とある黎明の縦線仮面(ボンドルド)   作:イチカワヒナナテスカトリ

1 / 6
お久しぶりです。絶賛浪人中の作者です^^
数ヵ月ぶりに拙作読んだのですが、文章が拙すぎて見てられんかったのでリメイクします。リメイクといっても内容はそのままで文を書き直すだけですが。
良ければ読んでやって下さい


1

『新時代の夜明け』

 人々は科学技術が飛躍的に発展したこの3年をそう呼ぶ。

 

『彼』が現れるまでの数年間、つまり『新時代の夜明け』以前。世界は暗い夜であった。

科学技術がろくに進歩しない一方で、地球温暖化や酸性雨、化石燃料の枯渇、オゾン層の破壊など環境破壊は進み、人々は未来の希望を失いつつあった。

 

しかし、ある時を契機にその夜は明けることとなる。

世界中で新たな科学技術が確立し景気が回復し、長年頭を抱えるしかなかった環境問題も回復の兆しが見えたのだ。

 

やはりと言うべきか、その中心にいたのは世界の叡知の結晶である学園都市。

これまで学園都市が独占していた製品や技術がある時を境に全世界に公開されたのだ。

それは学園都市が『外に輸出する製品は3世代ほど落とす』というルールを変えたわけではない。学園都市の科学技術自体が飛躍的に成長し、その結果としてより高度な製品を輸出できるようになったのだ。

それ以前の世界を夜とするなら、この3年はまさに夜明けに違いなかった。

 

そして、その輝かしき新時代を切り拓いたのはたった一人の科学者であった。

出自、年齢、素顔、その全てが謎に包まれた人物。彼の成した業績のあまりの大きさに、その名は個人ではなく団体だと主張する人や偉大な科学者の総称としてその名を与えられるのだと信じている人もいる。

いずれにせよ、あまりに偉大なその科学者を指して、人々はみな尊敬、或いは彼の裏の顔を知る一部は畏怖をこめてこう呼ぶ。

 

『黎明卿』新しきボンドルド、と。

 

 

 

 

 

 

御坂美琴はSプロセッサ社脳神経応用分析所に潜入していた。

 

「ここを破壊したら終わりのはず……!!」

 

いや、正しく言うならそれを破壊していた。

美琴の額から放たれた電流が監視カメラや警備ロボを動きを止め、難なく内部へ侵入しモニタールームへ向かう。彼女の胸中には使命感と怒り、そして少しの希望があった。

 

 

絶対能力進化計画(レベル6シフト計画)

 

彼女がその存在を知ったのはつい最近のことであった。

その計画は簡単に言えば学園都市一位の超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレータ)』が御坂美琴のクローン二万体を二万パターンの戦闘で殺害することによって、超能力者の先である『絶対能力者(レベル6)』へ進化できるという概要だ。

概要を聞く限り馬鹿馬鹿しいことこの上ないが、世界一のスーパーコンピュータが出した結論であることは、その真偽に関係なく科学者たちにとって実験を行う理由として十分だった。

 

いくら絶対能力者を生み出すためとは言えそんな実験は道徳的に認められない、なんて話は学園都市の闇の前には通用しない。むしろ実験動物が何万体死のうが、それで科学が発展するなら正義なのだ。

 

当然、そんなことは美琴とて理解している。

科学技術の発展には今まで多くの人間が犠牲になり、自分たちはその代償の上で豊かな生活をしているということは十分承知の上だ。むしろ美琴はどちらかと言えば、科学の発展のために何かを犠牲にするのは仕方のないことだと割りきっている方だ。

自分に瓜二つのクローンが大勢殺されるというのは気分が悪いが、それでも前人未到の『絶対能力者(レベル6)』を生み出した時の恩恵と比べたら我慢すべきだという言い分も理解できる。

 

しかし、美琴は知ってしまった。自分のクローンである『妹達(シスターズ)』、その一人一人がまるで人間のように笑うということを。彼女らに命が無いのだとしても、それでも『生きている』のだということを。

一緒に過ごした時間は短いけれど、美琴は妹達のことを作り物の機械として見ることは出来なくなっていた。

 

美琴の脳裏には三日前の夜の光景が浮かぶ。

計画のことを知って現場に駆けつけたが間に合わず、自分が渡したゲコ太バッジを大切に抱えたまま廃列車に潰されていった妹のこと。そして罪悪感を微塵も抱かず、『絶対的なチカラを手にするため』なんて理由で、まるでゴミのようにあの子を殺した悪魔のこと。

 

(あんな馬鹿げた実験が許されていいわけがない。もう二度と、あの子達を死なせるものか……!!!)

 

妹達の姉として、そして幼少期にDNAマップを提供してしまった贖罪として。自分はこの計画を、命を賭してでも終わらせなければならない。

そう決意した美琴は実験を行っている研究所を片っ端から破壊し、二十を超える研究施設を三日で残り一つまで機能停止させた。

 

いくら超能力者の美琴とはいえ、ほとんど不眠不休の上に昨日は訳の分からない能力者の女三人と戦ったため身体はボロボロである。

それでも、ここを破壊すれば実験は停止する。少なくとも当分の間は頓挫するはずだ、という希望を頼りに、直ぐにでも倒れそうな体を動かしていた。

 

(それにしても……おかしい。電子機器の類はほとんど機能していないし、人の気配が全くしない)

 

そんな美琴の希望と覚悟とは裏腹に、Sプロセッサ社脳神経応用分析所は実に閑散としていた。まるで実験の継続を諦めて撤退した後のような……。

 

(いや、油断するな。罠の可能性も十分にある。もしくはこの施設ごと私を爆破する算段とか。まぁそれで計画がご破産になるなら良いんだけど)

 

美琴は一切油断せずに進む。そしてついにモニタールームへと足を踏み入れ……

 

そして、『その男』と邂逅した。

 

「初めまして。待っていましたよ、美琴」

 

その男はI字の縦線が入った仮面で顔を覆い、全身に余すことなく黒い武装で固めていた。黒いシルエットに映える白い笛は、よく見ると人間の手のようで気味が悪い。I字の仮面から漏れ出る紫の光は、見た者の根源的な恐怖を誘う。

 

不吉。不可解。不気味。

美琴がその男を見た印象はまさしくそれだった。

 

「……死にたくなかったら、そのいかつい装備を外して両手を上にあげて。言う通りにしたら殺さないであげる」

 

少しでも気を抜いたら震えそうになる声と身体をなんとか抑えて、コインを構えながら脅す。

 

美琴はなぜ自分がこの男に怯えているのか、全く分からなかった。

たしかに不気味な仮面だったり、黒に統一された武装は普通の人間なら恐怖の対象になるだろう。

しかし美琴は超能力者だ。生半可な武装は意味をなさないし、何よりこの男から強者の気配もしない。対峙しただけで、一方通行や昨日戦ったビーム女の方がよっぽど強いということは理解できた。今自分が指を弾けばそれだけで終わる。美琴にはその確信があった。

 

だというのに、彼女は目の前の男への恐怖心を抑えるので精一杯であった。強さとか弱さとかそういう話ではなく、この男の存在自体に恐怖しているのだ。

まるで『得体の知れない何かが仮面をつけてヒトのふりをしている』。そんな化け物と対峙しているような違和感。

 

「おやおやおや、これは手厳しい。まあしかし、美琴にも積もる話があるでしょう。どうか一旦矛を収めて下さい。私も『妹達』の保護者として、前から美琴とは一度お話ししたいと思っていたのですよ」

「……待って、あの子達の保護者って言った? アンタ、もしかしてッ!」

「おやおや、流石美琴。気づくのが早いですね。ええ、さっきの私の言葉通りです。彼女達とは毎日楽しく『遊ばせて』もらっていますよ」

 

男の仮面の光が一層不気味に光った。

その瞬間、美琴は自分の中で何かが切れたのを感じた。

 

「アアアアアアああああああああアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

美琴は構えていたコインに、全霊の力を込めて電流を放射した。

モニタールームどころか視界の全てを焼き尽くす光が覆う。街への被害も小さくはないだろう。しかし今の美琴にそんなことを考慮する余裕はなかった。

 

(こいつがッ! こいつのせいであの子達はッ!!!)

 

自分の妹の命をゴミのように弄ぶ最低の人間が目の前にいる。決して許せるはずがなかった。

彼女の全霊をかけた超電磁砲は男に直撃し、研究所の壁ごと貫いた。

 

「はァ、はァ……!」

 

白く無機質な床に不気味な仮面がカランと音を立てて落ちる。モニタールームの壁は破壊され、青空が視界に映り込む。幸い前方に建物はなく被害は大きくなかったが、彼女がそれを安堵することはなかった。

 

「ぅ……お゛ええっ……!!」

 

美琴は、初めて自分の手で人を殺した感覚に怯えていた。

 

手が震える。頭が痛い。震える手で口を抑えるも、堪えきれなくなった吐き気が決壊した。

ここ数日ろくにものを食べていなかったのがせめてもの救いであった。

 

いくら悪人であったとはいえ、いくら正常な判断ができなかったとはいえ、自分の意思で人間を直接殺してしまった。

規格外の力を持ってはいるが健全に育ってきた美琴にとって、人を殺すという経験は耐え難いものだった。

 

内臓がひっくり返ったような不快感の中、しかし彼女には少しの達成感があった。

 

(全ての施設を壊して首謀者を殺した。もうこれであの子達が理不尽に死ぬことはない。私がこれからどうなるのか何も分からないけど、後悔はない。ああでも、黒子に心配かけちゃうのは心残りか)

 

連日の疲労がたたったのか、最後に同居人のことを思いながらまぶたが落ちそうになる。

 

 

……その時、美琴は足音を聞いた。

 

その足音の主はモニタールームの入り口から等間隔で近づき、そして仮面をひょいと持ち上げた。顔を上げることすら出来ない美琴は、それが誰なのか確かめることもなく意識を手放そうとした。

 

直後、疲労も達成感も不快感も消しとばす衝撃が彼女の脳を揺さぶった。

 

 

「素晴らしい。素晴らしい素晴らしいっ……!!! 美琴、貴方は本当に素晴らしい。『超電磁砲(レールガン)』、まさかこれほどまでの威力とは。ぜひその体、欲しい」

 

その声が鼓膜に届いた時、美琴は反射的に飛び起きた。

彼女の目の前には全身を黒い武装で包み、不気味な縦線仮面をつけた男が立っている。さっき消し飛ばしたのと寸分違わず、同じ場所で。

 

(なんで生きている? 完全に消し飛ばしたはずなのに! 能力はさっきので限界。まずい、このままじゃ計画は止まらないッ。なんとかしなきゃいけないってのに!)

 

おぼろ気な頭で打開策を考えるも、既に限界を越えた体は立っているのもやっとだ。それでも美琴は屹然と立ち、男を睨み付ける。

 

「しかし、ここで連れ去ってしまうとおそらく計画(プラン)は修正不能になってしまうでしょう。美琴はぜひ欲しいところですが、ここは我慢するべきなのでしょうね」

 

何を言っているのか分からないが、考え事をしているなら好都合。

そう考えた美琴は能力の使えないボロボロの体を無理やり動かし、男の顔へ蹴りを繰り出した。

 

「ッぐ、アアアアアア!!!!!!」

「そんなボロボロになってまで立ち向かってくるとは、美琴は可愛いですね。しかし、実に口惜しいですが今日のところは眠ってもらいましょう。……『呪い針(シェイカー)』」

 

美琴の渾身の蹴りを最小限の動きでかわしながら男がそう呟くと、手の甲から美琴へ向けて針が発射された。

 

「があっ! ぁ……」

「少量ですが魔力の入った針です。数時間は体を動かすことも出来ないでしょう。その間にしっかり休んでくださいね」

 

針が刺さった場所を中心に、体中の血液が逆流したり加速するような感覚が美琴を襲う。彼女は指一本動かせずに崩れ落ちた。

 

「さっきは拒否されてしまいましたが、また今度『妹達』も含めて家族で団欒したいものですね。ああ、今から楽しみです」

「アンタはッ、絶対に許さない……!」

 

倒れ伏した美琴の頭を優しく撫でる男を、思い切り睨みつける。しかし男は全く動じず、むしろ嬉しそうにこう言った。

 

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」

 

 立ち上がった仮面の男は両手を広げ、その偉大なる名を少女に告げた。

 

 

「私はボンドルド。奈落の科学者。『黎明卿』、と人は呼びます」

「アン……タが、あの……!?」

 

 美琴が最後に聞いたのは、知らぬ人などいない世界的科学者の名であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。