「私は王国近衛兵団第六隊隊長!王国と人々の平和を守るために戦う剣士なのだ!!」
剣を携えた見知らぬ女性が発した言葉、それを聞いたアリサは・・・
「・・・・・・・・・・?」
「あ〜・・・そっか、田舎の子は知らないか・・・オールアンとかだと子供はみんな目を輝かせるんだけどな・・・」
「田舎・・・」
「まあいいよ、いつか説明するから。それより・・・キミ、もう歩けないでしょ?連れてってあげるよ。」
「いや、いや・・・」
「だーい丈夫!私はさっきの下劣なクズと違って近衛兵団の剣士だからね!この銀のシンボルに誓って悪い事はしないよ?」
嫌がるアリサをひたすら説得し続け、漸く折れた彼女は大人しく女性の背中に背負われてオールアンを目指した。
「脚とか痛くない?大丈夫?」
「・・・はい」
「痛かったら言ってね?簡単な処置ならできるから。」
「・・・・・・・・・・」
「お嬢さーん?お返事はー?」
アリサは女性の背中ですやすやと眠っていた。
「・・・・・・・・・・zzz」
「あちゃー、寝ちゃったかー。まあいいや、街に着くまで寝ててくれる方が楽だし。」
久方ぶりに休息を得たアリサは女性に運ばれてオールアンへ行く。先生との約束を胸に。
「うぅん・・・」
簡素なベッドの上でアリサは目を覚ます。木造の小さな部屋は暖かく、枕元には食事が備えられていた。
「ごはん・・・いただきます。」
長旅で空腹も限界に達した彼女はパンに食らいつき、久しぶりの美味しさを心行くまで味わう。誰かが訪ねて来ている事に気づかない程に。
「あ、あの〜・・・」
「・・・え?」
「し、失礼しまーす・・・」
部屋の戸を開けて入って来たのは、金髪が眩しい少女だった。
「起きたんだったら、一応コレ渡してって言われてて・・・ハイ。」
「?」
少女が渡してきたのは1枚の紙、そこにはあの女性がアリサに宛てたメッセージが書かれていた。
『本ッ当にゴメンッ!!私、忙しいからすぐに行かなきゃいけないの!キミのお世話は宿にいた女の子がやってくれるらしいから、困った事があったらその子に聞いて!キミが持ってた剣ならその子が預かってるから!
あと服は汚れてたから着替えさせちゃった!元々の服も女の子が預かってるからね!』
ハッキリ言ってなんという他力本願。大の大人が見ず知らずの少女に頼み過ぎである。
「ハイこれ、君の持ってた荷物全部揃ってるから。服は洗っちゃったから明日まで着れないけど・・・」
「・・・ありがと。」
「ねえねえ、君ってどこから来たの?」
「エデン・・・ずっと西の方。」
「エデン?聞いた事ないけど・・・小さな子が1人で大変だったでしょ?ゆっくりしていきなよ。」
食事の合間に答えながら会話は徐々に弾んでいく。もっとも見知らぬ少女の方が勝手に弾ませてるだけで、アリサは楽しいお喋りなんてしている余裕は無いが。
「・・・小さくない。もう十三歳だから。」
「え?ボクと同い年!?(年下だと思ってた・・・)あ、そうだ。まだ名前言ってなかったね。ボクはウィル・カット・リーバス!リーバス男爵家の娘だよ!ねぇ、キミは?」
「・・・アリサ。アリサ・ロム・エーデン。」
「そっか、じゃあアリサって呼ぶね。ねぇアリサ、キミって何処か行くアテあるの?」
「・・・ない。」
「じゃあ一緒に『コレ』受けよっ?」
ウィルが提示した「コレ」は、一枚の紙だった。
「『王国近衛兵団、団員募集中。王国の人々と平和を守るため、剣を手に取り戦おう』・・・最近物騒な世の中だからさ、近衛兵団が団員募集してるみたい。」
「王国近衛兵団?さっきの人も言ってたけど・・・何それ?」
「えっと・・・王国近衛兵団ってのは、王国に仕えて戦う剣士達なんだ。王都とかオールアンみたいな大きい町だと結構有名で、毎年何人も応募してるみたいだけど1人合格したらいい方なんだって。大半の人は不合格になっちゃうみたいだけど・・・きっとイケるって!アリサだってそんなすごい剣持ってるんだから合格するよ!!」
今の話で王国近衛兵団とやらが如何なる存在かはアリサにもなんとなく伝わった。しかし受ける気にはなれなかった。第一アリサは王国に仕えて戦うなんて大層な仕事が自分に出来ると思っていなかった。大好きな先生と死に別れ、故郷の地は引き裂かれ、形見の品を抱えて泣きながら旅に出た自分に務まるはずがないと。
「無理だよ・・・」
「え?」
「私にそんな事できないよ・・・この剣だって急に渡されただけで、本当は私の物じゃないのに・・・戦った事なんて無いのに、まともに剣を握った事さえないのに・・・」
考えれば考えるほど後ろ向きな感情が止めどなく溢れてくる。本来なら彼女は此処にいる事もなかった。ただ運命の悪戯に翻弄され、流れ着いたこの場所も安息地ではない。不安と孤独が彼女の中で少しずつ積み重なり、心に僅かな亀裂が生じる。
「・・・アリサ。」
「・・・?」
「そうやって後ろ向きで、自分には出来ないって思ってたら何も出来ない。大事なのは後ろを振り返る事じゃなく、前を真っ直ぐに見ている事・・・だよ?」
後ろを振り返る事じゃなく、前を真っ直ぐに見ている事・・・言葉に込められた力がアリサの心に響く。思えば自分は後ろ向きな事ばかり考えていたとアリサは思い返す。先生の事を思い出す度に流れる涙を拭い、約束を守るために・・・幸せになるために、頑張らなくてはいけないと一念発揮。
「・・・やるよ。」
「ホント!?」
「受けるよ。その募集。」
「やったー!!ホントにありがとう!実は1人で受けるのちょっと怖かったんだよね!!」
一緒に行く仲間ができたと知った途端ウィルは一気に上機嫌になり、アリサの手を握ってブンブン振り回すほどテンションMAXの状態である。振り回されているアリサの身にもなってもらいたい。
「ちょっと、手離して。」
「あ、ゴメンゴメン嬉しくてつい・・・」
それからも2人はお喋りを続けた。ウィルはともかくアリサは会話が苦手な部類だったが、少しずつ打ち解け始めて表情も大分柔らかになっていく。
「ていうかボクもキミも食い扶持稼がなきゃだから、この宿だってタダじゃないし・・・」
「そっか、私もお金必要なのか。エデンじゃお金使わないから・・・」
「そう、そしてただの子供なボク達がお金稼げるのは近衛兵団ぐらい・・・だから受けなきゃなの。」
結構リアルな事情が突きつけられたアリサ、そしてそれを解消するためには近衛兵団への入団が必須事項だった。上手く乗せられた感が否めないアリサであった。
「あれ?もしかして予定調和だった?」
「アハハ・・・」
因みにウィルは書いている時のノリでボクっ娘になりました。