バカが魔法少女になった話   作:わらしべいべー

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※今回からキャラ崩壊が酷くなります。



仮面魔法少女ORIKO☆KAMEN

 

 

 8月上旬。夏の暑さがピークになる時期であり基本的には冷房のがっつり効いた部屋でゴロゴロしていたいのが常ではある。

 そんな朝っぱらからそんな猛暑の中で重い足取りで歩いている2人の影があった。

 

「あぁ〜クッソ暑い…」

 

「何でこんな時期にゴミ拾いなんてしないといけないのです…」

 

 現在2人はなぎさの通っている学校のゴミ拾い大会に参加している最中で、ゴミ袋とトングを片手に見滝原の街中を歩いていた。

 

「なぎっちが参加賞のチーズケーキセットで即決したんでしょうが…」

 

「こんなに暑いとは思わなかったのです…」

 

「過去最高らしいからな、今日の気温」

 

「このままだと蒸しチーズになるのでーす…」

 

 そう言うなぎさの顔は汗でびしょびしょだ。確かにこのままだとなぎさの言ったことが現実になるかもしれない。

 

「じゃあどっか休めるとこ探すか…」

「賛成なのです」

 

 2人は休める場所を探すために足を早める。

 街道を出て少し離れたところに自然公園があった。大きな池を囲むように木が生えており、蝉の鳴き声がよくけたたましく響いている。

 だいりたちと同じく何組かゴミ拾いをしている人たちや木陰で休憩している人がちらほらいる。

 すぐ側にあった木下のベンチに2人はもたれかかるように座った。

 

「はぁ〜日陰が気持ちいい…」

 

「生き返るのです…」

 

 そう言うと2人は持参した水筒に手をかけ同時に口をつけた。ゴクゴクという音を暫くならし「ぷはぁー」と同時に口を離す。

 

「しっかし学校側もよくこんな時期にやろうと思ったな。この暑さじゃあ倒れる人がいてもおかしくないぞ」

 

「何でもこのゴミ拾いの主催者が無理矢理開始を強行したみたいなのです。学校側も反対した人もいたみたいだけど、その主催者の発言力が強くてどうにもできなかったのです」

 

「何だそのはた迷惑な奴は。そいつ暑さで頭蒸しチーズになったんじゃないの?」

 

「その前に暑さでなぎさたちの頭がおかしくなりそうなのです…」

 

 

 

 

「誰の頭が蒸しチーズですって?」

 

「ん?」

「え?」

 

 その声は何処からともなく聞こえてきた。

 

「全くちゃんと働いているか見にきてみればこんな所でサボっているなんてね!」

 

 声は自分の上から聞こえる。2人は木陰から出て声の聞こえてくる方に顔を向ける。そこには分厚い真っ白なドレスのような衣装、純白のショールのついた帽子を被り西洋劇のような仮面をつけている不審者が木の上に直立していた。その不審者はだいりとなぎさに顔を向けると言葉を放つ。

 

「私がこのゴミ拾い大会を主催したが最後、不要なサボりはこの私が許しません!」

 

「いや不要なのアンタの格好だよ。なんなの?こんなクソ暑い時にそんなクソ暑い格好して。やっぱ頭蒸されてんだろ」

 

「見てるだけで暑いのです…」

 

「というか俺っちたち別にサボってねーし。休憩してただけだっての」

 

「まさか私の忠告を無視するとはね。良いでしょう、私直々に指導をしてあげるわ!」

 

「話聞けよ」

 

 だいりのツッコミを無視して不審者は言葉を続ける。

 

「私の名は仮面魔法少女ORIKO☆KAMEN!!正義の名の下に貴方達2人を成敗してさしあげまょう!!」

 

 そう高らかに言いORIKO☆KAMENは直立していた木から跳び、華麗に降り立った。

 

 

 

 2人の目の前の池に。

 

 

 ドボン!という音と共にORIKO☆KAMENは見事池にゴールインする。ゴボゴボと池から泡が立ち、そして暫くしてザバンとびしょ濡れのORIKO☆KAMENが出てきた。

 

「いや何やってんのアンタ」

 

「多分あそこからだとなぎさたちの前が木で見えなかったのです」

 

 ORIKO☆KAMENは池に落ちた帽子を拾い被るとそのままだいりを睨み、ビシリと指をさして言った。

 

「この私を陥れるとはね…!!だけど私は貴方のような不審者に負けないわ!」

 

「勝手に自滅しただけでしょうが。あと不審者はアンタだよ」

 

 だいりはそう指摘すると、呆れたようにため息をつきORIKO☆KAMENを見る。

 

「つーかこんなとこで何やってんだおりっち」

 

 だいりの問いにORIKO☆KAMENは「はえ?」と間抜けな声で反応する。

 

「え?だいり、この不審者と知り合いなのですか?」

 

 「一応な」とだいりは頭をかきながら答える。だいりの発言に対しておりっちと呼ばれた人物は明らかに挙動不審になる。

 

「!!……ち…ちち…違うわ!私はおりっちなどという名前ではない!正義の仮面魔法少女ORI」

「もういいよー、バレバレだから」

 

 そう言いだいりはORIKO☆KAMENの帽子と仮面を取る。

 

「あ!ち、ちょっと返して!」

 

「やっぱおりっちじゃん。何やってんのマジで」

 

 そう言われたORIKO☆KAMENは必死に帽子と仮面を取り戻そうと手を伸ばすが、背が届かずそのまま池に音を立ててこけてしまう。真っ白だった衣服は既に泥だらけだ。

 

「あー…大丈夫かおりっち」

 

「これが大丈夫に見えるのかしら…」

 

 そう立ち上がりながら言うORIKO☆KAMENは黙って池から足を出し、陸に体をあげようとするが、自身の濡れた衣服の重みに体幹が崩れ、またしても良い音を立てて池に落ちる。

 

「本当何やってんのおりっち」

「ダッセェのです」

 

「うぐ……うぅ…」

 

 ORIKO☆KAMENが泣き出した時点で決着がついた。どうやら正義の味方に不審者が勝つこともあるらしい。そんなことをだいりは思うとORIKOを池から出すために池に足を入れるのだった。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「救済活動?」

 

「そうよ」

「胡散臭」

 

 池から救出したORIKO☆KAMENの正体は美国織莉子という。このゴミ拾い大会の主催者であり、なぎさの通っている学校にあるPTAの重鎮である。彼女もまた魔法少女であり、先程は変身した状態で2人と相対していたのだが、今は私服姿で2人と話している。

 

「胡散臭いとは何よ。私は魔法少女になってからここ見滝原の悪は断じて許さないと決めたの」

 

「その結果があの不審者ムーヴなら世話ないのです」

 

「というか何で俺っちたちを狙ってきたの?休んでる参加者なら他にもいるだろうに」

 

「貴方がそんな格好をしているからだと思うけれど?他の参加者から「不審者がいる」って聞いて報告を聞いて、来てみれば貴方だもの。驚いたわ」

 

「俺っちはおりっちの格好に驚いたけどな」

 

 だいりは自分の顔につけていた不審者セットを取る。

 

「そんな紛らわしいものつけないちょうだい。最初誰かわからなかったわ。…つけるならせめてこの私自作のORIKO☆MASUKUにしなさい」

 

 そう言い織莉子は何処からか先程つけていた大量の純白の装飾のついた仮面をだいりに差し出した。

 

「そっちの方がよっぽど不審者認定されっから!!」

 

 だいりはORIKO☆MASUKUを叩き落とす。

 

「ちょっと何するのよ!これを作るのにどれ程の時間をかけたと思っているの!型抜きから全部自分で作ったのに!既に量産化も決定してるのよ!」

 

「何処に労力かけてんだ!そんなことする暇あったら常識って単語を辞書で引いてこい!」

 

(だいり、織莉子っていつもこんな感じなのですか?)

 

 魔法少女特有のテレパシーでなぎさが尋ねる。

 

(そうだな、おりっちって会った時から変に常識が抜けててな。本人曰く結構なお嬢様らしいんだが…)

 

(あの時は救済云々とか言ってなかったんだがなー)

 

(もしかして織莉子はだいりと同じバカなのですか?)

 

(俺っちはバカではない。おりっちはあれでも超優等生らしいぞ。きっと今回のこともなんか合理的な考えがあるんだよ)

 

 多分と付け加えるだいり。その答えになぎさは少し不安になる。

 

「織莉子は何であんな不審者みたいなことをしていたのですか?」

 

「不審者ではないわ。…さっきも言ったけれど私は見滝原に存在する邪悪を断じて許すつもりはありません。仕事の関係で今回この見滝原に引っ越して来たの。ですのでこのゴミ拾い大会を機会にこの街の邪悪な心の粗大ゴミも一緒に掃除してしまおうかと」

 

「掃除してしまおうかと、じゃないよ。今おりっちが一番の邪悪だよ。てかおりっち見滝原に引っ越して来たの?通ってた学校はどうした?」

 

「役職はお父様のPTAの役職を継いだの。その関係でここ見滝原に席を変えることにしたのよ。前の学校はやめたわ」

 

 美国織莉子は超がつくほど優秀である。以前まで通っていた学院では生徒会長であり、崇拝対象になるレベルで他生徒たちから敬わられていた。だからこそPTAの重役に就いても大人顔負けの指揮力とカリスマがあり、織莉子はそれらを使い現在では学校の上層部を完全に己の支配下にしてしまっていた。

 

「へぇ〜…ってやめた!?学校やめちゃったの!?結構なお嬢様校じゃなかったっけ?」

 

「えぇ、もう行く意味も無いわ」

 

 「それに」と付け加え織莉子は自身の顔をだいりに近づける。思わずだいりは少し後ずさる。

 

「何より貴方に会えるもの。だいり」

 

「えぇ…、そんなことのために学校やめたのか?勿体ねーな」

 

「貴方といると退屈しないもの」

 

 そう織莉子は笑顔で言うとだいりから顔を離しそのままベンチを立つとだいりに叩き落とされた仮面を拾いそのまま自身の顔につける。

 

「………」

 

「なぎっち?」

 

「とにかく、私は今からこの見滝原の悪人をこれから根絶やしに行くわ。ついてきなさい。だいり、百江さん」

 

「え、嫌だけど」

「右に同じくなのです」

 

 だいりとなぎさは即答する。

 

「……一応聞くわ。何故かしら?」

 

「いや俺っちただでさえ不審者扱いされてんのに救済謳う仮面不審者と同行とか通報待ったなしだわ。俺っちもう警察のお世話にはなりたくないよ」

 

「なぎさもとばっちり食らうのはごめんなのです」

 

「仮面不審者ではないわ。仮面魔法少女よ!」

 

「どっちにしろ不審者だろ」

 

 そう言い2人は荷物を持ちゴミ拾いに戻ろうとする。

 

「俺っちたちは街のゴミを拾いにきたの。街に蔓延ってる頑固な油汚れを掃除しに来たんじゃないの」と言い手でカンカンとトングを鳴らす。

 

「ふふ…そう言うのならば私にも考えがあるわ…。腐っても私は令嬢の端くれ…」

 

 そう織莉子は何処からか取り出した鞄をあさって何かを取り出した。それを見て2人は少し警戒心を上げる。

 そしてそのままなぎさの方へ近づき、何やら紙切れのようなものを差し出した。

 

「百江さん。私の救済活動に協力してくれたあかつきにはこれを差し上げるわ」

 

 織莉子がなぎさに出した紙切れには可愛らしいポップな文字で『見滝原店舗 チーズ特盛!ケーキバイキング券』と書かれていた。

 

「いや買収かよ!!それでいいのか!?仮面魔法少女!」

 

「悪を滅するためならば手段は選んでいられないわ」

 

 ヒラヒラとバイキング券を左右にひらつかせる織莉子。それにつられてなぎさの視線左右に顔が動く。

 

「ぐっ…卑怯なのです…!」

 

「揺らいじゃってるよ!ダメだからね!?」

 

 涎を垂らしながらバイキング券に釘づけになっているなぎさ。そんななぎさを止めようとだいりが制止する。

 なぎさに券をひらつかせながら織莉子は今度はだいりに話しかける。

 

「ふふ、だいり。貴方には特別にこれを用意しているわ」

 

 そう言い織莉子は先程の鞄から箱のようなものを取り出しだいりに見せた。

 

「!!?……そ…それは、『デカゴンボールシリーズのズルマ専用バイク6分の1スケールメタルプラモ』!!しかも未開封品!?殆ど市場に出回っていない超レア物を何故おりっちが……!」

 

「ふふ、昔お父様から買って貰ったもよ。貴方ならきっと食いつくと思ったわ」

 

「ぐ……卑怯な…!」

 

 無類のバイク好きでありながらアニメ好きでもあるだいりにこの品物はかなり効果的だろう。

 確かな手応えを感じた織莉子は不敵に笑みを浮かべ、そして2人に向かい言い放つ。

 

「さぁ2人とも!私の救済に協力するのならばこの品物を差し上げましょう!しないのならばこの話は無しです!さぁどうしますか!?」

 

「「ぐ……ぐぅぅぅぅぅ!!」」

 

 悔しそうな顔で織莉子を睨む2人。

 あと一息ね!そう織莉子が確信してとどめの追い討ちをかけようとした時、ポンポンと誰かに肩を叩かれた。

 

「あのー、君」

 

「?」

 

 

「警察の者なのだが…ちょっと暑まで御同行願えるかな?」

 

 

 

 あ、あー………

 

 

 

 

 

 

 はい。

 

 

 

 

 

 純白の装飾付きの仮面をつけた怪しい女性がだいりはともかく歳いかぬ幼女であるなぎさに向かって怪しげな行動をとっている。しかもその幼女は今回主催の小学校の生徒で、更には様子がおかしいときたものだ。側から見れば完全に誘拐犯のそれである。今回の大会の見回りに当たっていた警官に怪しい仮面をつけた明らかな不審者として織莉子は見事お縄にかけられてしまった。

 

 悲しきかな。そのまま織莉子はORIKO☆MASUKUをつけたまま警察に連れて行かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だいり」

 

「…何?なぎっち」

 

「やっぱり織莉子はバカなのです。だいりと同じで」

 

「俺っちはバカではない」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「全く散々な目にあったわ」

 

「完全に織莉子の自業自得なのです」

 

「今回は早めに解放されてよかった…」

 

 だいりとなぎさの証言もあり、なんとか警察の魔の手から解放された織莉子は2人と共に救済活動を実行しようと街中を歩いていた。だいりとなぎさの手にはそれぞれ先程織莉子が見せた物品を持っており、結局買収されてしまったことが窺える。

 

「それで、救済活動って具体的に何すんの?悪いやつとっちめたらいいの?」

 

「簡単に言ったらそういうことになるわね。この街に蔓延る犯罪者や心の腐った持ち主を排除していくのよ」

 

「それって…もしかして、……殺したりするのですか?」

 

 なぎさが少し怯えながらも織莉子に尋ねる。なぎさは以前この手と似たような魔法少女と会ったことがあり、その魔法少女は容赦なく悪いと決めた人間を殺すタイプであったためかなり印象に残っている。

 なぎさはそれ以来殺しに対して少々トラウマを抱いているのだ。そんななぎさを見て織莉子は笑顔で話す。

 

「そんなことはしないわ。少し懲らしめて警察に突き出すだけよ」

 

 そう言うと、織莉子はなぎさの頭を優しく撫でる。なぎさは安心して胸を撫で下ろす。そんな織莉子となぎさを見ながらだいりが尋ねる。

 

「というか悪い奴なんてどうやって探すんだよ。見滝原って特別治安が悪いってわけでもないから歩いてこうやって歩いて見つかるもんじゃないと思うぞ」

 

「それなら問題ないわ。私の固有魔法を使って探すもの」

 

「こゆー魔法?」

 

「だいりは固有魔法も知らないのですか?」

 

「知らん」

 

「はぁ……固有魔法は魔法少女が願いを叶えた時に持つ固有の能力なのです。固有魔法の能力は魔法少女によってバラバラで、単純な強化系から戦闘では使えないような妙ちくりんな特殊なものまであるのです」

 

「要するに魔法少女は全員が悪魔の実の能力者ってことか!」

 

「カナヅチではないけれどね」

 

 織莉子は静かに目を瞑り集中するような動作を取る。恐らく固有魔法を使おうとしているのだろうとだいりは思う。

 

「私の固有魔法は『未来視』。範囲は限られているけれど近いうちに起こる未来をこの目で観測することができるわ」

 

「え、それめっちゃ強くない?」

 

「いえ、そうでもないわ、この魔法は少し燃費が悪いのよ。それに寝ていたりする時にも勝手に発動することもあるわ。おかげでグリーフシードは肌身離せないのよ」

 

「へぇ〜」

 

「そういえばだいりの固有魔法は何なのですか?」

 

 気になったのかなぎさがそんなことを聞いてくる。

 

「わからん。というかそんなのあったらいつも戦闘であんな苦労してない」

 

「あー、それもそうかなのです。というか固有魔法も使えないのかなのです。やっぱりだいりは弱っちぃのです」

 

「うっさい。なぎっちはどんなんだったけ?」

 

「なぎさは魔力を使っていろんなお菓子を作れるのです。古今東西今はもう作れないお菓子まで自由自在なのです。だけどチーズだけは作れないのです」

 

「むしろ作れたら問題大有りだけどな。主に我が家の食事事情が」

 

「見えたわ。行くわよ2人とも」

 

 『未来視』を見終わったのか閉じていた目を開きそう言う織莉子。そしてそのまま街中のマンションの入り口に走っていく。

 

「あ!ちょっと待つのです!」

 

 急いで織莉子の後を追いかける2人。織莉子は足に魔力を込めているのか相当の速さでマンション内を駆け上がっていく。

 そのままマンションの中の階段を3人はかけて行き、そしてとうとう屋上にまで出た。周りに人がいないか確認している織莉子に息を切らしているなぎさは問う。

 

「こんなところに本当に悪い人がいるのです?」

 

「あれを見てみなさい」

 

 そう織莉子はマンションの屋上から見える下を指さす。なぎさとだいりがつられて見てみると、

 

「あれって…チンピラ?」

 

 そこにいたのはぶかぶかのTシャツに半ズボンをはき、顔中にピアスやイヤリングなどの装飾品をつけているチンピラがいた。

 

「えぇ、だけどただのチンピラではないわ。このチンピラはこれからここを通りかかる女児に暴漢を加えた挙句に強姦するわ」

 

「ごーかんてなんだ?」

「なぎさも分からないのです」

 

「………………要するに女の子に暴力を振るってボコボコにするって考えてもらえれば良いわ」

 

「何ぃ!?それは許せんな!」

 

「ボコボコにしてやるのです!!」

 

 やる気を出した2人を横目に織莉子は複雑な心境になりながらも真下にいるチンピラに目をやる。

 

「とにかくあのチンピラをいい感じに懲らしめてお縄にかけるわ」

 

 そう言いバキリと指を鳴らす織莉子。その様子からは容赦のカケラも感じられない。

 

「でもまだあのチンピラは何もやってないわけだろ?じゃあ何もしてない今警察に突き出してもあんまり意味ないんじゃ…」

 

「それなら問題ないわ。あのチンピラは今までも今回のような問題行動を起こしているわ。それが警察にバレればタダでは済まないはずよ」

 

「じゃああいつをとっ捕まえれば良いだけってことか…」

 

「というか何で織莉子がそんなことを知ってるのです?」

 

「私はPTAよ。この見滝原にいる情報に載っている限りの犯罪者や問題行動者は全て閲覧、確認済みよ」

 

 そう言うと織莉子はターゲットであるチンピラの個人情報などの経歴が書かれた書類を2人に見せる。

 

「PTA権力強すぎなのです…」

 

 驚きを通り越して呆れの感情すら抱いているなぎさが言う。

 

「あ!あのチンピラのいる通りに誰か来るぞ!」

 

「「!!」」

 

 だいりの言葉に反応した2人はすぐにだいりの視線の先に目をやる。そこには今回のゴミ拾いの参加者とみられる見た目10歳程の少女がチンピラのいる路地裏に向かって歩いているところが見えた。

 

「もう来たのです!」

 

「えぇ、この調子だとあと30秒ほどで鉢合わせるわ。早めに決めましょう」

 

 そう言い自身の鞄の中から何かを取り出そうとする織莉子。

 

「本当に弱らせるだけだよな…。俺っちちょっと不安になって来たんだけど」

 

「大丈夫よ。しっかりやるわ」

 

 そう言い織莉子は鞄の中から明らかに鞄より丈が長い純白のバズーカを取り出した。

 

「いやしっかり殺る気満々じゃんか!!というかさっきからその鞄どうなってるの!?何でも出てくるな!」

 

「大丈夫よ。急所は外すわ」

 

「明らかにそれ急所以前の問題なのです!!」

 

 慌てて2人は織莉子を制止しようとする。このままでは自分たちまで警察のお世話になってしまう。流石に1日に2度は勘弁だった。

 

「流石にそれは仮面魔法少女としてまずいっておりっち!不良と一緒に俺っちたちまで捕まる!」

 

「仮面魔法少女?今の私は仮面魔法少女などではないわ」

 

 そう言うと織莉子は2人に振り返った。その顔にはいつの間にやらサングラスがかけられており、口にはココアシガレットを咥えていた。

 

「今の私は救済の戦士ORIKO☆13。邪な心を持った女の敵を月に代わって撃墜する者よ」

 

「キャラが渋滞しまくっているのです!?」

「救済するのに殺意満点じゃないか…」

 

「悪にとっては死こそが救済なのよ…」

 

「随分過激なメメント・モリだな!!」

 

 2人は必死に織莉子を止めようとしているが、そんなことお構いなしとバズーカをチンピラの方に向けようとする。このままでは歩いてくる少女も巻き込んでしまうかもしれない。

 

「やばい!やばい!なぎっち!俺っちがおりっち抑えとくからあのチンピラをいい感じに気絶させてきて!!」

 

「わかったのです!」

 

 魔法少女姿に変身したなぎさはマンションから飛び降りる。驚くチンピラを無視してすかさずチンピラにドラゴンスクリューを決めて気絶させた。この間約5秒である。

 

「危なかったのです…」

 

「あれ?あなた誰?こんなとこで何やってるの?」

 

「!」

 

 安堵しているなぎさに誰かが話しかけてくる。どうやらチンピラに暴行されるはずだった少女のようだ。

 

「そこに倒れてる人どうしたの?暑くて倒れちゃったの?」

 

「え、えっとこの人はちょっと体調が悪いみたいなのです。今から病院に送ろうと思ってたところなのです」

 

「そうなんだ…。大丈夫なのかな?」

 

 そう心配そうに幼女は倒れているチンピラを見る。

 

「大丈夫なのです!こいつは無駄に丈夫なのです!」

 

 さりげなく嘘をつくなぎさ。

 

「そっか!じゃあ大丈夫だね!早く元気になってねー」

 

 少女のそんな様子に少しだけ心が痛くなったなきざは早めに話を切り上げようとする。

 

「それよりもお前。こんなところに居ずに早く戻るのです」

 

「ゆまはお前じゃないよ!ゆまは千歳ゆまだよ!」

 

 少し怒ったようにゆまは言う。

 

「じゃあ早く戻るのですゆま。親が心配するのです」

 

「……うん。わかった」

 

 そう言い路地裏を出ようとする。しかしなぎさにはそのゆまの姿が少し弱々しくどこか寂しさがあるように感じた。

 何よりゆまの袖からチラリと痛々しいアザが見えた、ような気がしたから。

 

「…待つのです!」

 

「!」

 

 そんなゆまの姿を見てなぎさは思わず声をかけてしまう。

 

「……なぎさは百江なぎさなのです!」

 

「……!! うん!また会おうね!ナギサ!」

 

 そう言うとゆまは笑顔を浮かべ嬉しそうに路地裏を出て街中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「よかった、なぎっち。何とかできたみたいだ」

 

 上からなぎさの様子を見ながらだいりはそんなことを言う。

 

「……とりあえずこれを外してくれないかしら?かなり痛いのだけれど」

 

 現在織莉子はだいりにアームロックをかけられ、身動きが取れない状態にあった。

 

「却下。離したら何するか分からないし。少なくともなぎっちが戻ってくるまでは大人しくしてろ」

 

「そんなー」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「肩が外れるかと思ったわ」

 

「おりっちがあんな凶器撃とうとするからだろ」

 

「全くなのです」

 

 先程のチンピラを証拠の書類とともに警察に置いてきた3人は再び街中を歩いていた。織莉子は先程のだいりのアームロックが効いているのか肩を抑えながら歩いている。そんな織莉子にだいりとなぎさは呆れの視線を飛ばしている。

 

「やっぱり織莉子はとびきりのバカなのです」

 

「私はバカではないわ。バカは百江さんの隣にいる粗末な人のことを言うのよ」

 

「俺っちはバカではないし粗末でもない」

 

「さて、そろそろ次のターゲットの出現する場所に着くわ」

 

 だいりの言い分を無視し、織莉子は2人に目的地が近いことを告げる。いつの間にやら織莉子は未来視で次のターゲットが犯行を行う場所を特定していたようだ。

 

「お願いだから次はあんな荒い方法で解決しようとするのはやめて欲しいのです」

 

「えぇ、大丈夫よ。次は物理とは別の手段で解決するわ」

 

「信用できないのです…」

 

 疑い気味に言うなぎさ。なぎさは織莉子のあまりのバカっぷりに既に帰りたいと思っていた。同時にこんなのがPTAのトップで自分の学校は大丈夫なのかとも。

 

「見えたわ。あそこよ」

 

 そう織莉子が指を刺した場所は喫茶店であった。ぱっと見は普通の喫茶店で客行きも周りの店と比べて少し多い印象だ。3人は喫茶店に入り、空いている席に座る。

 

「こんな人がいる所でやらかす奴なんかいるのか?」

 

 店の様子は席の大半は人で埋まっており、喫茶店にしては少し騒がしい。少なくともだいりにはこんな所で犯罪沙汰をする人がいるとは思えなかった。しかし織莉子は2人に対して真剣な顔で告げた。

 

「今からこの喫茶店で強盗が起きるわ」

 

「「え!?」」

 

 驚く2人を放って織莉子は話を進めていく。

 

「今から大体10分後ほどに3人組の男が入ってきてカウンターにいる店員に拳銃を突きつけながら有り金と食料を要求してこの喫茶店を占拠するわ。どうやら動機はこの店に個人的な恨みがあるからみたいだけれど。私たちが何もしなければ店の中の客含めて数人が犠牲になるわね」

 

「普通に大事件なのです!?」

 

「どうするんだ?こんな人の多い店内じゃ魔法も使えんぞ」

 

 だいりの言うことは最もである。仮に強盗が入ってきてそれをだいりたちが人前で魔法で解決してしまったら強盗が入ってきた以上のパニックになるのは目に見えている。よって今回の事件解決に魔法を使うことは難しかった。

 

「ふふ、問題ないわ。今回もしっかり対策を用意しているもの」

 

 そう言うと織莉子はまたしても鞄の中を漁り何かを取り出し机の上に置く。それは白い玉のようなものだった。

 

「何だこれ?」

 

「爆弾よ」

 

「いやアウトなのです!!!」

 

 なぎさが全力でつっこむ。

 

「落ち着きなさい、ただの爆弾ではないわ。俗に言う閃光弾よ」

 

「! なるほど!これで客もろとも敵の目を眩ませてその隙にひっ捕えるってわけか!」

 

「そう言うことよ」

 

「本当に大丈夫なのです…?」

 

 先程のチンピラの件もあってなぎさはかなり不安を感じている。

 

「大丈夫よ。この閃光弾は私が作った特製よ。使い魔も閃光で焼き殺せるし、一発打てば真夜中でも1時間は真昼の空になるわ」

 

「いや全然大丈夫じゃないのです!?ばっちり店の中の人巻き込まれるのです!?というか使い魔を閃光で焼き殺せるってそれもはやただの爆弾なのです!」

 

 そうなぎさがつっこむが織莉子はやはり聞く耳持たずだ。閃光弾を片手にカウンターの様子を見て強盗を待っている。なぎさが説得を諦めかけていたその時、

 

「あら、いらっしゃい。なぎさちゃんにだいりさん。ここに来るなんて驚いたわ」

 

「マミ!」

「あ、マミっち」

 

 声をかけてきたのは巴マミだ。どうやら彼女はこの店で働いているようで仕事着のカッターシャツとエプロンを着ながら注文用のオーダーを片手に持っている。この様子だとどうやら注文を聞きにきたようだ。

 

「あら知り合いかしら?」

 

「おう、マミっちだ」

 

「本当は今回の大会にも誘っていたのです。けど…」

 

「このアルバイトが入っちゃってて行けなかったの。ごめんなさいね、なぎさちゃんだいりさん。せっかく誘ってもらったのに…」

 

「全然いいよ。それに今度埋め合わせするって言ってただろ?」

 

「ふふ、それもそうね。ところでそちらの方は…?」

 

「申し遅れましたわ。私、美国織莉子と申します。今回の大会の主催者で訳あってこのお二人と同行させていただいております。以後お見知り置きを」

 

 そう礼儀正しく簡潔に自己紹介をする織莉子。それに対しマミは少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔を浮かべ「こちらこそよろしく。私は巴マミよ」と自己紹介する。

 

「そうなのです!今回はマミにも協力して貰うのです!」

 

「?」

 

「実はもう少ししたらこのお店に強盗が入ってくるのです」

 

「ーー強盗!?」

 

 話を聞いたマミが驚いて声をあげる。

 

「マミっち!しーっ、しーっ!」

 

 だいりが静かにと人差し指を口に当てジェスチャーする。運良く周りのお客さんは大して気にしてない様子だ。

 

 だいりはマミに経緯を説明する。

 こうして3人で対策を講じることになったのだが、中々妙案が浮かび上がらない。時間だけが過ぎていき後3分で強盗が来るといったその時、急にだいりが勢いよく立ち上がった。近くの客の視線がだいりに向くがだいりは全く気にしていない。

 

 

「3人とも!俺っちすっごく良い作戦思いついちゃった!」

 

 

 

「良い作戦?」

「何かしら?」

「ちょっと嫌な予感がするのです…」

 

 

「この作戦にはマミっちとおりっちの力が必要だ!」

 

「私は面白そうだし良いわよ」

「じ…じゃあ私も」

 

「よし!じゃあ作戦を伝えるぞ」

 

 そう言いだいりは2人に耳打ちで作戦を伝える。

 

「不安しかないのです…」

 

 なぎさのそんな不安などどこ吹く風と言わんばかりにだいりの顔は笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 現在なぎさはテーブルに一人で座っている状態である。だいりは2人に説明をしたあとに織莉子と共にお手洗いの部屋に行ってしまい、マミも一旦仕事に戻っていた。

 

(本当に大丈夫なのです…?だいりは「任せとけ!」なんて言っていたけどやっぱり心配なのです)

 

 なぎさの心配は当然だろう。なんせこの喫茶店にいる人の命がかかっているのだ。だいり曰くなぎさはいれば返って逆効果と言われたのでこうして待機しているわけだ。そんな一抹の不安に駆られているその時、喫茶店の扉が勢いよく開けられ、顔を隠した3人組の男が入ってきた。

 

「おいお前!!死にたくなきゃこの中にありったけの金と食料を入れやがれ!!」

 

「ひぃぃぃ!?」

 

 カウンターにいる女性店員に拳銃を突きつけながら男の1人がそう言う。

 

(不味いのです…!強盗が来たのです!だいりと織莉子は何をしているのです!?)

 

 男の発言に店内が騒つく。そして店員を脅した男とは別の男が前に出て客に対して銃を向け言い放つ。

 

 

「お前ら!今よりここは、

『動くなお前らぁ!!!今からここは俺っちたちが占拠したぁ!!!』

 

 

「「は?」」

 

 

 なぎさと前に出た男の声が重なった。

 

 声のした方になぎさが目を向けてみるとそこには顔がすっぽりハマるほどの大きな罪と大きく書かれたマスクをつけ、ツナギを着ているだいりと、顔を覆うほどの派手な装飾が付けられた真っ黒な仮面をつけて真っ黒なロングコートを着ている織莉子がいた。だいりの手には真っ白なライフル。織莉子の手には真っ黒なバズーカが握られていた。

 

(いや何やっているのですーーーーー!!!?)

 

 テレパシーを使って今日一番のツッコミを2人にするなぎさ。

 

(何って強盗だよ強盗)

 

(強盗だよ強盗じゃないのです!!なんでそっちが奪う側になっているのです!?)

 

(見てわからないかしら百江さん?こんな言葉を聞いたことあるでしょう。『目には目を強盗には強盗』よ)

 

(なぎさにはオメーらがバカだって事しかわからないのです!!)

 

((俺っち{私}はバカではない))

 

「な、何だテメェらは!!?」

 

 同時になぎさに返答する2人に強盗団の男の1人が叫ぶ。

 

「何とは見てわからないのかしら?私たちはこの喫茶店を占拠したわ。怪我をしたくなかったら大人しくしてなさい」

 

「ふ、ふざけんな!!この喫茶店は俺たちが先に狙っていたんだ!!そんな言い分認められるか!!」

 

「おいおいどーしますかぁ?姉貴。この人質ども言うこと聞きませんぜぇ?」

 

「そうね。彼らのようなマナーのなっていない失敬な輩には身をもって分からせる必要があるようね」

 

 そう言うと織莉子は持っていたバズーカをジャキリと強盗団の男たちに構える。男たちはそれに対して動揺する、

 

「お、お前まさかここでそれを撃つ気じゃないだろうな!?」

 

「それをこっちに向けるんじゃねぇ!!」

 

 そう言い男の1人が持っていた拳銃を織莉子に向け発砲しようとする。が、いつの間にやら持っていた拳銃は持ち手から先がスッパリ切られており、そこから先がなくなっていた。

 

「え!?は!?銃が!?な、何で!?」

「げ!?俺のナイフも!?」

「俺のもだ!!」

 

 強盗の3人組は持っていた凶器がいつの間にか全て使い物にならなくなっていることに動揺し慌てる。

 

「あら、私を前によそ見とは良い根性ですわね」

 

「ヒッ」

 

 するといつの間にか男の1人のみの前にまで織莉子が接近していて、バズーカの砲身が男の目と鼻の先にまできている。

 

「ま、待て!!いや待ってください!!話せば…」

 

「問答無用!!!邪悪は滅ぶべし!!!」

 

 そう言い放つと織莉子はそのままバズーカで目の前の男の脳天を叩き、そしてすかさずラリアットを決めて気絶させた。

 

「兄貴ぃ!?」

 

「アンタはこっち」

 

 突然背後から聞こえた声に驚き振り向くとそこにはさっきまで向こうにいたはずのだいりが目の前におり、そしてその瞬間がしりと腰回りを抱え込まれそのまま持ち上げ、男に綺麗なシャーマンスープレックスを決めた。男は白目を向いて気絶した。

 

「切り捨て御免…」

 

 2人の男を気絶させた織莉子とだいりは最後の1人にジリジリと近づく。

 

「ひぃぃぃ!!た、助けて!!」

 

「残念だなぁ、ここに助けてくれる奴なんかいないぜぇ」

「大人しく滅びなさい」

 

 男は迫る2人に対して命乞いをするが完全に男を殺るき満々である。男が自らの生を諦めかけたその時、

 

「待ちなさい!!」

 

「!?」

 

「何者かしら!」

 

 声をした先に店中の視線が行く。そこには黄色のリボンの装飾がついた仮面をつけたマミがいた。

 

「私は正義の仮面少女!MAMI☆KAMEN!!この喫茶店で悪事を働くことはこの私が許さないわ!!」そう言いパチン!とMAMI☆KAMENは手に持っているリボンを床に叩く。

 

(もうつっこむのも疲れたのです…)

 

「ふふ、ならば力尽くで止めてみなさい。MAMI☆KAMEN!!」

 

「覚悟しろやぁーー!」

 

 そう言いだいりがマミに襲いかかる。だがMAMI☆KAMENがだいりの体当たりをかわすと手に持っていたリボンをすかさずだいりに巻き付け、縛り付け無職化する、だいりは「ギャフン!」と言い地面に倒れる。

 

「さぁ、あとは貴方だけよ」

 

「ふふ、私の配下を下した程度で調子に乗ってもらうのは困るわ」

 

 そう言い織莉子は懐から何かスイッチのような物をを取り出しMAMI☆KAMENに見せつける。

 

「今この店内には爆弾が仕掛けられているわ!!貴方が変な行動を起こせばこのスイッチを押すわよ!」

 

「……」

 

 織莉子の親指はスイッチの真上にある。織莉子の発言に店内の人たちに更なる動揺が走る。

 

「さぁ、その武器をおろしなさい!」

 

「……」

 

 MAMI☆ KAMENは織莉子の言う通り持っていたリボンを床に置こうとする。しかし、

 

「甘いわね」

 

「!」

 

 突如MAMI☆KAMENが自身の片足を後ろに下げる。その瞬間織莉子の背中に衝撃が走りバランスを崩す。そしてその隙にすかさず織莉子の手をリボンで捉えスイッチを手離させる。そしてそれをMAMI☆KAMENは見事キャッチした。

 

「ぐっ…、貴方自分の足元とカウンターをリボンで繋げていたのね!」

 

 MAMI☆ KAMENは自身の片足とカウンターをあらかじめリボンで繋げておき、それをぶつけることで織莉子のバランスを崩したのだ。

 

「その通り。そしてこれで止めよ!」

 

 そう言いMAMI☆KAMENは織莉子にリボンを巻き付ける。織莉子は「ギャフン!」と言いながら床に倒れ込んだ。

 店内は無法者が消え、静粛な空気になる。そして、

 

「ふぅ…、これで一件落着ね」

 

 その一言をMAMI☆KAMENが言った瞬間に店内はワッと歓声に包まれた。お互いの無事を確認し合う者、MAMI☆KAMENに向かってファンファーレを飛ばす者と喜び方は様々だ。そんな中、

 

「お、おいあんた…」

 

 強盗に入ってきた男の1人がMAMI☆KAMENに話しかける。

 

「何かしら」

 

「何で俺を助けてくれたんだ…?」

 

「……私はこの喫茶店の味方よ。このお店で傷つく人を出すことは私が許さないわ」

 

 そう言いながらMAMI☆KAMENは静かに男に歩み寄って目線を合わせる。

 

「貴方も生きてその罪を償って…」

 

 そう笑顔で言ったMAMI☆KAMENの言葉に感動したのか男は泣き出してしまった。

 そしてそれを聞いた店内の人々の更なる歓声に包まれる中強盗事件は収束した。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー解決できて良かったなー」

 

「本当ね。感動のラストだったわ」

 

「いや2人ともなに何事もなかったかのように振る舞ってるのです!?普通に犯罪沙汰起こしたのです!?」

 

 3人はあの後顧客や店員たちにマミを胴上げしている隙にあらかじめ緩めに縛ってあったリボンを外し店を出て服装を戻し、何事もなかったかのように街道を歩いていた。

 

 一応説明するならばだいりの考えた作戦はこうだ。

 まずは強盗の3人組が入ってきた瞬間に強盗に扮しただいりと織莉子が逆に店を占領する。そして強盗たちがそれで動揺しているうちに所定の位置に居たMAMI☆KAMEN(織莉子命名)もといマミが強盗たちの武器を無力化。そのことに気づいて慌てているところを2人で一気に叩く。そして店にいる人たちの注目がだいりと織莉子に移ったところでマミが2人を華麗に無力化するという流れだ。勿論最後の爆弾云々は織莉子の嘘である。

 このバカすぎる作戦になぎさは呆れきっていた。

 

「良いじゃないか。丸く収まったんだからさ。しかしかっこよかったなマミっち。結構ノリノリだったし。なぎっちもやってみたら?」

 

「絶対に断るのです。はぁ…、だいりたちの身は更に危なくなったのです…。やっぱりだいりもとびきりのバカなのです」

 

「俺っちはバカではない」

 

「2人とも、無駄話をしていないで次のターゲットの居場所へ行くわよ!」

 

 織莉子の言葉で2人は歩みを早める。しかしなぎさだけその足取りは重いものとなっていた。

 

(早く帰りたいのです…)

 

 そんななぎさの願いは口に出される事なく霧散した。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 少しずつ空が赤焼け色になりつつある空のもと3人は街道の外れに歩みを進めていた。

 

「さて、今日は次で最後にしましょうか」

 

「…やっとか」

 

「やっとなのです…」

 

 だいりとなぎさは織莉子にだいぶ振り回されたようでその表情は疲れ切っている。それもそうだろう。織莉子はターゲットのことあるごとに過度な武装で撃退しようとしたり、遠慮なしに魔法をぶっ放そうとするのだ。その度に引き留める役の2人の疲労は計り知れないものとなっている。特になぎさ。

 

「まさかおりっちがあそこまで止まらないあぶねー奴になってたなんてな…。1ヶ月前とはえらい違いだ」

 

「1ヶ月もあれば人間変わるものよ」

 

「変わりすぎだわ」

 

「だいりも充分暴れていたと思うのです。全く、毎回バカ2人の相手をするこっちの気持ちにもなって欲しいのです」

 

「「俺っち(私)はバカではない」」

 

「はぁー…」

 

 大きなため息をつくなぎさ。織莉子と行動してからは心臓に悪い出来事の連続だったのだ。無理もない。

 

「見えたわ。あれが最後のターゲットのいる場所よ」

 

 2人が織莉子の目線の先を見るとそこは少し年季のあるアパートがあった。しかし街道に近いアパートだと言うのにあまり人気が感じられずどこか不気味な雰囲気が漂っている。

 

「その最後の相手はアパートのどこにいるのです?」

 

「どうやらアパートの最上階にいるみたいね。さぁゴミ拾い大会の終了まで時間がないわ。早く片付けましょう」

 

 急足で向かう織莉子。どうやらゴミ拾い大会が終わった後もPTAとして集計や片付けなどの仕事が残っているようだ。PTAも楽ではないのだ。

 

「でもどうするのです?流石にアパートの部屋に無理矢理乗り込むわけにもいかないのです。というか乗り込まないで欲しいのです」

 

 そう懇願気味に言うなぎさ。今までも犯罪者を退治する時はかなり警察沙汰ギリギリ、または若干アウトなレベルまで織莉子たちは行動していた。そろそろなぎさは心身共に限界であった。

 

「大丈夫よ。今回はあのアパートの隣のビルから直接仕留めるわ。この織莉子☆バズーカでね!」

 

 そう鞄の中の純白のバズーカをチラリと見せる。

 

「だから犯罪沙汰はやめるのです!!」

 

「ところでおりっち。今回のやつは一体何をやらかしたんだ?」

 

「最後のターゲットは子供に虐待を繰り返している親よ」

 

 織莉子の言葉にピクリとなぎさが反応する。

 

「虐待?それまた何で」

 

「そこまで細やかには分からなかったわ。だけど経歴を見る限り家族関係の可能性は高いわね」

 

 そこまで織莉子が言うと3人はアパートの隣のビルの入り口に着いた。そしてそののまま中に入り、階段を使い上の階に上がる。階段を上りながら織莉子は話を続ける。

 

「どうやらその親の子供は両親が意図せずして生まれてしまった子みたなの。両親の仲も良くないみたいで、仕事のストレス発散も合わせて鬱憤をその子にぶつけてるみたいね。その子もその子で親に圧力をかけられてその事を周りに言えずじまいみたい」

 

「それまた酷い話だな」

 

「………織莉子、その子供の名前は何で言うのですか?」

 

「あら?どうしたの急に」

 

「別に、気になっただけなのです」

 

 そうなぎさは捨て気味に言う。織莉子は少し考えるような素振りを見せ、なぎさを一度見るとすぐに言葉を発した。

 

「名前は確か……『千歳ゆま』よ」

 

 

「……!!」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「……ただいま…」

 

 ナギサと別れたあとゆまはママがゴミ拾いを早めに切り上げてって言ったから早めに帰ってきた。ゆまはそのまま洗面所で手を洗ってママとパパがいると思うリビングに重い足を運ぶ。ゆまはいつもママとパパに嫌なことを言われて痛いことをされる。行くたくないな…。

 リビングに入ると相も変わらずゆまのことなんかいないように扱うママとパパがお互いのことを貶し合って言い争っていた。

 

「貴方があの子の面倒を全部私に押し付けるからでしょ!!おかげで何日休めてないと思ってるの!?」

 

「そんなこと知らん!第一子供の面倒を見ることは母親のお前の仕事だろう!?こっちは自分の仕事で忙しいし疲れてるんだ!!いちいちそんなことで文句を垂れるな!」

 

「………」

 

 そんなママとパパを横目にそのままリビングを通り過ぎて自分の部屋に行こうとする。だけど、

 

「待ちなさい、ゆま!そもそも貴方がいるから私がこんな目にあってるのよ!少しは責任を取りなさい!」

 

「そうだ!お前がもっとしっかりしていれば俺もこんなに苦労していなかった!どうにかしろ!!」

 

 ママとパパの怒号がゆまに突き刺ささる。ゆまは何にも悪いことした覚えはないのに…。もしかしたらゆまが知らないだけで何か悪いことをしたのかな…?

 

「…ゆまが…何か悪いことをしたの…?」

 

「はぁ!?何でそんな当たり前のことを聞いてくるのよ!!もっと考えなさいよ!なんて頭の悪い子なの!?」

 

「ひっ……ご、ごめんなさい…」

 

「ごめんなさいで済むなら俺はこんな奴とこんなくだらないことで喧嘩なんかしてないんだ!!親の気持ちも考えろ!!」

 

「で…でも…」

 

「でもも何でもないでしょう!!」

 

 そう言ってママはゆまの顔をパチン!と殴られそのままゆまは後ろにあったタンスに体をぶつけた。その振動でタンスの上にあった小物がバラバラと床に落ちる。痛い、すごく痛い。

 

「ちょっとゆま!何落としてるのよ!大事なものがあったらどうするの!?」

 

「おいゆま!お前俺の大事な物まで落としてるじゃないか!!しかも壊れてる……!どう責任を取ってくれるんだ!!!」

 

「うぅ……ご…ごめんなさい…!」

 

 ゆまはその場で両手を抱えて蹲る。最近は学校からでもおつかいからでも帰ってきたらママとパパの怒号と暴力を受けるのがゆまの日課になってる。正直毎日がすごく辛い。すごく苦しい。すごく痛い。でも我慢しないといけない。いつかきっとゆまはママとパパから解放される日が来る。だから今は我慢しないと…。

 

「あぁ!!もう本当腹が立つわ!!物を落とすな!何でこんなこともわからないの!?」

 

「ご…ごめん、」

 

「謝るな!!余計に腹が立つ!!」

 

 そう言ってパパはゆまを蹴る。あぎっ、い、痛い…

 

「痛いよ……」

 

「うるせぇ!!!静かにしろ!!!」

 

 パパは更に怒ってゆまを踏みつける。今日は特に暴力を振るわれる日だ。何度も何度もゆまを肩から踏みつける。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛いよ………パパ……

 

 何で何で何でゆまがこんな目にあわないといけないんだろ……。

 何でこんな痛い目にあわないといけないんだろ……。

 ゆまが悪いなら直すから、もっと良いことするから………何で………

 

 痛みの中、ゆまの頭の中に浮かんだのは今日お友達になったナギサのことだった。……初めてゆまにできたお友達。とっても嬉しかった。これからナギサと一緒に遊んだり、お出かけしたりって考えるととっても楽しみって思った。なんだかどんどん眠くなってきた。

 

 

 

 ……早くナギサと遊びたいな。

 ……早く明日になって欲しいな。

 ……早く終わって欲しいな。

 ……早く…………………もう嫌だ。

 

 

 

 

 

「……たずげで……ナギサ……」

 

 

 

 

 

 

「言われなくても助けてやるのです」

 

 

 

 眠くなるゆまが最後に見たのは窓ガラスを割って入ってきた誰かがパパが蹴り飛ばした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 ガッシャーーーーン!! 

 

 

 何かが派手に割れる音と共に何者かが目の前のゆまの父親を豪快に蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたゆまの父親はそのまま吹っ飛び、頭から冷蔵庫に激突し、そのまま気を失った。先程まで家族での喧騒が絶えなかった部屋の床には窓ガラスの破片が大量に散乱してしまっている。

 

「な、何!?何なの!?」

 

 突如変化した状況が理解しきれていないゆまの母親は動揺する。すると先程まで父親がいた場所に小柄な影が立っていることに気づく。今いる位置からだと日の逆光が当たって姿がよく見えない。

 

「い、いきなり誰なの貴方は!!こんなことをして…!」

 

 そうゆまの母親は自身の携帯を持ちながら言い放つ。しかし目の前の影は気を失っているゆまの様子を見て動かない。

 ゆまの様子は酷いものだった。服の下は切り傷と打撲の跡だらけ。さっきまで殴られていたものだけではない。

 

「………お前らはいつもこんなことをしていたのです?」

 

「は?」

 

 

「いつもお前らはゆまにこんな暴力を振るっていたのかって聞いてるのです」

 

「……な、何よ!それの何が悪いの!?私の娘よ!私がどう扱おうが私の勝手でしょ!?」

 

「ふざけんななのです!!ゆまは痛がってたのです!!泣いていたのです!!助けを求めてたのです!!親だからって子供に何でもしていいと思ったら大間違いなのです!!」

 

「あの子まさか誰かに私たちのことを言ったの…!?あれだけ言い聞かせておいたのに……!!……まさか貴方、そんなことのためにこんなことをしたの?こんな子のために?第一貴方は誰!?この子の何なの!!」

 

 そう口調を荒げながら言う。すると目の前の影が一歩、二歩と前に出てきた。

 

「……なぎさは助けを求める子供達を救う正義の仮面魔法少女NAGISA☆KAMEN。唯のゆまの友達なのです」

 

 そう言い日が当たり現れたのはオレンジのマントを靡かせ白い仮面をつけたゆまと同じくらいの年齢の少女だった。

 

「い、意味がわからないわ!家をこんなにして、タダで済むと思っているの!?」

 

 "貴方は警察行きよ!"と目を血走らせながら携帯から警察にかけようとする。

 

「いえ、警察のお世話になるのは貴方よ。千歳さん」

 

「!?」

 

 後ろから聞こえた声に驚き振り向くとそこには仮面をつけた2人の女性がいた。どちらも背丈から見て学生だろう。

 

「警察には私から既に連絡させていただいてます。後5分もすれば警察がここに来るでしょう」

 

「まぁ、捕まんのはアンタとそこで伸びてる人だけどな」

 

「あ、貴方たちも何処から…!?それよりもあの子の連れは貴方たちですね!?どう責任を取ってくれるんですか!?それに私が捕まる?何で私が捕まらなきゃ」

 

 そこまで言うと母親の前に何かの紙の束がどさりと置かれた。

 

「千歳さん、貴方そこの父親と共謀して娘のゆまさんを密売人に売ろうとやりとりをしていたことは確認済みです。証拠は全てその資料に抑えています。警察にもその資料は既に提出済みですのでその密売人さんも今頃捕まっている頃でしょう」

 

「な……な、な…」

 

 織莉子の話を聞いた母親は足元が急に崩れ去っていく感覚に陥る。するとすっかり風通りが良くなったベランダの外からパトカーのサイレン音が鳴っているのが聞こえた。

 

「あら、思ったより早かったわね」

 

「そういやこの辺り大会の警備に回ってた警察の拠点が近かったっけ」

 

 

「…あ……あ…あ……あぁぁぁ……!」

 

 気分が悪くなり眩暈もしてきた。ゆまの母親は膝から崩れ落ちるとふと部屋の隅を見た。そこにはゆまが倒れている。

 

(………あいつが……あいつが言わなければ……!!あいつが言わなければ!!)

 

「あんな奴と別れて人生やり直せたのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 そう叫びながらゆまの倒れている方へ走り出す母親。走る途中に落ちていたハサミを拾ってそのままゆまに思い切り振りかざそうとする。

 

 

「やっぱりお前は最低最悪の親なのです」

 

 

 しかしそれはその場にいたなぎさに片手で止められてしまう。その表情は仮面で見えないが言葉の端々から怒りが染み出しているのがわかる。そしてキッと母親に顔を向けて睨みつける。

 

 

「お前は人生をやり直す前に、人としてやり直してくるのです!!」

 

 

 

 なぎさの強烈な平手打ちがゆまの母親に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

   

 

 

 結局あの後人身売買未遂の証拠を抑えられたゆまの両親は警察に逮捕され連行された。重症を負ったゆまは織莉子が警察と一緒に呼んでおいた救急車で病院に搬送されたが、織莉子が確認した限りでは幸い命に別状はなく、魔法である程度の手当てもしておいたので大丈夫だそうだ。

 警察が来る前に抜け出した3人はすっかり暗くなった夜道を歩いていた。

 

「いやー、なぎっち大活躍だったな。まさか率先して行くと思わなかったな。かっこよかったぞ、NAGISA☆KAMEN」

 

「うっさいのです、なぎさは単純にあのゆまの親が気に入らなかっただけなのです」

 

 なぎさは自分と同じような境遇にいたゆまを放ってはおけなかったようだ。そのことを察していただいりは少し表情を沈める。

 

「それにあいつらに顔を覚えられるわけにはいかないのです」

 

「…なぎっちは一人称の時点でなんか手遅れな気もするけどな」

 

「大丈夫よ。その辺りは私がいい感じに揉み消しておくわ。今日1日のこと含めて、PTAのトップの権限でね」

 

「だからPTA権力強すぎなのです…」

 

「なんか不祥事起こした議員みたいだな」

 

「あら、なにか言ったかしら?」

 

 悪びれた様子もなくふるまう織莉子。

 

「とりあえずなぎさは明日ゆまのいる病院に行くのです。どうしようもない奴らだったとはいえ家族がいなくなったのです。ゆまの様子が心配なのです」

 

「あ、じゃあ俺っちも行く。なぎっちの友達なんでしょ?なんか遊べるものとか持っていこうぜ」

 

「私もついて行くわ。無関係ではないもの」

 

 3人は明日にゆまのいる病院に行く約束をしたところで一旦話を区切った。

 

「…はぁー、それにしても今日はとんでもない1日だったのです。これなら魔女退治の方が数倍楽なのです」

 

「そうか?俺っちはわりかし楽しかったぞ?おりっちが暴走気味ではあったけどな」

 

「だいりも十分暴走してたのです。このバカ」

 

「俺っちはバカではない」

 

「というか織莉子は見滝原に来る前もこんなことをしてたのですか?」

 

「いえ、本格的に救済活動を始めたのは見滝原に来てからよ。というより私は見滝原の悪い人しか今のところ退治する予定はないわ」

 

「え?なんでなのです?」

 

 織莉子はそう疑問をこぼしたなぎさの方に振り返り、人差し指をそっと口の前に当て、薄く笑って言った。

 

 

 

 

「秘密よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あのー、あんたこんなとこで何やってんだ?雨当たってんぞ、びしょ濡れじゃん』

 

『………』

 

『おーい聞こえてますかー?というか学生だろあんた。今の時間って授業してるような時間だろ?サボり?」

 

『………』

 

『やっぱサボりか?もしかして授業嫌になったって感じ?わかるわー。なぎっちのちょっと見たことあるけどあれめちゃくちゃ退屈だよなー。あのおっさんの授業退屈なんだよなー。でもどうせならこんなとこに居ずにゲームとかアニメとかでも見た方がよっぽどサボりは楽しいぞ。多分』

 

『……ほっといて』

 

『ん?』

 

『ほっといてって言ってるの。今は誰とも話したくないの…』

 

『え、やだ。なんで俺っちがこんな水槽の物置みたいになっている人ほっとかないといけないんだ?鬼か俺っちは』

 

『……』

 

『とりあえず、はい傘』

『いらない』

 

『え、じゃあ、あんぱん』

『いらない』

 

『カレーパン』

『いらない』

 

『クロワッサン』

『いらない』

 

『小麦粉』

『いらない』

 

『水晶使ってやる商は』

『うらない…………あ…!』

 

『わははー!!引っかかったー!』

 

『〜〜〜っなんなの貴方!さっきから!』

 

『いや元気なかったみたいだし元気出るかなーって』

 

『余計なお世話よ!いいからほっといて!!』

 

『やだ。だってあんた寂しそうだったし。友達とか居ないのかな〜って。親とかどうしたの?』

 

『ーーーッ!! あ、貴方に……貴方に私の何がわかるっていうのよ!!お父様も友達も自分の居場所も何もかも失った私の何が!!』

 

『うん、分からん』

 

『だったらほっといt』

『でもそこまで言われて普通無視はしない。少なくとも俺っちは』

 

『…………』

 

『そうやって口に出したってことは誰かに知ってほしかったってことでしょ?そういう時は誰かに言って思いっきり発散するのが絶対良い!楽になるぞー』

 

『………別に良い』

 

『そう言うなって。…よっと』

 

『な、何するの!?』

 

『はぐー』 

 

『やめてっ』

 

『わ、つめてっ!水かけないで!?』

 

『うるさい!今更赤の他人が何をするの!私はもう分からないのよ!何が正しいのか!!』

 

『絶対に正しいことなんてこの世には無いっての!』

 

『正しさが無いと私は生きていけない!!』

 

『そんなわけあるか!正しいことは無いけど、答えは自分の目の前にずっとある!あんたが盲目になってるだけだ!』

 

『答えなんて…どこにも無いわ!』

 

『俺っちを、見ろっ!』

 

『!!』

 

 

『……ほら、前見えた』

 

『……え……あ……』

 

『…答えはいつだってすぐそばにある。それはいつも正しいことってわけじゃないけど、それでも一緒に進み続けることはできる。きっとあんたは嫌なことがあって嫌な自分しか見えなくなってるだけだ』

 

『………』

 

『自分を信じろ!自信を持ちながら前向いて歩いてたら大体正解だ!』

 

『しん…じる……自分を』

 

『おう!俺っちもそれでいけたしな!』

 

『……』

 

『おっ、日の光。やっと雨止んだか』

 

『………』

 

『いやー、雨上がりの空って綺麗だよなー。あっ、虹見えた!』

 

『………うぅ、お父様……』

 

『…溢れてきてんじゃん。やっぱ我慢してるんだよあんた』

 

『……ち…違う……こ…れは…』

 

『いいんだよ泣いても。ここには俺っち2人以外誰もいないしさ』

 

『え……あうぅ……うぅぅぅ……!』

 

『よく頑張ったな。あんたは偉いぞ』

 

『……うぅ……グスッ………織莉子……』

 

『ん?』

 

『…私は織莉子。美国織莉子』

 

『……そっか、今までよく頑張ったな。偉いぞ織莉子。もう我慢しなくてもいいんだ』

 

 

 

『……うぁ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……落ち着いた?』

 

『……グスッ………ごめんなさい…こんな無様を……』

 

『いーんだよ、人間無様でナンボだ。気にする必要性なんて皆無だね!』

 

『……貴方は…良い人なのね…。目つきは悪いけれど…』

 

『言うな。結構気にしてるんだからな!』

 

『ふふっ、それはごめんなさいね。……こんな私に声をかけるなんて本当…バカな人ね』

 

『俺っちはバカではない』

 

『ふふふっ、何それ』

 

『元気は出たみたいだな。良かった』

 

『…えぇ、おかげさまでね。貴方のおかげでもう少しだけ前を向きたいって思った』

 

『そっか。じゃあ元気でな!』

 

『あっ、待って!』

 

『何だ?』

 

『貴方のお名前を聞いていなかったわ。名前も知らないのではお礼もしにいけないもの』

 

『あー、そういや言ってなかったな…。俺っちはだいり、雪野だいりだ。よろしくなおりっち』

 

『……だいり……だいりね、覚えたわ。………ありがとう、だいり』

 

『いいよ、俺っちなんにもしてないし』

 

『ふふっ、私も今度貴方のいる街にお礼に行くわ。だいりはどこに住んでいるのかしら?』

 

『………………あっ!』

 

『?』

 

『ご、ごめんおりっち、言いづらいんだけど俺っち実は今迷子でさ…。見滝原ってどこ歩いたら着くかわかる?』

 

『………うふふふ…ふふ……ま、迷子…あはははははははははは!!』

 

『ち、ちょっと笑わないでくれよ!俺っちだって好きで迷子になってるんじゃないんだからさー!』

 

『あははははははははは!!』

 

『やーめーてー!!』

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

(だいり、貴方はバカよ。とびきり優しいバカ。けど危なっかしい。貴方はとても純粋よ。だからいつ他人の悪意に巻き込まれるかわからない。現に貴方は魔法少女という一つの悪意に巻き込まれている。だから私はこれからは貴方のために動く。貴方が安心して生きられるように。だって貴方は私にとって大切な存在だもの。…だから)

 

 

「おりっちー?何やってんのー?早く行こうぜ!」

 

「だいり!今日は疲れたから晩御飯はチーズ三昧なのです!」

 

「げぇーっ!?勘弁してくれ!!」

 

「ふふっ、まだ元気じゃない。だいり、百江さん。これなら明日も行けそうじゃない?」

 

「「もう勘弁!!」」

 

 

 

 

 私も前を見ることにしたわ。目の前にいる貴方だけを。

 

 

 

 

 

 

 

 




補足

雪野だいり:今回もやっぱりバカだった主人公。少し前に織莉子と出会い、色々あって仲良くなった。結局あの後織莉子に見滝原まで送ってもらった。織莉子の変化の諸悪の根源。

百江なぎさ:相も変わらない苦労人。過去の自分と似たような仕打ちを親から受けているゆまを見てプッツンして千歳家に『ダイナミックお邪魔します』からの『失礼お父様、お顔に虫が止まっておりますわドロップキック』のコンボを炸裂させた。んー、100点かな!今回の一件でゆまと友達になった。最近ゆまに会うたびに仮面をつけた自分と同い年ぐらいのヒーローの出てくる夢の話を聞かされる。それが原因で織莉子から貰った仮面とマントを捨てられずにいる。

美国織莉子:だいぶ原作から性格が変わってしまったバケツ頭。元々かなりのお嬢様校に通っていたが不祥事を起こした議員の父親が自殺し、それが原因で学校からも半ば追い出され途方に暮れていたところにだいりと出会い、諭される。それが原因で今まで正しいことをしなければと言う信念が全てだいりに向いてしまい、原作とはまた違った方向で拗れた。しかし精神状態は意外と安定しており、固有魔法もある程度使いこなしている。だいりの悪影響によって半分オタクと化しており、今回の行動もそれらに影響が多分に含まれている。基本ニチアサと流行りのアニメはおさえている。自身の父親が就いていたPTAの役職を継ぐ形で入り、大人顔負けの指揮能力と処理能力で見滝原支部のトップになった。ある出来事をきっかけにキュウベェと契約し、固有魔法『未来視』を得る。願いは『雪野だいりに迫る危険を知りたい』。今回の救済活動銘打ったものも建前で実際はだいりの周りの悪意を持った人たちを排除するためだが、本当の狙いは別にあるらしい。

千歳ゆま:両親から虐待を受けていたなぎさと同い年の子供。両親のことは前からよく思っておらず、むしろ父方のおじいちゃんおばあちゃんの方が優しくて好き。退院後はその父方の祖父母の家で暮らすことになった。なぎさたち3人との関係は良好だが、だいりは目つきが怖いのでまだうまく話せない。だいりが目を光らせているので、魔法少女にはなっていない。

巴マミ:今回の強盗の一件以来、強盗を撃退した学生として喫茶店の顔のような存在になった。マミがシフトで入る日は普通の日と比べて売り上げが10倍近く伸びたとか。着々と見滝原にファンが増えている。頑張れMAMI☆KAMEN!ちなみに逃げた強盗役のだいりと織莉子の2人は指名手配された。

ゆまの両親:いわゆるデキ婚をした。仕事などからのストレスなどをゆまに発散していたとんでもねー奴ら。最終的にはゆまを売り払い、多額の資金を手に入れようと考えていたが、その計画は全て織莉子たちに壊され、あえなく豚箱行きとなった。
 
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