視聴覚室に残っているのは3人。
倫也はため息をつく。
「英梨々、ちょっとこっち座れって」
英梨々が二人前の椅子に座る。
「英梨々、率直に言わせてもらうぞ・・・もう時間がなくなってきからな」
「何よ倫也」
「お前・・・キャラ死にかけてね?」
「な・・なに言ってんのよ?」
「ううん英梨々、わたしもそう思う。消極的というか・・・」
「お前の素を演じている部分はさ、優しいし、細やかな気遣いもできているし、いいキャラだと思う。でも、それがマイナスになってない?主役になるには弱い気がするだけど」
「どういうことよ?」
「それだよ英梨々。会話の運び役になってるんだと思う。英梨々はどうしたいの?英梨々は何を考えているの?そういうのが見えてこないなぁ。このままじゃあ、なんだかなぁーだよ?」
「うんうん。ちょっと英梨々キャラが前面にでてくるのは、『あんたバカぁ?』『別に、・・・じゃないんだから!』とか、もう使い古されたツンデレテンプレの時だけなんだ。なんていうんだろ、英梨々のオリジナルの部分が薄いというか、弱いというか・・・」
「どうしたらいいの?」
「さぁ?」
このままでは恵に対抗できない。あれ、これって負け犬1の話題だったような・・・。
「気が付いた?英梨々・・・。英梨々が一番成長してないんじゃないかな・・・この小説を通してさぁ・・・」
「えっ?」
「むしろみんながキャラ崩壊しながら成長していく中、英梨々だけが弱くなっているぐらいやばい」
「そんなにひどい!?」
「ひどいというか、誰だかわからん」
「・・・」
「泣くな。泣いて解決する時間は過ぎたんだよ!もう『負け犬5』なんだよ、自分でもびっくりだよ!物語はそろそろ収束していく大事な時期にきている。英梨々・・・確認するぞ」
倫也が立ち上がる。けっこう真剣である
「おまえ、この小説の主役だよな?」
ポケーッとした顔で目が点になる英梨々。自覚なし。
恵が肩を震わせている。
「ねぇ安芸くん・・・八つ当たりしていい?」
「なんだよ・・・急に」
「それとも英梨々に言っていい?」
「やめて、英梨々のHPはもう0よ・・・」
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「そうだなぁ・・・でも、一個どうしても回収したいフラグがあるんだけど・・・」
「どれ?」
倫也が恵にフラグ管理表を見せる。
「あーこれは素人目にも大事なフラグだけどねぇ」
「ああ、ここは俺史上最高のシナリオを用意したい」
「いや、それ必要ないんじゃないかな?」
「あっ、そうですかー そうですかー」
「うん。この視聴覚室でわたしと倫也くんが仲直りするフラグだよね?」
「そうだけど」
「だって英梨々ルートを選択するんだよね?だったら恵ルートのフラグを回収するのはおかしくない?」
「加藤、それ・・・『旧メインライターシナリオ』だから・・・」
「あれ・・・」
「おまえが選んだの『小人さんシナリオ』だろ。さっき美智留に曲も発注してたし、伊織にも伝えたろ・・・」
「あっ、そうか。でもイベント開始まではまだ時間あるよね?」
「だったら今日じゃなくてもいいんじゃないかなぁ?」
「でも加藤、怒っているの辛いんだろ?」
「うん」
「なら、いいんじゃないか?無理せんでも」
「ううん、よくないよ。曖昧な態度だとフラグ立たないでしょ?」
「わかった」
「それに、今日はこの衣装だし・・・主題的にこの衣装で仲直りするのおかしいよね」
「すっかり忘れてたよ!加藤がメインヒロイン衣装着てたこと」
「活字だもんねぇ」
「ついでにもう一つも忘れてくれたよねぇ?」
「ああ、わかってる。(やなこった)」
教室からでていこうとする二人。
「あっ、英梨々のこと忘れてた」
加藤が鞄からプロットを出す。
「英梨々、これが『小人さんプロット』だから。とりあえず『負け犬5』だけだけど、しっかり読んでおいてね。できないなら代役立てるから・・・」
英梨々がうなずく。なんだ、この目の前の謎のカップルは?怒っているのか仲がいいのかわからん。
英梨々にわからなくて当然なのだ。古来よりいうではないか「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と。
(つづく)
次回からカオスです。