ボクは『神様』が大嫌いだけど、『神様』はボクが大好きらしい   作:コロリエル

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どうも、神様。


プロローグ─『神様に最も近い人間』─

 

 

「確かにボクは神様に一番近い存在と言っても過言ではない。君達の行動をある程度なら自由に動かすことはできるし、出来事もある程度なら融通が効く。驚かせてしまったお詫びに、明日のお弁当には二人の大好物を入れてあげるよ! 轟 和君はお母さんの特製玉子焼き、長崎 新君は冷凍食品の唐揚げだね? きっと少しウキウキな午後を過ごす事ができるんじゃないかな? その程度、造作もないよ」

 

 

 

 

 うざったいくらい口が回る彼は、まるで僕らの思考を読んでいるかのように……いや、実際読めているのだろうか? 僕らの心情を読み、好物をさも当然のように口にする。

 あぁ、ここまで感情が負に揺さぶられるのは久しぶりだ。前は、進学先を決める時に、花耶ちゃんと大喧嘩して以来だっただろうか。あの時は大変だった。花耶ちゃんがあんなに声を荒らげたのは、あれが最初で最後だった気がする。

 

 ──もしかしたら、今の感情すらも、この目の前の男に制御されているのではないか?

 

 そんな嫌な予感が、身体中を駆け巡った。背中がゾクリと震えた。

 

 

 

「……だけど、ボクは神様じゃない。神様ってのは、もっと悪趣味で、性格が悪いんだよ。今も僕らの、こんな出来の悪いネット小説みたいな物語を作っているのさ。そして、そんな神様が作った物語を覗き見してる神達が、多少なりとも存在する。びっくりだよねぇ。今彼らは、どんな気持ちでボクらを眺めているんだろうね? 是非とも感想を聞いてみたいものだよ! 応援批判擁護口撃指摘ヤジ指導にクレームなんでもござれ! たかが『偽物』の分際で、ちょっとチヤホヤされただけでいい気になってる、情けない神様が作っている、この出来の悪い物語のさ!」

 

 

 

 理解したくない文言を口にする彼は、はたから見たら狂人そのもの。いや、彼がとっくに狂ってしまっているのは、雷を見るよりも明らか。

 狂っているはずだ、あれは。僕らが理解してはいけない領域まで到達してしまった、人間の成れの果て。上か下か。そのどちらかに極まってしまった人間の、筈だ。

 

 彼の中の『神様』とやらは、一体どれほどの大罪人なのか、是非とも聞いてみたかった。

 

 少なくとも、彼は『神様』の事が、何よりも大嫌いなようだ。『神様』について話している時だけ、その笑顔が完全に消え失せていた。

 

 

 

「あぁ、そうそう。君は今『雷を見るよりも明らか』って表現をしたかもしれないけど、正しくは『火を見るよりも明らか』だからね! 常識くらいなら書き換えられるんだよねぇ、ボク。今から元に戻しておいてあげるね! あ、和君だけはそのままにしておいてあげるね! 是非とも将来間違えた使い方をして恥をかくといいよ!」

「……忠告どうもありがとうございます。余計なことしてくれましたね」

 

 

 

 精一杯の虚勢。やっとの思い出捻り出したセリフが、聞きようによってはただの負け惜しみ。

 悲しいかな、僕はたった歳が一つしか違わないはずの先輩に思う存分揺さぶられてしまっている。

 それは隣に立っていた新も同じだったようで、その手は明らかに震えていた。

 

 それは、僕も同じだから恥じることは無い。

 

 

 

 

 ──夜十時。僕らは夕方の約束通り、一度家に帰った後でこっそり家を抜け出し、再び学校に戻ってきていた。

 オンボロ校舎かつ警備もザルで有名な我が学び舎への侵入は比較的容易で、僕らは暗い校舎の中を、ゆっくりゆっくり歩いていた。

 

 その時は全く疑問に思っていなかったのだが、何故かその時の僕達は、まるで導かれるかのように、真っ先にこの屋上へと足を向けていた。

 

 そこには、まるで待ち望んでいたと言わんばかりに、目の前の男子生徒──空野 陽輝(そらの はるき)の姿。

 

 

 

 

 そこで明かされた、異常な『戯れ言』。

 

 

 

 

 僕らが『作られたキャラクター』でしかなく、『神様』とやらのせいで、自分の生き様考え方行動信念出来事選択。

 その全てが、気まぐれに決められてしまうということ。

 

 空野さんが、それに準ずる力を持っていること。

 

 実証実験付きでQED。後はただの一人語り。それを延々と聞かされていた。

 

 

 

 

 どうすればいいのだ。そんなことを知って、僕らはどうすればいい?

 

 

 

 

 答えの出ない問題が、ぐるぐるぐるぐる頭の中で泳ぎ続けていた。マグロだっただろうか。泳ぎ続けていないと死んでしまうのは。この知識も、もしかしたら間違っているのだろうか?

 

 教えて欲しい、『神様』とやら。僕の『常識』は、あなたの『常識』と間違いないですか?

 

 

 

「……な、んで……俺達をここに呼んだ?」

「そうだねぇ……ボクは見ての通り頭がおかしい。だから友達が居なくてねぇ……」

「だからこうやって姿形を変えたり声を変えたりして一人で会話してみるんだけど、如何せんつまんねぇんだよ。だから、話し相手の一人も欲しいんだよ。オレって寂しがり屋だからよ……」

「そう! 君たちには『神に最も近い存在』であるボクの友達になってもらうんだ!」

 

 

 

 

 話している途中で、少し幼さを残した少年のような見た目から、瞬き一つの間に筋骨隆々の坊主頭にその姿を変えていた。やけに低いテノールが響いたかと思えば、聞こえてきた声は最初に聞いた、同年代と比べて少し高い声。姿も背丈も元通り。

 

 なぜそんなことをする意味がある? なにかのアピールなのだろうか? 自分が正しく『異常』であるというアピール?

 

 効果てきめんだ。今僕らは、確実に恐怖が隠せないでいた。

 

 へたり、とその場にしゃがみこんでしまう。屋上の床はやけに冷たくて、その冷たさで夢から覚めて欲しいと、強く願った。

 

 ──人の夢と書いて儚い。なのに、悪夢だけはずっと身体にこべりつく。

 

 覚めて欲しいものに限って、いつも現実だ。

 

 

 

 

「おやおやぁ? 和君は腰を抜かしちゃったかな? 少し驚かせ過ぎちゃったかなぁ……新君は涙目だねぇ! 写真に撮っておきたいよ……ま、いいや。ボクと友達になったら、楽しい楽しい学校生活を約束するよ! 報道部のネタには困らない! まるでアニメやマンガのようなはっちゃけた学校生活! 異能力に目覚めたいならバトル路線に舵を切ってもいいし、見飽きた異世界転生、チートに追放自由自在! さ、ボクと約束して、素晴らしい学校生活を送ろう! はいorはいorはい?」

 

 

 

 

「「はい」」

 

 

 

 

 二人で同時に口を開く。意思と反した音が鳴る。

 慌てて口を押さえてみるが、耳にはっきり残った、二人の肯定。

 

 言わされた、としか思えない。しかし、無駄なのだろう。足元に広がった本には、正にここまでの内容と変わらない文章が綴られていた。

 

 

 

 

 予定調和。全てがレールの上。

 

 

 

 

 まざまざと見せつけられた、常軌を逸したその力に、僕らは悔しがることすら諦めていた。

 

 いや、諦めさせられていた、のほうが正しいのだろうか?

 

 

 

「それじゃあ、君たちの事は家まで送っておいてあげるよ! なぁに、起きたら明日の朝! 清々しい一日を始めてくれ!」

 

 

 

 それじゃあ、また明日!

 

 そうやって、僕らを嘲笑うかのような三日月を背景に、無邪気な笑顔を浮かべて手を振る彼の姿。

 

 意識が闇に落ちる直前の光景は、まるで一枚の絵画のように、綺麗に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 茶番だ、と足元に転がる男子二人を眺める。

 こんなもの、『神』が用意した盛大な茶番。今のこの思考回路すら、『神』に操られたもの。

 

 本当の『自分』なんてある訳ない。『神』の機嫌によって、妄想力想像力文章力によって、すぐにブレる儚い存在。

 

 出来の悪い劇を演じる操り人形の身にもなって欲しい。右腕を上げるはずのところで、左脚を上げてしまうような、お話にならないレベル。幾ら千両役者を揃えていても、演出家が酷かったら、しょうもない駄作。無駄に声優だけ豪華なクソゲーだのようなものだ。

 

 それに付き合うしかない自分の無力さにも、ついつい笑ってしまう。

 自嘲気味に笑いながら、ボクは二人のそばに転がっている『人物本』を手に取り、一番新しいページに一文を書き加える。

 

 

 

 

 

 ──次に目を覚ました時、そこは自宅のベッドの上だった。服装はいつもの寝巻きに変わっていた。

 

 

 

 

 書き終えた瞬間、二人の体はフィラメントの切れた電球のようにパッと消えた……フィラメントを使っている照明など、あとどれくらい残っているのだろうか。

 

 これで、あの二人は今の記憶を持ったまま、明日の朝を迎えるだろう。ただ、和君の方は、花耶君がベッドの中で一人寂しく寝ているはずだ。翌朝が楽しみだ。

 

 ひと仕事終えたボクは、寝床にしている空き教室へと足を向けようとして──その足が、ピタリと止まる。

 

 あぁ、またか──そう感じながら、自分に働く『なにかの意識』に身を任せる。

 

 

 

 

 

 ──ボクは『貴方』に向けてにこりと笑いかけながら、仰々しく身振り手振りを交えて語り掛ける。

 

 

 

 プロローグは、この位でいいのではないだろうか?

 

 

 一話七百字で、一日何話も投稿されるプロローグよりは、少しはマシだったはずだ。そう信じたい。

 

 

 

 

 

 

「さてさて、お楽しみいただけておりますでしょうか、この物語は。この物語は、ありとあらゆる『貴方の感情』を受け入れます。この物語は、『出来の悪いライトノベル』にすらもなっていない存在ですので。 改変改悪なんでもござれ! 貴方にはその力があります! なぜかって? 決まっているじゃないですか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方達は、『神様』ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『貴方』に顔を向けたまま、わざとらしく一礼。

 完璧なまでの所作で動き切ったところで、身体の自由が漸く効くようになった。

 

 先程までの謎の現象について、特に疑問を持つことなく、ボクは屋上から立ち去った。

 

 今日の夢は、なんだろうか。

 

 頑張ったんだ。いい夢見ることくらいのボーナスはあってもいいのではないか?

 

 

 

 

 なぁ、『神様』?

 

 

 

 

 

 

 

 




ご閲覧ありがとうございます。神様は居ます。彼らにとっては。

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それでは、また次回。
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