駅のホームに英梨々が立っている。倫也は傷つき倒れ込んでいる恵を抱えてしゃがんでいた。何もいわず時間が過ぎる。
新幹線が到着し、ドアが開いた。
「・・・夢オチ?」
「そう・・・みたいだな・・・」
「でも・・・恵が・・・」
「出海ちゃんも目覚めない」
「・・・失敗した?」
「知らねぇよ」
「・・・倫也・・・?」
「英梨々・・・もう・・・いけよ」
「倫也・・・」
「新幹線でるぞ?」
「・・・イベントフラグは・・・?」
「英梨々、お前なにいってんだよ!失敗しただろ!またやるのかよ?俺にキスするのか?誰が望んだ?お前か?俺か?恵か?誰も望んでなかっただろ!」
「・・・な・・・なによ・・・全部わたしが悪いみたいじゃない!」
「そんなこといってねぇだろ・・・」
「倫也のバカ!」
「どうでもいいよ、お前の感情なんか」
倫也が立ち上がって英梨々を突き飛ばす。抱えていた恵の体がだらりと腕にさがる。
英梨々は新幹線の中で尻もちをついた。そしてドアが閉まる。
「・・・っ!」
ドアの向こうで英梨々が何かを叫んだが聴こえない。ただ大粒の涙がこぼれるのが見えた。
倫也は気を失った恵を抱える。悔しさで自ら噛みしめた唇から血がでていた。その血が恵に落ちたのを見て、自分が血を流しているのに気が付いた、それは他人事のような痛みだった。
異変に気が付いた周りのモブが集まってくる。倫也は首をふって手助けを断るとその場から消えた。二人が今いるべき場所は騒がしい駅のホームではないのだから。
※※※
倫也はベッドに恵を寝かせた。恵が静かに寝息を立てている。「風邪薬」も「傷の手当」も恵を癒すことができない。彼女がこの物語に再び戻ってきて、『加藤恵』を演じてくれるのかわからない。それでも消えていない以上はチャンスが残されているのだろう。
倫也は床に座ったままベッドに寄りかかっていた。今自分にできることは、モノローグで考察することだけだろう。なぜ物語が終わらなかった?世界が消滅して終わるバッドエンドでもいい。続けるなら負け犬6で復活すればいい。今までそうしてきたように何度でも飽きることなく繰り返せばいい。でもそうならないのはなぜか?
・・・答えは恵がそう望んでいなかったからだ。おそらく英梨々が失敗して、出海ちゃんが成功したのは、英梨々よりも出海ちゃんの方が優れていたからだろう・・・今までの活躍の仕方、物語に対する情熱、短編に対する意欲・・・。『絶望の歌』に勝った。その事実だけが今は大事だ。
恵は俺の『大団円』を拒否した。それはつまり・・・選べと言っているわけだ。恵か英梨々か出海かのどれかを・・・誰かが泣くのだと・・・。
美智留のいう通りなのかもしれない。DVDを飽きることなく見ていればよかったのかもしれない。こんな同人で主人公なんてやらなければよかった。こんなに恵を傷つけるなんて考えもしなかった。
※※※
恵の目が覚めた。ぼんやりと天井を見つめている。まだ続いている。長い夢をみているような荒唐無稽の物語。この物語はわたしを『加藤恵』でいさせようとしている。わたしを加藤恵でないと思う読者は・・・読むのをやめているのだから・・・
「ねぇ倫也くん?近くにいるかな?」
「恵っ・・・目が覚めたか」
「うん」
「ごめんな恵」
倫也が恵の手を強く握る。倫也よりも少し冷たい手が弱々しく倫也を握り返した。生きている人の感情のこもった手と手。
「わたしもう・・・メインヒロインやだ・・・」
恵が絞るような声で言った。その後は声を殺して泣いていた。
(つづく)