核心のエデン   作:創作魔文書鷹剣

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 目指せギャグ無しエロ無し残酷陰鬱ヘビーノベル。


第一章 巣立ち
始まりの日


「ねえ知ってる?昔は本当に神様がいたんだって。」

 

 少女は語りかけた、目の前にある石に向かって。

 

「でも人間が自分勝手過ぎるから、神様はいなくなったんだって。」

 

 もう戻らない、あの日々を思い出しながら・・・

 

「当たり前だよね、人間が自分勝手じゃなかったら・・・」

 

 瞳に大粒の涙を浮かべ・・・

 

「こんな事にはならなかったのに・・・」

 

・・・哀しみが頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《新エヴリシルス暦10097年.ランシア王国》

 

 エヴリシルス大陸の西端、歴史ある由緒正しきランシア王国。剣と弓を握り、信仰を捨て、鉄と科学が国を形作るこの時代にも、都会を一歩離れれば山と川に囲まれた大自然が広がる。そして静かな山奥の森の中にひっそりとある施設、それこそが親を亡くした孤児を引き取って育てる地「エデン」だ。

 

「ねえアリサ知ってる?王都の方でまた争いがあったんだって。」

 

「ふーん・・・」

 

「また王政派の奴等が暴れてるらしい、先生がそう言ってたんだ。」

 

「・・・。」

 

 夕暮れ前のエデンの庭、浮かない顔をして池の前に座りこむ少女がいた。「アリサ・ロム・エーデン」・・・彼女もまた、親の顔も名前も知らない孤児であった。浮かない顔をしている理由は単純明快、エデンにいる他の子供から「外」で新たな争いが起きた事を聞いてしまったからだ。

 

「なんでなんだろ・・・」

 

 まだ十三年しか生きていない彼女には理解できない事だった。何故いつも人と人は争ってばかりなのか、同じ国で同じ言葉を喋り同じ学問を探究している筈の「ランシア人」同士がちょっとした意見の違いで争うのか。

 

「わかんない・・・」

 

「アリサ、こんなところで何をしてるんですか?」

 

「先生・・・」

 

 アリサの姿を見つけて声をかけて来た「先生」。このエデンにいる子供達に教育を施し、一部の子供達と一緒に掃除洗濯料理等全てをこなし、更には剣術まで教えてくれる凄い人である。因みに本名は誰も知らない。

 

「先生、何でみんな争うんですか?みんな同じランシア人なのに・・・」

 

 凡そ十三歳の女の子からは出てこない質問が飛び出した。こんな難解な質問にちゃんと答えられる人間はそう多くないだろう。

 

「人は善い事のためなら悪魔になれるからですよ。」

 

「・・・さっぱりわかりません、いつも先生はそうやって言葉を濁して・・・」

 

 先生はいつも質問をすればわかりやすく答えを教えてくれるのだが、たまに難解すぎる答えを返してくる時もある。十五歳以下の子供しかいないエデンの孤児達が理解するには難しいにも程があるが、先生は長い人生のどこかで理解してくれればそれで良いと思っている。

 

「それよりアリサ、算術の宿題はちゃんとやりましたか?」

 

「うぐっ・・・や、やりました・・・よ?」

 

 明らかに嘘だとわかる、むしろ清々しい目線逸らしに思わず先生も苦笑してしまった。

 

「まあ明後日の授業までにやってくれば構いませんが・・・それよりアリサ、今から大好きな剣術の授業ですよ。」

 

「はーい!」

 

 アリサは算術と社会教育は苦手だが、剣術の勉強は好きであった。練習用の木刀を持ったその日から異様な程手に馴染むし、何よりそれほど頭を使わなくていいから脳筋なアリサでも上手く出来るのだ。

 

「では・・・練習の成果を見せてもらいましょうか。」

 

 先生はいつも両手に剣を持つ二刀流派の構えをとる。何故か腰に携えた剣の代わりに木の棒を使うし左手は逆手持ちだが。二刀流という手数の差でいつも片方の棒を弾いている内にもう片方の棒を防げないのだが、それに対してアリサが考えた作戦は至極単純なものだった。

 

「よいしょっと、さあ先生!今日こそ勝ちます!」

 

 稽古場の隅にあった木刀を拾い上げ、右手は順手左手は逆手で木刀を構える。先生の独特な二刀流に対し、その構えを見様見真似で真似してそのまま切りかかったのだ。これには先生も驚かされたが、先生とのリーチ差のは大きくアリサの間合いに入る前に先生の棒が木刀を弾く。何度かこの動きを繰り返したのちアリサは諦めて距離をとった。

 

「私の剣術を目で見て盗んだのは面白いですが、まだまだ力不足ですね。切る事に集中するあまり守りが疎かになっていますから、今度はその二刀流で防御する練習もしましょうか。」

 

「はーい・・・」

 

 呆気なく惨敗したアリサはバツが悪そうに返事をした。彼女自身はこのまま何回でも挑戦したいのだが先生も忙しいし、何より剣術の練習は一日にできる時間が決められているのだ。練習も終わってアリサを彼女の部屋に送る道すがら、先生がちょっとしたお話を語った。

 

「・・・私の友人にとても剣の腕がたつ人がいましてね、私の剣術も彼と共に完成させたものなんですよ。ですがどうにも折り合いが悪くなりまして、ここ十年は顔を合わせる事もできてないんですよ。」

 

「へー・・・」

 

「彼も此処に来ればきっと仲直りできるはずですが・・・なにせ彼は会う事も気軽にできないような立場になってしまいましたから、せめて頭を突き合わせて話し合う事ができればいいのですが。」

 

 先生は時折エデンの外まで出かける事がある。大抵は数日かけて用事を済ませているらしいのだが、きっとその時にかつての友人と会えないか試みていたのだろう。それだけその友人が大切な人なんだとアリサが感じた時、ある事に気がついた。

 

(私って・・・友達いないよね?)

 

 エデンには同い年ぐらいの子供がいくらかいるし、年下の子供と遊んだりする機会も多かった。だが彼らはアリサが物心ついた時から一つ屋根の下で暮らしているし、何よりも寝食を共にしている時点で完全に家族と呼べる存在だった。つまり、アリサには友達がいないのだ。

 

(友達・・・か・・・)

 

 エデンを取り囲む森、その外に広がっているであろう世界に思いを馳せる。いつか自分がエデンを出て外の世界に行ったら、出会えるのだろうか。「友達」と呼べる存在に・・・

 

「アリサ、浮かない顔をしてどうしました?」

 

「・・・先生、私ここを出たくありません。」

 

「急に何を言い出すかと思ったら、何故そんな我儘を?」

 

「エデンの皆は私の家族同然だし、ここを離れたら自分には何も残らないんです。親もいないし、住む家も無いし・・・」

 

 こんな我儘が通らないのはアリサもわかっている。エデンは親のいない子供を育てる場所だ。だからアリサが大人になったらもう此処にはいられない。

 

「それでもいつかは巣立たねばなりませんよ?」

 

「わかってます、わかってますけど・・・私みたいなのが生きていられるのは、エデンぐらいしか・・・」

 

「誰もが同じ事を一度はいいました。それでも誰もが必ずエデンの外へ旅立つんですよ。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 いつもの先生とは違う、強い言葉での説得にアリサは黙ってしまった。ほとんど言い負かされた事よりも、どこか焦っているようにも見える先生の表情に内心驚いたのだ。

 その後は特に会話も無く、夕暮れの中アリサの部屋に辿り着いた。

 

「では、また明日。」

 

「はい・・・」

 

 大した返事も返さずに扉を閉め、部屋はアリサ一人きりになった。

 

「先生・・・どうしたんだろ。」

 

 疲れ果てた体を休めようと横になっても、さっきの会話で先生が見せた表情が気になって仕方がなかった。何故あんなに焦った表情を見せたのか、聡明で穏やかな人である先生が焦ったらしい様子を見たのは今日が初めてだった。

 

「気になるなぁ・・・」

 

《その夜・・・》

 

「アリサ、いつか貴女も此処を出る時が来ますよ・・・」

 

 エデンの屋上にて、先生の言葉は風に乗って遠く遠く東へと飛んでいく。かつて唯一無二の親友と出会ったあの街、アリサが大人になった時に頼る事になるだろうあの街に向かって・・・

 

「後何日あるのやら、私に残された時間は有限だというのに・・・」

 

 自分の運命が既に決まっている事は今更嘆くような事じゃない、肝心なのは「いつその時が来るか」だ。まだまだ教え足りない、せめて一五の誕生日ぐらいは祝ってやりたいがそんな余裕は無いかもしれない。

 

「・・・盗み聞きは褒められた行為ではありませんよ。」

 

「先生、どうしてわかるんですか?」

 

「アリサ、一三年も教育していれば分かるようになって当たり前ですよ。」

 

 物陰から現れたアリサに対し、優しく窘めるその姿はまさしく理想の教師像だろう。気配やら何やらでアリサが「居る」事は最初からわかっていたから先程の台詞はわざと聞かれたものだが、何を言っていたのかアリサが理解していない可能性はある。そのあたりをハッキリさせようと先生が話を始めた。

 

「何故こんな時間にこんな場所に?」

 

「ええと・・・中々寝れなくて、トイレ行こうとしたら先生がぶつぶつ独り言言ってたから、その・・・えっと・・・」

 

「嘘はいけませんと私は教えたはずですが?」

 

 段々目線が逸れていくアリサ、先生の目を誤魔化せるはずはなくアッサリ嘘をついたのだと見抜かれてしまった。実際彼女ほど嘘がわかりやすい人間は他にいないだろう。

 

「うぅ・・・実は・・・」

 

 呆気なく嘘を見抜かれたアリサは事の次第を自白した。先生が珍しく焦っているように見えた事、いつもと違ってアリサの話に思いっきり反論してきた事、それらが気になったものだから尾行して後をつけた事・・・全て聞き出した先生はいつもの穏やかな表情をしていた。

 

「盗み聞きはいけませんが、不安にしてしまったのなら謝りましょう。私はただ貴女に成長してほしかっただけなのです。とはいえアリサ、あんまり夜中に出歩くものではありませんよ。ただでさえ貴女は授業中の居眠りが目立つというのに・・・」

 

「・・・はい。」

 

 少しだけお説教されて不服だったが、先生に関しては自分の考え過ぎが原因だったみたいで安心した。

 

「とはいえ、私の身を案じてくれたのは感謝していますよ。」

 

 後どれだけ時間が残されているかわからないこの身、誰かに心配されるのは悪い気はしない。本当なら心配をかけたくはないが、教え子に助けらるのも偶にはありかと先生は思っていた。

 

「ほらアリサ、早く部屋に戻らないと明日起きられなく———」

 

 先生の話を遮って遠くから地響きが聞こえてきた。今まで聞いた事がないような轟音だった。

 

「先生今の音って・・・」

 

 近くで何かあったのかも、そう口にしようとした時アリサは気づいた。先生の顔が今までに見た事が無いぐらい険しい表情に歪んでいた事に。

 

「ついに来ましたか・・・っ!!」

 

「先生?何が来たんですか、先生?」

 

「・・・アリサ、ついて来なさい。」

 

 先生に誘導されてアリサはエデンの片隅にある倉庫に連れられた。先生が開けた扉をくぐった途端に埃が舞い上がって咳き込んでしまう。

 

「ケホケホッ・・・先生、こんな場所で何を?」

 

 先生はアリサの肩を掴み諭すように優しく、それでいて力強く言葉を発した。

 

「アリサ、私はいつかこの時が来ると思っていました。貴女に私の願いと意思を託す時が。」

 

「先生・・・?」

 

「次に貴女が目覚めたら、森を抜けて東の街を目指しなさい。きっと貴女の居場所がある・・・」

 

「先生、何を・・・」

 

「貴女にこれを・・・私が長年使い続けた剣です。貴女ならきっとこの剣で、悪夢の連鎖を断ち切れます。」

 

「何を言ってるんですか・・・?」

 

 先生が何を言っているかわからない。こんなに早口で捲し立てる先生の姿は初めてだし、急に愛用の剣を渡されて悪夢を断ち切るなんて言われてもわからない。

 

「先生・・・せんせぇ・・・」

 

 わからないのに、何故か涙が溢れ出す。

 

「アリサ、本当はもっと色々教えたかった。貴女に広い世界を見せてあげたかった。ですがそれはもう叶わない。ですから、最後に私と約束してください・・・」

 

 外から轟音が聞こえてくる。もう時間が無い事を悟った先生は、たった一つだけ願いを口にした。

 

「アリサ・・・」

 

 せめて、自分にできる事を成し遂げたのだ。

 

「幸せに、なりなさい。」

 

 ・・・ここでアリサの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ?」

 

 次に目覚めた時、アリサは真っ暗な空間にいた。

 

「ちょ、ちょっと狭・・・すぎ・・・おりゃーッ!」

 

 この空間は小柄なアリサでも狭くて窮屈すぎる。何とかして脱出しようと暴れた後、偶然にもその空間が傾いて脱出に成功した。どうやら先程まで入っていたのは倉庫に仕舞われている箱の中だったようだ。アリサが暴れたせいで横倒しになった箱達がそれを物語っている。

 

「いったぁ・・・あ!そうだ、先生!!」

 

 自分が抱えている剣を返すべく、アリサは倉庫を出て走り出した。一体何があったのか、何故自分を箱の中に入れておく必要があったのか、問い質したい気持ちでいっぱいだった。だが倉庫をでたアリサの目に飛び込んで来たのは、凄惨な姿に変わり果てたエデンの姿だった。

 

「え・・・?な、なんで・・・?」

 

 建物はあちこちに傷ができ、今にも崩れ落ちそうだった。しかもその傷はどれも剣で切り裂いた(・・・・・・・)ような形状をしている。加えていつも子供達の声で騒がしかったのが嘘のように静まり返り、物音一つ無い不気味な空間へと変貌していた。

 

「・・・あ、そうだ!先生!せんせぇー!!」

 

 しばらくエデンの変わりように放心していたが先生を探していた事を思い出して走りだした。そしてしばらく走り続けた後、木陰で横になっている先生を見つけた。

 

「先生!よかった、無事だったんですね!一体これは何が・・・」

 

 暫く一方的に声をかけ続けたが、先生は何も返事をしなかった。

 

「先生?」

 

 まさか意識が無いのか・・・そんな事を思ってしまい先生の体を揺さぶって起こそうとした時、ある事に気づく。

 

「え・・・?」

 

 先生が、既に息を引き取っていた事に・・・

 

「あ、あぁ・・・」

 

 アリサがあれほど尊敬していた先生は、彼女が知らない間に、死んでいたのだ。

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