とある黎明の縦線仮面(ボンドルド)   作:イチカワヒナナテスカトリ

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今回は前回より少し前の話。
前回は上条対一方通行戦の裏話でしたが、今回は上条が計画を知る少し前の話です。
正直なくても問題ない話なので迷いましたが、美琴と上条のボンドルドへの印象をちゃんと書いておきたかったので挟みました


美琴の決意

 飛行船が飛んでいる。上空から一週間の天気とかいろんな情報を下々の人間に教えてくれるありがたい機械だ。私はこの飛行船が嫌いだ。

 

 目を背けるように下を見ると、人々の往来が目に映る。みんな必死に今目の前にある現実を生きている。この中の何人が、自分は機械の政策に従って動いているにすぎないと自覚しているんだろう。

 

 人工の風に吹かれながら、ポケットからコインを取り出す。今日を最後にもう二度と撃つことはないかもしれない自分の代名詞(超電磁砲)のことを思うと、少し寂しい。全てはこの能力のせいだというのに。

 

 

 私は今日、学園都市の敵になる。

 

 今から学園都市が世界最大の科学都市だと呼ばれる所以の一つである『樹形図の設計者』を改竄する。

 樹形図の設計者は世界中の大気の流れを正確に計測、演算し、秒単位で天気の変動を予測する最高峰の気象衛星……という名目で作られた、世界最大のスーパーコンピュータである。学園都市で行われる実験の予測や膨大なデータの処理はほぼ全てこの衛星で行なっている。

 もちろんそれは絶対能力進化計画も例外ではない。むしろより高度な演算が必要なため、研究者は樹形図の設計者に頼りきっているだろう。

 

 だからこそ、樹形図の設計者が改竄されたとなればその影響も非常に大きいだろう。ハッキングして「実験中に致命的なエラーが発生し、もはや一方通行がレベル6になることは不可能」だと偽の予言を吐かせてみせる。もちろん研究者は再演算を試みるだろうが、先回りしてその予言もハッキングすればいい。

 もちろんこんな小細工はすぐにバレるだろうし、もしバレたとなれば学園都市への敵対として捕らえられるだろう。

 

 それでも、私はやると決めた。イカれた実験、絶対能力進化計画を必ず止めると誓ったから。

 幼い私の間違いが惨劇を起こした。失われた一万の命、これから失われる一万の命、そしてこの実験を引き起こしてしまった愚かな自分の贖罪のために。私はどんな手を使ってでもこの実験を止めてみせよう。

 

 

 何でも解決してくれるママはいない。困った時だけ神頼みしても奇跡は起きない。泣き叫んでいたらそれを聞いて駆けつけてくれるヒーローなんていない。

 自分の手で、終わらせるしかないんだ。

 

 

(そろそろ、時間ね)

 

 ゲコ太携帯を見る。無機質な光の集合が06:38と形作っている。もう、行くべき時間だ。

 

 私が鉄橋を離れようとした時、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 

「おーい、ビリビリー」

「あン? って、アンタか」

 

 人が一大決心しているとしているというのに、何も考えてなさそうな顔をした奴がこっちを見て手を振っている。見間違うはずがない。あのツンツン頭の高校生は私の能力が何故か効かない男、上条当麻だ。

 

「私にはビリビリじゃなくて御坂美琴ってあるって言ってんでしょ? ……ま、今は気分じゃないからビリビリしないであげるわ」

「自分でビリビリ言ってんじゃん」

「なんか言った?」

「なんでもないです……」

 

 もはや挨拶の代わりみたいになった会話をする。コイツと話すのも今日が最後になってしまうのかな。そう思うと、きゅっと胸の奥が痛くなる。この痛みの理由も分からないけど、どうせ会えなくなるならそんなものは邪魔だ。

 

 私はこの痛みを無視して、笑顔を貼り付けた。これが最後になるなら、お互い笑顔の方がいいだろう。

 

「お前、妹だけじゃなくてお父さんとも喧嘩したんだってな。あの人、すごく悲しんでたぞ」

 

 割と無理して笑顔を作ったというのに、何でもないように話を切り出す上条。笑顔の方がいいと思ったばかりだというのに、なんだか腹が立ってきた。

 

 というか、お父さんと会った? それはあり得ない。

 私の父親の御坂旅掛は何やってるのかはよく分からないけど世界中を旅してしごとしている。そんな父親が学園都市にいるはずがない。

 

「は? 私のお父さんは学園都市にはいないわよ」

「お前っ……! あんな良いお父さんに何てこと言ってんだ!」

「ど、どうしたのよ急に。お、落ち着いて。私と妹は常磐台中学の寮に住んでて、そもそも親は学園都市の外にいるのよ? アンタが会えるわけない」

「でも御坂妹はパパって……」

 

 そこまで聞いて、一つだけ思い当たる節があった。

 黒ずくめの装備を見にまとった、不気味な男を思い出す。たしか、彼は自分のことを妹達の保護者と言っていなかったか?

 

「待って、もしかしてその男、黒ずくめのいかつい武装して変な仮面つけてた?」

「ああ、つけてた。でも変な見た目してるからって流石に親じゃないって言うのは……」

「クソッ、あの男ぉっ!!!!」

 

 ガンッ、と音を立てて橋の欄干を叩く。

 

 『黎明卿』新しきボンドルド。新時代を切り開いた偉大な研究者。しかし私は奴の裏の顔を知っている。

 

 世間で称賛されている側面も確かにあるのだろう。様々な研究者や開発を次々と成功させ、世界中の人々を豊かにしたのは紛れもない事実なのだから。

 しかし、奴がやっていることは紛れもない『悪』だ。何故なら、奴は既に一万もの妹達を殺し、あまつさえ楽しんでると言ったのだから。

 

 おそらく奴は絶対能力進化計画の主導者だ。いくら学園都市の闇が深いといえ、ここまで非人道的で大規模な実験が黙認されているとは考えにくい。学園都市の風紀委員も警備員も無能ではない。

 だというのに、既に一万以上のクローンが殺されている。こんな実験をそこまで続けられるということは相当なお偉いさんが主導者なのだろうと予想していたが、あのボンドルドなら納得できる。

 

 表では名声を浴びる科学者だが、裏では非道な実験の主導者。きっと、これまでもずっとそうやってきたのだろう。悪魔のような男だ。

 

 上条はそんな男と会ったのだと言う。私の周りの人を人質にでも取るつもりなのだろうか。

 あまりの下劣さに奥歯を噛み締める。

 

「ど、どうしたんだよビリビリ」

「アンタ! あいつに何かされなかった!?」

「お前が置いていった大量の缶ジュースを落とした時に一緒に拾ってくれて、家まで持ってきてくれただけだぞ」

「ほんと? なんか針とか打たれたりしなかった?」

「変な触手なら出してたけどそれで缶ジュース拾ってくれたし、針は打たれなかったぞ」

「そう、なら、よかった」

 

 きっと人質にする人間を選んでいたのだろう。上条は運良く選ばれなかったのだ。

 しかしこれで急がなければならない理由がひとつ増えた。黒子達に被害が及ぶ前に何としても終わらせなければいけない。

 

「なぁ御坂、あの人は本当にお前のお父さんじゃないんだな?」

「ええ、あの男とは血縁関係も何もないわ。もちろん妹もあの男の娘ではないわよ」

「なるほどな、ようやくわかったぜ。お前らの複雑な家庭環境のことがな……」

 

 合点がいったという感じで手を叩く上条。

 ……なんだか物凄い不名誉な勘違いをされている気がする。

 

「……一応聞いてあげるけど、どんなこと想像してる?」

 

 そう言うと、上条は自信満々に答えた。

 

「御坂妹がパパって呼んでた人は御坂妹の援交相手なんだ。そしてお前は大事な妹が援交なんかに手を染めてることを知って二人に対して怒っている。どうだ、上条さんの完璧な名推理は!」

「全ッ然違うわよこのバカ!!!」

 

 あまりにも酷い推理につい大声で突っ込んでしまった。怒りついでにビリビリも出てしまう。上条はあぶねーとか言ってるが、今回ばかりは私は悪くないはずだ。

 

「え、マジ? 違うのか? 自信あったんだけどなぁ」

「違うわよ! つーかアンタにはデリカシーってもんがないわけ? うら若き乙女を前にして、その、え、えん、援交なんてっ! そんなこと、よくおくびもなく言えるわね!」

 

 自分でも顔が真っ赤になっているのがわかる。こんな風に感情を表したのはいつぶりだろう。いつの間にか、貼り付けの笑顔はなくなっていて、なんだかそれがおかしくて笑えてくる。

 

 やっぱりコイツといると楽しい。そう再認識すると同時に、これ以上話していると決意が揺らいでしまいそうな気がした。

 

 私はもたれていた欄干を突き放し、「これじゃないとしたら、一体何なんだ?」とか馬鹿みたいに悩んでる上条を見てわざとらしくため息をついた。

 

「……はぁぁ、アンタと話してたら色々悩んでたのが馬鹿みたいに思えてきたわ。じゃあね、気をつけて帰るのよ」

「あ、ああ」

 

 背を向けた私の耳に、飛行船の合成音声が聞こえてくる。

 

『午後は15時10分から50分まで、にわか雨が降りますのでこの間は洗濯物を干すのを避け、外出する際は傘をご用意ください』

 

「おーい御坂ー、雨降るんだってよー。傘持ってっかー?」

「私、あの飛行船嫌いなのよね」

「あん? なんでだよ」

「……機械が決めた政策に人間が従ってるからよ」

 

 樹形図の設計者を改竄し、二度と再開できないようにぶっ壊す。私は改めて決意を固めた。

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