近衛兵団の採用試験当日、アリサとウィルはお互いに剣を携えて町外れの廃墟へと足を運んだ。会場では百人以上の男達が睨みをきかせており「自分こそが採用されるに相応しいのだからお前らは帰れ」と言わんばかりの殺気を放っている。当然アリサ達のような子供はおらず、特に背が低いアリサはウィルと手を繋いでいないと見失いそうだ。ウィルも144cmしかないけど。
「ウィルって剣持ってたんだね。」
「当然!・・・そんなに強くないけどね。」
山程集まった人間の波を掻き分けて会場の中央まで進むと中央に一人の男が見える。その男は群青色のコートを纏い、胸に銀の星を掲げている。
「・・・!アリサ、アリサ!みてあの人!」
「銀の星・・・あの人と同じ!」
「あの人、本物の近衛兵団だよ!アリサを連れて来た人と同じ!」
「・・・定刻だ。」
男は小さく呟き、手にした懐中時計を懐に仕舞うと集まった群衆に呼びかけた。
「これより第十三回近衛兵団団員採用試験を行う。」
その言葉を聞いた瞬間、空気が強張り全員の緊張感がピークに達した。例えどんな苦行を受けても合格してやるぞという気迫を最大限に強く感じる。
「採用試験は三段階に分けて行われる。全ての試験を突破した者だけが近衛兵団として王国に尽くす術を得るが・・・試験の最中に負傷、或いは死亡した場合自己責任として処理される。我々は責任をとらない。その点を理解した者は・・・最初の試験が始まる。」
この試験には命をかける必要がある。そう理解した瞬間アリサの脳裏をよぎる光景があった。エデンの木陰に置いて来た、大事な人の無残な姿。自分もそうなってしまうかもしれない・・・そう思ったと同時にアリサの足は一歩だけ下がった。もう一歩下がろうとした時、ウィルがアリサの手をとった。
「ウィル・・・」
「アリサ、大丈夫だから・・・ね?」
その言葉には不思議と安心感があった。逃げ出しそうになった心はその場に繋ぎ止められ、試験に臨むために覚悟を決めようと心を落ち着かせる。人の心に働きかける言葉の力、それがウィルから感じられた。
「・・・帰る者はいないようだな。では最初の試験について説明する。」
男はさっきまで自分が立っていた場所の後ろにある扉を開けた。
「この先は地下水道に繋がっている。その中を通り三刻以内に反対側の出口に辿り着け。そうしたら最初の試験は合格となり、第二の試験に移る・・・始めろ。」
瞬間男は扉の前から消え去り、その場にいた全員が扉に向かって走り出した。扉の前は押し合いへし合いの大騒ぎだ。
「アリサ、行くよ!」
「う、うん!」
扉の前は人でごった返しているがなにせアリサ達は子供だから体が小さい。スルスルと人の波を突破して扉の中に突入した。扉をくぐり階段を駆け降りまた扉をくぐり・・・水の音が聞こえた気がしたと思った直後、アリサ達の視界に飛び込んで来たのは隣を流れる水と酷く入り組んだ通路だった。
「長ッ!?しかも広ッ!?」
「これ・・・道わかるの?」
「わかんない!とにかく行こう!!時間ないって!!」
一心不乱に走り出す2人、だがこの空間は同じ景色ばかりで動けば動くほど道がわからなくなる。おまけに水の流れる音が邪魔で周囲に人がいるのかどうかすら把握できず、ゴールの方向も分からずに彷徨い歩く羽目になるのだ。この最悪な環境を乗り越えてゴールに辿り着く事こそが最初の試験なのである。
「ちょっと待って!ここ絶対来た事あるって!!さっきと見た目おんなじだもん!!」
「いや、でも五回右曲がった後で左曲がったから・・・」
「いや絶対同じところグルグル回ってるって!!」
この試験は脳筋なアリサとは相性が悪すぎる。長い長い通路を直向きに先へ進み続ける度に余計に迷い、帰り道も分からないまま突き進み生還すら危ぶまれるレベルの迷子になりつつある。
「すぐ戻った方がいいって!じゃないと絶対迷子だから!!ホラこっち!!」
ウィルが力ずくでもアリサを連れ戻そうとした時、彼女の髪を風が微かに揺らした。
「・・・わかった!こっちだよアリサ!!」
「え?え?何が?どういう事!?」
「今ちょっとだけ風が吹いたの!だからこっちに出口があるはず!!」
一応風が吹いただけであって出口があるとは限らないのだが、今の彼女達に他の選択肢は無い。その脚で向かう先に目指す出口があると信じて走り、息が切れてもなお走り続ける。そしてその目に久方ぶりの光が飛び込んできた。その光を超えた向こう側にいたのは近衛兵団の男と数十人の参加者だった。
「やった、やった・・・」
「よかった・・・間に合ったよアリサ・・・」
二人とも肩で息をする程疲れ、酷使した脚を休めようとその場に座り込む。だが無常にもすぐに休憩は終わった。
「三刻経った。第一試験は締め切りだ。」
二人にとってはあっという間の出来事のようだったが、地下で右往左往しているうちに時間は経っていた。そして次の試験が始まる。
「第ニ試験も話は簡単だ。今俺が持っているこのペンダント・・・これを俺から奪い取れ。」