ダンジョンで英雄を目指さないのは間違っているだろうか   作:神無月雫

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第2話

【スサノオ・ファミリア】

 

嵐と豊穣を司る男神スサノオとその眷属で構成された【ファミリア】。オラリオの南西第7区画に住居(ホーム)を構えており、オラリオの外には【デメテル・ファミリア】ほどではないが大きな田畑を持っている生産及び探索系の【ファミリア】。探索系の【ファミリア】としては有名な方で上級冒険者を複数抱えており、そのうちの1人は最高位レベルの冒険者もいるため【ロキ・ファミリア】【フレイヤ・ファミリア】と並ぶ最大派閥の1つと数えられているらしい。

 

「ただいま帰りました~」

 

ホームに戻った俺とソフィアは武器や装備を部屋に片付けた後合流し大食堂へと向かった。大食堂ではすでに多くの団員が食事をとっていた。

 

「おかえりぃ~。2人ともお疲れ様ぁ~」

 

大食堂に入るともう聞きなれたオネェ口調の声、逆立った銀髪にピンク色のエプロンを着た筋骨隆々の男が出迎えた。

 

「ただいまです、ギル姐」

 

「戻りました、副団・・・ギルさん」

 

「あらあら、アルトリウスちゃんまだ【()()()】って肩書で呼ぶ癖、直らないわねぇ。そんなに固くならずにもっと気楽にギルって呼んでちょうだい♪」

 

「すみません・・・」

 

頬に手を当て困った顔でほほ笑むギルさん。さぁ2人ともご飯にしましょう、と続けて優しく声をかけた。

 

「今日のご飯は何ですか~?」

 

「今日はソフィアちゃんの大好きなクリームシチューを作ったわぁ。愛情込めてたくさん作ったからいっぱい食べてね」

 

「わ~い」

 

【スサノオ・ファミリア】では専属のハウスキーパーを数人雇っており、ファミリア内の基本的な家事は彼女達がやっている。しかし、この人(ギルさん)は料理を趣味にしているためよく夕食の手伝いをしている。

よそってくるからちょっと待っててね、とギルは厨房へと戻っていった。

 

「ギル姐のシチュー楽しみですね~。リンさんたちのお料理もおいしいですけど、ギル姐の作ったシチューが一番好きです。アルはどの料理が一番好きですか?」

 

「俺はカレーが好きかな」

 

「カレーもいいですね~。今度リクエストしちゃいましょうか。そういえばお義父さんはまだ帰ってきてないみたいですね~」

 

「今は深層にクエストに行ってるんだっけ?」

 

「ですです~。ジーニアスさんやジャンヌさんも一緒に行ってるみたいですよ。今日で5日・・・4日目でしたっけ?深層まで行くとやっぱり時間がかかるみたいですね~」

 

食事がくる間2人で他愛もない話をしているとソフィアの背後からそろそろと人影が近づいてくる。

 

「ソーフィーアー!」

 

「わぁ~」

 

近づいてきた人影、狐人(ルナール)の少女は背後からソフィアを抱きしめ頬をすり合わせる。

 

「そっちのが帰るの早かったんやね。今日も怪我はせんかったか?あ~この抱き心地、やっぱソフィアはやわっこいな~」

 

「みやちゃんもおかえりなさい~。でもちょっと苦しいです~」

 

そういいながらも嫌がるそぶりは見せずにされるがままに接するソフィア。これも彼女とみやちゃんと呼ばれた少女(みやこ)の日常風景である。

ひとしきり抱き心地を堪能した後、都はアルトリウスの方を見る。

 

「アルもお帰りな~。今日もいっぱいダンジョンで暴れたん?」

 

「暴れた・・・なんていうほどでもないさ。俺は都やライラプスみたいに強くはないからな」

 

「あ、ウチをライと一緒にせんといてぇな。ウチはライみたいにお行儀悪くやたらめったら暴れたり食い散らかしたりせんもんね」

 

「おい。人を獣みたいに言うんじゃねぇ」

 

「あ、ライ、マルタもお帰りなさ~い」

 

都の後ろには不機嫌そうに言葉を吐いた銀髪の犬人(シアンスロープ)のライラプス、そしてその後ろでは赤いウェーブ髪の人間(ヒューマン)のマルタがおどおどしながら立っていた。

自分がこの【ファミリア】に入団してからはこの5人でいることが多い。5人の歳が近く比較的接しやすいためだろうと思う。

 

「え~、あんたがやたらめったらモンスターを倒すせいでサポーターの2人がどんだけ苦労すると思うとるん?もうちょいお利口さんにせなダメやないの?」

 

非戦闘員(サポーター)が2人に治療師(ヒーラー)が1人、そんな編成じゃ1匹でも逃せる訳ねぇじゃねぇか。・・・つーかテメェも同じぐらい暴れてたじゃねぇか」

 

「嘘ですぅ、ウチはちゃんと近くの敵しかやってないですぅ。ライみたいに目に見えたり匂いがした瞬間やりに行くなんて戦闘狂(ジャンキー)やあらへんも~ん」

 

「誰が戦闘狂(ジャンキー)だ誰が」

 

「やるか~」「んだよ」と2人の空気が悪くなる。この【ファミリア】に入ってから何度も見ている恒例行事、ライラプスと都の喧嘩である。喧嘩といっても殴り合ったり武器を取り出すなどの荒いものではなく、ハリセン?と呼ばれる紙を折って作られた道具を持った2人が追いかけっこをして叩き合うというものである。だいたいはライラプスが都を追いかけるが追いつかずにギルや一部の先輩団員に止められるか。ライラプスが疲れて終わるかのどっちかだ。・・・いつも思うのだがあの2人はいつも持っているのだろうか。

「お~いまた始まったぞ」「次はどっちが勝つかね」「俺は都が逃げ切るに1000ヴァリス!」「俺はライラプスに1500ヴァリス!」「いや姐さんが食堂いるだろうよ・・・」と周囲がざわつき始める。恒例行事のためかしょっちゅう賭けの対象になっていたりする。2人が臨戦態勢になっている横で2人を止めようとあわあわしているマルタ。横でどうしましょうかと困り顔のソフィア。ため息をつき立ち上がろうとすると、

 

「はぁ~い、そこまで~!」

 

ライラプスと都の身体がビクリと跳ね上がる。ゆっくりと声のした方を向くとシチューを持ってきたギルが笑顔で立っていた。

しかし、その背後からは黒いオーラが出ている、ような気がするし何より目が笑っていない。

 

「もぅ2人とも。何度も言っているけど食堂はおいしいご飯を食べて家族と団欒をする場所よ?元気なのはいいことだけど場所と時間を考えましょうね?」

 

普通に喋っているように見えるが普段とは全然違う圧がある。2人はだらだらと汗を流してギルさんの言葉を聞いている。

 

新人(アル)の前なんだし2人ともれっきとした先輩なんだから恥ずかしい姿見せちゃだめよぉ。それが守れないなら・・・お・し・お・き(教育)が必要かしら?」

 

「「いえ!反省しました!大丈夫です!!」」

 

「そう?じゃあ・・・」

 

2人が息を飲む。食堂に緊張が走る。

 

「皆ごはんにしましょうか!」

 

と、先ほどの圧も緊張も何もなかったかの様にギルさんが平常運転に戻り、サッとシチューとサラダを5人分並べていく。

 

「シチューとサラダはまだあるからおかわりが欲しかったら厨房へいらっしゃいね」

 

シチューとサラダを並び終えた後ウインクをして厨房へ戻っていった。

厨房へ戻るギルさんの背中を見て息を吐く2人。こうもよく怒られていて飽きないなぁと思った。

 

「あ、そうそう」

 

席に着いた2人の身体がまたビクリと跳ね上がる。厨房へ入ろうとしていたギルさんが笑顔で振り返る。

 

「2人を止めようとしなかったわる~い先輩たちもそろそろお仕置きをしなくちゃいけないかしらねぇ?」

 

今度はライラプスと都で賭けをしていた周りの先輩団員の身体がビクリと跳ね上がる。その様子を愉快そうに見ていたギルさんはそのまま厨房へと消えていた。

【スサノオ・ファミリア】副団長、ギル・グライア。彼と団員達の力関係が分かる一幕であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「いやぁマジでビビった・・・」

 

「ホンマや・・・死ぬかと思たわ・・・」

 

夕飯を食べた後、そのまま5人食堂で雑談をする。まず話題に上がるのは先ほどの一件。

 

「お前ら飽きないな、いつもいつも怒られているんだろ?」

 

「いつもいつも言うな」

 

「せやで、この男が追っかけてくるんが悪いんや。ウチは悪ぅない」

 

「ミヤちゃんも煽ってるから同罪ですよ~」

 

「え、ええっと私もそう思います」

 

ぶー垂れる2人に対して冷静に突っ込むソフィアとマルタ。2人に同意して続けて頷く。ライラプスと都は決して仲が悪い訳ではなく、むしろその逆。ダンジョンでの連携は息があっており、こういう団欒の場ではよく2人揃って顔を出す。以前2人に恋人なのかと尋ねたことがあるが、ライラプスは顔をしかめて「違ぇよ」と返され都からは「そんな訳ないやん」と笑って否定された。

 

「そういえば3人は今日はどこに行ってたんですか?」

 

「あ、聞いて聞いて!今日ね・・・」

 

ソフィアの問いかけから都が食い入るように話し始める。今日の都たちの依頼はオラリオ外での採取だったらしい。ライラプスを(無理やり)囮に使ったりマルタが頑張ってたりしたんやで、と嬉々として話す都とそれに対して相槌をうつソフィア。その合間合間にライラプスがツッコミを入れたり、マルタが補足したりする。5人で揃ったときは大体こんな風に今日会ったことを中心に雑談をしている。都やソフィアを中心に話が進んでいくため基本的には聞き手に回っているがこの雰囲気は自分なりに楽しんでいるつもりだ。【ファミリア】に入る前、村にいたときには同世代の友人なんておらず、村人との仲も険悪だったため1人で生きてきた。だからこういう団欒にはまだ慣れないとこもあるが、それでも居心地は良かった。

 

「そうや、そっちはどうなんだよ。今日もダンジョンだろ?」

 

再び話題が切り替わって今度はこちらの話になる。ソフィアが今日はアルが頑張っていたんですよぉ、なんていうと都とマルタが関心をする。ライラプスは顎に手を当てて考え込む動作を取る。

 

「ライ?どうしたん?」

 

「ああ。アル、お前もうダンジョンには慣れてきたか?」

 

「まぁ、とりあえずは」

 

「なんや、ライいきなりそんなこと聞いて」

 

「いやそろそろいいかと思ってな」

 

全員の頭上に?マークが浮かぶ。そんな疑問に答えるように続けた。

 

「そろそろこの5人で中層に行こうと思う」




だいぶ日が開いてしまった・・・。
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