核心のエデン   作:創作魔文書鷹剣

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一握りの栄光

 いつの時代も栄光を掴むのは一握りである。大半の人間はそこに至るまでの間に挫折し、僅かな生き残りさえもほんの少しの怠慢で崩れ落ちて行く。そして最後まで生き残った者は、大抵が栄光の意味を理解できぬまま終わるのだ。

 何が言いたいか簡潔に纏めると、近衛兵団という栄光を掴もうとする者達が倒れ伏して行くという事だ。

 

「どうした。入団の切符を掴むどころか、この程度で倒れるのか。今年も不作だな。」

 

 男に疲弊した様子は無い。だがその周囲には満身創痍で倒れこむ受験者達が山を築いていた。中には殺す気で奪い取ろうと剣を抜く者もいたが、男はそれを徒手格闘で返り討ちにしてみせた。

 

「アリサ、あれヤバいって・・・」

 

「絶対取れないよ・・・」

 

 この試験において二人は偶然にも賢明な判断をした。他の受験者が砕け散っていくのを目の当たりにした衝撃以上に、以下にして攻略するかを考察する時間を得られたからだ。

 

「・・・こんなものか、やはり一般人の中から厳選するなどこうなって当たり前か。」

 

 第一の試験を突破した受験者のうち、半数は第二の試験開始と同時に飛び出した。彼らの特攻が結果を出す事はなく、何人がかりであろうとも流れるように無力化されて地に倒れ伏す事になった。様子見をしていたアリサ達含め残りの半数は作戦を練る時間が与えられたのだが、その時間を有効に扱えるかどうかは別問題である。

 

「残ってた人達も戦い始めたけど・・・」

 

「・・・ダメだね、これ。」

 

 全員半ばヤケになって突撃し始めたものの、やはりそう簡単にいくはずはない。次から次へと返り討ちに遭い、あっという間にアリサとウィル以外は全滅した。

 

「さあ、残っているのはお前達だけだ。かかってこい。」

 

「・・・言われなくても!」

 

 アリサは遂に剣を抜き、臨戦態勢へと突入する。

 

「くらえっ!!」

 

「・・・遅い。」

 

 例え渾身の力で剣を振ったとしてもアリサと相手の体格差は圧倒的、刃が触れる事も無く蹴り上げられてアリサの体は中を舞う。

 

「ウィル!」

 

「・・・ッ!死角からかッ!!」

 

 アリサの突撃はフェイク、本命は相手の意識がアリサに向いた隙にウィルがペンダントを奪取する事だった。兵団の男にとってアリサは遥かに格下の相手だが、それでも斬り合う最中に意識を逸らす事はなかった。これは男が高い実力を有するが故であり、剣士としての本能を突いた連携を即興で実行した。だがそれでも届かない。

 

「ぬるいッ!!」

 

 驚異的な反射速度、そして恐るべき近接格闘能力。完全に視界の外から襲いかかったウィルを巧みにあしらい、体勢を整える間もなく地に打ち付けられる。この時点で連携は崩れた。だがまだ終わったわけではない。

 

「まだまだッ!」

 

 作戦が瓦解したと同時にアリサは突撃した。当然無理に突撃したところで結果は変わらないが、今度のアリサには別の作戦があった。

 

「どりゃッ!」

 

「・・・無駄な事を。」

 

 まず渾身の力で上に飛び上がる。当然この程度の奇策は通用せずすぐうでに捕まる。だが肝心なのはその後である。

 

「どうだッ!!」

 

 胸倉を掴まれた後、まだ動かせる下半身を揺らした勢いのまま足を限界まで伸ばし、男のペンダントを足で奪い取った。

 

(・・・バカな、まさか足で掴むとは・・・。)

 

 そしてアリサがペンダントを掴んだと同時に男はアリサの胸倉を掴んでいた手を離す。そうなるとアリサの体は下に落ちていくのだが・・・ペンダントを掴む事で頭がいっぱいだった彼女は思いっきり地面に激突した。

 

「痛ったぁッ!?」

 

「アリサーーーッ!?」

 

 せっかく第二試験も突破したのに二人は満身創痍であった。特にアリサなんて既にズタボロだしウィルも強引に押さえつけられた弊害から体中バキバキである。だが休む暇さえ貰えないのが現実というものだ。

 

「立て、お前たち二人は次の試験に進める。ついて来い。他は動かないから失格だ。」

 

 本当ならこの時点でまだ動ける奴は次の試験を受ける事ができたのだが、いかんせん壊滅状態なためアリサとウィルだけが先に進む事が許された。

 

(まさか最後まで生き残ったのが二人とも女、しかも子供とはな。)

 

 最後の試験を行う場所へと向かう道すがら、こんな事は初めてだと考えを巡らせる。彼が近衛兵団に身を置き、隊長を務めるようになってから早五年。その間もその前もこんな状況は無かった。もしかしたら、彼女らは何か違う風を吹かしてくれるのかもしれないと思いながら歩みを進め、遂にその場所へと辿り着く。

 

「ここは・・・?」

 

「ここは近衛兵団の団員が使う訓練場だ・・・さて、今から最後の試験を始める。お前たちが握るその剣で俺と戦え。今度は俺も剣を抜く。命の限界まで追い詰めるから覚悟するように。」

 

 

 突然のデスマッチ宣言に二人共一瞬固まるが、すぐに復活し剣を抜いて斬りかかる。だが相手は徒手格闘で二人の剣を防ぎ切った猛者である。そんな実力差が真剣を握ればどうなるか、答えは明らかだ。

 

「・・・そんな剣では藁も切れはしない。」

 

「ハアッ・・・ハアッ・・・ダメだ、これ・・・」

 

「ボク達がどうにかできる強さじゃないって・・・」

 

 桁違いの強さ、アリサもウィルもまともに人と斬りあった経験は無い。そもそもアリサの場合練習では先生が加減してくれてたし、今回と違って真剣を振ることも無かった。そんな二人が戦闘経験豊富な近衛兵団の隊長に勝てるなんて奇跡が起きなきゃありえない。

 

「痛い・・・死ぬってこれ・・・」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 アリサの脳内を駆け巡るのは「死ぬ」という言葉、連想するのは家族同然の存在だった恩師の姿。木陰に置いてきたあの無残な姿が鮮明にフラッシュバックし、あらゆる感情がドロドロに混ざり合って涙が止まらなくなる。

 

「先生・・・」

 

 涙で濡れた頬とは逆に、体は熱く煮えたぎったような強い力を感じる。そしてその力を糧に立ち上がり、剣の柄を力強く握りしめて剣を振るう。

 

(まさか、これは・・・!)

 

 その剣は先程までの剣とは比べようもないほど鋭く、そして強かった。まるで悪魔にとり憑かれたかのような血走った瞳で一心に相手を捉え、強く握り過ぎて血が滲む手で剣を振り回す。挙動自体はアリサそのままなのだが、膂力も速度も桁違いな力で強引に切り結ぶ。そしてさらに、その剣戟に喰らいつくもう一人の姿。

 

(・・・ッ!こっちもかッ!!)

 

 ウィルもまた、アリサと同じ状態にあった。身を裂くほどの痛みを力に変えて、一心不乱に剣を振り回す。二人とも本来ならば立っていられない程の重傷であり、そんな状態で剣を振り回し戦うのは自殺行為にも等しかった。その事実を汲み取った相手は速やかに、正確な剣戟によって、二人の意識を奪った。

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