋をするように建てられたこの街はモンスターの地上進出を防ぐのと同時に英雄の生まれる街でもある。

富、名声、力、そして未知を求めて今日も今日とて冒険者たちはこのオラリオで、ダンジョンで冒険をするのである。

 

そして、ここにも1人。力を求めてダンジョンに挑み続ける冒険者がいた。

 

少年の名はアルトリウス。2ヵ月前にこのオラリオで冒険者となり仲間とともにダンジョンに潜り続けている。

齢13の彼はこれからその仲間たちとともに多くの冒険をすることになる。

 

この物語は彼とその仲間が紡ぐ【人間の物語】(オラトリア)である。

 

 

 




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