バカが魔法少女になった話   作:わらしべいべー

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なぎさちゃんて可愛いよね



クッキング・パニック

 

 

 

 朝の食事時、チュンチュンと外からの雀の鳴き声を聞きながら鼻歌まじりになぎさは朝食の準備をしていた。

 今日もなぎさに叩き起こされ、若干不機嫌なだいりも死んだ目をしながらも朝食の席に座っている。

 

 

「さぁ、召し上がれなのです!」

 

 

 そう言われだいりの目の前に出されたものは皿に盛られているチーズの塊であった。

 チーズはレンジで焼かれたからか少し焦げており、その上にケチャプがかけられ、さらにその上に大量の粉チーズがふりかけられていた。

 

「いや、朝から重いわ」

 

「そんなことないのです。むしろなぎさの一日のチーズはこれで決まると言っても過言ではないのです」

 

「いやむしろチーズキマってんのなぎっちの頭。なんなのこれ、チーズの中にチーズが入ってるんだけど、粉チーズが塔を作ってんだけど、カロリーの権化かよ」

 

 皿にのったチーズの塊を箸で開くとチーズの層の中にさらにとろけたチーズが入っていた。実に胃袋にきそうである。流石にこれを朝から食べるのは胃も気も重い。

 

「というかそろそろチーズ以外のものも食いたいんだが。流石に一日全食チーズは狂気の沙汰だぞ」

 

 今現在の百江家では朝昼晩全てにおいて料理の何処かしらにチーズが入っている。

 具が全てチーズのピザ、さけるチーズの入っているサラダ、白米にまで大量のチーズが染み込んでいるグラタン、チーズの唐揚げ…etc

 度重なるチーズ料理にだいりは限界であった。

 

「もう俺っちはその黄色い物体をしばらく見たくない。今も若干吐き気を催しているからな」

 

「……まぁ、だいりの言うことにも一理あるのです。けどチーズはなぎさがなぎさであるために必要なものなのです。それはだいりもよくわかっているはずなのです」

 

「じゃあせめて俺っちの料理だけでも普通にしてくれ。このままだとソウルジェムからチーズが出てきそうだ…」

 

「………はぁ、わかったのです。そこまで言うならだいりの出す料理は普通のものにするのです」

 

「やった!」

 

 ただし、となぎさは付け加える。

 

「一週間のうち三日間だけなのです。それ以上の妥協はなぎさは許さないのです」

 

「ぐっ、相変わらずその謎のチーズ推しはなんなんだ…。最初はこんなんじゃなかったのに…」

 

 どうしてこうなったと頭を抱える。

 

「誰のせいだと思っているのです、このバカ。あと一つ問題があるのです」

 

 俺っちはバカではなぁい…と、だいりがなぎさに下を向けていた顔を向ける。

 

 

「今日が賞味期限のチーズが大量にあるから、今日中にそれを全部食べないといけないのです」

 

 

 どこからか大量に積まれた市販チーズを机に置き、それを見ただいりの目の前は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 だいりとなぎさは冷蔵庫や棚の中からあるだけの本日賞味期限のチーズを出していた。大きめの机に並べても軽く山ができるほどの多さで、種類もバラバラだが、少なく見積もってもコース料理5人分ほどはある。

 

「なんでこんなに大量の賞味期限寸前のチーズがあるんだよ…」

 

「3日前ぐらいに、近所のスーパーで特安で売られていたからその時に買っておいたのです。新しいチーズ開発に使おうと思っていたのですが…」

 

「アレは本当にやめてほしいです」

 

 以前なぎさはチーズの実験をして誤って魔力を込めてしまい、おぞましい生命体を生み出してしまった。危うくだいりはチーズに食われそうになったのだ。そのためなぎさは暫くチーズ開発は禁止となっていた。本人曰く新しい味のさけるチーズを作ろうとしていたらしいが…

 

「アレの何処がさけるチーズだよ。むしろ叫ぶチーズだよ!わかる!?あの生命体ではない何かと相対した時の俺っちの気持ち!新手の魔女かと思ったわ!」

 

「あ、あれは悪かったのです。それよりもこのチーズたちをどうにかする方法を考えるのです」

 

 目を泳がしながら露骨に話を逸らしたなぎさはそのまま机に置かれているチーズの一つを手に取り、そのまま包装を外し、ポイッと口の中に放り込む。

 

「ん〜、やっぱりチーズは美味しいのです」

 

「てゆうかさ、ロリコンに食わせりゃいいんじゃないの?あいつ満腹とかないと思うしさ」

 

「それは無理なのです。キュウベェは昨日から別の街の魔法少女の様子を見に行くから一週間は帰ってこないって言ってたのです」

 

 いつもは鬱陶しいくらいいるのに肝心な時にいないのがキュウベェである。

 

「俺っちたちで何とかするしか無いってことか…」

 

 だいりは改めて机にあるチーズの山に向き合う。

 なぎさは恐らくここにあるチーズをひとつたりとも捨てることは許さないだろう。

 今日に至るまでの食事はずっとチーズ三昧だったので、目の前のチーズを全て今日中に処理しなければと思うとかなり気が重い。

 

「…じゃあ誰か呼ぶか。流石に俺っちたちだけでこれ全部食べんのは無理だわ」

 

 少なくとも2人だけでここにあるもの全てを食べ切るのは無理だと判断しただいりは誰か手伝ってくれる人物を呼ぼうと考える。

 

「あ!じゃあマミを呼ぶのです!」

 

「マミっちを?」

 

「マミはこの前来た時も美味しいお菓子を作ってきてくれたのです!きっとマミなら美味しいチーズ料理を作ってくれるのです」

 

 バイクの魔女の一件以来、なぎさとだいりはマミと会うことが多くなった。

 マミの放課後のパトロールにも3人で行くことも多くなり、それなりに親交が深くなっていた。

 

「てかなぎっち、マミっちの連絡先知ってたのか」

 

「マミが家に来た時に交換しておいたのです」

 

 そう言うと、なぎさはマミに電話を掛ける。

 1コール…が始まった瞬間に電話が出る。

 

『もしもし、なぎさちゃんかしら?』

 

「おはようなのです!マミ」

 

 マミの電話に出る早さになぎさは驚いた様子だったが、すぐにマミに対して要件を述べる。

 

 

(…前に家に来た時から思ってたけど、マミっちもしかして俺っちとなぎっちの以外に友達いない?)

 

 

 電話越しにマミと会話するなぎさを横目にだいりはそんなことを考える。

というのも、マミは3人で魔女を倒した後日、百江家にお礼を兼ねて訪ねてきたのだが、その時に自作のケーキやクッキーを持ってきてくれた。

 それ自体はとても美味しかったのだが、何と言うか、少し会話の中でマミの態度が妙に堅いように感じた。最初は緊張しているのかと思ったが、積極的に自身の紅茶を振る舞ったり、お互いの趣味や魔法について話したりと一見すれば礼儀も正しい頼れるお姉さんだ。だいりは気のせいだと思った。

 

 話の途中でマミの鞄からチラリと見えた大量の付箋が挟まれている『確実!お友達の作り方!』と書いてある本が見えなければだが。

 

 もしかしたらマミの交友関係はかなり絶望的なのかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちになぎさはマミに説明を終えたようだ。

 

「と言うわけなのです。なんとかマミの力を貸して欲しいのです」

 

『そう言うことならお安い御用よ。準備をしたらそっちに向かうわ』

 

「ありがとうなのです!」

 

 どうやらマミはだいりたちに協力してくれるようだ。

 なぎさは電話を切ると、こちらに嬉しそうに顔を向ける。

 

「やったのです!マミが協力してくれるのです!これで百人力なのです!」

 

 美味しいチーズ料理をたくさん食べられるのです!と嬉しそうにその場を飛び跳ねるなぎさ。

 

「でも1人増えただけでこの量を全部処理し切れるのか?」

 

「ふふーん。チーズは料理次第では長持ちするものに変えることもできるのです!なぎさ1人じゃ、単純に料理の人手が足りなかったのです」

 

 そうドヤ顔で言うなぎさだが、なぎさはまだ料理初心者。実際はそれらを作るには技量が足りないだけである。

 

 

「料理くらいなら俺っちが手伝っt」

「おめーは絶っっっ対に料理はするななのです」

 

「えー何で?」

 

「何でじゃ無いのです!あの悲劇を忘れたとは言わせないのです!」

 

 以前だいりは料理を作り、百江家を絶望に叩き落とした前科がある。

 

 その日はなんでもない1日のはずだった。しかしだいりが気まぐれでキッチンに入ったのが運の尽き。数分後家中に充満する凄まじい異臭。なぎさがその猛毒のような異臭に体を蝕まれながらも何とかキッチンにたどり着く。

 

 そこにあったのは絶望そのものだった。

 

 だいりは机にあるその物体はなんと目玉焼きだと言うのだ。

 

 そう、だいりは絶望的に料理ができないのである。

 何をどう作らせても虹色の叫ぶ物体を錬成してしまう狂気の手腕を持っているのだ。何をどうしようと卵焼きがマンドラゴラのような叫びをあげることはない

 

 その卵焼きだったものを見たなぎさの反応といえばもう見るに堪えないと言えるだろう

 なぎさがそれを視界に入れた途端、まるで何か見てはいけないものを見てしまったかのように尋常ではない断末魔をあげながら、目を押さえて床を転げ回った。

 そして最終的には泡を吹いて気絶し、丸一日起きることはなかった。

 恐らく魔法少女でなければ死んでいたとなぎさは後に語っている

 

 とにかく視界に入れるだけで人体に多大なダメージを与えるほどにだいりの料理はヤバイのだ。

 

 

「いやー、あの時はびっくりしたぞ。いきなりなぎっちが俺っちの作った卵焼きを見て倒れるんだから」

 

「なぎさはアレを料理とは認めないのです…!自分のことを料理だと思い込んでいる一般暗黒物質なのです…!」

 

 なぎさはその時のことを思い出したのか顔を真っ青にしてガクガクと震えている。

 だいりは自分の料理が異常だと言うことに気づいていない。今回のようなものができたとしても、何の違和感も感じず人の前に出してしまう。なんなら自分で食べてしまう。

 余談だが、結局だいりの作った卵焼き(仮)はキュウベェが美味しくいただいた。何故か食べた瞬間に変な音を立てて動かなくなったが。

 

「とにかくだいりは何があっても絶対に料理を作るななのです!なぎさたちの生命に関わるのです!」

 

「えー、なんでだよ。俺っちあれ食ったけど平気だったぞ」

 

「オメーが異常なだけなのです!!!!!」

 

 なぎさが渾身のツッコミをだいりにいれて、大きなため息をつく。

 

「とりあえず、もうすぐマミが来るからこっちも準備をしておくのです」

 

 そうなぎさが言うと、机に山を形成しているチーズを片付けようとする。

 

 

 『ピンポーン』

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 「〜♪」

 

 

 

 その日、巴マミは上機嫌であった。

 巴マミは魔法少女になってから孤独な人生を送ってきた。両親もいなくなり、魔女退治の影響で付き合いも悪くなり、クラス内での話題にもついて行きにくくなった。

 クラスメイトともコミュニケーションも取れなくなったことでマミは完全にクラスで孤立してしまい、いつしか人とどう接せれば良いのかすら忘れてしまっていた。要するにボッチでコミュ障なのである。

 

 しかし、そんな彼女を神様は見捨てていなかったようだ。

 この間、魔女退治の時に知り合った百江なぎさと雪野だいりはマミからすればまるで救いの手を差し伸ばしたメシアのように見えたことだろう。

 だいりに至ってはマミっちというあだ名までつけてくれたのだ。マミの中であだ名とは親しい友人同士でしか使わないものになっており、半ば夢幻の中だけのものと化していた。

 

 そして無事百江なぎさと連絡先を交換することに成功した。その日は一日中なぎさの連絡先を見ながら口角を上げていた。

 マミからすれば自身の弟子である彼女を除いて初めての魔法少女同士での友人である。なぎさはチーズ好きでとても可愛らしかった。だいりは自分より年上で目つきこそ怖いが、気軽に話しかけられるような良い性格だった。マミはこれからも二人とは上手く関係性を築けそうだと思っていた。

 

 しかし一つ問題があった。それはこれからどのようにその二人との親交を深めるかだ。現状、マミは魔女退治か、なぎさの家に尋ねに行くしかコミュニケーションを図る方法がないのだ。

 

 魔女退治はパトロール中は兎も角、戦闘中に世間話ができるほどまだ余裕があるわけではないし、なぎさの家に尋ねに行こうにも口実が無いのが現状だ。

 マミは少なくともなぎさには頼れる先輩系魔法少女としてみてほしいと思っているのだ。友達がいないと悟られるわけにはいかない。

 

 と、そんなこんなでどうするか悩んでいる時に、マミの目の前にあるスマートフォンが鳴った。画面には百江なぎさと書いてある。

 すぐにマミはスマホを手に取り、ワンコールが鳴り終わる前に電話に出た。

 

「もしもし、なぎさちゃんかしら?」

 

『おはようなのです!マミ』

 

 舞い上がっている己の内心を悟られないように落ち着いて電話に話す。

なぎさの話によると百江家に大量の賞味期限間近のチーズがあるのでそれをどうにか処理したいそうなのだが、調理の人手が足りないそうなのでマミに協力を求めたというわけだ。

 まさに渡に船である。マミのテンションボルテージは一気に最高潮に達する。

 

『-と言うわけなのです。なんとかマミの力を貸して欲しいのです』

 

「そう言うことならお安い御用よ。準備をしたらそっちに向かうわ」

 

『ありがとうなのです!』

 

 そう言うとなぎさは電話を切った。マミは急いで調理器具一式を鞄に入れる。

 マミの住んでいるアパートからなぎさまでの家はそう遠くはない。歩いても二十分もあれば着く。昼時までにはまだ時間はあるのでそれほど急ぐ必要はないのだが、友に飢えているマミはあっという間に準備を済ませると、足早に自身のアパートの一室を出た。

 よほど早く行きたいのかその足には僅かな魔力が込められており、道ゆく通行人がマミの足の速さに驚いている。

 

 マミはアパートから出て三分ほどで百江家の家の前に着き、一呼吸入れると、インターホンを押した。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「いらっしゃいなのです!マミ」

 

「お邪魔するわね、なぎさちゃん」

 

「しっかし随分と早かったな。連絡してから5分経ってないだろ」

 

「えぇ、なぎさちゃんとだいりさんからのお願いだもの。つい張り切って早めにきちゃったわ。もしかしてダメだったかしら?」

 

「むしろ有難い」

 

 そうだいりは答えると、なぎさがマミをチーズの山のあるリビングに案内する。その後にだいりもついていく。

 リビングに入ると、相変わらず机の上にはチーズの山があった

 

「これはまた、沢山あるわね…」

 

「このバカのせいでな」

 

「バカにバカと言われたくないのです」

 

「俺っちはバカではない」

 

 2人のやり取りを横目に流石のマミも困惑する。確かにこれは2人だけで処理し切るのは不可能に近いだろう。マミはチーズの山を見て自分が呼ばれたことに納得する。

 しかしあるのは小さな単品系のチーズから粉チーズのセット、箱に入っているカマンベールなど、市販のものばかりである。これなら加工がしやすいのでなんとかなりそうだとマミは思った。

 

「けど、えぇ。これならなんとかなりそうね」

 

「本当なのです!?マミ!」

 

「早速調理に取り掛かりましょう」

 

 わかったのです!と軽快に返事をするなぎさ。

 それを見ながらだいりは不満そうにぼやく。

 

「いーなー、2人だけ、俺っちも手伝いたーい」

 

「オメーは暴れん坊将軍でも見てるのです」

 

 なぎさは側にあったテレビのリモコンを手に取るとだいりの方へ放り投げた。

 リモコンを受け取っただいりはぶーぶーと文句を垂れている。

 

「なぎさちゃん?流石に可哀想よ」

 

 そんなだいりを見てマミがなぎさに言う。

 

「マミはだいりの作ったモノを見たことがないからそんなことが言えるのです。ヤツにキッチンを預けたら最後、なぎさたちの命は保証できないのです」

 

「そ…そんなに?」

 

 なぎさの物言いにマミは困惑する。しかし、なぎさの顔は真剣そのものだ。仕方なしにマミはだいり抜きで調理することにした。

 

 不貞腐れただいりはリモコンを使いテレビの録画項目から暴れん坊将軍を選択した。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「だいりー、完成したのです!」

 

「あいよー」

 

 暴れん坊将軍を2話ほどまで見終わった頃になぎさがそう言った。

だいりはなぎさの呼びかけに反応し、キッチンのある部屋へと足を運ぶ。

 

 部屋に入ると先ほどまでチーズの山が築かれていた机はマミとなぎさが作ったチーズ料理で埋められている。

 しかしそこからいつものチーズらしい香ばしい香りはせず、寧ろ甘い香りが部屋中に充満している。気になって料理の置かれている机をよく見ると、

 

「お昼時にはあまり良く無いけれど甘物にしてみたわ」

 

 そこにはチーズをベースにしたスイーツやクッキー、揚げ物などがずらりと並んでいた。なぎさからだいりの現状を聞いたマミは出来る限りチーズらしい風味を抑えた料理を作ったのだ。

 

「甘物か、確かにこれなら食べられそうだ!というか良くこんな短時間でこんな作れたな」

 

「それはこれよ」

 

 そう言い、マミは自身の手のひらからヒラリと黄色のリボンを出す。

 マミは魔法で作り出したリボンをまるで手足のように扱い、作業の足しにしていた。

 

「あー…そういうことか。魔法って便利。俺っちもそんな感じのができたらなー」

 

「練習すればだいりさんもきっとできるわ」

 

「むー…」

 

 なぎさは少し悲しそうにだいりとマミのやりとりを見ていた。

 今回、なぎさが調理で力になれたのは僅かであり、料理の殆どはマミが作ったものだった。

 なぎさがチーズ作りを始めたのはつい最近であり、まだ調理の技量が高いとはいえない。

 意気揚々とマミと美味しいチーズ料理を作ろうと思っていたのに、実際自分は全く力になれなかった。

 なぎさはマミと自分の技量の差にコンプレックスを抱いてた。

 

 そんななぎさにだいりは気がつき、一つ小さくため息をつくとなぎさの頭にポンと手を置く。

 

「まぁそう落ち込むなってなぎっち。最初はできなくて当然だ」

 

「……」

 

 そのままだいりはなぎさの頭を優しく撫でる。なぎさは少し驚いた様子だったが、すぐに流れに身を任せる。その様子は宥められている猫のようだ。

 

「焦る必要性なんか皆無だ。そんなのこれからできるようになれば良いんだよ。俺っちも手伝ってやるしさ」

 

「それはお断りなのです」

 

「ガッデム!いけると思ったのに!」

 

「考えが浅いのです。このバカ」

 

「俺っちはバカではない」

 

 いつもの調子でなぎさは答える。

 どうやら機嫌は直ったようだ。

 

 そんなやりとりを見ていたマミはなぎさから離れ食事の席に座ろうとするだいりに話しかける。

 

「なぎさちゃんのことよく見ているのね」

 

「そんなんじゃないっての。目離してたら何するかわかったもんじゃないだけだって」

 

 「それで毎度毎度酷い目に遭うんだからな」というとだいりは席に座り、机にある食器を手に取る。その言葉を聞いたマミは2人の関係性を少しだけ羨ましく思ったが、これから自分も頑張れば良いと前向きに考え、席に座った。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、美味かったぁ!昼飯に甘いものバクバク食うってのはなんか背徳的なものを感じたけど、そんなの関係なしに美味かったわ!お店出せるなこの完成度」

 

「我ながら美味しかったのです!」

 

「ふふ、そう言ってもらえるととても嬉しいわ。なぎさちゃんもよく頑張ったわね」

 

 2人は揃って味の感想を口にする。

 チーズに対してそれなりの苦手意識を持っていたはずのだいりも特に不可なく食べることができたようだ。味の感想を聞いたマミは満足そうに食器を片付ける。

 

「あ!片付けくらいならなぎさがやるのです!」

 

「あ、んじゃ俺っちも手伝うわ」

 

 そう言い、なぎさとだいりはマミの持っていた食器を取り、さっさと食べ終わった食器を片付けてキッチンに運んで行ってしまった。慌ててマミはキッチンまで2人を追いかける。

 

「だ、大丈夫よ。私が洗っておくから…」

 

「せっかく家まで来て手伝ってくれたんだからゆっくりして欲しいのです!」

 

「美味しい料理作ってもらったしね!なぎっちの言う通りゆっくりしておいて」

 

 「それに」と付け加えるとだいりはこう言った。

 

「あんま1人で気負いすぎないよーに。少なくとも俺っちとなぎっちはマミっちのことを友達だと思ってる。だからこれぐらいじゃんじゃん頼っていいんだぜ、マミっち」

 

 そう親指を上に立て、サムズアップをするだいり。そしてなぎさに呼ばれただいりはそのままキッキンに歩いて行った。

 

「……」

 

 そんな2人をマミは羨望の眼差しで見つめている。

 

 巴マミはだいりとなぎさの関係性を羨ましく思っていた。

 マミにとって2人の関係性は理想の魔法少女の関係そのものだ。お互いに軽口を叩き合いながらも支え合えるような仲。自分が子供の頃にテレビで見た憧れそのもの。

 だからこそマミは2人の関係に自分も混じりたいと思っていた。だからこそ2人が喜んだり、楽しんだりすることを自分なりにしていた。自分という存在を2人に認めてもらいたいから。

 

 だいりは自分のことを友達だと言ってくれた。だがしかしマミはそれではまだ何かが足りないと考えていた。

 

(…なんて我儘なのかしら。私は)

 

 少なくともだいりは自分のことを友達だと言ってくれたのに、それ以上何を求めるというのかと。

 

 食器を洗っている2人をマミはチラリと見ると、少し迷いのある目をしながら、リビングに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ごめんなぎっち。皿爆ぜちゃった」

 

「オメーはもうキッチンに立つななのです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食器を洗い終えた2人はマミのいるリビングで寛ぎながらこれからについて話し合っていた。

 

「それでどうすんの。一応まだチーズ残ってんでしょう?」

 

「そうなのです。今日昼食で出したものだけでもまだ出した三分の一くらいなのです」

 

「本当、なんでこんなに買っちゃったの?」

 

 困ったように言いながらだいりはマミとオセロで遊んでいる。すると既に盤面の半分を自軍の白で埋め尽くしているマミが言葉を発した。

 

「それならいっそのこと今余っているチーズを全部使ってレアチーズケーキを作れば良いんじゃないかしら」

 

「超巨大レアチーズケーキ……良いのです!!」

 

 レアチーズケーキは作る過程でゼラチンを混ぜるので食感が良く、またある程度保存性にも優れている。消費期限が切れてもよほどでない限り食べて体を壊すと言うことはないだろう。それに幸い今余っているチーズはほとんどがケーキ作りに使っても問題のないものばかりだ。

 

「でも材料ってあんの?」

 

 当然レアチーズケーキはチーズだけでは作れない。ゼラチンや砂糖、ヨーグルトなども必要になるだろう。そう言うとだいりはパチリと盤面の白を一列、黒に変える。

 

「それなら問題ないわ。材料なら持ってきてるもの」

 

 どさり!とマミの持ってきた荷物から大量の材料やら調理器具やらが出てくる。

 

「わぁ!凄いのです!」

 

「おー、電動泡立て機とかテレビとかでしか見たことないぞ」

 

 2人が驚いているとマミは笑顔を浮かべながら盤面の端を取り、二列同時に黒を取る。

 

「それじゃあ早速作り始めましょうか。なぎさちゃん、大丈夫?」

 

「問題ないのです!このバカは放っておいて早くキッチンに行くのです!」

 

「俺っちはバカではない……ってあれ!?いつの間にか負けてる!?」

 

 いつの間にか盤面が真っ白になっていたことに驚いているだいりを置いて、なぎさは嬉しそうにマミを連れてケーキを作りにキッチンに向かったのだった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か…完成したのです!」

 

「えぇ、かなり良い出来だと思うわ。あとは冷やすだけね」

 

「おー、よくできてるなー」

 

 マミとなぎさは4時間近くかけて何とか巨大なレアチーズケーキを二つ、完成間近まで仕上げていた。

 今回はなぎさが中心で作っていたので、途中幾度となく失敗したが、マミのフォローもあり、何とか綺麗な形にまで持っていくことができていた。

 

「冷えて固まるまで3時間くらいかかると思うからそれまで待ちましょう」

 

「わかったのです!」

 

「そういえばもう一つなんか作ってたけど何なのこれ」

 

 そうさらに盛られたものを指刺しながら疑問を漏らすだいり。

 

「これはなぎさが自分用に作ったチーズコロッケなのです!今日はだいりはチーズ以外のご飯にしようと思っていたから余ったチーズで自分用に作っておいたのです」

 

 確かにあのコロッケからはいつも通りのチーズの香ばしい匂いが漂っている。

 

「なるほどー、っていうかそろそろ晩飯を作っても良い時間帯だな」

 

「確かにそうね。一緒に晩御飯も作ってしまおうかしら」

 

「あー、でも今チーズ以外の食べ物が家にほとんどないのです…」

 

「そういえば確かに冷蔵庫の中、殆どチーズばかりだったわね…、なぎさちゃん。チーズばかりじゃなくて、バランスの取れた食事を取らないとダメよ」

 

「うっ…ごめんなさいなのです」

 

 マミの言葉に萎縮してしまうなぎさ。マミから見てもやはり百江家の食事事情は異常だったらしい。ぶっちゃけ最初からマミに相談していればあっさり解決していたのではないかとだいりは思った。

 

「仕方ないわね。今から買いにいきましょう」

 

「てかマミっち。時間大丈夫なの?」

 

 今の時間帯くらいにはもう中学生は家に帰ってもおかしくない時間帯である。心配になってだいりはそう尋ねる

 

「大丈夫よ。私一人暮らしだし、それにこの時間はまだパトロールもしているもの。全然平気よ」

 

 そう言い、マミはこちらを向きながら自分の二の腕を掴み平気だと言うことをアピールする

 

「そう?ならいいんだけど」

 

 そうだいりがあった頃にはマミは買い出しに出る準備を整えていた。

 

「あー、買い出しぐらいなら俺っちがいくぞ」

 

「だいりはついてくんななのです」

 

「何でぇ!?」

 

「だいりに食品関係は触れさせないと決めたのです」

 

 なぎさもポーチの中に財布やハンカチを入れて買い出しへ行く準備をする。

 

「あれ?なぎっちも行くのか」

 

「待っていて大丈夫なのよ、なぎさちゃん」

 

「流石にマミ1人だけ行かせるわけにはいかないのです。それにお金はなぎさが払わないといけないのです」

 

 そう言い準備が終わったのか荷物を詰めたポーチを肩にかける。

 

「あーごめん。悪いけどよろしく頼める?」

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

 笑顔でマミは答えるとなぎさと一緒に足早に家を出た。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 既に夕日も沈み切りそうな時間帯に買い物袋を持った少女2人が道路の歩道を歩いている。その姿はどこか疲れを感じているように見える

 

「あー、やっと買えたのです」

 

「そうね…、まさかあんなに混んでいたなんて思わなかったわ…」

 

 疲れ気味な2人はため息混じりにそんなことを言う。買い出しにスーパーに行ったは良いが、セールが行われており、夕方なこともあって大勢のお客で店内は混み合っていたのだ。

 

「でもおかげで美味しいご飯が作れそうなのです!」

 

「えぇそうね。きっとだいりさんもお腹を空かせて待っているわ。早く帰りましょう!」

 

 そう言い、2人が歩く足を早めようとした時、慣れた気配が2人を射抜く。

 

「「!」」

 

「…なぎさちゃん」

 

「わかっているのです」

 

 どうやら何処からか魔女の気配を2人は感じ取ったようだ。

 

「ごめんなさい。寄り道している暇なんてないのに…」

 

「大丈夫。どの道魔女はほっとけおけないのです!」

 

 そう言うと2人はすぐそこの電柱の下に荷物を置き、魔力を感じる方向へ走り出した。

 そして走る内に少し開けた場所に出る。どうやら市民公園のようだ。

そしてその公園の遊具のそばに結界の入り口があった

 

「あった!」

 

「行くわよ!なぎさちゃん!」

 

「了解なのです!」

 

 そう言い、2人は魔法少女の姿へと変身し、結界の中へと飛び込んでいった

 

 

 

 

 ーーー

 

 

  

 

 

 

「…おっそいな2人とも」

 

 

 暴れん坊将軍を見ながらだいりは言葉を漏らす

 そろそろ第3話も見終わりそうだ。この話何故だかなかなか面白い。このお仕置きタイムが癖になる。

 

「迷子にでもなったのかー?」

 

 と試しに家の電話からなぎさの連絡先にかけようとするが、よく考えてみればだいりはなぎさの連絡先を知らなかった。というかそもそも電話を使ったことがない。

 どうすれば良いのかわからずだいりは困り果ててしまっていた

 

 どうするか考えていただいりは徐にキッチンのある部屋に足を運ぶと、部屋の食卓になぎさが先ほど作ったチーズコロッケが置いてあった。ラップがされてはいるもののすっかり冷め切ってしまっている。

 

「うわ、もう冷め切っちゃってるじゃんか。どーすんのこれ…」

 

 コロッケにラップ越しに触れながらそう呟く。

 すると呆れた表情のまま、だいりはコロッケの入っている皿を持つ。

 

「仕方ないなー。俺っちが温めといてやるか」

 

 にっと笑いながらそう言い、だいりはキッチンの方へ足を運ぶのだった

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界内の様子は酷く赤く、鮮やかだった。そこかしこに紅色の幹と葉の林檎の木が生えており、そこから一際真っ赤な林檎の果実が実っている。そんな赤だらけの結界の深部でマミとなぎさは魔女と相対していた。

 

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 その魔女は巨大な木にこれまた巨大な林檎が実っているような風貌をした魔女だった。魔女は2人に狙いを定めると、自身の根っこを動かし、地面を抉りながら、根っこをしならせて2人目掛けて振り下ろしてきた。

 

「はっ」

 

「わっ!」

 

 2人はそれぞれ別の方向に飛び、うまくかわす。そしてマミはそのままマスケット銃を無数に展開し魔女に向けると、一気に発砲した。

 それらは見事に魔女にヒットし煙が上がるが、晴れた頃にいたのは、何事もなかったかのように佇む魔女だった。

 

「この魔女、さっきからなぎさたちの攻撃が効いてないのです!」

 

「どうやらそうみたいね」

 

 マミたちは既にあの魔女に相当数の攻撃を浴びせた。あの魔女の強さから考えてもう倒せてもおかしくないのだが、魔女は未だに倒すどころかダメージを負っている素振りも見せていない。

 

(これは何かタネがあるわね…)

 

 あの魔女が何故マミたちの攻撃を受けても平気なのか。この謎を解決しない限り、状況は一転しないだろう。そう思ったマミはマスケット銃を構え、改めて魔女のいる方向を見る。

 するとマミは魔女の巨大な林檎のような頭部が内側から妙に光っているのが見えた。何かと思い、試しにその頭部目掛けて発砲してみる。

 

『〆=+*€==○♪$#|○♪°|2+*$=¥4€=%×*$°°☆*7♪==ーーーーーー!!!』

 

 すると魔女が凄まじい悲鳴をあげてもがき始めた

 

「うわっ、急になんなのです!?」

 

「なぎさちゃん!頭よ!恐らくあの魔女は頭部が弱点よ!」

 

「頭って…あのでっかい林檎みたいなやつですか?」

 

 マミの言葉につられて魔女の頭部を見るなぎさ。確かに戦闘中でもあの魔女が明らかに頭部に攻撃が当たることを避けた様子はなぎさにも心当たりがあった。なるほどと心の中で納得したなぎさは手に持ったに力を入れる。

 

『÷=¥○♪$°\*♪€>=+$×¥*〆|%○→€°¥*$☆♪>65=ーーーーーーーーーーー!!』

 

 その時魔女の様子が変わった。

 自身の球根のように太い幹から無数の大砲をボコボコと生成し、そのままなぎさたちに狙いを定め発砲してきた。

 

「させないのです!」

 

 しかしなぎさは自分たちに当たる前に持っていたラッパを吹き、向かってくる大砲を迎撃し、爆発する。

 大量の煙が立ち込める中、マミは煙の中を走り抜け、魔女に接近する。それに気づいた魔女は大砲をマミ1人に照準を合わせ砲弾と根っこのムチで同時に攻撃する。しかし、マミの無数のマスケット銃となきさのシャボン玉でどちらも全て叩き落とされてしまう。

 そしてそのままマミは飛び跳ね、魔女の大きな顔の目の前にまで来た。

そして自身の両腕から大量のリボンを生成し、それを魔女の巨大な頭部にも引けを取らないほどの大砲に形作る。そしてその大砲の照準を魔女に向け、一言放つ。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 マミの言葉と同時に放たれた巨大な魔力弾は魔女を凄まじい勢いで吹き飛ばし、そのまま結界の壁際で大爆発を起こす。同時に周りの林檎の木も大爆発を起こした。

 まるで特大の爆弾が落とされたような爆発跡から大きな煙をあげる中、マミは魔法で作った大砲をリボンに還元し解除した。

 

「わー!やったのでーす!」

 

 それを見たなぎさが飛び跳ねながら喜ぶ。

 すると先程の一撃の反動で後ろに飛び上がっていたマミがなぎさのすぐそばにに着地する。

 

「怪我はないかしら?なぎさちゃん」

 

「全然大丈夫なのです!マミのおかげなのです」

 

 そう言うと、なぎさは両手を上げ、怪我のないことをアピールする。

そのことに安心したマミはほっと胸を撫で下ろす。

 周囲を見渡すと、ボロボロと結界の壁が崩れ始めていた。そのことを確認したマミはなぎさの方を振り向く。

 

「それじゃあ帰りましょうか、なぎさちゃん。だいりさんが待っているわ」

 

「わかったのです!」

 

 そう言い、なぎさはマミの後ろについていこうとする。するとマミが急にこちらを振り返る。

 

 

「なぎちゃん!危ない!!」

 

「わぁっ!」

 

 なぎさを真横に突き飛ばした。直後に轟く轟音。

 

 何が起きたのか状況が理解できていないなぎさは慌ててマミがいた方向に顔を向ける。

 先程まで自分が立っていた場所は大量の煙と火の粉が立ち込めており、マミの姿は視認できない。

 

「マ…マミ!!」

 

 慌てて煙の中になぎさは入ろうとする。

 だがその時、その煙の中から黄色いリボンがチラリと見えた。ゴホッゴホッと咳き込む声も聞こえる。なぎさは声が聞こえた方に走る。

 

「マミ!」

 

「なぎさちゃん。大丈夫だったかしら」

 

 そう言いながら煙の中から現れたのはボロボロの姿のマミだった。その周囲にはマミを囲むように黄色いリボンがドーム状に形成されている。しかし、先程の爆発の影響だろうか、既にそれはドームの形を保っておらず、所々が燃え切れて半壊してしまっている。

 

「マミっ…!怪我をしてるのです!」

 

「…これくらい大丈夫よ。なぎさちゃんは…怪我はしてないみたいね。よかったわ」

 

 そう言うとマミは未だに煙がたちこめている魔女のいた方向に目を向ける。つられてなぎさもその方向に顔を向けるとそこには、爆炎の中何事もなかったかなように佇む魔女がいた。

 しかしその見た目は大きく変わっており、巨大な林檎らしい頭部はぱっくりと裂け、そこから巨大な目玉が蠢いていた。その風貌は林檎というよりザクロを彷彿とさせる。

 

「魔女が生きてるのです!?」

 

「しかもこちらの攻撃は全く効いてないわ」

 

 深刻な顔つきでマミは語る。

 

「そんな…いくらなんでもおかしいのです!」

 

「えぇ、でも今の攻撃でようやく種がわかったわ」

 

「え?どう言うことなのです?」

 

「なぎさちゃん。周りを見わたしてみて」

 

 そう言われ、なぎさは煙の晴れた周囲を見渡す。

 するとそこには先程マミの一撃によって全滅したはずの特徴的な赤い林檎の木が再生していた。さらに、壊れた壁の先にびっしりと天井を埋めるほどの数のリンゴの木があった。

 

「これって周りにあった林檎の木なのです?さっき全部爆発したはずなのになんでこんなにあるのです?」

 

「…あくまで私の憶測だけれど、あの魔女は恐らくあの木に実っている林檎の果実にダメージを肩代わりさせているわ。私があの魔女に攻撃した時も私の後ろの林檎が不自然に爆発していたの。その時はこの結界固有の現象だと思っていたのだけれど、どうやら違ったようね」

 

 悔しそうにそう言うマミ。

 マミの言う通りであの魔女は自身の生成した林檎の果実にダメージを肩代わりさせ、分散させている。つまり先にこの林檎の木を全て壊さなければ魔女にまともなダメージは入らないのだ。

 

「じゃあ、さっきの攻撃はなんなのです!?あんな攻撃さっきまでしてこなかったのです!」

 

 なぎさが言っているのは先程自分に撃たれかけた巨大なレーザーだろう。

 目の前にいる魔女はなぎさから見ても、そこまで強くはない。魔力量だけならば以前戦ったバイクの魔女の方がよほど多かった。だからこそそんな魔女があれ程の高威力の攻撃をしたことに疑問を持ったのだ。

 しかしその種もマミは気づいているようで魔女を見つめながら答える。

 

「これも私の憶測だけど、あの魔女は多分自分や他の林檎に与えられたダメージを自分の魔力に変換することができるのよ」

 

「なぎさたちの攻撃を?」

 

「えぇ、あの魔女はわざと私たちの攻撃を誘い受けして、あの大きな頭部に魔力を溜めていたのよ。そして私たちが油断している隙に…」

 

「一気に放ったってことですか?」

 

「そうよ」

 

 そう頷くマミ。

 要するにあの魔女は自分に与えられたダメージを周りの木に分散させつつ、そのダメージを自分の魔力に変換することができるカウンター型の魔女なのだ。

 

「……なぎさちゃん。あなたは先に逃げて」

 

「え…」

 

「一旦引いて、だいりさんを呼んでくれば恐らくまだ勝機はあるわ。それまで私が時間を稼いでおくわ。だから行って」

 

「でもマミは怪我が…」

 

「大丈夫。こんなの全然へっちゃらよ」

 

 そう笑顔で答えるマミだが、なぎさから見てみればマミの状態は無事とは言い難かった。破れた衣服から見えるおぞましい量の出血がいくつもあり、片手と片足は変な方向にひん曲がっている。少なくとも戦闘が行える状態だとはとても思えなかった。

 

「………」

 

 なぎさは考える。

 確かにマミの言う通り一度引いてだいりを連れて戻ってきた方が勝機自体はあるかもしれない。自分もマミも魔力残量はあまり残っていない。先程のような長期戦は不可能だ。魔女もまだ溜め込んだ魔力が残っているだろう。マミを連れて逃げ切るのは難しい。よってマミを見捨てる。合理的に考えればそれが正しい。

 

(…そんなの、できるわけないのです!!)

 

 しかしだからといってなぎさはマミを見捨てるような行為はしたくなかった。もう目の前の現実から逃げたくはなかった。百江なぎさは自分に負けたくはなかった。勝機が無いからなんだと言うのか、魔力が残ってないからなんだと言うのか、ダメージを与えられないからなんだと言うのだ。

 なぎさは顔をあげ、まっすぐな目で魔女のいる方向を見る。

 

(なぎさはもう絶対に誰も死なせないのです!…だいりだってあの時、勝機が全くない相手にも立ち向かったのです!このまま帰ればだいりに笑われるのです!!)

 

 覚悟を決めたようになぎさはマミの目の前に立つ。

 

 

「なぎさ…ちゃん?」

 

 

「マミ、なぎさはマミを見捨てるようなマネはしたく無い!絶対に見捨てない!」

 

「だってマミはなぎさにとって、凄い先輩で、大切な友達だから…!」

 

「だから絶対になぎさが守るのです!!」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 マミはその言葉を聞いた瞬間だいりに言われた言葉を思い出した。

 

 

 "あんま1人で気負いすぎないよーに。少なくとも俺っちもなぎっちもマミっちのことは友達だって思ってる。だからこれぐらいじゃんじゃん頼っていいんだぜ、マミっち。"

 

 

 巴マミは仲間が欲しかった。

 何度も魔法少女として1人戦ううちに自分が思っているよりも遥かに他人に飢えていた。

 父も母も死んでしまい、家でも学校でも1人きり。

 マミは孤独だった。

 そんな時、なぎさとだいりに出会った。

 お互いに支え合って魔女と戦う信頼し合える関係。

 その2人の関係性は自分が羨望の眼差しを向ける理由には充分だった。

 2人に認めてもらいたかった。

 友達として、仲間として。

 だから必死になった。

 しかしマミには自分と2人の間に壁があると思わずにはいられなかった。

 いつか拒絶されるのではないかという恐怖があった。

 自分はいずれ忘れられ、置いていかれるのではないかと。

 考えているうちにそんな自分が嫌になった。

 

 

 だが2人はマミの感じていた壁を壊し、わざわざ立ち止まってマミに手を差し伸べた。

 否、2人からしてみればそもそも壁とか距離とかそんなものはこれっぽっちも感じていなかったのだ。

 最初から2人はマミのことを友達だと思っていたし、仲間のような関係で接していた。

 だからこそ今回2人はマミに遠慮なく頼ってきたし、頼られにきたのだ。

 自分が悩んでいたことは2人にとっては本当に些細で全く関係のないことだったのかもしれない。

 少なくともそれは目の前に立つなぎさがそれを証明している。

 気づけばマミは自身の目から熱いものが溢れていることに気づいた。

 

 

 

「なぎさちゃん………ありがとう…」

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 なぎさら手に持ったラッパから大量のシャボン玉を放ち、周囲にある林檎の木を次々に破壊していく。

 

『÷○々\|〒々=°¥+♪×=+*×÷=+**×=|〆=+〒♪*×°=ーーーーー!!!』

 

 それに対して怒ったのか魔女は自身の根っこから大量の大砲を生やし、なぎさに一斉に放つ。しかし、なぎさのシャボン玉で砲弾は全て阻まれてしまう。

 

「ーー!」

 

 まだまだ行くと言わんばかりに、今度は自身を囲むように無数のラッパを展開する。そして息を大きく吸い、持っているラッパをおもいっきり吹く。

 すると全てのラッパから一斉に溢れんばかりのシャボン玉が放たれ、結界中を埋め尽くす。次々とそれに巻き込まれ林檎の木が爆発していく。

 

『÷+**¥$#>|〆…々¥○$°=×♪€=>|×1$==+×$ーーーーーーーーーー!!!!』

 

 当然雪崩のごとく押し寄せたそれは魔女にも直撃する。しかし咄嗟に身代わりの林檎を使い、難を逃れる。

 

「なんとか全部の木を倒せたのです…」

 

 なぎさの声を聞き、シャボン玉が収まったと思い魔女はなぎさを探そうと周囲を見渡す。

 しかし目の前にあったのは巨大な白い壁。いや、シャボン玉の壁だ。いつの間にやら魔女を囲むようにジャポン玉の部屋が作られている。

 

「これで、終わりなのです!」

 

 そう言い放ち、なぎさは胸元で手を叩く。

 瞬間、シャボン玉の部屋は一気に魔女の元へ縮み、そして大きく膨張し、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 巴マミは驚いていた。

 想像以上になぎさの戦闘能力が高かったからだ。元々パトロールなどでなぎさと共に魔女と戦った時から魔力量が多く、素質自体はマミから見てかなり高いと思っていたが、ここまで戦闘技術が高いとは思っていなかった。しかもなぎさはマミを守るためにその場から一歩も動いていない。

 相手の強みから確実に潰していき、相手を追い詰めつつ、自分の必殺の圏内まで誘導し、一気に決める戦法。これはまるで…

 

「私の戦い方…?」

 

「そうなのです」

 

 マミが漏らした疑問にこちらを振り向いたなぎさが答える。慣れない無茶な魔力の使い方をしたからか息が絶え絶えだ。

 

「なぎさはマミの戦い方を参考にして今のスタイルを作ったのです」

 

「マミの戦い方はなぎさは憧れたのです」と言うとなぎさは周囲に展開していたラッパを消す。

 

 その言葉を聞いてマミは感心した。

 マミの戦い方はいままでの戦闘経験から生み出された言うならば魔女を倒すための戦い方だ。普通は見様見真似で真似できるようなものではない。マミは笑顔を浮かべなぎさの頭を撫でた。

 

「よく頑張ったわね、なぎさちゃん。私びっくりしちゃったわ」

 

「えへへーなのです」

 

 同じく笑顔を浮かべるなぎさ。

 するとマミが、ハッとしたように

 

「そういえば魔女は?」

 

「あ!そうだったのです、グリーフシードを取り忘れてたのです!」

 

 そう言い、なぎさは魔女のいたところに顔を向ける。

 

 

「!! マミ、危ないのです!!」

「え? きゃっ!」

 

 マミはなぎさに突き飛ばされる。

 マミはすぐに魔女のいた方向を見る。そこには無傷の魔女が先程とは比べものにならないほど恐ろしい形相でいた。

 

「うぐぐ…離すのです…」

 

「なぎさちゃん!」

 

 そこから伸びている根っこのツタになぎさは捕まっていた。

林檎の木は全てなぎさが潰したはず、にも関わらず何故?そんな疑問がマミの中で駆け巡っていると、魔女の根っこ部分に目がいった。そこには大量の林檎の果実が転がっていた。

 なんとこの魔女は自身の根っこの下の地面にも無数の林檎を埋めていたようだ。爆発の際はそれを身代わりにしていたのだ。

 

(しかもさっきあの魔女はなぎさちゃんじゃなくて、私を狙ってきた)

 

 それはつまりマミを狙いなぎさが庇う瞬間を狙っていたと言うことだ。この前のバイクの魔女といい、妙に頭が回る。

 魔女はもはや元の原型をとどめていないほどおぞましい顔をなぎさに向け、目玉の部分に魔力を溜める。

 

「うぎぎ…ぐげ…」

 

「…!」

 

 とにかくこのままではなぎさがやられてしまう。どうにかしようと体を動かそうとするが、傷のせいで体に鋭い痛みが走り、上手く体を動かせない。

 どうにもすることができないのかと顔を顰めていると、結界の天井から爆発音が聞こえた。

 思わずマミが上に顔をあげる。その音は徐々に近づき大きくなっていき、そしてついには大きな音と共に天井が崩落した。

 

『!!?』

 

 そして大量の瓦礫と林檎の木が落ちてくる中、素早く動く影が一つ。

 

「おりゃー!!上様のおなりじゃーー!!」

 

「だいりさん!?」

 

 ひょっとこのお面をつけただいりは捕まっているなぎさを見つけると、持っていた鉄パイプで魔女のツタをぶった斬り、なぎさを解放した。そのままなぎさを引っ張ってだいりはマミの元に跳んでいく。

 

 そしてマミのすぐそばにだいりは着地した。その後ろで瓦礫に頭から突っ込むなぎさを無視して。

 

「だぁいりぃ!!何普通に無視してるのです!今のは完全にだいりが優しく受け止める流れだったのです!このバカ!!」

 

「俺っちはバカではない!!というかなぎっちお前なぁ、俺っちが今までどれだけ家でひもじい目にあっていたのかわかってるんか!?もう8時だぞ!8時!!良い子はもう眠気を感じる時間だぞ!その田方平野みてーな胸に手当てて考えてみろ!!」

 

「知るかなのです!!眠気感じるんだったらなぎさが寝かせてやるのです!永遠に!あと、なぎさの胸は平野じゃないのです!積灰途中の富士山なのです!!」

 

「ち、ちょっと2人とも落ち着いて…」

 

 だいりが来た途端この空気である。ある意味これもだいりの良いところなのかもしれないのだろうが、マミは未だこの空気には慣れきっていなかった。

 だいりがふとマミを見ると、叫んでいるなぎさを無視してお面をとり、マミに近づいてきた。

 

「ひでー怪我だな。大丈夫…じゃあ無いよな。遅れた、すまんマミっち」

 

「いえ、大丈夫よ。見た目ほどひどいわけでは無いし、何よりなぎさちゃんが守ってくれたもの」

 

「そうか」

 

 マミの瞳を見ると、ニッと笑みを浮かべてだいりは、

 

「やっと頼ってくれたな」

 

 そう言い、お面をつけなおし魔女を見据えた。

 

「まー派手にやってくれたな。俺っちの仲間を傷つけた落とし前はその林檎全部で許してやらんこともないぞ!」

 

「「いや許しちゃだめ(なのです)(でしょ)!このバカ!」」

 

「俺っちはバカではない」

 

 なぎさとマミが同時につっこむ。

 

「いやだってお腹減ったし…」

 

「だからって魔女の結界にあるものを食べようとするのは…」

 

 そんな彼女たちをよそに魔女は落ちている林檎に魔力を込めて一気に木に成長させる。僅か数秒で無数の林檎の実が成った。マミたちが気づいた頃には状況は振り出しに戻っていた。

 

「!…ああして林檎の木を増やしていたわけね」

 

「ぎゃー!林檎が全部復活しちゃったのですー!」

 

「え?何?あれ復活しちゃまずいの?」

 

 なんの事情も知らないだいりは1人首を傾げる。すると魔女がだいりたちめがけて大砲を放ってきた。だいりは咄嗟にマミを抱えてそれをかわす。

 

「うおっ!あぶね」

 

「というか、だいりが来ても状況は全く良くなってないのです!」

 

 なぎさは砲弾をかわしながらそう叫ぶ。確かにもうなぎさとマミの魔力はほとんどすっからかんだ。だいりは未だに魔力感知の一つもできなく、戦闘ではほぼ役に立たない。それに対して相手は大量の身代わりを持っている上に、ダメージ変換持ちだ。今の状況で勝機を見出すことは難しかった。

 しかしそんなだいりをマミが頼ったのはこの状況を何とかしてくれると信頼してるからこそである。それをなぎさも自覚していた。

 

「そーいや俺っち今回弁当持ってきたんだよな」

 

「いや、こんな時に何やってるのです!?バカなのです!?」

 

「俺っちはバカではない」

 

 そんなことを考えてるなぎさの気も知らずにだいりは瓦礫にもたれかかりながら、どこからか取り出したリュックの中からタッパー弁当を取り出した。

 

「いやだってなぎっちたち探して腹減って倒れたりしたら本末転倒だし」

 

「だからってこの状況で取り出すななのです!」

 

「そう言うなってお腹減ったんだよ。ほら、なぎっちの作ったチーズコロッケだぞー。温めて持ってきてやったんだから感謝しろよ」

 

 そう言い、タッパーを開けようとするだいり。しかしなぎさは背中に何かが這い寄るような気配を感じ、大量の冷や汗が出た。凄まじく嫌な予感がする。

 

 

 "やばい、アレを開けさせてはイケナイ"

 

 

 なぎさが何かを言おうとした頃にはもう遅かった。

 

 タッパーを開けた瞬間、この世の終わりと思えるほどの異臭が漂い、結界内を支配した。なぎさは察した。

 

 

 こいつやりやがったなのです!!

 

 

「だ…だいり…、ソレはなんなのです…?」

 

「何って…、なぎっちが作ったチーズコロッケだけど」

 

 百江なぎさの知っているチーズコロッケはこんな異臭を放たない!断じてそんな虹色の物体Xでは無い!!

 

『〆=+*♪$>9\×○*$>\〆×○♪÷>\××*ーーーーーー!!!!!!!!!』

 

 あまりの異臭に魔女も悲鳴をあげて、地面をのたうち回っており、だいりに担がれていたマミも既に白目を剥いて気絶している。どうやら彼女は近くにいたがために最初の犠牲者となってしまったようだ。

 

「なぎさの知ってるチーズコロッケはそんなおぞましい物体ではないのです…!いったい何をしたのですか…!?」

 

 息も絶え絶えになりながらなぎさは問う

 

「だからあっためてきたって言ったでしょ?電子レンジで」

 

 レ…レンジ…

 完全に盲点だった。電子機器でさえここまでの被害を出すなんて完全に予想外だ。

 

(ま…まずいのです……このままだと…意識が飛ぶのです…)

 

「なぎっち食べないの?」

 

 食べるか!!!と心で全力シャウトを決めながらなぎさは朦朧とした意識でふらりと足をおぼつかせる。すると地面に転がっている林檎が目に入ってきた。

 

(これなのです!!!)

 

「大丈夫?なぎっち。お腹痛い?」

 

 そう心配してなぎさの側に近づくだいり。その瞬間、なぎさはだいりの持っているチーズコロッケ(虹)の入っている弁当箱を奪い取り、魔女目掛けておもいっきりぶん投げた。

 

「あ」

 

 そしてなぎさの投げたタッパーの中身は見事もがいている魔女の巨大な目にぐちょりと当たる。

 

『÷¥○*€=+**×27×$=¥*$=+*€\〆8…<×→=$+$°=々+♪°=助け$×=$×°°2ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!』

 

 

 

 魔女は尋常ではない悲鳴を上げ、それと同時に周囲にあった林檎が一斉に虹色の液体となり腐り落ち、そして魔女も虹色の液体となって息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 すっかり日が沈んだ夜道を3人は歩いていた。その足取りは1人を除いて重いものとなっている。

 

「全くひどいぞなぎっち、せっかく持ってきてやった弁当をよりにもよって魔女に投げるなんて」

 

「それはこっちのセリフなのです…!なんでよりによって持ってきちゃったのです!バカ!!オメーは金輪際キッチン立ち入り禁止なのです!!」

 

「俺っちはバカではない」

 

「まさかだいりさんの料理があそこまで酷いものだなんて思わなかったわ……本当に…」

 

 あの後、魔女を倒し結界から出たマミとなぎさは何とか目を覚まし、家に向かっての帰路を辿っていた。

 チーズコロッケ()の深淵を見た2人の顔は酷く疲れ切っており、あまり生気がない。

 

「あー、腹減った。飯食いたいし早く帰ろーぜ」

 

「オメーのせいでなぎさたちは今走る気力も存在しないのです…」

 

「そういえばだいりさんはどうやって私たちのいる場所を見つけたの?」

 

「ん?そりゃあ、迎えに行こうと思って2人の行ったスーパーの道歩いてたら、道端になぎっちとマミっちの鞄が置いてあるもんだから、近くに魔女いるんかなーって思って探してたらあの魔女見つけてな。その結界入って適当に暴れてたら2人を見つけた感じだな」

 

「本当に適当ね…。私たちがいなかったらどうするつもりだったの?」

 

「そん時はそん時だ。魔女をぶっ飛ばして、2人を見つけるまで探す」

 

「そんなことしてたらまた迷うのです…」

 

「その時は2人が探してくれるだろ?」

 

「だからその時なぎさたちは…」

 

 そんな2人の会話をしている姿を見ながらマミは思わず安心するような笑みを浮かべる。

 

 もうマミは1人ではないのだ。仲間と言える、言ってくれる存在がいる。

 

(私はまだ2人のことを全然知らないけど、それでも私は彼女たち2人を信頼する。だって彼女たちも私のことを信頼して一緒にいてくれているから。今はそれだけで充分)

 

 

「マミっちー!どーしたー?はやく帰ろーぜー!どっか痛いのー?」

 

「主にオメーの料理のせいでなのです。このバカ」

 

「俺っちはバカではない。というかなぎっちたち別に食べてないじゃん!」

 

「ソコに在るだけで問題なのです!」

 

(まずは、だいりさんの料理の腕を何とかしないとね)

 

 

 2人のそんなやりとりを見てマミはそう思い、2人に向かって走り出した。

 

 その顔にとびきりの笑顔を浮かべて。

 

 その顔にはもう迷いの色はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういやまだ家に温めたコロッケ残ってたんだった」

 

「「ゑ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷いはない…と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




捕捉

雪野だいり:今回料理の腕が深淵レベルでヤバイことが判明。これで魔女も楽勝だ!尚周囲にいる人たちのsan値はゴリゴリ減る模様。今回の林檎の魔女戦ではレンジで温めただけだなので比較的被害は軽かった。レアチーズケーキうめぇ。ところで何で2人は泣いてるんだ?

百江なぎさ:だいりの料理で毎度深淵を彷徨う哀れな犠牲者。この後家に帰って先程と同じ地獄を味わう。後日、同じ被害者のマミと共に感謝の涙を流しながらレアチーズケーキを食べる2人の姿があったとか。

巴マミ:だいりとなぎさのおかげでだいぶ心を開いた元ボッチ。もう何も怖くない!しかしだいりの料理の所為で1日で2度深淵を見る。やっぱり怖いものは怖い。後日なぎさと共に食べたレアチーズケーキはチーズコロッケ()の反動で、今まで食べたどのスイーツよりも美味しく感じたそうな。

林檎の魔女:通称魔女界のソーナンス。巨大な林檎が赤い木にパイルダーオンしたような姿の魔女。珍しいことにこの魔女の使い魔は対象に襲ってくることはなく、戦闘能力も無いが、この使い魔には林檎の魔女のダメージを肩代わりする力があり、まずは使い魔から倒す必要がある。また、受けたダメージを魔力に変換できる力を持っており、林檎を身代わりにしても魔力は溜まるのでかなり厄介。林檎が大好きなので林檎の木を壊されるととても怒る。また今回苦しむふりをしたように意外と演技派でもある。

だいりの料理:深淵を覗く時、深淵もまた等しく貴方を覗いている。



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