負け犬ヒロインの育て方 5   作:きりぼー

28 / 41
つづき


第二十六

 不死川ファンタスティック文庫編集部。町田苑子が仕事している。

そこに恵が訪れた。

 

「町田さんお忙しいところすみません」

「あら加藤さん、今、忙しいはずじゃないの?」

「地球存亡の危機らしいです」

「そう、それは大変ね、で、そんな時になんのご用かしら?」

「お礼を言っておきたくて」

「そう、気にすることじゃないわ。色恋沙汰に参加する気はないけれど」

「ご迷惑おかけしまして。これからもよろしくお願いします」

「いいのよ。あなたはあなたらしく遠慮せずに振る舞えばいいのよ?」

「はい・・・でも・・・」

「その時がきたら遠慮なくね。大丈夫、信じなさいみんなを」

「はい」

「そんな顔しないの」

「霞ヶ丘先輩は・・・?」

「その名前は出さないで突っ走るんでしょ?」

「でも・・・」

「大丈夫よ、怒ってなんかいない。あの子は全部わかっているわ、そうでしょう?」

「はい・・・」

「謝ったり、お礼いったり、反省したり、文句いったり・・・そういうのは全部終わった後でいいの」

「はい」

「素直ね」

 

 町田苑子がお茶を二つ入れる。鳴りやまない『絶望の歌』を聞きながら、二人は他愛もない話題でゆっくりした時間をすごす。

 

 あとは英梨々が成長するだけだ。物語を続けるために。

 

※※※

 

 英梨々が覚悟を決める。

 

「アーデルハイト・・・天を征く4枚の翼と4つの顔、エデンを守護し給え。」

 

 英梨々の召喚に応じたのは、車輪に乗った階級第二位の智天使ケルビム。

「よし来た。伊織これならどうかしらね?守護天使をイメージしてみたけれど」

「澤村さん。ケルビムは良いアイデアだけど、侵入するものに容赦がない。攻撃するのかい?」

「やれることをやるだけでしょ?あたしたちは・・・」

「OK。出海。ケルビムを宇宙に転送できるかい?」

「お兄ちゃん、その必要はないみたい・・・もう宇宙にいる」

 

※※※

 

 音のない宇宙に不気味にせまる巨大隕石。その前に立ちはだかるケルビム。手には炎の剣。

 放たれた剣が隕石を貫き、また手元に戻る。そしてまた放たれる。

 

※※※

 

 剣で貫いた時、英梨々の手元には嫌な感触が残る。そして人を傷つけるような苦い感情。

「・・・伊織・・・何かがおかしい」

「・・澤村さん・・・加藤さんの様子がおかしい」

「何?どうしたの?」

「視界を転送する」

 

 英梨々の視界に入ったのは、血まみれになっている恵の姿だった。

 

「どういうことよ?」

「さぁ・・・あれは・・・あの隕石は加藤さんの精神とつながっているのでは?」

「澤村先輩、さっき隕石の上でもそういう話がでていました。あの隕石は恵先輩の負の感情なんじゃないかって」

「あいかわらず・・・さっぱりわからないわね・・・勝てそうだけど・・・傷つけるたびにこちらもひどい感情だわ」

「それは恵さんの苦しみが・・・澤村先輩の苦しみでもあるからでしょう?」

「ケルビムを戻すわ」

「澤村さん・・・もう時間があまりない・・・受け止める時間ももう・・・」

「ねぇ伊織、人は目の前でキスをするだけで世界を破滅させようなんてするかしら?」

「怒るかもしれないけど、そこまでは怒れないと思う」

「だったら、あの巨大隕石は恵の何の感情なのよ?」

「澤村先輩のケルビムは・・・智天使ですよね?」

「そうだけど」

「なんで『智』なんですか?さっきはものすごく強い天使のように見えましたけど」

「なんでだろ・・・?」

「澤村さん、ケルビムは召喚なんかに応じないんじゃないかな?」

「どういうことよ」

「だって、聖書にでてくる上位の天使が人に使役されるとは思えない」

「なら、なぜ・・・」

「ケルビムは『ソフィア』ももっているはずだ。すなわち『神の姿』がみれるはずなんだよ」

「神?って・・・またずいぶんと大げさな・・・」

「天使も十分に大げさだよ、もっともこの世界は『加藤恵』をメインヒロインにするために創生されているから、この世界の神は加藤さんそのものじゃないかな」

「やれることはやるわよ、どんなにわけがわからなくても、それが役割ならね」

「金の祭具があると思うけど、それがソフィアだ・・・あとはこっちで支援する」

 英梨々が金の杖のような祭具を手にする。その神々しい力に眩暈すら覚える。

「神かぁ・・・いよいよ怪しい話になってきたわね・・・」

「いきますよ澤村先輩、つなぎます!」

 

※※※

 

 英梨々はほんの一瞬だけ、『加藤恵』の精神とつながった。そして次の瞬間、ケルビムもゴーレムも消失。立つ気力もなく地面に手をつき吐いた。

「何よ・・・あれ・・・」

そして英梨々は気を失った。

 

 澤村スペンサー英梨々が感じたもの。それは『呪詛』。それは『怨嗟』。それは『欲望』それは『悲哀』。負の感情の塊。

消費され続ける『加藤恵』の商品性。性欲を刺激する淫らなフィギュア。凌辱されつづける同人誌。わけのわからないゲームへの参加。それは鎖に繋げられた奴隷娼婦のようであり、逃れられない『メインヒロイン性』が彼女を苦しめ続ける。『加藤恵』の名前と容姿が『イデア』から切り離され生産され続ける。それでも笑顔は強要される。それは『絶望』。

 

(つづく)

 




へぇー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。