伊織が残りのジュースを飲み気持ちを落ち着ける。セリフが多いのは苦手だが仕方ない、現状で霞ヶ丘詩羽に対抗できるのは自分しかいない。
一方で関係ない事を自覚した美智留と出海は二人でオセロを始めている。
「動機についてだけど、加藤さんはメインヒロインを演じることで葛藤してきた。そこから素直に開放されたい、普通の女の子に戻りたい、その上で・・・倫也君に再度選んでもらいたいというのがある。言い方を替えるなら『メインヒロインだから加藤恵が勝つのは当たり前』というのは納得がいかない」
「そうね」
「倫也君からすれば加藤さんの願いを叶えてあげたいというのもあるが、加藤さんの呪いを解くことで実現することのほうが重要だ。それがこの話シリーズ全話のエピローグになる・・・ように悪戦苦闘しているというのが現状だけどね」
英梨々がため息をつく。
「まったくあたしの立場ないわね・・・」
「一方の霞センセの動機は違う。『加藤恵が勝つのはメインヒロインだから』という視点から紐解き、加藤さんの呪いを解ければ澤村さんと対等に戦えることを目的にしている」
「なるほど、さすが霞ヶ丘詩羽ね」
「でも、澤村さんは先の『負け犬3,4』で役割を演じることを選んだ。考え方としては倫也君に近づいた。っと、思うのだけど?」
「伊織に言われるのは癪だけど・・・わたしは確かにもう恵とは戦いたくはないわね」
「・・・あなた何いってるの?」
詩羽が心配そうな顔をしている。本人にやる気がなければ計画が台無しになる。
詩羽があきれる。
加藤恵@メインヒロインの倒し方も見えてきた。しかし・・・このままでは自分の望むエピローグは迎えられそうにない。なら『倫也シナリオ』で進める?能天気なハッピーエンドですべてを茶番にして・・・それで彼の望む恵との未来を描いて終わる。伏線も回収せず、風呂敷だけ広げて?だったら、最初からその未来だけを描けばいい。いくらでも安芸倫也と加藤恵の未来を描けばいい。同人小説で妄想垂れ流しにして・・・わざわざ暗い話なんて書かなくて・・・澤村さんが泣く必要はどこにもなくて・・・
詩羽が伊織に問いかける。
「要するに今回の『負け犬5』が大きな分岐点になるのね?」
伊織がうなずく。
「霞ヶ丘シナリオでは英梨々エピローグになってしまう、だけど、倫也シナリオでは茶番だけで終わってしまう。それに内容がひどすぎて・・・加藤さんから総没をくらっている」
「倫也くんにシリアスは無理なのはわかるけれど、加藤さんから総没にするってよほどひどいのね?」
「そうだね、シナリオの方向性を完全に変えるのはやっぱり無理がある」
「じゃあ、素直に私の目指す英梨々ルートに進めばいいんじゃないの?」
困惑気味の英梨々が気が付く。
「ちょっとまって伊織、矛盾を抱えてない?」
「その通りだなんだよ澤村さん。そのための『負け犬5』の会議なのだから」
「もうあたし自身があたしのルートを選択したくなくなってきているのか」
伊織がうなずく。
「それでも霞センセの応援と指導の元、澤村さんが勝利したプロットもあるにはある。加藤さんの問題は棚上げだけどね」
伊織が首をふる、悲痛な表情をみせる。
「澤村さんには見せられないけれど・・・そのプロットからの派生がこれなんだよ・・・霞センセ・・・」
伊織が束ねたプロットを詩羽に渡す。
詩羽が黙って受け取るとそれを読み始めた。
一方で出海と美智留が黙々とオセロを打っている。
英梨々は上手く自分の未来が描けない。誰かが誰かを選ぶのではなくて・・・こういう楽しい時間をずっと続けることはできないのかと思いながら・・・
(つづく)
もうちょい続きます