冬にしては暖かい日。新幹線乗り場に英梨々が一人立っている。
「なっ・・・なんであたしが一人でいるのよ・・・」
英梨々のこれからの予定はマルズとの顔合わせのため大坂に向かうことである。
しかしこのイベントの重要性はそんなこととはまったく関係がない。
英梨々があたりをキョロキョロみる。
ひとり。あたしただひとり、ここにいる。
台本を取り出して読む。
「あーなんで、シナリオでフラグが回収されてないのよー、あたしが実はモノローグを覚えていて総没されても記憶を失ってなかったことや、実はゴーレムがでかすぎて倫也たちに気がついてもらえなかったことや、これに参加する決意を固めるシナリオも割愛されてしまったんだろー(棒読み)」
そこに階段を駆け上がってくる影が二つ。倫也と恵である。
「英梨々!」
「英梨々っ・・・くちゅん!」
「倫也、恵!って、恵大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・くちゅん!」
「なんか風邪っぽくない?」
「ううん、教室に放置されたから風邪を引いたなんてことはないから心配しないで」
「・・・」
本当は新プロットが決定し、教室で寝ていた恵にも撤収指示がだされていた。しかし仲直りイベントが消化されていない事をよしとしない恵はそれに従わなかった。説得を諦めた倫也は学校の教室で恵と一夜を過ごすことになる。もちろん何もなかったが、断固としてなかったが。
かくして、仲直りイベントが行われていないにも関わらず、仲直りイベントが消化されたものとして、ここに2人は来ている。
もっとも、こんなことしなくても恵が来ないわけにはいかなった。何しろこのイベントは恵にとっての大きな心残りの一つだからだ。
それは・・・『安芸倫也のファーストキスが霞ヶ丘詩羽と行われた』イベントだからである。
加藤恵原理主義者からすれば、霞ヶ丘詩羽ヘイト側に周るイベントでもあった。
英梨々は今ここにいる。イベントフラグは倫也とのキスだ。負け犬4でキスはしている。結婚式の舞台がその気持ちを高めた。また恵も参加していなかった。それで物語が終わるという負の感情の安心感もあった。
話をホームに戻そう。
「で・・・なんで、そんなプラグスーツみたいの着ているのよ?」
「これはね・・・くちゅん」
「ほら加藤、ティッシュ」
「ありがほ」
鼻をかむ恵。
「これはね、着るのが大変だったの。朝慌ただしかったし」
「誰かさんのせいでな」
「どうせどうせ、わたしが・・・くちゅん」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない!大丈夫ないから・・・帰ろ?倫也くん・・・」
英梨々が固まる。
「えっ、恵、呼び方が倫也くんになってるんだけど・・・」
「あっ、うん。ほら、昨日、一晩、倫也くんと学校で過ごしたから。ね?倫也くちゅん!」
「・・・」
「じゃ、英梨々いってらっしゃい」
「ちょっとまって恵。あたし聞いてないんだけど!?いつからそうなったのよ?」
「今朝?さっき?今かな?」
「あんたたち・・・もう付き合っているの?」
「ね?倫也くん?」
「あのなぁ・・・加藤・・・」
「加藤じゃない」
「加藤でしょ!?」
「加藤じゃない・・・」
加藤が泣きそうな声を出す。風邪気味なのが余計に哀れを誘う。
「恵って呼んで欲しい、今だけでも・・・くちゅん」
「わかったよ・・・恵」
「ね?倫也くん、わたしたち付き合っているんだよねぇ?」
恵の目に力がない。足元に崩れ落ちる。風邪の症状が思った以上に重い。
「今はもう無理するな・・・伊織・・・聞こえるか?」
「ちゃんと聞こえているよ、倫也君」
「これ以上の続行は無理だ。撤収する。恵を病院へ頼むっ・・・」
「・・・倫也君・・・気が付かないのかい?」
倫也が焦った顔で恵を触る。高熱だった。
英梨々の目が真剣になる。
「そういうことか・・・」
「なんだよ・・・なんなんだよ・・・」
「倫也・・・倫也!」
英梨々が倫也の胸倉をつかむ。
「わからないの?これこそが・・・メインヒロインの呪いなんじゃない!」
(つづく)
つづく