バカが魔法少女になった話   作:わらしべいべー

10 / 13
 






 半分深夜テンションで書いた。




【前回のおまけ】



 前略、だいりはネットに晒された!


「…どうするのですこれ」

「どーするも何も、やるしかないだろ…。一応稼ぎ口にはなるし。つーか凄い再生されてるなこの動画」

 アカウント名も【ぷろきしー】と、織莉子の微妙なネーミングセンスが爆発している。

「コメントもいっぱいあるのです」


※一部抜擢

『いや凄すぎw』
『これマジでヤバいわ』
『良い意味で頭おかしくなりそう』
『1日5回は聞かないと、生活できなくなりました!』
『最近これを聞かないと落ち着かないのよぉ…』
『人生の在りどころになりました』


「…もしかしてだいりの歌には洗脳効果でもあるんじゃないのです?」

「んなアホなー。そんなのが許されるのは創作の世界だけだぜ〜」


 後に、だいりの歌が原因でとんでもないトラブルが起こるのだが、それはまだ先の話である。










織莉子、死す!(大嘘)

 

 

 

 

 

 

 

 足音が3つ静かに響く。仕事用具の入ったバッグを片手にコツコツと薄暗い廊下を進んでいく。無機質な部屋の扉を幾つも横切り、唯一照明のついている部屋の前にまで来る。

 …今回は大物からの依頼だ。身だしなみや、礼儀はきっちりしなければいけない。そう思い、側にある鏡で身だしなみを整えながら気を引き締める。他の2人もかなり緊張しているようだ。

 目の前の扉を軽くノックする。

 

「…失礼します、依頼を受けたものです」

 

「入れ」

 

 そう言われ、俺たち三人は部屋の中へ入る。部屋の中は正面に机、それに対してソファーがあり、戸棚が一つと、殺風景なものだった。

 その向かい側のソファーに正装の中年男性が一人佇んでいる。両脇にはボディーガードらしき黒服も控えている。

 

「よく来てくれたな。まぁ、ひとまず三人とも座ってくれたまえ」

 

 言われるがままに向かい側のソファーに腰掛ける。

 目の前の彼は著名な政治家だ。世間に疎い俺たちですらテレビで見かけるほどの大物だ。俺と彼の距離はテーブル一つ分離れてはいるが、タバコ臭さが鼻につく。この人は世間では割とクリーンなイメージを売りにしている政治家であるが、まぁこういうのは良くあることだ。人間誰しも裏表がある。表が綺麗なほど裏は汚いものだ。

 

「…さて、早速本題に入るが、今回なぜ君たちをわざわざこんな辺鄙な場所に呼んだかわかるかな?」

 

「それは勿論、殺し…でしょう?」

 

 そう、俺たちは殺し屋だ。依頼者からのターゲットを確実に仕留める仕事を請け負う社会の汚れ役。

 自分で言うのも何だが、俺たちは殺し屋の中でもかなり優秀な部類だろう。今まで100を超える人間を殺してきた。中には女子供や、テレビに出るほどの著名人だっている。その実績を買われ、最近の依頼者の大体はこんな風に政治家や世間の重鎮ばかりだ。

 

「そう、是非君たちに露払いをしてもらいたくてね」

 

 そう言って依頼者は写真を一枚テーブルに出す。そこに写っていたのは年端もいかない少女だった。恐らく中学生くらいだろうか。淡い金髪に、エメラルドグリーンの瞳が特徴的だ。

 しかし疑問だ。こんな大物がこんな少女一人を狙うなんて。不倫相手の娘を殺してほしいなんて依頼はあったが、こういう毛色の依頼は初めてだった。

 横にいる仲間の1人が眉を顰め、思わず言葉を口にする。

 

「ただのガキじゃねぇか」

 

「唯の娘と侮らない方が良い。彼女は美国織莉子。齢13にして街一つを牛耳れるほどの権力を自力で手に入れたれっきとした権力者だ」

 

「……この少女が?」

 

 にわかには信じ難い。俺から見れば写真に写るターゲットは普通の少女にしか見えない。確かに写真越しからでも普通の女子供とは違う雰囲気を感じ取れるのは事実だが、とても俺にはそんな風には見えなかった。

 

「この娘は私の知人の娘なのだがね。その知人は亡くなってしまったのだが、その後を継ぐように現れたのが彼女だよ。最初は気にもとめなかったのだが、想像以上の速さで力をつけてきているようでね。そろそろ私の周りにも彼女の生やしたツタが絡まってきて困ってしまってね」

 

 …なるほど、早い話自分の政策に邪魔だから殺す、と。 何ともまぁ自分勝手な話だが、政治の世界なんてこんなものだ。

 

 

「分かりました。その依頼請け負いましょう」

 

「ああ、よろしく頼むよ。彼女の詳しい情報は追々送るよ」

 

「分かりました」

 

 だがこれも仕事だ。気の毒だろうが関係ない。与えられた仕事はきっちりこなす。それが俺のポリシーなのだ。……それに、仮にここで依頼を断ってタダで帰される訳がない。依頼者の背後にいる黒服たちを一瞥すると、俺は仕事道具が入ったバッグを持って席を立つ。

 

 

「良い報告を期待してるよ」

 

「ええ」

 

 

 俺たちは部屋を出て、揃って緊張が解け、大きくため息を落とす。最後の含みのある言葉、おそらく失敗すれば………あまり考えたくはないな。だが、相手は子供。そこまで苦戦することはないはずだ。そう思いながら、タバコに火をつけた。

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言え、いきなり無策で殺しにかかるのは不味い。ここ見滝原は近隣と比べても発展している街だ。住む人も多い。住む人が多ければ、必然的に人目も多くなる。さらに相手は少女とはいえ権力者。ガードマンの一人控えていても何らおかしくない。もっと言えば俺のような殺し屋を警戒していくつかの狙撃場所を押さえられている可能性もある。

 ターゲットは学生だ。彼女は普段徒歩で自宅に帰っている。ならば学校の帰路を狙うのが定石だろう。標的はいつも決まった順路で帰宅する。そこまでに一通りの少ない場所がいくつかあったはずなので、そこで仕留める。

 そんなわけで俺は仲間2人を、現在見滝原中学の校門前で出張らせていた。

 

 

『…いたぞ、あの少女だ』

 

『はい、確認しました。兄者』

 

 校門から2人の学生が出てくるのを確認したと同時に、仲間からの連絡を受ける。

 ターゲットである少女をスコープ越しに見つめる。写真で見た通り、長いパープルホワイトの髪をサイドテールで纏めており、お淑やかな雰囲気を醸し出している。だが、言ってしまえばそれだけの少女だ。ガードマンらしき人影も迎えの車も周囲には見当たらない。

 ターゲットは友人らしき少女と別れ、一人で街道への道へと歩いていく。仲間たちはその後を静かにつけていく。

 

(…さて、暫く様子を見るかね)

 

 もしもということがある。仕留めるのは飽くまで人気のない場所だ。それまでは大人しく観察するべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(…周りにガードマン1人付けないとはな…。自分が狙われないと思っているのか?)

 

(仕方ないだろ、相手はまだ10を過ぎたくらいのガキだぜ。にしてもツイてないよな、あのガキも。よりによって俺たち【三羽烏】に依頼されちまうんだからな。ヒヒヒ)

 

 俺たちは【三羽烏】という通り名でその界隈でそれなりに名が通っている。兄者であるリーダーの一羽(いちば)、そして俺が二羽(ふたば)、横にいる三羽(みわ)の3人チームだ。

 

(変な声を出すな。気づかれたらどうする)

 

 ターゲットは人通りも多い街道を一人歩いている。周りはおろか、周囲の物陰に誰かが隠れている様子も無い。

 まぁ、ターゲットはまだ中学生だ。そう言う意識が足りないと言われても納得はできる。しかし相手はその年齢で相当な権力を手に入れている。油断はできない。

 

 暫く後をつけていくと、道先にスイーツ店が見えてくる。確かここはこの辺りでも美味いと評判の店だ。ターゲットは店の中へ消えていく。

 

 店内は狭い。下手に入って気づかれるのは危険だな。ここは外で待っておくべきだろう。

 

『兄者、ターゲットが支店のケーキ屋に入って行った』

 

『あぁ、確認した。中の様子は見れるか?』

 

『普通にケーキを買ってますね。見たところチーズケーキみたいです』

 

 10分ほどでターゲットは店から出てきた。片手には先ほど買ったケーキの入ったビニール袋を下げている。

 家族か誰かと食べるつもりなのだろう。可哀想に。そんな時はもう来ないというのに。

 

 そのままターゲットは近くのベンチに腰掛ける。俺たちはその後ろのベンチに座り、弁当を食べるフリをする。

 

(おっ、チャンスじゃねぇか?今ならスキだらけだぜ)

 

(馬鹿か、こんなところで殺せば必然的に見つかるのが早くなる。そうなれば不利になるのはオレたちだぞ)

 

(チッ……おっ、見ろよ二羽。あのガキ、なんかするみたいだぜ)

 

 ターゲットは手に持っていた白い鞄を探っている。

 すると徐に袋の中から高価そうな装飾のついている白い瓶を取り出した。その瓶の透明な溶液をコップに注ぎ、かき混ぜる。すると、どうしたことか。コップの中の溶液がみるみる紫色に変色していくではないか。

 

 そして先のスイーツ店で買ったチーズケーキを一つ取り出し、そのまま筆で薬品をケーキに塗り始めた。チーズケーキの顔色がみるみる悪くなっていく。

 それを見てターゲットは笑みを深める。

 

 

『………』

 

『…アニキ、あれって』

 

『………おそらく毒だ。随分と手慣れているようだな』

 

『誰か殺すんですかね?』

 

『かもな。しかもあの毒。俺にも詳しくはわからないが、あの明らかな危険色……相当な思いで相手を殺そうとしてるのかもしれない…』

 

『いや、普通にあの色で一発バレしそうですけどね…』

 

 考えてみれば奴も権力者。同業者を始末しようとしても何らおかしくない。…成程、侮れない少女に違いないというわけだ。

 

 パープルグリーンに変色したチーズケーキを見ながら3人はターゲットの認識を改めた。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

『アニキ。あのガキ、本屋に入っていきやしたぜ』

 

『わかった、追え』

 

 次にターゲットが向かったのは、市内にある本屋。兄貴の指示を受けて、一般人を装いながら店内に入る。

 

 

「〜♪」

 

(よし、こっちには気づいてないな)

 

(おっ!見ろよアイツ、仮面サイバー借りてるぜ!)

 

 ターゲットはDVDコーナーへと行き、手元のカゴにDVDを入れていく。カゴの中にあるのはニジレンジャー、仮面サイバー、プニキュア……ニチアサやらアニメものばかりを入れている。政権者というお堅い印象もあって、少し意外ではある。

 

(何だよアイツ、中々趣味が合いそうじゃねぇか)

 

(うるさいぞ三羽。…しかし随分と借りるな。1人で観る気か?)

 

 しばらく観察していると、ターゲットは本屋のコーナーの棚の目の前で歩を止めた。視線は一冊の本に向けられていて、ターゲットはその本を真剣な顔つきでじっと見つめて、手に取ろうと腕を上げて、難しい顔をしては腕を引っ込める。

 この店はDVD借用店と本屋が混同した店なので本自体があることは珍しくないが、何をそんなに悩んでいるのか。もしかすればターゲットの情報になりうる可能性があると思い、ターゲットの目線に移動して、その本を確認する。

 

(…ありゃ、全世界で超人気の伝説の百合漫画!俺全巻持ってるぜ!)

 

 何故そんな本の前で悶々としているのかはわからないが、今回のターゲットは子供ながら聡明と聞いた。もしかすれば何か考えがあるのかも知れない。…まさかそう言う趣味があるわけではあるまいし。頬が赤く染まっているのは気のせいだろう。

 そんなことを考えていると、何者かがターゲットに近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!お客様」

 

 男は業務用の服の上にエプロンを着ており、胸についているタグには『店長』と書かれていた。

 

「こんにちは。貴方は…ここの店長さんかしら?」

 

「はい、私はここの店長です。しかしその本に目をつけられるとは、それは私もお勧めできますよ。どうですか?今なら特別にお安くしますが」

 

「そうね、買おうかしら」

 

「フフフ、ありがとうございます」 

 

 その場で漫画の会計を済ませ、本を鞄にしまう。

 

「…ところでつかぬことをお聞きしますが、誰か女性の方に想い人でも?」

 

 糸目を少し開いて店長はそう聞いてくる。

 

「どうしてそんな質問を?」

 

「いえ、あの噂のこともあってここはそういうお客様が多くいらっしゃるんですよ。なのでその本を買いになる方も多いのですよ」

 

「へぇ、そうなの」

 

「フフフ、それで、そんなお客様に是非お勧めできるものがありまして…」

 

 そう言って店員は店の奥から何かを取り出し持ってくる。

 

「………」

 

 心なしか織莉子の表情が険しくなる。

 

「これは『ひっつき花』。これを持っていればたちまち恋愛が成就する効果を持つ花です」

 

 きなくさい。というか何で本屋にそんな物があるんだよ。

 

「フフ、今ならお得!たったの十万円!お安いでしょう?」

 

 

 …詐欺じゃないか!?さっきからおかしいと思ったらそういうことか。しかしあの店長も相当馬鹿だ。流石にこんな馬鹿みたいに低レベルな手法で騙せるわけ、

 

「買うわ」

 

 いや買うのぉ!?

 

「フフフ、まいどあり♪」

 

 そうして、ターゲットはひっつき百合とやらと、残りの会計を済ませて店を出て行った。

 …めっちゃあっさり騙されてたな美国織莉子。今の奴はそこまで大層な騙しの手口は使ってなかった。にも関わらずあんなあっさり…本当にあんなのが今の地位に上り詰めるほどの政権者なのだろうか。

 

「…三羽。見たか、あれを」

 

「あぁ、見たぜぇ…」

 

「まさかあんな、」

「まさか、あのガキが百合ガールだったとはなぁ…」

 

 いやそっちかい。

 

「…そっちはどうでも良いだろう?」

 

「ハァ!?二羽は百合の尊さを知らねぇからんなことが言えんだよ!」

 

 そんなん知らんがな。

 

「良いか?百合はな、百合ガールはな!世界の希望なんだよ!!百合ガールたちの尊さによって世界の穢れは浄化されてんだ!百合の尊さを知らねぇってことは人生の8割は損してるんだぞ!それにこの店は"ここで物を買えば必ず百合のカップルが成就する"って有名なんだぜ!つまりこの店は世界の半分を救ってると言っても…」

 

 忘れていた。三羽は熱心な百合信者なんだった。この話題になったこいつは毎回めんどくさいのだ。

 

「はぁ、その話はまた今度聞く。奴を見失う前に行くぞ」

 

 

 ギャーギャーと喚くアホを引き摺りながら俺は店を出た。早くターゲットを追わないと見失ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ、今回も噂にかかった馬鹿が金を置いて行きましたね。なにがひっつき花ですか。あんなものその辺りでで拾った花形のおもちゃですよwこれだから子供は扱いやすいんですよねぇ」

 

 店長は案の定詐欺師だった。この店を噂目当てで訪れる少女に高額の商品を買わせる。普通の大人なら騙されないが、警戒心や危機管理が不十分な子供ならば話は別である。

 この店長という男はかつて前店長の情で拾ってもらい、ここで働いていたアルバイトだった。だがこの男はその恩を仇で返し、前店長を事故に見せかけ殺し、今の店長という地位にいる。この男は金が大好きだ。他者を親から盗んででも欲しいと思うくらいには欲に塗れていた。そんな欲に飲まれ手段を選ばなくなった人種の典型とも言える者の成れの果てがこの店長という男だった。

 

 

「私が物を売ったやつがたまたま成就したからってだけであんなに無知な子供が来るとはねぇ。噂様々ですね。おかげでたんまりですよ。フフフ」

 

 店長は織莉子から受け取った金をしまおうとレジの方へ向かう。

 

 

 コツン

 

 コロコロ…

 

 

「おや?」

 

 つま先に何かが当たる。店長は自身の足元に落ちているものに気づき、それを拾い上げる。

 

「何でしょうか、卵…ではありませんね。誰かの落とし物?…まぁ、良いでしょう。折角ですし貰っておきますか。もしかすれば高価がつくかもしれませんしね。フフフ」

 

 

 

 

 

 

 見滝原の街中にある本屋が突如爆発したというニュースがテレビに流れるのは5分後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店を出た俺たちは、街中を歩くターゲットの後をつけていく。今のところターゲットに目立った変化は無い。…1点を除いて。

 

(…なぁ二羽、何であの百合ガールさっきのおもちゃ頭に刺してんだ?)

 

(……わからん)

 

(って言うか動いてないかあれ)

 

(動くタイプの玩具なんだろ)

 

(んにしちゃ、やけにぬるぬる動いてるような…)

 

 ターゲットの頭の上には先程購入したおもちゃの花が直立して突き刺さっていた。その光景に2人は未だに目を丸くしていた。街ゆく人々がすれ違うたびに二度見をしている。

 その異様な光景に通信越しに兄者が聞いてくる。

 

『…おい、一体店の中で何があったんだ?』

 

『…さっき話した通りです。兄者も見たでしょう、ターゲットが街中で堂々と頭に造花をぶっ刺すのを』

 

『いや、マジで何してんだよあの百合ガール。頭おかしいんじゃねぇのか?てか、何で血が出てないんだ?』

 

『…だがそのせいで、問題も出てきた』

 

『問題?』

 

『奴は今周囲に悪目立ちしている。これでは奴を狙うのは難しいだろう』

 

 あの謎に満ちた奇行のせいで、ターゲットは周囲の注目を集めてしまっている。これでは人に紛れて仕留めることがしずらい。

 

『…確かに、この人だかりでは接近して仕留めるのも難しいですね』

 

『これじゃあ、手の出しようが無えなぁ…。しかもこの先って確か住宅街だろ?人通りは少なくなるけど、高いマンションとかもあんまし無いし、狙撃しにくいんだよなぁ』

 

『しかも今は帰宅時間。接近法で殺そうとして、ばったり誰かに出会ってしまえば、面倒なことになる』

 

 

『……仕方ない、こちらも作戦を変えよう』

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「…あら、佐倉さん」

 

 織莉子は街中の公園で、見知った顔を見かけ、声を掛ける。

 

「ん?あぁ、織莉子か。学校帰りか?」

 

「ええ、貴方こそ珍しいわね。1人で見滝原に来てるなんて」

 

「1人じゃないよ」

 

 そう言って杏子が見やった方向を見ると、髪を頭頂部にまとめた小さな子供がボールを持ちながら駆け寄ってきた。

 

「ねーちゃんー!取ってきたよ!」

 

「おーう、ありがとなモモ」

 

「その子は?」

 

「妹のモモだ」

 

「佐倉モモです!よーしく!」

 

「あら、挨拶ができて偉いわね。そんな偉いお嬢さんには、これあげるわ」

 

 織莉子は白い鞄から、純白のクマのぬいぐるみを取り出し、モモに手渡した。

 

「あっ、くまさんだ!やったー!」

 

「良いのか?」

 

「くじ引きで当てた物だし別に良いわ」

 

 モモは真っ白なクマの人形を嬉しそうに抱えて喜んでいる。どつやら気に入ったようだ。

 

「ところで、あー…その、なんだ…」

 

 杏子は織莉子の頭頂部にある物体に目を見やる。

 

「病院紹介しようか?」

 

「問題はないわ」

 

「いや問題しかないだろ。何だそれ、おもちゃ?何で当たり前のように頭にブッ刺さってんだ?」

 

「ここに来る前に寄った本屋で高値で買ったのよ。恋愛成就の効果があるらしいわ」

 

「…いやそれ騙されてるんじゃ」

 

「そんなの分かってるわよ。ほらこのおもちゃ、よく目を凝らして見てみなさい」

 

「んー……魔力かこれ?」

 

 杏子が目を細めて見ると、頭に刺さったおもちゃから僅かに魔力が感じられた。

 

「…確かに珍しいけど、金払ってまで買う物かこれ。それに何で魔力が?」

 

「見ての通り、このおもちゃには魔法がかけられてるわ。理由は不明。これを何であの店主が持っていたのかは分からないけど、どちらにろ魔力があるのは危険だから、実際に私が使って効果を確かめてるわけよ」

 

 何故頭に刺す必要性があるのか。そんな疑問が浮かぶが、ろくな回答が返ってこないと思った杏子はあえて何も言わないことにした。織莉子は時折こんな感じの奇行をすることがあるので、つっこむだけ無駄である。

 

「…やっぱバカだろあんた」

 

「私はバカではないわ」

 

 杏子は呆れたようにため息をつく。こいつだんだんだいりの奴に似てきてるんじゃないんだろうか。いや、似てるのは最初からだったか?

 

「…んで、効果って具体的には?」

 

「私の動きを真似する」

 

「本当に唯のガラクタじゃねぇか!」

 

「何を言うの!結構可愛いのよこの子」

 

「既に親気分だよコイツ…」

 

 頭に刺されたひっつき花は織莉子と同じ挙動をとっている。確かにこう見れば見た目と相まって可愛く見えないこともない。

 

「どの道魔道具は一般人の手には余る代物よ。見つけ次第回収するのが吉ね」

 

「はぁ、あっそ。じゃあ後でそれ買った店教えてくれ。念のため他に魔道具無いか確認してくるから」

 

「あそこなら今頃爆発してるわ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってるのか全然聞こえないな…」

 

「傍聴機はついてないからな。最低限の動向さえ知れれば十分だ」

 

「にしてもこれ使うのも久々だなぁ、アニキ」

 

 俺たちは3人で再び集まり、目の前の液晶画面に映るターゲットを見つめていた。

 現在俺たちはターゲットがいるところとは少し離れたところにあるマンション。そこからドローンを通して状況を確認していた。

 無論ただのドローンではなく、暗殺用に改造された特別仕様だ。ほとんど音を出すことの無い上に、外装も限りなく透明に近いので比較的見つかりにくい代物だ。これなら怪しまれるリスクを減らしながら追跡することができる。更には銃器も付いており、威力もハンドガン以上は出る。

 だが、ライフルで狙うよりも威力と確実性は数段落ちる。威力不足で仕留め損なう可能性もあるが、今の悪目立ちをして、高低差のあまりない建物が多いこの辺りにはライフルで狙う以上に効果のあるものだった。

 

「モニターも銃口も問題ないな。二羽の予想通り帰宅ラッシュで人が多い。ドローンを使って正解だな」

 

「ヒヒッ、そうですね。アニキ!」

 

 ドローンを操作している三羽が同意する。俺はターゲットの様子を見ようとドローンのカメラ映像を覗き込む。

 

「…あっ、あの赤髪は、もしかして団長か?」

 

「アン?なんだ、知ってんのか二羽」

 

「ああ、我らがマジカル☆リボン団団長の佐倉杏子さんだ」

 

「マジカ…なんて?」

 

「マジカル☆リボン団。我らが女神であるMAMI様によるマミ様のためのMAMI様のためだけの組織だ」

 

「…テメェの言ってることがさっぱりなんだが。そもそもオマエいつの間にそんなヘンテコな組織に入ったんだ?」

 

「いや、その組織の名前は聞き覚えがある」

 

「マジか、知ってるんすかアニキ」

 

「ここ見滝原ではかなり有名だ。MAMIという謎の少女を捧心しているファンクラブのようなものなのだが、異常なのはその拡大速度だ。現れたのは最近にも関わらず、既に数千人規模までファンが増加している。ファンの中には芸能人や著名な政治家もいるそうだ」

 

「へー、知らなかったな」

 

「お前は二木市に住んでるからな。知らないのも無理はないだろう」

 

「そんなに凄いのか、そのまみさまって奴は」

 

「ああ、俺はMAMI様と出会って人生の景色が変わった」

 

 

 あれは、ある夏の日のことだった。

 

 俺はその日、休日を利用して最寄りのカフェでまったりと過ごしている時のことだ。突然二組の強盗が押し入ってきた。片方の男3人組はチャカを持っただけの素人という感じだったのだが、もう片方の女二人組は俺の目から見てもかなりできる奴らだった。しかもハッタリかは知らないが、巨大なバズーカ砲やらの、強力な火器も持ってやがった。少なくともあの場じゃあ俺1人ではあの2人を抑え込むのは不可能だ。このままだとなすすべなく殺されてしまうかもしれない。休日だから気が抜けていたのか携帯も忘れてしまっていたその日は連絡手段も取れない。俺はここで死ぬのかもしれない。そう諦観した。

 

 

 だが、そんな絶望の最中、俺は出会った。女神に。

 

 

 彼女はMAMI☆KAMENと名乗った。最初は店員が恐怖で気でも狂ったのかと思ったが、彼女はその二人組の強盗をあっという間に撃退してしまった。俺は思わずその姿に見惚れた。俺のような殺しの技とは違う、相手を華麗に美しく制圧するその姿に俺は心を奪われた。更には押し入ってきた強盗をも助けたその慈悲。俺は確かにその背中にかつて憧れたものを見た。

 

 その日に俺は彼女の設立されたファンクラブへ入り、彼女のことを知った。巴マミ。ただの学生でカフェではアルバイトしているだけ、だがその日から彼女こそが、俺にとっての光となった。団長と出会ったのもその時だ。団長のマミ様への想いは本物だ。あの人の原動力はマミ様への愛に他ならない。マジカル☆リボン団ができたばかりの頃は、荒くれ者も多くいたので、まぁひどいものだった。正直俺でも組織として活動するのは絶望的だと思ったほどだ。だが、団長はそんな面子を自慢の腕っぷしと、気迫で全員矯正させ、今では巨大な一つの組織としてなりつつある。団長そんな偉業にも近いことを1人で成し遂げたのだ。

 

 

 

「ーーーだから俺はあの人を尊敬してる」

 

 

 

「…話がなげえんだよテメェ」

 

 

 二羽の謎の方向に吹っ切れた熱意に、ぶっちゃけ一羽と三羽は引いていた。いつもは冷静沈着でチームの頭脳として機能している二羽がここまで一個人に傾倒するとは、逆にそのMAMI様という人物に興味すら湧いてくる。

 

「…どの道ターゲットがあの赤髪と別れなければこちらは動けない。巻き込む心配性はない」

 

「ヒヒッ。オマエの心配は無用ってワケだ。逆に何をそんなに心配してるんだ?」

 

「…さっき言ったように団長はマミ様に一途な反面、逆鱗に触れたときの団長の姿はまさに鬼だ。俺はあれを見た瞬間に思ったよ、俺の知る人間で、団長を殺すことはできないと。何より団長は騙し討ちの類は大の嫌いだ。団員である俺がそんなことをしているとバレれば…ハハッ、想像したくないな」

 

「…お前がそこまで言うか。正直なところ俺には唯の年相応の少女にしか見えないが」

 

「それは団長の恐ろしさを知らないから言える言葉だ。正直同じ人間だとは思えなかった」

 

「……とにかく、仕事である以上やるしかない。三羽、操作を頼めるか」

 

「ヒヒッ、任せとけ」

 

 そしてターゲットは赤髪の少女2人と別れて、再び帰路へつく。それを確認して三羽はドローンを操作して織莉子を追尾する。ドローンに付けられた銃口は織莉子の頭部を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモ、そろそろ帰ろうぜ……ってどうした?」

 

「ねーちゃん、あれなにー?」

 

「んー?」

 

 そう言われて杏子はモモの指差す真上を見る。ぱっと見何も無いようにしか見えなかったが、よく目を凝らして見ると何か透明に揺らいでいるものが目に映った。そのゆらぎは一定の速度で移動している。

 

「…何だあれ」

 

「もしかして、鳥さんかな!?」

 

「鳥か?あれ」

 

「うん!絵本でみたもん!おそらにはとーめいな鳥がいるって!」

 

「へー」

 

「あの鳥さんもたべれるかなー?」

 

「………どうだろ?」

 

 佐倉家は父親が神父なこともあって、正直あまり稼ぎは良く無い。それは父親の話を皆が聞いてくれるようになってからも変わらないことだ。なので、事あるごとに外で食料になりうる物を取ってきたりする。その中でも特に鳥類は絶好の獲物である。神職に携わっている家系として気はひけるが、それでも鳥類が腹の足しになることは間違いない。しかし、知ってる鳥ならともかく、全く知らない未知の鳥を食べられると分かってないのに、いきなり殺傷してしまうというのも心苦しい。

 杏子はどうしようかと頭を悩ませる。

 

「むむ〜…」

 

「ほらくまさんもみてー」

 

 カチリッ

 

 響く何かの挿入音。

 その瞬間、クマのぬいぐるみの双眼から眩いばかりのレーザーが発射された。砂埃が舞い、辺りは極光に包まれる。放たれた光の凶器は一直線にそのゆらぎへ向かっていき、貫通した。閃光と共に爆発音が鳴り響く。

 

 

「わぁ〜きれーい」

 

「ーーー」

 

 

 説明しよう!このぬいぐるみは織莉子が作った魔女撃退用魔道具『せーふてぃー☆ベアーちゃん』!背面のボタンひとつを押すだけで、使い魔程度なら一撃で消滅できるほどのレーザーを発射できるぞ!光を内蔵された魔法機器で集めて発射するため、使用者の魔力は必要なし!レーザーを放出時の反動も一切無いので、一般人でも扱いは簡単!更にはボタンのメーターを操作することで威力の設定も可能!

 さぁ、このお買い得商品今なら税込3280円!3280円!今すぐお電話を!

 

 

「ーーーお、織莉子おぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 くじ引きで当てたとは言ったけど、手を加えていないなんて一言も言ってないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一体なにが起きたんだ?」

 

「わからん……だがドローンが破壊されたということは確かなようだ」

 

「嘘だろ…」

 

 三羽の目の前のモニターは既に砂嵐で使い物にならなくなっている。3人は何が起きたのか全く理解できなかった。いざターゲットを追いかけようと思えばカメラが眩い光に包まれ、気がつけばこのザマだ。

 

「攻撃された…?」

 

「その可能性が高いだろう。だが問題はどうやって破壊されたかだ」

 

 先ほども述べたが、このドローンは暗殺用に三羽が改造したものだ。鳥にぶつかる程度ではびくともしないし、銃弾も一二発程度なら余裕で耐える。それがカメラもろとも一撃粉砕となれば並々ならぬ衝撃だったと予想できる。

 

「……まさか、団長…?」

 

「………おいおい、流石にそれはねえだろう。ドローンは30メートルは飛んでたんだぜ」

 

「いや、あの人ならやりかねん」

 

「…いやいや、普通に考えてあの百合ガールが用意した伏兵とかそこらじゃねぇか?」

 

「仮に伏兵ならドローンよりも近くにいる俺たちを攻撃するはずだ。わざわざドローンだけを破壊したと言うことは、これはもしかすると、警告されているのかもしれない…。ターゲットは団長と親しいようだったし」

 

「…ともかく、ドローンが破壊された以上、こちらも手段を変えざるを得なくなった。こうしてる今にも美国織莉子は移動している。急いで追うぞ」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「…今度はアイツショッピングモールに入るみてーだ。…ってかどんだけ寄り道すんだよ」

 

 ターゲットは市内の大型ショッピングモールに入っていく。ここは多数の店が複合しており、中には公共の設営ホールもあり、そこでイベントなども開催されている地元からは親しまれた場所だ。3人はそのまま織莉子の後を追う。

 

「…しかし人が多いな今日は。これじゃ仕留めるどころじゃないな」

 

「そーだなぁ、せめてトイレとかに行ってくれりゃ殺りやすいんだがな」

 

「いや、そうでもない」

 

「んぇ?」

 

「これだけ人が多ければ、逆に誰がやったのか気づかれないだろう」

 

「おっ、ってことは…!」

 

「ここで人混みに紛れて仕留められるだろう」

 

 そう言って一羽はコートの袖に隠す形で暗器を忍ばせる。この暗器の刃先には猛毒が塗られている。一刺しすれば虎の息の根を止めてしまうほどだ。

 

「…よし、あの人の多いホールでやる。お前たちは離れた場所で待機だ」

 

「ヒヒッ、了解」

 

 そのまま織莉子は設営ホールの中へ入っていく。一羽もそれを追う。何かのイベントをするのか、ホールの正面に大きな投影モニターがあり、中には数百人という人がいた。人1人などふとしたすきに見失ってしまいそうだが、一羽はそれをものともせずにその背を追う。

 

 一羽は3人の中で最も殺しの腕が高い。射撃はもちろん、暗器の扱いも並の軍人以上だ。だがそれ以上に恐ろしいのはその隠密性だ。一般人のように振る舞い、殺意を隠す。そして、来るべき時に、その殺意を出して仕留める。この手段で一羽は軍に精通する実力者をも一瞬で仕留めてきた。だからこそ、一羽は己の殺しの腕には絶対の自信を持っているし、隠密能力に関しては飛び抜けていると言っていいだろう。それこそ、魔法少女に気づかれないくらいには。

 

 人混みの中、織莉子の背中が徐々に近づいてくる。

 

(…ここまで散々振り回してくれたが、それもここまでだ)

 

 そして、目の前の数人を蛇のようにするりと抜け、織莉子の背後にまで接近する。

 

(ーー終わりだ!)

 

 暗器に手をかけ、殺意を解放しようとしたその瞬間。

 

 

 ギャーーーーーン!!

 

 

「!?」

 

 唐突にギターの音が耳に入る。そして、同時に周りの人々が一気に湧き上がった。思わず驚いて動きを止め、その発生源に目を向ける。

 どうやら、ホールの目の前のモニターから流れる動画から聞こえてきたようだ。

 

(…しまった!見失った!)

 

 数瞬目を離した間に織莉子はどこかへ行ってしまった。

 

(…まて、まだ慌てる時じゃない。近くにはいるはずだ。恐らくこの辺りに…)

 

 モニター前の音楽に合わせて周りの人たちが湧き立つ。わずわらしいと思った一羽だが、唐突に動きを止める。なぜならそれは、一羽にとってあまりに聞き覚えのあるものだったからだ。

 

 

(…まさか、このメロディーは。この前奏は…!)

 

 

 

 

 

 

 

 画面に映っていたのは、パーカーを被り、能面をつけた人物が歌っている姿。だが、特筆するべきはその歌声だ。まるで脳に直接訴えかけるようなその歌声は映像越しであっても聞いた者を震わせた。周囲の人々もそれに魅入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ば、馬鹿な…!【ぷろきしー】だとぉ!?

 

 

 音楽系動画投稿者【ぷろきしー】

 ごく最近動画投稿を始めたにも関わらず、その人気は既に国境を跨いでいるとされ、チャンネル登録者も10万人になろうとしている。最も特徴的なのはなんと言ってもその歌声で、国籍関係なくその歌声に魅了される人々が後を絶たない。そのため非公式ながらファンクラブなるものも存在するほどだ。

 そう、一羽は【ぷろきしー】の熱烈なファンである。何の気なしに動画サイトを流し見していた時に出会ったその歌声に一羽の心の臓は綺麗にスナイプされた。あまりに衝撃的だった。己の心に滑り込むように響いてくる歌声。歌詞や歌自体は熱烈なのに、体はゆっくりと染みるように熱を帯びるのだ。歌に合わせて自然と体が動いてしまう。初めて歌というものに生きる活力というものを与えられたのだ。

 一羽は殺し屋だ。仕事である以上、何の罪のない人間を手にかけることだってあった。その度に一羽は己のしていることに少なからずの嫌悪感を感じている。一羽も少なからずな良心のある人間だ。心を殺しながら仕事をするにも限界がある。そんな擦り切れた精神を温めてくれたのが【ぷろきしー】の歌だったのだ。

 以来、一羽はすっかり【ぷろきしー】の歌の虜になり、ちょっとした間にも聞くようになり、新しく動画が投稿された日には仕事の効率が恐ろしく上がった。

 【ぷろきしー】は一羽にとって生きる希望になったのだ。

 

 そんな大好きな【ぷろきしー】の動画が映画さながらの大音量で流れている。歌詞を余裕で完コピするくらいには聞いたその歌。じわじわと一羽の意識が画面へ飛んでいく。

 しかし、集中力を削がれはするが、それだけなら支障は無い。まだ我慢もできる。だが、織莉子を探しているときに、一羽はとんでもないことに気がついてしまった。

 

(こ、公式ファンクラブ結成会だとぉ!?)

 

 モニターの上にある看板には【公式ぷろきしーファンクラブ結成会】とでかでかと書かれていた。

 なんとここは、ファンクラブ結成会の会場だったのだ。

 

(そんな筈はない!未だに【ぷろきしー】は公式のファンクラブを開設する許可を出していなかった筈…!何よりこの俺がそんなハイパービッグな情報を見逃すなど…!ま、まさか、あの噂は本当だったのか!?)

 

 【ぷろきしー】に公式のファンクラブはまだ存在しない。ファンクラブを設立したいという声明自体は出ているが、【ぷろきしー】本人からの許可が出ていないからだ。何より【ぷろきしー】は不思議なことに動画投稿サイト以外のSNSを開設していないので、殆ど本人からの情報が出回らないのだ。

 

 しかしそんなある日、一羽は【ぷろきしー】の動画コメント欄でこんなコメントを見つけた。

 

 

『近頃、公式のファンクラブ結成会があるらしい』

 

 

 一羽は狂喜乱舞した。ついに、公式のファンクラブができるのだと。だが、所詮は動画についた一コメント。ほとんどの視聴者がそれを信用していなかった。事実そんな発表は【ぷろきしー】本人には全く公表してないからだ。

 それでも一羽は諦めなかった。もし仮に公式ファンクラブが結成されるなら、命に替えても会員になる価値がある。だから今日に至るまでSNSで必死に情報を集めたが、そんなものは影も形も見当たらなかった。

 

 やはり噂は噂だったと一羽は諦めかけた。そんな時だ。今、目の前に己が切に望んだものがある。

 

(いや、まて、待つんだ俺。いくら大々的に行われているとはいえ、ファンやアンチの悪質な悪戯という線もあり得る。まだ決めつけるのは早すぎ、)

 

 

『あー、あーあー…。これ撮れてるのか?』

 

 

「!?」

 

 

『えーと、どーも!d…じゃなかった。ぷろきしーだぞ!』

 

 

「!!!!!??」

 

 

 歌が終わった後、突然モニター画面が切り替わり、能面をつけた私服姿の人物が映し出される。あの声、あの能面、間違いない。モニター画面に映ったのはあの【ぷろきしー】本人だ。周囲がざわざわと騒めく。

 撮影慣れしてないのか辿々しい動きで、話を進めていく【ぷろきしー】。

 

『今回はなんか、ファンクラブ作りたいっておr…知り合いから聞いてたんだけど……これ別に良いのかな?』

 

『…え、知ったことじゃない?うーん、まぁいいか。 えー、みんな!ファンクラブ、作りたかったら作って良いよー!でも、喧嘩とか周りの人に迷惑とかかけないでね!以上!』

 

 

 そうとだけ言うとプツリとモニター映像は切れてしまった。未だ周囲のざわめきは収まってない。

 

「みなさん、先ほどの映像の通りです」

 

 再び視線が正面に注がれる。そこにいたのは、なんとさっき見失った美国織莉子であった。なぜか正装姿の上に法被を着ていて、法被の至る所に『ぷろきしー』と可愛らしい書体で書かれており、その上ペンライトまで専用のポケットに常備してあった。なにあれ欲しいんですけど。

 

「私は美国織莉子。市から今回のイベントの進行を任されました…が、かく言う私も【ぷろきしー】の超ファンです。個人的な意思でここにいる部分もあります。…そしてあなた方に今回のイベントについての個人メッセージを送ったのも私です」

 

 ざわざわと周囲のざわめきが大きくなる。

 

(なんだそれは!聞いてないぞ!?)

 

 

「先ほどの映像の通り、【ぷろきしー】は公式にファンクラブの設立を認めました。ですが、私は中途半端な憧れや、愛を持つものをファンとは認めません!なぜなら半端な想いでぷろきしーを見ては欲しくないからです! しかし!ここにいるのは世界から集った私が見定め、認めた生粋のぷろきしーファンのみ!」

 

『『『うおぉぉぉぉ!!』』』

 

(な、なんだ!?なにが起きている!どういうことだ!?)

 

 

 

 織莉子はだいりのファンクラブを作る上で、規律を守り、尚且つ無償の敬愛を捧げる完璧な団員で作りたいという意思があった。なので織莉子は自作の質問シートをだいりの動画に貼り、動画サイトのコメント欄からユーザーの個人情報を調べ上げたうえで、その回答が織莉子のお眼鏡に適ったものだけに、このイベントの詳細が書かれた個人メールを送って、今回のイベントに呼んだのだ。つまりここにいる数百人のメンバーは織莉子の厳正な試験を突破した生粋の【ぷろきしー】ファンというわけだ。

 

 

 

「諸君らは【ぷろきしー】の歌を聴きたいか!!【ぶろきしー】が好きか!!?【ぷろきしー】を生涯にわたって推すと断言できるかーー!!!?」

 

 

 満開の歓声が響く。

 お、推したい!心の底から叫び散らかしたい!! だが、仕事が…!ターゲットが目の前にいるというのに…!俺は暗殺チーム【三羽烏】のリーダー!こ、公私の区別はキッチリつけなければ…!

 

 

「これらを誓い、ファンクラブ会員になった者には、今後行われる生放送視聴の権利と、【ぷろきしー】の特別応援グッズを配布しましょう!!」

 

 

 な、何ィ!? ぐおぉぉぉぉ!!!だ、だが負けん!いやしかし、見たい!聞きたい!【ぷろきしー】の生放送!欲しい!【ぷろきしー】グッズ!しかし、任務があぁぁぁ!!ぐぎゃあぁぁぁ!!!

 

 

「私は【ぷろきしー】ファンクラブの会長として!いずれ【ぷろきしー】の生ライブをここにいる同志の皆さんにお見せすることを、約束しましょう!!」

 

 

 

 びゃあぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 ーー

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 

「むっ、兄者が出てきたぞ」

 

「ってことは、ヒヒッ、殺れたってことだなぁ…」

 

 ホールの入り口から出てきた一羽だが、その顔はどこか上の空だった。2人はホールから出てくる人混みをかわして、一羽の下に駆け寄る。

 

「アニキ!あの百合ガールは殺れたんですか?…というか何ですかそれ。はっぴ?」

 

 一羽は空に向けていた顔をゆっくりと下ろしていき、己の手にある物を見つめた。

 

 

「兄者?」

 

 

 

 

 

 

「…………おれは、今、幸せだ…」

 

 

 

 

 

 

 【ぷろきしー】公式ファンクラブ会員証

 会員番号 0054  一羽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織莉子はショッピングモールを抜けて、路地を歩いている。しかし、その顔は一仕事終わった職人のように晴れやかだ。足取りも先ほどと比べると妙に軽い。そんな織莉子を見ながら三羽烏は静かに後を追いかける。

 

「……すまん、取り乱した」

 

「一体何があったんですか。あんな兄者初めて見ましたよ」

 

「そーだぜ。結局百合ガールも仕留められてねぇしよ」

 

「…………色々、あったんだ……すまない」

 

「…まぁ大丈夫ですよ。あのターゲットは今のところこちらが予想していた順路を進んでますし、このまま行けば絶好のポイントに着けるはずです。早いことカタをつけて、今日は飲みにいきましょう」

 

「………あぁ、そうだな」

 

 そう言うと一羽の目が切り替わる。自分を同志と認めてくれた美国織莉子を手にかけるのは心苦しいが、今回の依頼者が依頼者だ。達成できなければこちらの身も危ないだろう。断腸の思いで、織莉子を殺すことを決意する。

 

「よし、行くぞ」

 

「ヒヒッ、いつものアニキに戻ったなぁ」

 

「…ん?誰かターゲットに近づいてくるぞ」

 

 

 

 

「おーい、おりっちー!」

 

「だいり!」

 

「学校帰り?」

 

「ええ、そういう貴方は?」

 

「なぎっちの買い物の付き添い」

 

「だいり、コイツのことは無視してとっとと帰るのです」

 

「そんな睨まなくてもこの後用事があるから、すぐに帰るわ。はい、これあげる」

 

 そう言って、織莉子はチーズケーキの入った箱をなぎさに渡す。

 

「くんくん……この匂いはチーズケーキなのです!」

 

 チーズケーキをもらって大いに喜ぶなぎさ。中にあるのは無味無臭のとんでもない毒物が塗られたものだというのは知らない方が良い事実だろう。

 

「だいりにもはいこれ」

 

 織莉子はだいりにも別のケーキ箱を渡す。

 

「ありがとおりっち!」

 

「ええ、特にだいりは、撮影を頑張ってくれたもの」

 

「あー、あれか。あれで良かったのか?あんな風に撮影した経験なんて殆どないからちょっと不安なんだけど」

 

「何一つ問題なかったわ!おかげでめでたく貴方の聖闘士ナイツが完成したわけよ!いよいよアイドルデビューの日も近いわね!」

 

「アイドルはしない!!」

 

 織莉子は隙あらばだいりのアイドル化を進めてくる。何故そんな頑なにアイドルを推すのかはだいりにはまったく理解できなかった。

 

 

「…ところで、その頭についてる玩具は何なのです」

 

 なぎさはさっきからずっと気になっていた部分を指摘する。

 

「近くの本屋(故)で買ったのよ。おしゃれでしょう?」

 

「……良い病院を知ってるからとっととそこに行ってこいなのです」

 

「失礼ね、私はちゃんと正常よ」

 

「少なくとも正常な人は自分の頭におもちゃを突き刺さないのです」

 

「それ痛くないのか?」

 

「ノープログレムね」

 

「問題しか無いのです」

 

「んー、そのおりっちの頭のやつ、俺っちどっかで見たことあるんだよな〜」

 

「気のせいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの金髪のねーちゃん、目つきは悪いが美人だなぁ」

 

「どうでも良い。それよりも奴らが別れたぞ」

 

「ヒヒッ、同行しなかったのはラッキーでしたねぇ」

 

 話を終えたのか、織莉子と知り合いであろう2人は別々の道を歩いていく。

 

「このまま行けば、恐らくターゲットは近道のために路地裏を使うはずです」

 

「狙うならそこしかないな。お前たち、奴が路地裏に入ったらそれぞれ三手に別れるんだ。三羽は路地裏に入った瞬間に奴をあえて音を立てて追いかけろ。焦ったところを俺が真上から狙撃する。二羽は、万が一に備えて路地裏の出口で待機しておけ」

 

「「了解!」」

 

 織莉子は三人の予想通り近道のための路地裏に入って行った。それと同時に3人は散会する。

 

 

(【三羽烏】の何懸けて、ここで必ず仕留めて見せる…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

「どうしたのです、だいり」

 

「いや、おりっちに新曲の歌詞渡すの忘れちゃって…」

 

「そういえば、作ったら欲しいって言ってたのです」

 

「だなー、結構頑張って作ったし」

 

「なぎさとしてはだいりが作曲もできることに驚いてるのです」

 

「あんまりやった事ないし、自信無いけどな」

 

「そこはなぎさが保証するのです!」

 

「えー、なぎっちに歌の保証されてもなー」

 

「文句あるのかなのです!」

 

「うそうそ、嬉しいよ。じゃあ、俺っちこれおりっちに渡してくる!すぐ戻るから!」

 

「5分以内に戻らなかったら夕飯抜きなのです!」

 

「へーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三羽は路地裏の壁から顔を出し、織莉子の背を見る。今のところバレている様子は無い。そう感じると三羽は壁から体を出し、ゆっくりと織莉子の後をつける。だが、先程までとは違い、はっきりと気配を感じられるようにだ。

 

 ざり、ざり、とアスファルトに砂が擦れる音が小さく響く。そして、徐々にその歩を早めていく。未だ織莉子に動きは無い。まだバレていないのかもしれないし、怯えて走り出すことができないのかもしれない。だが、どちらにしろ三羽のすることは変わらなかった。

 

 すると唐突に織莉子が走り出した。三羽も足を合わせるように速度を上げる。だが、今更走り出したところでとっくに手遅れだと三羽は思う。この路地裏は一本道だ。入口と出口は一つしかない。そして出口より少し手前のポイントのアパートに一羽がいる。そこに通りかかった瞬間が織莉子の最後である。

 

 

『アニキ、もうすぐ来るぜ』

 

『ああ、見える。そのまま来い』

 

 こちらに向かってくる2人を確認した一羽は、階段から身を乗り出し、小型のライフルを構える。走ってくる織莉子に銃口を向け、近づいてくる移動と一緒に銃口を動かす。スコープのクロスの中心は織莉子の脳天を捉えていた。

 

 

 

 

 3…

 

 

 

 2…

 

 

 

 1…

 

 

 

 

 

 ダァンッ

 

 

 

 

 

 

 

 銃声と共に織莉子の頭部から血が噴き出る。

 そして、そのまま撃たれた勢いで、どしゃ と、力無く地面に倒れる。

 どくどくと、血が流れ出て、立ち上がる気配はない。

 

 

 

「………ふぅ」

 

 

『流石アニキ』

 

『言うな。一応確認しておけ』

 

『了解っと。…………ああ、息もなし、心臓も動いてないし、瞳孔も開いてる。ばっちり殺れてますぜアニキ!』

 

『…二羽、こちらは終わった。そろそろ引き上げてこい』

 

『了解です』

 

 一先ず仕事は完遂しただろう。少し心苦しいものはあったが、これも俺たちが生きるためだ、どうか恨まないで欲しい。

 俺たち殺し屋は人が豚や牛を食べるように、人間を食べて生きている。人を殺し、そこから生まれた金で生計を保っている。決して許されるようなことではないが、これも条理の一つなのだ。【ぷろきしー】のように世の中で光っている人間もいれば、俺たちのようにこんなやり方でしか進めない暗い奴らもいるのだ。社会とはそんな2つが比例し合うことで初めて機能する。全くもって残酷な話ではあるが、そんなものは今更だ。この世の全ての人間に光を当てるなど、そんなことは不可能なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒヒッ、さぁて、誰かに気づかれる前にとっととトンズラこくか」

 

 

 カシュッ

 

 

「ん、なんだ? なんか音が…」

 

 

 次の瞬間、倒れている織莉子が爆発した。

 

 

「むわぁ!?」

 

 三羽の視界が白色の煙に覆われる。突然のことに驚き、腰に携帯していたハンドガンを構える。

 

「な、なんだ!?」

 

『どうした三羽!何が起きた!』

 

「わ、わかんないです!急に死体から煙が……ギャッ!?」

 

『三羽?返事をしろ三羽!?』

 

 

 

 

「くそっ、二羽!聞こえるか!?」

 

『はい兄者、聞こえます!』

 

「一旦こちらに来い!三羽がやられた!」

 

『何!? 』

 

「裏手から俺のいるマンションの屋上に来い!俺も行く!」

 

『わ、わかりました!』

 

 そう二羽に言うと、急いで一羽は階段を登っていく。未だ視界がままならないこの場所では降りるのはあまりに危険。上に行き、一旦状況を整えようとする。

 

(一体何が起きている!奴は確実に死んでいた!まさか、今になって奴のボディガードが動き出した?いや、それよりも死体から煙が出ただと?つまりあの死体はフェイク?いや、殺し屋である俺たちがよりにもよって死体と偽物を間違えるはずがない!何より奴は俺に撃たれる前からずっと走っていた!偽物のはずがない!なんだ、何なんだ、何なんだこれは!?)

 

 

 事態の急変に一羽は混乱していた。相手を殺したのに、なぜか反撃を喰らっているのだ。訳がわからなかった。

 マンションの屋上の扉が目に入る。取り敢えずは、二羽と合流してからだ。一羽は屋上の扉を開け、二羽に連絡を入れる。

 

「二羽、こっちは屋上についた。お前がつくまでそっちで何か変わったことがあったか報告してくれ!」

 

『ーーー』

 

「二羽?二羽!?おい二羽!?」

 

 

 

「お探しなのはこの人かしら?」

 

「!!?」

 

 

 

 声の聞こえた方へ振り返ると、そこには殺したはずの美国織莉子が何事もなかったようにそこにいた。そしてその手にはぐったりと項垂れた二羽が引き摺られている。

 

「な、何だと…!どうやって二羽を…!いや、そもそも何故生きている!!俺はお前の頭を確かに撃ち抜いたはずだ!」

 

「あれは私の作った精巧な人形。路地裏に入って貴方たちが目を離した隙にすり替えておいたのよ」

 

「にん、ぎょう?馬鹿な!さっきまで走っていただろ!あれが人形だと!?」

 

「説明するだけ無駄よ。あとは貴方だけ」

 

「クソッ!!」

 

 ダンッ

 

 一羽は近づいてくる織莉子に対して携帯していたハンドガンを素早く手取り、迷いなく撃つ。

 

「な、なに…?」

 

 銃弾は織莉子の指先一つで止められていた。そのままピンッと指で弾くと、銃弾は地面に転がり落ちる。あまりにふざけた光景に一羽は唖然とする。

 

(何なんだコイツは!デタラメだ!俺の理解を遥かに超えている!)

 

 織莉子は一歩ずつ一羽との距離を詰め、一羽は一歩ずつ後ろに下がる。じりじりと追い詰められているのを自覚する。いや、一羽たちはとっくの昔に織莉子の罠にかかっていたのだ。

 このままでは打つ手な無くなると思ったその時、ある光景が一羽の目に入った。

 

 

「おりっちー?どこだー?」

 

 

(あ、あれは、あの時奴と話していた…!)

 

「! だいり!!」

 

 それに気がついた瞬間、一羽はマンションから飛び降り、まるで猿のように素早く換気扇のパイプ伝いに降りていき、地面に着地する。そして一目散に目の前の人物ーー、だいりに向かって走り始める。

 

(もうコイツを人質に取るしかない!!)

 

 一羽は基本的に一般人を巻き込まないことをポリシーとしていたが、もうそんなことは言っていられなくなった。ここで退けば俺たちが殺られる。そのまま痺れ毒の塗られた暗器を手に握り、その首元を狙う。一傷だ。傷一つで良い。そうすれば状況は一気に俺に傾く!

 

 

 そしてそのまま暗器を首元に当てようとその手を振りかぶる。数ミリ先まで刃先が迫る。

 

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 がしっ

 

 

 その瞬間、暗器を持った手首を掴まれた。

 

 

 スパァン

 

「ガッ!?」

 

 突然な浮遊感と共に体幹が崩れる。

 

 

 ゴッ

 

「ぶご…!」

 

 

 顎のあたりに衝撃を受けて、そのまま一羽の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「だいり!!」

 

「あ、おりっち。やっと見つけた」

 

「無事!?どこにも怪我はない!?」

 

「大袈裟だってー。俺っちだって腐っても魔法少女……って、ちょ、あははっ、そんな体触んないで!くすぐったい!」

 

「…怪我は…無いわね。…はぁ、良かったわ」

 

「だから大丈夫だって言ってるじゃん」

 

「貴方のその言葉だけは信用できないのよ!あの時だってあんな大怪我隠してたじゃない!」

 

「い、いやー、あれは悪かったって…。というか、この人誰なの?いきなり武器持って襲ってきたから取り敢えず一発殴っといたけど…大丈夫なのかこれ」

 

「ええ、何一つ問題ないわ。そもそもだいりを襲った時点でこの男は極刑よ」

 

 それを聞いてだいりは思わず苦笑いする。「ほどほどにねー」と言うと、ふと倒れている男に目をやった。だいりはこの男が何なのかさっぱり分からなかったが、とりあえず危険物は持っているみたいだったので、危ない奴なのだろう。だいりは他に武器が無いか、一羽の着ているコートを調べてみる。

 

「おー、すげー。見て見ておりっち!この人の服の中、武器がいっぱいある」

 

「あまり触らない方が良いわよ。毒が塗られてるものもあるみたいだし、爆発物もあるかもしれないわ」

 

「俺っちそういうのは大丈夫だって。……おっ、何だこれ」

 

 だいりは一羽のコートのポケットからカードのような物を取り出した。

 

「【ぷろきしー】公式ファンクラブ会員証?え、この人俺っちのファンだったの!?」

 

「ああ、そうだったわね。だいりに対する熱意だけは本物だったからわざわざ案内して会員にしたのだけれど、よりによってその大好きな【ぷろきしー】に襲い掛かるなんてファン失格も良いところだわ」

 

「まぁまぁ、良いじゃんか。皆んなで作ったお面の効果がちゃんと出てるってことじゃん」

 

 だいりが【ぷろきしー】として活動する際につけている能面は織莉子とマミと杏子、そしてだいりが共同で一週間かけて製作した物だ。このお面には他者の認識を逸らす効果があり、これのおかげで仮にだいりを知ってる人物が【ぷろきしー】の動画を見たとしてもだいりだと気づかれないのだ。ただし、燃費が悪いので効果時間が少ないことと、魔法少女のような魔力が扱える人には効果が薄い。しかし、基本的にだいりが撮る動画はどれも短時間の音楽系なので、燃費はそこまで気にかからない。なので、だいりはこれを大変重宝していた。

 

 

「…おりっち、この人この後どうすんの?」

 

「そうね、まずは証拠資料と一緒に警察に突き出して、殺し屋としての実績で実刑刑期を後押しした後、牢獄内で一生光の無い生活をしてもらうわ」

 

「容赦無いな!?」

 

 いくら襲い掛かってきたとはいえあんまりな仕打ちだとだいりは思った。

 

「死刑にしないだけマシだと思って欲しいわ」

 

 冷ややかな目で一羽を見下ろす織莉子。いかなる理由があろうとも織莉子はだいりに手を出す者を決して許すことはない。目の前の一羽の運命は既に地獄行き一直線であった。

 

「…おりっち、この人のこと警察に連れて行くのやめてくれない?」

 

 ここに雪野だいりが居なければだが。

 

「…どうしてかしら?」

 

「んー、なんだかんだで俺っちのファンらしいし、それに、何か根は悪い人には見えないんだよな」

 

「………」

 

「何かあったら俺っちが何とかするから、お願いっ!」

 

 

「…………だいり、貴方はどうしていつもそうなの」

 

「え?なんか言った?」

 

「いえ、何でもないわ。それよりも、貴方と言う通りよだいり。確かにその男は殺しを生業としてるけど、それは家族に資金を送るため。どうやら彼の住んでた街では身分差別が激しくて家族揃って働くことすらできなかったみたいね。だから少しでも家族にお金を送って良い生活をさせてあげたかったみたい」

 

「…そっか」

 

「人を殺して良い理由になりはしないけれどね」

 

「……」

 

「…ふふっ、大丈夫よ。だいりに免じて彼らの安全は何とか保証するわ」

 

「マジで!?ありがとうおりっち!」

 

「ええ、ところで私に何か用があったのかしら」

 

「あ、そうだ!はいこれ、新作の歌詞!」

 

「あら、もうできたの? 頼んで3日くらいしか経ってないけど」

 

「おう!なぎっちと一緒に考えて……あっ!!」

 

 だいりが何かに気づいたように顔を上げる。

 

「そういえば、五分以内までに戻らなかったら夕飯抜きなんだった!ごめんおりっち!それ渡しとくからなんか変だったらメールで送って!じゃあまた明日!」

 

「ええ、また遊びましょう。気をつけてね」

 

「はーい!」

 

 慌てて走り去って行くだいりの背中を織莉子は優しい笑みで見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街中に建つ巨大な洋風の屋敷の住宅。白と赤で彩られた荘厳なその様は、屋敷の前を通りかかる人々も少なくない畏怖の感情を持つが、その屋敷に住む人物に嫌悪を抱くものは1人もいない。なぜならそれほどその人物が周囲の人々から信頼されている人物だからだ。少なくとも地域の人たちからは。

 そんな屋敷の一室。物腰の柔らかそうな中年の男性が高級感のあるソファーに座り込んでいる。男はグラスに注がれたワインの紅を揺らしながら、外の夜景を眺めていた。

 感傷にふける中、扉を軽く叩く音が響く。男は従者に部屋に入るように指示する。

 

 

「…失礼いたします」

 

「三羽烏からの報告はまだかね?」

 

「いえ、残念ながらまだ…」

 

「ふむ、しくじったか…。予想はしていたが」

 

 三羽烏は男が知る中でもトップクラスの実力を持つ殺し屋だった。三羽烏は、依頼を受けてから必ず3日以内には標的を殺すということで有名だ。それが、あろうことか一週間以上経った今にも一報すらない。ならば、失敗したと考えるのが自然だろう。

 三羽烏噂は本物だと知っているし、実力を疑っていたというわけでもない。だが。

 

「三羽烏をも対処してしまうとはな。正直なところかなり驚いた。別に今回は殺すことが目的ではなかったが…」

 

 美国織莉子。彼女は今までも幾度となく他の政権者からけしかけられた暗殺者を躱してきた。彼女を殺そうとした暗殺者は、ある者は警察に捕まり、ある者は諦め、ある者は失踪し、ある者は発狂した。今ではその界隈でも彼女の名は知れ渡っており、織莉子のことを恐れて依頼を断る者までいる始末である。今回の三羽烏の件でそれは一層強まることになるだろう。

 男はワインを一口飲む。

 

「やれやれ、まったく生き汚いことこの上ないな。美国議員の娘と聞いていたが、しぶとさだけは似ていない」

 

 男の名は、八重樫健三郎。地元の住民からは八重樫議員の名で親しまれている。この日本の政治を取り仕切っている国会議員の中でもとりわけ顔が立つ人物だ。物腰が柔らかく、柔和で落ち着きのある雰囲気の彼だが、政治の世界ではその手腕と容赦のなさで名が知れている。

 

 

「まぁ、彼女の勢いもそろそろ止まるからだろうがね。君、なぜだか分かるかな?」

 

「…申し訳ありません。分かりかねます」

 

「ははっ、良いよ良いよ。 …彼女にはね、己がないのだよ」

 

「己…ですか」

 

「以前、美国議員の葬式に行った際に彼女の様子を見たことがある。歩いている彼女の目は妄執に取り憑かれていたよ。彼女の目には死んだ父親の姿しか写っていない。死んだ父親…美国久臣の背を追いかけ、己を動かしているだけだった。そんな受け売りの信念でこの世界を生き残ることはできない。もっとも、彼女は政治家では無いがね」

 

 八重樫は席を立ち、夜景が覗く窓の方へ歩いていく。

 

「美国久臣は確かに優れた政治家だった。だが、それを模倣したからといって彼のようになれる訳がないのだよ。所詮彼女は子供だ。物事を多面的に捉えることのできない自分勝手な今のままではやがて周りから見限られるのだ」

 

「………なるほど」

 

「何より私から見た美国家というものは皆、己の家族に目を焼かれ過ぎている。美国久臣すらも己の父への劣等感が自らを破滅に導いた。同じようにその娘の美国織莉子もまた父の背中を追って滅びるのだよ」

 

 八重樫は酒を飲んだからか、いつもより口が回ってしまっていることを自覚する。

 

「いやしかし、美国久臣は本当に見ていて面白い人間だったよ。初めて会ってからの彼の変わり様は私を楽しませるには十分だった。後押しの言葉一つであっさり改竄に手を染めるのだからね。おかげで私も政敵がいなくなって随分と楽になったよ」

 

 八重樫にはかつて政敵と呼べる存在がいた。それが織莉子の伯父…美国久臣の兄である。八重樫は、その兄と同じ派閥にいた久臣を唆すことで、彼の派閥の信用を奪い、その派閥を潰すことに成功していた。

 だが今、彼は再び美国の系譜である織莉子に己の政治を邪魔されかねない状況となっている。八重樫は小さく笑みをこぼす。

 

 

「だがね、こう見えても私は美国織莉子の能力を高く買っているのだよ。彼女の能力は明らかに彼を上回っていた。いや、それどころか自身の祖父すらも超えているかもしれない。そう、だからこそここで彼女を落とす必要があるのだよ。あの能力の高さは今の不安定な心ありきでも脅威の一言に尽きる。はっきり言って甘く見ていた。もっと早くに始末するべきだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは光栄ですね、まったく嬉しくありませんが」

 

 

「!?」

 

 

 すぐ真後ろから聞こえてきたその声は、明らかに先ほど話していた己の従者とは違うものだった。

 八重は一瞬目を見開くが、すぐにポーカーフェイスを戻して冷静に背後にいる人物、美国織莉子に言葉を投げかける。

 

「………驚いた、直接君が来るとはね。私の従者はどうしたのかな?」

 

「今は自室で寝ていますよ。彼女の代わりに私が来ましたので」

 

 部屋に入ってきたのは従者に変装した織莉子だったのだ。八重樫は今になるまで全く気付くことができなかった変装に素直に感心する。

 

「驚いたよ。君にそんな特技があったとはね」

 

「まぁ、趣味みたいなものですわ。おかげで色々とお話が聞けましたし」

 

「おやおや、話を聞いていたのかい。盗み聞きとは品がない。何より、君にアポを取った覚えもないのだけれどね」

 

「アポ?生憎私はわざわざ口の開けたワニの口の中には入りませんよ」

 

「…驚いたそこまで分かっていたとは。まぁだが、話を聞いていたのなら、尚更理解できるだろう。君には自分の信念がない。このままではいつまで経っても父親の亡霊に取り憑かれた愚かな君のままだ」

 

「……」

 

「さて、君はここに何をしにきたのかな?こうして私と話をしにきただけではあるまい。もしや父親を追い詰めたの復讐で私を殺しにきたのかな?ならば、それはお門違いというものだ。結果的に彼は自分で行動し、自分で滅んでいった。私は飽くまで手段を提示したに過ぎない。君の信じる父親自身が決めたことなのだよ」

 

「…」

 

 

「それにね、殺したと言うならばそれは君も同じだよ。君があまりに優秀過ぎた故に美国久臣は命を絶ったのだから」

 

 

 美国久臣は、優秀な政治家ではあった。…そう、優秀なだけであって、天才ではなかった。はっきり言ってしまえば、彼の能力は天才だらけの美国家では実力不足だったのだ。だから彼は、己の父に切り捨てられ、美国家の敷居を跨ぐことを許されなくなった。

 そして時が経ち、彼の前に再び天才が現れた。それが自身の娘である美国織莉子。彼女は母の死をきっかけに父親を支えようと己の感情を胸に押し込み、子供の振る舞いをやめた。久臣にはその姿に父の面影を感じてしまった。彼は娘にまで捨てられてしまうのではと恐怖した。だから、焦った。その焦りから彼は結果を早とちりしてしまったのだ。その結果が経費の改ざん。周囲にそれがばれ、周りの目に耐えられず、彼は自害した。

 

 

「彼は生前、こう言葉をこぼしたことがあったよ」

 

 

 

 

 

 

 ーーー娘が怖い、と。

 

 

 

 ーーー君は父親に恐れられていたのだよ。美国織莉子。

 

 

 

 

 

 

 

「…………そう、やっぱりそうだったのね」

 

 

 

 そう小さく言葉をこぼす。

 今の織莉子からは八重の顔は見えない。だが見えなくとも、今彼が政治家としての得体の知れない顔をしていることは理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度聞こう、君はここに何をしにきたのかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数秒の静寂の後に織莉子は口を開いた。

 

 

 

 

「…確かに、私は貴方のことを少なからず恨んでいます。私にとってお父様は全てだった。私にとって父の背中こそが目指すべきものだった。…でも貴方の言う通り私は父親の幻影を追っているに過ぎなかった。きっと私のお父様を支えようとしたその驕りにも近い気持ちがお父様を滅ぼしたのかも知れない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーでも、一つだけ違いますよ。八重樫議員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八重の体は勢いよくぐるりと回転し、織莉子と向かい合う形になる。

 

 そしてその目を見た。

 

 

 

 

 

 

 

「私の心にはもうお父様はいないわ。だって私の中にもうお父様の正義も、私の正義も無いのだから。私の心にあるのは信念。たったその一つだけ。だから私は世界のために動いていないの。この世界がどんなことになろうとどうでも良いわ。私にあるのは、()を救うという信念だけだから」

 

 

 

 

 

 

 

 狂っていた。本来なら正しく回るはずの歯車が逆回転を起こしていた。だが、なぜか彼女は正しく心が動いていた。心が普段と逆に回っているのに、振る舞いは普段通りだった。彼女は正しく狂っていた。

 

 

「……お、お前は!」

 

 

 どうなっている、あまりに違う!

 あの時、最後に織莉子を見た時と、今の彼女はあまりに違った。人間の心とは時間と共に変化していくものだ。今の彼女ならば多少の気持ちの整理をつけているだろうとは予想していた。だが、これは整理しているどころでは無い。積み重ねてきたものをひっくり返してぶち撒けて、捨て去ったのも同じだ。

 

 

 彼女のあまりに真っ直ぐな瞳が、前しか見えていないその瞳が、たった一つしか見えていないその瞳が、八重樫は恐ろしく仕方なかった。こんなものは見たことがなかったからだ。無意識に小さく歯を鳴らしてしまっている。

 

 

 

「質問に答えましょう」

 

 

 織莉子の顔が目の前にまで迫る。

 八重は後ずさり、窓に背中をぶつける。

 

 

「ここに何をしにきたか」

 

 

 織莉子の姿が純白のロングコートに変わる。

 

 

「八重議員。貴方は見滝原を含めた複数の街を統括する立場にある。私の目的のために、その立場は非常に有用と判断しました」

 

 

 八重の視界が織莉子で満たされる。

 

 

 

「ですので」

 

 

 

 織莉子が、おり、おりrrrrrrrり、kk、こ、g、おry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貰います」

 

 

 

 

 

 

 

 崩れ落ちる八重が最後に見たのは織莉子の頭の上でケタケタと笑う花だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八重樫議員、市役所から資料が届きました」

 

「ああ、そこに置いといてくれ」

 

 ぱさりと作業机に置かれる資料の束。八重樫は資料の1番上の項目に目を通す。

 

「ふむ、見滝原市への資金援助要請か。確か公共の大型公園を制作するためのものだったね…」

 

 資料の内容を確認し、秘書の女性が不安そうに疑問を口にする。

 

「…大丈夫なのでしょうか。理由は正当なのですが、要求額は決して少なく無いですし、リスクが大きいのでは」

 

「はは、大丈夫だよ。あの街には私の信頼できる議員が何人かいる」

 

 ぱさりと資料を置く。

 

 

 

 

「それに向こうには、織莉子さんもいるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケタケタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足


雪野だいり:実は機械は苦手で、動画撮影にはだいぶ手こずった。なぎさと本を買いに出かけていたところ、殺し屋に人質にされかけるが、普通に撃退。魔法少女だからな!夕飯は抜きになりました。後日、恐ろしいほどまでに統率された自身のファンクラブを見て戦慄することになる。

美国織莉子:だいり至上主義。殺し屋が来ることは予知で知っていた。隙あらば依頼者を手駒にしようと考えていたので、今回の成果にご満悦。原作とはある意味真逆の道を歩き始めてる。世界平和?あいつは置いてきた。この戦いにはついて来れないからな…。

ひっつき花:頭に刺した人の動きを真似する正体不明の魔道具……というのは織莉子がついた嘘で、実は織莉子が制作した自作魔道具『織莉子ちゃん☆フラワー』。訳あって少し前に紛失してしまい、ずっと探していた。対象を深い催眠に落とすとさことが可能で、かけられた人は無意識下にその催眠に沿った行動をする。今回の場合、八重樫に「美国織莉子を心から信頼する」という催眠をかけた。催眠は永続であり、強力だが、花本体を破壊すれば、催眠は解ける。なので、催眠は1人にしか使えない上に催眠を継続するには定期的に魔力を供給し続ける必要がある。頭に刺すことで、使用者の魔力を吸って充電できる。曰く、痛くは無いらしい。

佐倉杏子:妹にとんでもない凶器渡されて激昂。織莉子の奴、次会ったら殴る。

佐倉モモ:とんでもない凶器渡された子。すっかり「せーふてぃー☆ベアーちゃん」を気に入ってしまい、肌身離さなくなった。おかげで杏子は頭を悩ませている。織莉子の奴、次会ったら殴(ry

百江なぎさ:実は動画撮影のカメラマンをしていた。あの後毒入りチーズケーキをパックリ食べてしまったが、日頃、もっと酷い劇物を目にしているので平気だった。それはそれとして織莉子は次会ったら(ry


【三羽烏】:凄腕の殺し屋チーム。3日以内には必ず依頼を達成されると言われることでその界隈ではかなり有名で、別国の人から依頼を受けることも珍しくない。織莉子とだいりにこてんぱんにやられた後、見滝原に貢献するという契約を結んだ上で、職場先を提供してもらった。

一羽:チームのリーダー。他2人の兄貴分。殺しの技術、戦闘センスは共にずば抜けて高く、世界でもトップクラス。その気になれば魔法少女とさえ殺り合えるとんでもない奴。【ぷろきしー】の超大ファンであり、ドルオタ気質なところがある。

二羽:チームの頭脳的存在。ターゲットの情報収集や、プランの制作を主にしている。戦闘面は3人の中では最も不得意だが、運動神経は普通に良い。『マジカル☆リボン団』に入団しており、巴マミを崇拝している。

三羽:チームのムードメーカー兼メカニック。機械いじりが得意で、銃器や火器なども自在に修理、制作できる。彼の自宅には大量のカスタマイズされたガンプラがあるとか…。百合カップルを見守るのが何より大好き。百合の気配がする女性を百合ガールと独特な名前をつける。

八重樫健三郎:今回、【三羽烏】に織莉子殺害を頼んだ張本人。面は優しげな国会議員だが、策謀飛び交う世界を生き抜いてきた権力者。なので、自分の政治を邪魔するもの、邪魔になるものの排除にはかなり徹底的で、織莉子の父には心が弱っているところに、汚職の選択肢を与えて、自滅させた。今回は織莉子の心が父親に囚われているままだと思い込んでいたので、優秀な暗殺者を仕向け、焦らせてから、対談で直接心を折ろうとする狙いがあったが、いざ会えば織莉子の変わりっぷりにびっくらこいて、その隙に洗脳させられた。

織莉子ちゃん☆ドール:織莉子が路地裏で三羽烏の目を躱すために使った魔道具。普段は掌サイズのボール状だが、使い手の魔力を流すことで、その魔力の持ち主に変身でき、命令通りに動くことも可能。ただし形を保てるのは2分間だけで、2分経つと白い煙と共に爆発する。







〈おまけ〉


「…なぁ、お前ら」

「何ですか兄者」
「何ですかアニキ」

「俺たちは随分と変わっちまったな…」

 現在、【三羽烏】の面々は、事実上殺し屋から足を洗い、織莉子によってそれぞれに合った働き先を用意されていた。労働時間こそ多少長いが、殺し屋をやっていた時よりも多くの資金が得られており、休暇や長休みなども用意されている完備っぷりである。

「三羽、お前何の仕事してるんだったか」

「俺ですか?ヒヒッ、俺は機械工場ですよ。修理とかちょっとした機械とかの部品作ったりするとこです。結構大変だけどやり甲斐あって楽しいですぜ!」

「そうか、二羽は?」

「…俺は市内の新聞記者ですね。情報収集能力を買われたみたいで…。新聞会社なんてどこもロクでもないところばっかだと思ってたんですけど、給料は良いし、同僚は優しいし、上司は良い人すぎるし…、見滝原ってこんな良い街でしたっけ?」

「犯罪件数も減ってるって聞いたなぁ…」

「美国さんが実質取り仕切ってるような街だ。そりゃ減るだろうな」

「そうですね。で、兄者はどこに?」

「俺は中学の体育教師だ。体の動き方の基礎とかを教えてる。最初は面倒だとか思ってたんだが、これが意外と楽しくてな…。つい、実家の妹たちを思い出してしまう。最近は運動神経の高さを買われて、地域のスポーツの大会に参加しないかって言われてるところだ」

「本当ですか?今度見に行きます」

「バッチリ決めてくれよアニキ!」

 ありがとう と、軽く返事をすると、出されたワインを一口飲み、正面の何もない虚空を見つめる。


「…なぁお前ら、あの時何が起こったか理解できたか?」

「え?あの時って…もしかして、織莉子さんを殺そうとした依頼の時ですか?」

「ああ」

「あー、あれからまだ一週間ちょっとしか経ってないんですね」

「今に思えば結構馬鹿なことやってたよなぁオレたち…。んで、その話がどうかしたんですか?」

「いやな、あの時何があったか覚えているか?あの後目が覚めた時は色々とバタバタしていて会話ひとつ交わせなかったろう」

「あー、確かに」

「つっても、オレたち何も覚えてないですよ。いつの間にかやられてたって感じだしなぁ」

「俺も同じです。階段を登ってたら突然意識が…」

「アニキは確か、織莉子さんと相対してやられたんでしたっけ?」

「……いや、違う」

 一羽は一つため息をつくと、ぽつりと話し始めた。

「実のところ……俺は名も知らない一般人にやられた」

「え、そうなんですか?でもアニキがそこらの奴らに遅れを取るなんて思えねぇけどな」

「……朧げだが、確かに覚えている。あいつを人質に取ろうとした瞬間に俺は、武器を持った手を掴まれ、足を払われ、そして顎に殴打を受けた。恐らくその時に脳震盪で気絶した」

「マジかぁ…。凄え奴もいたもんだなぁ」

「そしてそいつは、あの時路地裏に入る前に美国さんと話していた金髪の少女だった」

「ああ、あの目つきの悪い」

「織莉子さんと言い、そのねーちゃんと言い、とんでもない奴ばっかりだなぁ見滝原。ってなると二羽が言ってた団長とやらの話もあながち嘘じゃ無いんだろうな」

「それは本当だと言ってるだろう。…それで兄者、その少女がどうかしたんですか?」


「………俺は殺し屋をする前は賞金稼ぎなんていう馬鹿なことやってた。とにかく金を稼げれば良かったからな。だから殺しにおいてはお前たちよりもイロハがあるつもりだし、死にかけた数も両手じゃ足りない。だからそういう死に近い人間も雰囲気で大体わかる」

 一羽はぐびりと、ワインを飲み干す。

「……そう、だから、だからこそ俺はあの瞬間、確かに見た」


 一羽は憂うように天井に目を向ける。


「…あの少女に纏わりつく、夥しいほどの死の気配を」


「あれは、普通に生活していれば絶対につかないものだ」


「きっと俺は、あの時気を失わなくとも、怯えて動けなかったろうな」


 はは と、乾いた笑いを一羽はして、二本目のワインに手を伸ばした。どこか怖いことを忘れたい子供のような様子の一羽を見て2人は、ようやく自分達が今夜呼ばれた理由を察した。
 誰だって酒に逃げたい時はある。2人は一羽に返しきれない恩があるのだ。だから今はそんな自分達の兄貴分の逃避行に付き合うことにした。




 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。