バカが魔法少女になった話   作:わらしべいべー

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 天啓が降ったから書いた。




ほんへ
プロローグっぽい何か


 

 

 

 

「突然だけど君は魔法少女になった」

 

 

 その生物は淡々と事実を告げた。その生物は人間ではなかった。白い猫のような、イタチのような、見た事もない生物。猫のような耳から垂れた手にも見える毛。愛くるしさを感じるビー玉のような瞳、そしてさも当然かのように口角を動かさず人の言葉をさらさらと喋る知能。

 その姿は女の知っているどの生き物とも当てはまらなかった。

 

「何の因果か、君は偶然僕らの技術によってその魂をサルベージさせられた。どうやら元は男みたいだね。でも大丈夫だよ、今の君は魔法少女として十分に運用できる身体になっている」

 

 生物は白い尻尾を靡かせて四足歩行でスタスタと近づいてくる。その足取りは犬猫のそれと同じもののはずなのにどこか不気味さを感じる。きっと理解ができない得体の知れなさ故だろう。

 キュウベェの目の前にいる女は呆然としながらもそれを黙々と聞いている。

 

 

「僕の名前はキュウベェ、君の観察者さ」

 

「とりあえず動物病院行け」

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 突然だが人は死んだらその魂はどこに行くだろうか。あの世か、冥界か、それともそのまま消え去るか。

 

 因みに俺っちは前まで死んだら地獄に行くと思っていた。というより人間死んだら大体地獄行きだと思う。だって虫一匹致しただけでもれなく屈強な鬼いさんに釜湯や剣山に連れて行かれるのだ。虫を一匹も殺って無い人間なんている?その理論でいくと殺虫スプレーやゴ●ジェットを開発した人は極刑ものだ。地獄は常に満員、ブラック企業もビックリである。話が逸れたが、結局のところ何が言いたいのか。

 

 端的に言うと死んで目が覚めたら女になってた。凄いね、人って死んだら性転換するんだ。

 

 待って待ってぇ!帰らないで!嘘じゃないよ!本当なんだよ!

 ぽっくり逝っちゃった思って目が覚めたら目の前には豊満な胸が自分から生えてたんだよ!アルものがナイんだよ!

 生まれ変わるにしても早すぎだろ!輪廻がハムスターのカラカラ回るアレ並みに仕事してるよ!

 

 いや大丈夫。これにはちゃんとした理由があるのだ。

 まず俺っちという人間は死んだ。これは間違いない。しかし訳あって魂だけが見も知らぬ少女の中にパイルダーオンしてしまったのだ。

 つまり俺っちは生まれ変わったのではなく見ず知らずの少女の身体を借りパクしている状況になっているのだ。事実が生まれ変わったってことよりも悪化しているのは置いといて、それよりも更に頭を悩ませる問題が一つある。

 

 

 なんとこの少女は魔法少女だったらしい。

 

 

 ???????

 

 

 ちょっと何言ってるのか分かんない…。いや何魔法少女って!?随分夢がありそうなネーミングだなおい!

 曰く魔法とか言う不思議パワーで魔女とかいう敵から世界を守る存在だとか。ふ、ふーん、まぁ、カッコいいと思わないこともないかな!

 

 しかしこの魔法少女。話を聞くに中々えげつないのだ。

 

 一つ、魔法少女は魔女退治が生業。勿論命懸け。

 二つ、魔法少女はソウルジェムという石ころが本体でそれを壊されると死亡。

 三つ、魔法少女は魔女の落とすグリーフシードという回復アイテムがないと死んじゃう。

 

 という感じ。いやめっちや危険やん。明らか歳半ばいかぬ少女にやらせるものでは無い件について!

 

 この魔法少女、キュウベェという白いイタチの手によって量産されてるらしく、なんでも願いを叶えることを条件に魔法少女にするんだとか。…俺っち叶えてもらってないけれど。

 

 とりあえずそれは後で直談判するとして、このキュウベェこそが俺っちをこんな身体にした張本人なのだ。

 最初会った時は度肝抜かれたわ。凄いね、最近のイタチって喋るんだ。知らなかった…。というかそれ以前に幼女勧誘とか完全にロリコンじゃん。それからこいつのことはロリコンと呼ぶと決めた。

 

 話を聞くに実はこの身体の少女は魔女退治中に殉職しかけたらしく、それをキュウベェが助けるために魔法少女の魂であるソウルジェムに俺っちの魂を縛り付けたのだらしい。

 最近のイタチってなんでもできるんだね…。お兄さんもうついていけないよ。

 

 その証拠にソウルジェムにはよく見るとヒビが見えるし、白い包帯みたいなのも巻かれている。ちなみにこの包帯が俺っちらしい。俺っちもついにメディカルデビューか!全然嬉しく無いけど。

 その結果縛りつけた俺っちの人格が表に出てきてしまって、今の状況になっているというわけだ。

 

 そんなわけで俺っちは女としての生活を余儀なくされたというわけだ。

 ロリコン曰く、一応この身体の持ち主は生きているらしいく、今は俺っちの魂が定着したばかりなのでまだ目は覚めない様だ。

 俺っちの魂がソウルジェムに馴染んでいけばその内目覚めるらしい。

 

 この身体ではソウルジェムへの魂の定着率とやらが大きく関係してるらしく、戦闘や魔法の行使もこれに関わる。最初は魔法少女の姿に変身すらできなかったものである。

 今は変身できるし、一応戦闘もできるけどそれでもクソ弱い。他の魔法少女の足元にも及ばないことだろう。ぶっちゃけショッカー戦闘員とかの方が強いと思う。

 

 そんなこんなで今はこの身体を元の持ち主に返すために魔女退治ハードモードで過ごしているというわけだ。

 持ち主がいるならちゃんと返してあげないとだ。俺っち、落ちてる財布は交番に届ける派なのだ。

 

 能力値クソ雑魚!生活難易度LUNATIC!

 生きるか死ぬかのボーダラインで反復横跳びかましてやろうかホトトギス!

 見た目は少女!中身は男!

 その名もマジカル☆魔法少女(男) 雪野だいり!

 

 無限の彼方へさぁ、行くぞー!

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

「さっさと起きろなのですーーッ!!」

 

「ぐえぇぇぇぇ!?」

 

 

 容赦の無い踵落としが盛り上がった毛布に直撃する。部屋に潰れたヒキガエルの様な声が響いた。

 

「ぐえぇぇ………はっ!?…あれ?ユメぇ…?」

 

 突然の衝撃と身体の圧迫感でだいりは目を覚ます。重い瞼を開けると目の前には白髪の少女が自分の上に乗っかっていた。

 

「いつまで寝ぼけてるのです。もうとっくの昔に朝なのです」

 

「……おはよー、なぎっち」

 

「おはようなのです、だいり。起きたならさっさと着替えるのです」

 

「えぇ、やだぁ。休日くらい昼までぐっすり休ませてくれよ…。いつもは学校なんだし」

 

「今は夏休みだから基本はお休みだし、そもそもだいりは学校に行ってないのです!いつも起こすなぎさの気にもなれなのです!」

 

「zzz…」

 

 カチン

 

「…おーきーろーなーのーでーすーーーっ!!」

 

「あだだだだだだだだだだだだだ!!?」

 

 少女はだいりの顎を両手で持って、美しいキャメルクラッチを決める。仮に審査員がいたなら秒読みで10点のプレートが3枚挙げられていたことだろう。痛みでだいりは苦悶の声を上げる。

 

「タップタップタップぅぅぅ!!起きる起きる!起きるから離してぇ!!」

 

「最初からそうしろなのです」

 

 解放されただいりは大人しく布団から身体を出す。その様はさながら脱皮直後の芋虫だ。

 

「それじゃあ、朝ごはんの準備はもうできてるからさっさと降りてくるのです」

 

「あーい…」

 

 そう言って少女、"百江なぎさ"は階段を降りていく。彼女は訳あってこの家で1人で住んでいる。だいりはその百江家に居候している身なのだ。

 

「ふぁぁ…」

 

 欠伸をしながら着替えるためにタンスに歩いていく。ふと横にある縦長の鏡に目がいく。そこには目つきの悪い金髪の少女が写っていた。

 それは紛れもない己の現在の姿。かつて男であった頃の名残などカケラも残っていない。

 

「…ガラ悪っ」

 

 そう言ってだいりは寝癖を適当に手櫛で直しながら、タンスの中を漁って服を取り出していく。するとふと、部屋のカーテンが不自然に靡いたことに気づく。

 だいりは内心呆れの感情を滲ませる。忌々しい日光を視界から遮りながら気怠げに振り向いた。

 

「やぁおはよう、だいり。良い朝だね」

 

「おはよロリコン。俺っちの朝はボディプレスで始まって最悪だけどな」

 

 現れたのははキュウベェだ。

 真っ白な猫かイタチの様にも見えるそのフォルムはさぞかし子供受けすることだろう。

 しかしその正体はなんと宇宙人であり、この星に住む幼女を魔法少女という危険極まりない職業に仕立て上げてしまうとんでもないロリコンだ……と、だいりは思っている。

 ちなみに、なぎさもこのキュウベェに唆されて契約し、魔法少女となっている。

 

 先述の通り、キュウベェはだいりをこの身体にしてしまった張本人である。この生物はその未知の技術でだいりの魂をこの少女の身体に取り憑かせたのだ。

 だが魂の結合ということ自体キュウベェも初めての実験だったため、これから先結合した魂がどうなるかはキュウベェ自身もはっきりと分からないのだ。

 そのため、経過観察ということでキュウベェは毎朝決まった時間にだいりの下を訪れる。

 

「本当毎日よく来るよね。俺っちだったら無理だよ、こんな朝早くから」

 

「君のソウルジェムの経過観察は必要事項だからね」

 

「さいですか」

 

「それでどうだい?身体の調子は」

 

「さっぱり。なんだかんだで1ヶ月経ったけど、変身できて魔法使えるようになった以外変化なし」

 

「なるほど、でも一応魂は定着しつつあるみたいだね。気づいてないだけで魔力の出力は上がっているよ」

 

「え、ほんと?強くなった感じ全くしないんだけど…」

 

「嘘は言わないよ。だけど目にみえる様な大きな変化はまだみたいだね。何かきっかけがあれば大幅に魔力が上がることもあると思うよ」

 

「きっかけって何?」

 

「それは分からないよ。だからこそこうしてデータを取っているんだ。何せ僕も魂の結合なんて初めてしたからね。僕にも今後どうなるかは分からない。まぁ、きっかけが無くても時間が経てば自然と強くなると思うよ」

 

「そっかぁ〜」

 

 器用に足で服をつまみながら着替えているだいりは話を聞いて少し気を重くする。

 生業である魔女との戦いは命懸けだ。焦る必要はあまり無いとは言え、戦闘面に関しては殆どなぎさに頼りきりというのが現状だ。今の自分ではなぎさが楽々倒せるレベルの魔女でさえ、苦戦してしまうのだ。だいりとしても少しでもなぎさの負担を減らしたいと考えている。

 

「そういえばだいり、君はまだ働かないのかい?」

 

「ぬぐっ…」

 

「流石にそろそろ働き口の一つは持たないとまずいんじゃ無いのかな?」

 

「仕方ないだろ!なんかうまく行かないんだよ…」

 

 先ほども言った通りこの家はだいりとなぎさの2人だけで暮らしている。

 お金に関してはなぎさ曰く今のところ問題ない様だが、だからと言って学校も行っていないだいりが何もしないというわけには行かなかった。

 

「そう言ってもう二週間は経っているよ。このまま百江なぎさに頼り切るつもりかい?」

 

「しゃーないだろ!なんでか知らないけど直ぐクビになるんだよ!2日持ったことないわ!」

 

「それは君の自業自得だろう?」

 

 どういう訳かだいりはバイトが長続きしない。

 本人にやる気がないわけでは無い。むしろ積極的にするタイプだ。しかしその好奇心旺盛な性格がとトラブルメイカーな気質が祟って、悉く面倒ごとを呼び込むのだ。全部が全部故意にしているわけでは無いのだがそれでも周りから見れば相当な問題児だろう。

 直近のものだったら、アルバイト初日で機材を派手に爆発させたことが記憶に新しい。

 

 とにかくだいりはそんなこんなで大体初日でクビになる。

 余りにトラブルを起こしすぎたせいで既にここ見滝原市内でだいりはちょっとした有名人だ。おかげでバイト希望と尋ねただけで門前払いされることも珍しく無くない。まぁ、だいりに戸籍や身分を証明できるものがないのも原因の一助ではあるのだが。

 

「俺っちそろそろ朝ごはん食べてくる。いつまでもいたらなぎっちに怒られるし」

 

「またあのチーズの塊を食べにいくのかい?」

 

「……」

 

 キュウベェの言葉で今日の朝ごはんがなぎさが作るチーズ料理であることを思い出し顔を顰める。

 

 百江家の調理担当、百江なぎさは超がつくほどのチーズ好きだ。

 故になぎさの作る料理はとにかくチーズ比率が高い。というか全部チーズだ。仮にチーズトーストがあるとするならトースト0.1:チーズ99.9ぐらいだ。最早チーズである。

 

 これが毎日続くのだ。朝起きてチーズ、家に帰ってきてチーズ、お風呂前にチーズ、寝る前にチーズ、魔女との戦闘後にチーズ、ピクニックにチーズ。はっきり言って正気の沙汰では無かった。

 

 下の階からはどぎついチーズの匂いとその中にほんの少し肉の匂いがが漂ってきている。今日はチーズベーコン(99:1)だろうか。ぶっちゃけ降りたくなかった。

 

「……ロリコン」

 

「なんだい?」

 

 しかし彼女は雪野だいり。仮にもこの物語の主人公。ここで逃げる様な真似はしない。その意思を証明するかのようにキュウベェから見た彼女の目は決意で満ちている。

 バサリとチャックの下されたパーカを翻すように着て、キュウベェの無機質な瞳を決意に染まった目で真っ直ぐ見返しながらこう言った。

 

 

「人間って逃げていい時もあると思うんだよね」

 

 

 そう言うだいりの手にはいつの間にか鍔付き帽子とリュックを着用していた。この主人公、逃げる気満々である。

 

「じゃ、後は説明ヨロシク、シュワッチッ!」

 

 だいりはキュウベェの後ろにある窓からスタイリッシュに外へ飛び降りる。

 

「逃がすと思っているのです?」

 

「グェーーッ!?」

 

 しかしそうは問屋が許さない。いつの間にか背後にいたなぎさは飛び降りているだいりの服の襟を掴み、脱走を阻止する。

 そのままだいりは引っ張られ、体を部屋に戻される。

 

「降りて来るのが遅いと思ってきてみれば、朝食逃亡とは良い度胸なのです」

 

「……ふ、ふふ、違うのだなぎっち。俺っちはなぎっちの作った有り難ーい朝食を少しでも彩るためにちょっとガララワニでも獲りにいこうかなーと…」

 

「何訳のわからないことを言ってるのです。来るのが遅いからこっちから朝ごはん持ってきてやったのです。感謝しろなのですこのバカ」

 

「俺っちはバカでは無い!」

 

「全く、ほらさっさと食べるのです」

 

 そう言われてなぎさから差し出された皿とチーズベーコン。

 

 否、チーズベーコンらしきもの。本来チーズベーコンがあるべき場所には何故かぐちょぐちょと蠢いている真っ黒な物体があった。

 

「……あのー、なぎささん?見間違いじゃ無かったらここにあるのはチーズじゃなくて、チーズ(名称不能)なんだけど」

 

「調理して失敗したやつなのです。さっき同じものが爆発したから気をつけろなのです」

 

「いやせめて普通のやつ出して!?朝飯に爆発物出すとかヘビー通り越してボマーだわ!」

 

「たいして上手くないのです!ほらすぐに降りてこなかった罰なのです!甘んじて受け入れろなのです!」

 

 なぎさがだいりの口目掛けてフォークで刺した料理を迫らせる。

 

「うぉっ、あっぶね!脈打ってんぞ!生きてるのかそれ!?」

 

「避けるな!ほらさっさと食えなのです…!」

 

「あっ!ちょ、魔法は卑怯だぞ!ロリコン助けて…ってあいつ逃げやがった!え、あ、まさか本気?や、やめてそんなの食べたら死んじゃう!ぬぉぉぉぉやめ………むがっ!?」

 

 

 

 ぎょえぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?

 

 

 

 この話は色々あって魔法少女に体を借り受けてしまった男が、元の身体の持ち主が戻るまでの頑張りを記した奮闘記である。

 

 その過程で山ほど問題を起こすのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 





補足

雪野だいり:本作主人公。一般男性が卑劣なQBの魔の手によって、ある魔法少女に憑依してしまった存在。目つきは二割り増しで悪くなっている。朝にかなり弱く、同居人である百江なぎさに毎朝叩き起こされてる。ヒモである。最近の悩みはなぎさの好みで、朝昼晩全ての食事メニューにチーズがあること。そろそろ勘弁。因みに朝のアメーバチーズベーコンは意外とイケたらしい。

百江なぎさ:色々あって、魔女化の運命を乗り越えた円環じゃない方の正規魔法少女。小学5年生。現在は母親の保険金で生計を保っている。原作通りチーズが大好きで、常に自食用と布教用のチーズを持ち歩いている。

キュウベェ:ソウルジェム砕けるのって、魔女化しないからインキュベータにとって損じゃね?と言う筆者の浅ましい発想からソウルジェム蘇生の実験を行った陰獣。幼女を唆すその様から、だいりからはロリコンという大変名誉なあだ名をつけられている。

ソウルジェムの結合:キュウベェのスーパーパワーで砕けたソウルジェムを他人の魂を使って結合させるスーパー技術。壊れたガラスをボンドでくっつけてるようなものなので不安定。まだ完全に馴染んでないので、元々の魔法少女の意識は戻っていないが、一応生きてる。ソウルジェムの結合は相性の良い魂同士でないと成功率は高くない。


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