とある黎明の縦線仮面(ボンドルド)   作:イチカワヒナナテスカトリ

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終わりと始まり

 

 何度打ちのめされようと、上条は立ち上がった。

 もう体力はほとんど残っていない。それでも、上条は己の拳を硬く握りしめた。

 

「歯ぁ食いしばれ最強(最弱)。俺の最弱(最強)は、ちっとばっか響くぞ」

 

 最弱(上条)の拳が最強(一方通行)の顔面に突き刺さる。

 ゴキャッ、と殴られた顔面から音を立てて一方通行が宙を飛び廃線路に落ちた。それを最後に一方通行が起き上がってくることはなかった。

 

 無能力者が学園都市最強の超能力者を倒した。これは計画に関わる全ての研究者にとって、致命的な狂いであった。

 そもそも絶対能力進化計画は一方通行が学園都市最強だからこそ成り立つ計画。多少の相性があったとしても、一方通行が学園都市で最も強い前提で計算されていた。しかし、今無能力者に負けたことによってその前提が根本から崩れ去った。

 

 再び樹形図の設計者によって予測出来るが今回の件がイレギュラーかどうか確かめることができるが、残念ながら樹形図の設計者は何者かによって破壊されているので不可能だ。樹形図の設計者による再計算ができない以上、この計画が成功すると言う保証が無い。そんな状態で続けても悪戯に資金を消費するだけと判断した研究者たちは次々と手を引いた。

 

 文字通り、一人の無能力者が学園都市の闇を打ち破ったのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

 私は、目の前で起こった出来事を信じられなかった。

 

「うそ、ほんとに勝っちゃった」

 

 足元には力を使い果たした上条が倒れている。そして彼の奥には気絶した学園都市最強が倒れていた。

 

 私が挑んだ時は全く勝てるビジョンが見えなかった。出せる最大火力の超電磁砲を放っても傷一つつかない一方通行を見て、絶望した時のことはよく覚えている。

 そんな化け物を相手にして、このツンツン頭の男は勝ったんだ。それも、自分と妹のために……。

 

『泣き叫んでいたらそれを聞いて駆けつけてくれるヒーローなんていない』

 

 そう思っていた。誰かが無条件に手を差し出して助けてくれるなんてあり得ないと思っていた。でも、このお人好しは駆けつけてくれた。その姿は間違いなくヒーローであった。

 

 倒れている上条に駆け寄る。自分と比べて二回りほど大きい角ばった手に触れた。この拳で私のために戦ってくれたのだと思うと、なんだか胸の奥から暖かい感じが込み上がってくる。

 

 

 

「おやおや、一足間に合いませんでしたか。実に惜しいことをしました」

 

 その瞬間、上条の脈拍を確認して安心し切っていた私の耳に低く不穏な声が響いた。

 

 バッと後ろを振り向くと、夜の闇にその姿を同化させた男が拍手しながら歩いてくるのが見える。

 

 黎明卿、ボンドルド。

 この実験の首謀者だ。以前、最後の研究施設で確かに超電磁砲に貫かれて死んだはずなのに、何食わぬ顔で再び現れた狂人。闇に映える紫の縦線の奥では一体何を考えているのだろう。

 

 上条が一方通行を倒したことで実験は終わったはずだ。この男に出来ることは何もない。そうわかっているはずなのに、冷や汗が止まらない。

 

「何をしに来たの、答えなさいボンドルド!!」

「……パパ?」

「当麻が娘のために戦っていると聞いてね。彼の友人、そして妹達(シスターズ)の保護者として応援しに来たのですよ」

 

 返ってきたのは明らかに嘘とわかる言葉だった。あのボンドルドがなんの意味もなくこの場に現れる訳がない。何か思惑があるはずだ。

 答えないと言うのなら、こちらが取る手段は一つだけ。

 

 私は能力を使い地面から砂鉄を取り出した。ボンドルドを囲むように現れた砂鉄のチェーンソーは、その気になればすぐにでもボンドルドを無力化できる。

 

「何が目的かは知らないけど、私はアンタの思惑に乗るつもりはない。悪いけど黙っててもらうわよ」

「やめて下さいお姉様。と、ミサカは慌てて能力の中断を要求します」

 

 慌てたように妹が止めるように抱きついてくる。今まさにボンドルドに攻撃しようとしていた私はその言葉に困惑する。

 

「やめろってアンタ、こいつが主導してる限りいつ何かの形で実験が再開されてもおかしくないのよ!?」

「お姉様、パパは絶対能力進化計画の主導者ではありません。パパは、製造されて数日で殺される運命のミサカ達に色々なものを教えてくれた自慢の父親です。と、誤解を解こうと試みます」

「……えぇっ?」

 

 思わず、間抜けな声が漏れてしまう。ボンドルドが実験の主導者ではなく、妹達の世話をしてくれた父親? そんなわけないはずだ。

 これまでずっと親の仇のように思っていた相手が本当は悪人じゃなかったなんて、急に言われて信じられる話ではない。

 

 しかし一旦冷静に思い返してみると、確かにボンドルドは実験に関係しているなんて一言も言っていない。むしろ以前会った時も友好的に接していたような……

 

 

 もしかしたら、私は取り返しのつかない勘違いをしていたのかもしれない。

 もしこの子の言っていることが正しいとしたら、私は妹達の恩人にとんでもない暴言を言って、それだけでなく人が死ぬ威力で超電磁砲まで撃っしまったことになる。

 

 先ほどの比ではない量の冷や汗が背筋を伝う。

 

「え、嘘……」

「マジです。と、ミサカは再度伝えます」

 

 真顔で(いつも真顔だが)そう言ってくる妹。真っ直ぐ見つめてくる瞳は嘘を言っているようにも、操られているようにと見えない。

 

 私は助けを求めるようにボンドルドを見上げた。

 

「ええ、マジですよ」

「じゃああの時『遊ばせてもらってる』って言ったのは……?」

「ここ最近はスマフラで遊んでいましたね」

「結局ゴリラには勝てませんでしたけどまだ諦めていません。と、ミサカは不屈の意思をあらわにします」

「あの研究所に一人でいたのは……?」

「美琴が来ると聞いて一般の研究者に怪我させるわけにはいきませんから、皆さんには避難して頂きました。私は妹達の保護者として、ぜひ一度オリジナルとも話してみたかったので無理を言って残らせてもらったんですよ」

 

 聞けば聞くほどボンドルドの言うことが正しいような気がしてくる。現にこの子は完全に信頼したような目でボンドルドを見ている。自分や上条より信頼しているような顔だ。

 

 その顔を見た瞬間、自分が間違っていたことを理解した。

 

 

「本ッッッ当にすいませんでしたッッッッッッッッ!!!!!」

 

 私はかつてないほどのスピードで土下座を決め込んだ。もしここに土下座評論家がいたら、思わず感激して涙を流すほどのパーフェクトな土下座である。

 

「おやおや、顔をあげてください美琴。たかだか残機が一つ減っただけです。私は気にしていませんよ」

「いえ、私が許せないんです! 妹達をもう一人として殺させないと誓った私が、ボンドルドさんのスペアを殺してしまったことを許すなんて絶対してはならないんです!」

「お姉様……」

 

 私は側からみれば一万人も替えのいる単価にして18万円のクローンのために必死に戦ってきた。

 でも、私は彼女達のことをそんな無機質な機械だなんて全く思わない。仮に18万円で作られるクローンだったとしても、妹達は一人一人が笑ったり悲しんだりする一人の『人間』だった。そう思ったから、何を犠牲にしてでも助けようと思ったのだ。

 

 原理は分からないが、ボンドルドにも残機と呼ばれる代わりがいるのだと言う。私が超電磁砲で消しとばしてしまったのはその一人なのだろう。妹達のようにクローンなのかもしれないし、或いは自身を分裂させたりしているのかもしれない。

 しかしいずれにせよ彼らも妹達や私達と変わらない、一人の『人間』だ。仮にボンドルド本人が許しても、私が私を許すことだけは絶対にあってはならない。

 

 一向に頭を上げようとしない私を見たボンドルドは、少し考えたのちに名案を思いついた、といった感じで言った。

 

「……なるほど、それでは美琴には一つお願いを聞いてもらいましょう」

「パパ、女子中学生に一体どんなことさせる気ですか。と、ミサカはジト目で睨みつけます」

 

 世界的科学者からのお願いだ。おそらく人体実験で、それはきっと生易しいものでないだろう。これまで色んな研究や審査をされてきたが、それらより体の負担が大きいことも覚悟しておいた方がいいだろう。

 

「少し私の研究を手伝ってくれませんか。美琴の超電磁砲の仕組みを詳しく解析したいのです。新たな発見があればもちろん美琴にも共有します。どうでしょう、悪い話ではないと思いますが」

「そんなことでいいんですか?」

「ええ、もちろんですよ。私は長年科学者をやっていますが、レベル5の研究に関与したことはあまり多くはありません。なのでむしろお願いするのは私の方です。ですからどうか、立ち上がってください」

 

 それに解剖したい対象はさっき手に入れましたしね、とよく分からないことをつけ足すボンドルド。

 

 自ら研究に身を差し出すなんて昔の過ちを繰り返すつもりか、と自分の声が聞こえる。過去、私は筋ジストロフィーを治すためと騙って私のDNAマップを手に入れた学者にDNAマップを解析され、結果として絶対能力進化計画が起こってしまった。

 また同じことを繰り返すのか、と思わなくはない。でも、今はボンドルドを信頼しようと思う。きっと彼なら、人の未来のために使ってくれるはずだ。

 

「パパ、もし良ければお姉様も加えてスマフラしませんか? と、ミサカは妙案を提案します」

「ほう、それはいいですね。私たちはもう家族なのですから。……どうしました、美琴?」

 

 顔もちの優れない私を気にしたボンドルドが聞いてくる。

 二人は私が思っているよりずっと多くの時間を過ごしてきたのだろう。彼女達が生まれてきて一年と経っていないはずなのに、普通の親子だと言われても違和感がない。そんな関係が羨ましく思った。

 

「DNAマップを提供しただけの私が家族になって良いのかな、って。二人を見てたら思えてきて……」

「美琴、家族に必要なものとはなんだと思いますか?」

「血縁、とか?」

「いえ、そうではありません」

 

 ゆっくり歩いてきたボンドルドは、私と妹の頭を優しく撫でながら言った。

 

「愛です。愛ですよ美琴。慈しみ合う心が家族たらしめるのです。血はその助けに過ぎません。現にあなた達はお互い慈しみ合っている。それを家族と言わずしてなんと言うのでしょう」

「パパ……」

「ありがとう、ボンドルドさん」

 

 頭を撫でられているというのに全く不快感はない。幼い頃からあまり父親と接して来なかったからか、むしろ大きな手で撫でられると温かい気持ちになってくる。

 

 そっか、私と妹達は家族って言って良いんだ。そう思うと、ずっと肩に乗っていた重いものがなくなったような感覚になった。

 

 これまであの子達のことを妹と呼びながらも、どこか引っ掛かりがあった。面と向かって話していても、本当は自分たちを産んだ私の事を恨んでいるのではないかと不安だったのだ。

 でも今回の件とボンドルドのおかげで、お互い信頼し合っていることが分かった。彼の言葉を借りると、愛し合っていると言うのだろう。

 

「改めてこれからよろしく、ボンドルドさん」

「ええ、こちらこそ」

 

 お互い手を差し出し、硬く握手する。

 これからも長く続く、私たちの奇妙な絆が生まれた瞬間であった。

 

「良い雰囲気なところ申し訳ないのですが、そろそろ少年を病院に送った方がいいのでは? と、ミサカは読者の気持ちを代弁します」

「あ」

 

 完全に忘れていて焦ったが、ボンドルドがここに来る前に救急車を呼んでいたらしい。

 ヒーロー(上条)はリアルゲコ太先生の病院に送られ、ボンドルドは別れの挨拶をして帰っていった。

 私はこの日のことを一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、一方通行はどこへ行ったのでしょう。と、ミサカは素朴な疑問を抱きます」




妹達編もうちょいで終わりということで補足説明

量産能力者計画と絶対能力進化計画の概要は原作と何も変わっていません。天井が妹達を作り出したので本当のパパは天井です。ボンドルドが関与したのは、表向きは資金援助している計画の視察。そして本来の目的はアレイスターの計画に必須であるミサカネットワークに興味を持ったのと、あわよくば一人くらい被験体にしたいなといったものでした。

ボンドルドは他の科学者達の研究を資金援助し、その代わりその研究で判明した事実を知らせるような体制を取っています。そのため、木原一族のように学園都市の中核を担う科学者ではないのに、学園都市随一の影響力を持っています。
妹達との関係ですが、原作では一方通行戦後、冥土返しが彼女達の保護者となっています。本作ではその立場に、一方通行戦前からボンドルドがいる形となっています。

まだ色々設定はありますがあまり長いのもアレなので今回はここまで
面白ければぜひ評価して頂けると嬉しいです!
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