とある黎明の縦線仮面(ボンドルド)   作:イチカワヒナナテスカトリ

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かれこれ一年半くらいとあるもメアビも読めてないかも


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「……ということが昨日あったのですよ」

「うわぁ。それ、お姉様トラウマになったんじゃないですか? と、ミサカは内心のドン引きを隠し切れずに呟きます」

「全くです。ただでさえパパは変な仮面被ってるんですから、あまり気味の悪い行動はしないほうが良いですよ。と、ミサカは華麗にメテオを決めながら忠告します」

「まぁパパの不気味さは気をつけた程度でどうにかなるものでもありませんけどね。と、ミサカは思い切り台パンして、ドヤ顔でこっちを見てくる10532号に殴りかかりながら言います」

「ほう、今の空下は素晴らしいですね……」

「……いつも思うんだけど、この人らって本当にマッドサイエンティストと実験動物なの? ただの仲良い親子にしか見えなくない?」

「……奇遇ですね。私も同じこと考えてました」

 

欠陥電気(レディオノイズ)実験施設。その一室に三人の妹達(シスターズ)と女科学者二人、そしてボンドルドがいた。

ボンドルドと妹達は、今日も今日とて日本が誇る対人アクションゲームのスマフラで遊んでいた。ちなみにボンドルドの順位は最下位である。

 

「いやあ、君たちも強くなりましたね。私では勝てなくなってしまいました」

「でもパパ、持ちキャラ使ってないじゃないですか。と、ミサカは訝しみます」

「学者キャラのイメージを崩したくなくてドクマリ使ってはいるものの、本当はゴリラ使いということは把握済みですよ。と、ミサカは以前5435号が半泣きになりながらボコボコにされた時のデータを思い出します」

「本気じゃないパパに勝っても嬉しくありません。次はゴリラを使ってください。と、ミサカは殴りかかってきた12648号を返り討ちにしながら宣戦布告します」

「……ゴリラを使って彼女を倒して以来、数日間遊んでくれなくなったので封印していたのですが……良いのですね?」

 

ゴゴゴゴゴ、と謎の迫力を醸し出すボンドルド。彼が冷静な学者気質なのも間違いないが、彼の本質はあくなき探究心と、気になったことがあればすぐに行動するアグレッシブさにある。そしてその性質はスマフラにも当てはまることだった。

しかし妹達だって負けていない。今も三人が戦っている間に、他の約一万人のミサカがボンドルドの動きを分析し、最適な戦い方をミサカネットワークをフルに用いて算出しているのだ。

ちなみにスマフラに容量を割かれたせいでいくつもの実験の演算が停止し、現在学園都市中の学者は頭を抱えていたりするのだが、彼女らにとっては関係ないことである。

 

「舐められたものですね。と、ミサカは怒りをあらわにします」

「パパもさっき言った通りミサカは日々成長して強くなっているのです。負けるはずがありません。と、ミサカはメラメラと闘志を燃やします」

「なんなら大切にとっておいたデザートのプリンを賭けてもいいですよ。と、ミサカはここぞとばかりに煽ります」

 

自信満々に畳み掛ける妹達。しかしその闘志を一身に受けるボンドルドはやれやれと首を横にふり、コントローラーを握り直した。そして彼の持ちキャラにカーソルを合わせると、不気味に仮面を光らせた。

 

「おやおや、仕方ありませんね。では始めましょうか。……なるべく耐えてくださいね?」

 

数分後、その部屋には目のハイライトが消えて茫然自失とした三人のクローンが転がっていたらしい。

 

 

…………

 

「はぁ、まさか記憶喪失だなんて。度し難いこともあるもんだなぁ……」

 

とあるツンツン頭の少年は、実に度し難い己の境遇にため息をついていた。

 

少年、上条当麻は不幸体質である。

これまでの人生では一週間に一回はタンスに足の小指をぶつけたり、期日ギリギリの課題が突然の強風に飛ばされて川に落ちたり、電子生徒手帳を踏んづけて壊したりと、神に嫌われてるとしか思えない不幸に見舞われていた、らしい。

『らしい』というのは、これらが人づてに聞いたことだからであり、それこそが現在直面している彼の人生の最大の不幸に関係している。

 

(まさか魔術とかいうオカルトのいざこざに巻き込まれて記憶喪失になるとは。上条サンもこれにはやれやれって感じですぜぃ……)

 

そう、現在上条当麻はこれまで生きてきた記憶の全てを失っているのだ。

彼が記憶を失う一連の騒動は、とてもこの学園都市で起こったとは思えない珍妙なオカルト、すなわち魔術が深く関係している。

 

上条当麻はれっきとした無能力者だ。しかし、彼には一つの特別な力があった。

幻想殺し(イマジンブレイカー)』。

それは魔術、超能力関係なくあらゆる異能を打ち消す能力である。これまでの彼の人生でこの能力が役に立ったことなんて数える程度しかなかったが、記憶喪失事件の際には大活躍だった。

 

なんでも、彼の家に住み着いている居候の少女(インデックス)を助けるために、少女にかけられていた防御術式の自動手記(ヨハネのペン)を破壊した、とのことだ。

急に魔術用語とかが出てきて自分でも訳がわからないが、一つだけ確実に言えることがある。

 

以前の『上条当麻』は、危険を顧みずに魔術師と果敢に戦い、そして自らの記憶を犠牲にしてまで一人の女の子を守った勇敢な男だったということだ。

 

(すごいよなぁ、『上条当麻』。果たして俺も同じことが出来るんだろうか……)

 

そういえばついさっき、御坂美琴と名乗る、なんだかビリビリしてる中学生に突っかかられた。

彼女曰く、記憶喪失以前の上条当麻は女子中学生相手と闘い、勝ったのだそう。美琴は自分に勝ったことを誇るべきだと言っているが、女子中学生に喧嘩で勝って誇ったりしたらそれこそ人として終わっているような気がする。『上条当麻』のことは今でも尊敬しているが、もしかしたらロリコンだったのかもしれないと思うと微妙な感じだ。

 

「というか、あの二人仲直り出来たのか? なんか複雑なご家庭なんだろうけど」

 

とりとめのない思考を中断させるために声に出してみる。

上条は美琴が押し付けていった大量の缶ジュースを持ち運びながら、御坂姉妹について思い出していた。

 

美琴とはさっきまで一緒にいたのだが、双子のようにそっくりな妹が現れてから血相を変えて、妹を連れてどこかへ行ってしまったのだ。お嬢様、瓜二つの双子、超能力者……家庭環境が複雑になりそうな要素は全部揃っている。むしろこれだけ揃っておきながら何も問題ないって事はないだろう。ビリビリも深刻そうな顔してたし。

 

とはいえ、人様の家庭事情に自分が突っ込んでどうにか出来るとも思えないし、自分に出来ることといえばあいつらの話を聞いてやるくらいだろう。

 

「……それとも元々の上条さんはこういう場面で自分から首を突っ込むタイプだったのかなぁ……ってうおぉあぁっ!?」

 

ぼんやり考え事をしていたら落ちていた野球ボールを踏んづけて転んでしまった。その拍子に運んでいた大量の缶ジュースはド派手な音を立てて散らばっていく。

 

「ううっ……。くっそぉ、俺が何したってんだよ〜〜〜!!」

 

上条は半泣きになりながら地べたに這いつくばって缶ジュースを拾い上げていた。

 

その時、不意に背後に人の気配を感じた。何故か嫌な予感がして勢いよく振り向くとそこには御坂と、その背後に不気味なデザインのI字マスクをつけた黒づくめの男が立っていた。

 

「おやおや、どうやらお困りのようですね」

「必要ならば力をお貸ししますが。と、ミサカは提案します」

 

普段なら今も見えているしましまのパンツに顔を赤くしている所だったが、今日に限っては違った。御坂の後ろに立つ黒ずくめの男から目がはなせなかったのだ。

 

異様な存在感。果たして人は纏う服装だけでこれほどまでの存在感を放つことが出来るのだろうか。いや、服装だけならこうはなるまい。もっと本質的な不気味さを上条は肌で感じていた。

 

「どうかされましたか? と、ミサカは小首を傾げます」

 

そこでようやく上条は御坂の方に目を向けた。彼女の手にはゴーグルがある。最初は気づかなかったが、どうやら彼女は妹の方のようだ。

 

「あ、あぁすまん。そんで御坂妹、そっちの人はお前の彼氏……? なんかずいぶんとその、変わったコスプレをしていらっしゃいますけど……」

 

目線を向けられた黒づくめの男は片手を胸に当てて礼儀正しく頭を下げた。

 

「こっちのヘンテコ仮面は彼氏ではなくパパです。と、ミサカはあらぬ誤解を持たれないように訂正します」

「お、お父さん……? この人が?」

「おやおやおや、ここは『君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!』と言うチャンスですか? 実は一度言ってみたかったのですよ」

「は、ははは……」

 

くつくつと肩を震わせて笑うヘンテコ仮面。意外とフレンドリーな対応に上条は拍子抜けし、自然と緊張が解けた。

 

(えー、これが御坂の親? 意外とかそんなレベルじゃなく似てないが……。いやそもそも似てる似てない以前になんなのこの仮面。聞いちゃっても良いのかしらん)

 

しかし今度は緊張と恐怖の代わりに疑問と躊躇が頭を占めた。

混乱している上条をよそに仮面の男は上条に一歩近づいた。

 

「それより、散らばってしまった缶ジュースを拾いましょう。このままでは道路交通法違反になりかねませんからね」

「ああっ、すいません。ありがとうございます」

「いえいえ、お手数はかけさせませんよ。……『月に触れる(ファーカレス)』」

 

男が呪文のような言葉を放ったと思えば、彼の体から黒い触手が地面に伸びて缶ジュースを拾いあげた。

 

「うわっ、なんだそれすげぇ!!」

「そうでしょうそうでしょう。これは最近発明したばかりの装備でして、この間の『幻想御手(レベルアッパー)事件』に触発されて作ったのですよ。AIMバーストの残骸の一部を回収、改良し、軽量化することにより利便性を……」

「ええっ、なになんの話でせうか……?」

「パパ、少年が目をぐるぐる回していますよ。と、ミサカは呆れながら忠告します」

「おやおや、これは失礼しました」

 

数分話しただけだったがすっかり上条は最初に感じた寒気の存在を忘れ、それどころか『最初は御坂とは似ても似つかないって思ったけどヤバい変人って点はにてるかもな』とすら思っていた。

仮にこの場に美琴がいたら骨も残らなかったであろう。

 

 

…………

 

「いやほんとありがとうございます。運ぶのも手伝って頂けるなんて。俺、狂犬飼ってるんで早く帰って飯をやらないと酷い目にあうんですよ」

「礼には及びませんよ。むしろ娘と仲良くして頂いてこちらがお礼したいくらいです」

「いやいやとんでもない。あ、そういや御坂妹。姉ちゃんとは仲直りできたのか?」

 

上条はさっきから気になっていたことを口に出した。思春期の女の子だから親の前で喧嘩の話はされたくないだろうけど、もしかしたらこれが何かのきっかけになるかもしれないし。

 

「いえ、そもそも喧嘩ではなくミサカが全面的に悪いのです。お姉様は正当に怒っているに過ぎません。と、ミサカは自責しながらそう言います」

「……そっか」

 

しかし、返っててきたのは少し諦めたような言葉だった。姉妹喧嘩でどちらか片方だけが悪いってことはないだろう。でも御坂妹は姉には一切非がないと言う。どうにかしてやれないものだろうか、と上条は首を捻った。

すると、今度は御坂パパからも意外な発言が飛び出してきた。

 

「そうだったのですか。実は昨日、私も美琴に嫌われてしまいまして」

「えっ、親父さんもなんですか? あいつ、こんなに良い妹と親父さんと喧嘩するなんて……。また会ったら俺から話聞いておきます」

「それは頼もしいですね。ええと」

「あ、俺上条当麻って言います」

「頼りにしていますよ。当麻」

 

そう言うと、今度は御坂妹がジトっとした目で御坂パパを見つめていた。

 

「パパ、お姉さまより先に謝る相手がいるのではありませんか? と、ミサカはあの惨劇を思い出させます」

「しかし私は忠告しましたよ? あの祝福の力には、まだあなた達の力は及んでいないと」

「あの時はたまたま調子が悪かっただけです。ミサカの完璧な作戦で負けるはずがありません。と、ミサカは再戦を申し込みます」

「あの、なんの話でせうか?」

 

上条が恐る恐る尋ねる。なにやら物騒なワードが聞こえてきたが、最近のお嬢様は親子で戦ったりするのだろうか。

 

「パパがスマフラでゴリラを使って大人気なくミサカをボコボコに殴ってくるのですよ。よよよ。と、ミサカはDVを訴えます」

「おやおや、これは困りましたね……」

 

 上条は今日一微笑ましい気持ちになった。




ボンドルド自身は魔術や能力を使うことは出来ません。体にかかる負担を軽減、あるいは『肩代わり』出来れば話は変わりますが。まあそんな便利アイテムありませんよね~
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