バカが魔法少女になった話   作:わらしべいべー

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今はチョコレートになりたい気分




一方その頃的なやつ

 

 

 

 

「…みふゆ、そこの棚ににあるファイルを取ってくれないかしら」

 

「分かりました」

 

 やちよはみふゆから渡されたファイルの中の資料に目を通す。内容は自身が住んでいる街、神浜市の魔法少女についてのデータだ。これらの資料は全てみふゆとやちよが書き記したもので、確認した限りでの新しく契約した魔法少女、現れた魔女、殉職した魔法少女などがこと細やかに書かれている。

 

「……やっぱり新入りの殉職者が多いわね。新入りが対処しきれない魔女が増えてきているわ」

 

「そうですね…。この間の巡回中でも苦戦を強いられている子が多かったです」

 

 みふゆはそう言うとやちよの隣に腰をかけ、そのままやちよに資料を見せる。

 

「やはりもう少し巡回ルートを広げるべきでしょうか?」

 

「そうね…、でもこれ以上ルートを広げると東のテリトリーに入る可能性もあるわ。私たちが下手に向こうを刺激させるわけにはいかない」

 

「…となるとやはりワタシたちができるのは今まで通り新入りへの注意勧告とできる限り強い魔女を倒すことですか」

 

「それと、チームの結成も呼びかけましょう。私たちみたいにチームを組めば新入りでも勝つ可能性が出てくることもあるわ。少なくとも1人で行くよりかは被害も抑えられるはずよ」

 

 そう言いやちよは一口コーヒーを口につける。

 

「確かにそれなら今よりかは犠牲者も減るかもしれませんね」

 

 そうみふゆも机のコーヒーに口をつけるが、顔を顰めてすぐにコップを机に戻してしまう。

 

「………そういえばもう良い時間ね」

 

「あっ……そう、ですね。そろそろ準備し始めましょうか」

 

 そう2人は席を立ち、そのまま自分たちの自室に足を運んでいった。

 ここは『みかずき荘』。元々は宿屋であり、現在は神浜市における西の魔法少女のリーダーであるやちよとみふゆの住居となっている場所である。神浜の様々な魔法少女が来ることから、"魔境の巣窟"なんて言われることもしばしばある。

 

「じゃあ行きましょう、みふゆ」

 

「…はい」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 外は夏場ということもありかなり暑い。蝉が鳴いている声があちこちから聞こえ、空は快晴で日がよく照っている。2人は軽装でアスファルトの上を歩いている。

 

「流石にこの時期は暑いですね…」

 

「仕方ないわ。…ほら、見えてきたわよ」

 

 そう言うやちよの目の先には一軒の花屋があった。色とりどりの花が店頭に見える。みふゆはそれを見ると足を早め、店の中の日陰に入った。

 店内は大小様々な色鮮やかな花に彩られており、花の良い香りが店に入った2人の鼻孔を優しく撫でる。すると店内から店員のおばさんが出てくる。

 

「あらいらっしゃい。久しぶりねぇ、やちよちゃん。今日は買い物かい?」

 

「はい、供物の花を何輪か」

 

「供物…。そうかい、あの子かい。なら、ゆっくり選んでいきなさい」

 

「はい」

 

 やちよは飾られている花を一つ選んで、店のカウンターに包装をお願いする。

 

「これをお願いします」

 

「あっ!この花も一束お願いします!」

 

 そう黄色い花を指差して物欲しそうに頼む。

 

「みふゆ…」

 

「いいじゃないですか!」

 

「まぁ良いけれど…」

 

 そう言ってやちよは花屋のおばさんに代金を支払う。代金を受け取った花屋のおばさんはそんな2人を見て笑みを浮かべる。

 

「本当に2人は仲が良いわねぇ」

 

「えぇ!ワタシとやっちゃんはとても仲良しなのです!」

 

「はいはい、ほら行くわよみふゆ。一束くらい持ちなさい。おばさん、ありがとうございます」

 

「えぇ、また来てね」

 

 花屋のおばさんは歩いていく二人を見送る。あの二人は本当に仲良しだ。二人を見ていると、若い頃友人と遊んだ記憶が思い出される。

 

「……あの子もいてくれれば良かったのだけれどね」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 おばさんから花束を受け取ったやちよとみふゆは花屋を出て再び日の本を歩く。そのまましばらく歩き、街からは少し離れた木に囲まれた並木道に出る。

 

「……やっちゃん、ワタシはもう少し花屋さんで休んでいたかったです」

 

「わがまま言わないの。暑いなら一応日傘持ってきてるでしょう?それを使えば……」

 

「いえ、そうじゃなくて………その…」

 

 歯切れが悪そうにするみふゆ。その表情は先程とは別人のように沈んでいる。何かを察したようにやちよは歩みを止める。

 

「………みふゆ」

 

「わかっています。…わかってはいるんです。でも……、やっぱりダメです」

 

 そう言い手に持っている花束をぎゅっと握りしめて崩れそうな顔でやちよの方を見る。

 

「……もう二ヶ月も経つわ。いつまでも私たちがこんな調子でいるわけにはいかないのよ」

 

 そうアスファルトの地面を見ながら言葉を出すやちよ。その声は少し震えているようにも聞こえる。

 

「……でも、それでもっ…ワタシは……!」

 

 それからの言葉は続かなかった。やちよは沈んだ表情で前を向き、静かに歩みを進める。暗い空気の中歩みを止めずに2人は黙々と目的地に進んでいく。

 

「…………着いたわよ。みふゆ」

 

「………!」

 

 そこは墓場だった。緑の芝生の上にいくつもの小さな石碑が立っており、何人か人も見える。

 今は世間で言うところのお盆休みだ。こうして墓参りに来る人も少なくない。僅かな線香の残り香を感じながら墓の中を進む2人はある墓にまで来ると足を止めた。

 

「……来たわよ、かなえ」

 

 やちよは墓石を撫でながらそう呟く。その墓石には『雪野かなえ』と文字が彫られていた。やちよは目の前に花束を置く。

 

「貴方がいなくなってからみかずき荘はずいぶん寂しくなったわ。おばあちゃんも最近は病院に通い詰めだし…」

 

「……」

 

 やちよの言葉を聞きながらみふゆもそっと花束を置く。

 

「でも私の調子はすごく良いのよ。前よりも魔力も増してこの街の強力な魔女も倒せるようになったわ。それにみふゆもこの二ヶ月ですごく強くなったのよ。かなえが見たらきっと驚くわ」

 

「………」

 

「それに東西の関係も少しずつだけど良くなってきているの。この調子なら東西の魔法少女が手を取り合える日が来るかもしれない」

 

 そこにいるかのようにやちよは墓石に向かって言葉を溢す。しかし返ってくるのは風に煽られて揺れる花の音だけだ。

 

「……ワタシは……ワタシはっ!…かなえさんが死んでしまってとても悲しかった!あれから一ヶ月間、ワタシとやっちゃんはまるで抜け殻のようでした…!何をしても頭に入らない、身に力も入らない!只々喪失感だけが心の中にありました…」

 

 みふゆは目から涙をこぼしながら絞り出すように言う。その手は自身の後悔の強さを表すように固く握りしめられている。

 

「でも…でも……それでもワタシたちは前に進まないといけません…。正直胸が張り裂けるほど辛いです…。今でもワタシは喪ったものに縋りたくて仕方ありません…。でもそれでもワタシたちは前に進まないといけないんです!だから、だから…」

 

 

「……だから見守ってほしいの。私たちを…私たちの行く道を」

 

 

 そう言って2人はお墓の前で手を合わせ、一礼した。

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

「…え……なえ……かなえ!」

 

「……ん…」

 

 肩を叩かれたかなえは閉じていた瞼を開き耳につけているイヤホンをそっと取る。

 

「全く、音楽を聴くのも良いけどもうすぐ夕飯よ」

 

「…ん……ごめん…」

 

 かなえは座っていたソファーから立ち上がり、食事の席に座る。

 

「まぁ良いじゃないですかやっちゃん。最近はその音楽のおかげもあってかなえさんも大分心を開いたんですから多少は」

 

「みふゆ、貴方はかなえを甘やかしすぎよ。もう少し厳しい目で見た方がかなえのためよ」

 

 そう言いながらやちよは机に皿をを置いていき、その後に大きな鍋を持ってきた。どうやら今日の夕飯は具材たっぷりの鍋のようだ。

 

「かなえちゃん、音楽も良いけれどほどほどにね」

 

 そう言うのはやちよの祖母だ。面倒見が良く、優しく温和な性格で元はこの宿を切り盛りしていた。そんな暖かさを感じる祖母の言葉は常にかなえに安心を与える存在だった。

 

「…ん、わかった…」

 

「…はぁ、かなえったらおばあちゃんの言うことは素直に聞くのに。なんでかしらね…」

 

「やっぱりおばあさんの人徳じゃないですかね?繁盛していた頃のみかずき荘を切り盛りしていたほどですし」

 

「みふゆ?それは私の人徳がないと言うことかしら?」

 

 やちよが笑顔で問う。心なしかその表情からは圧が感じられる。

 

「い、いえ!そんなことはないですよ!きっとワタシたちがこうして集まっているのもやっちゃんの人徳ですよ」

 

「うん…それは、間違いない…」

 

「……そう言われると逆に照れるわね…」

 

 鍋の具材をつつきながら少し顔を朱に染める。

 

「ふふ、じゃあ冷める前にいただきましょうか」

 

 そうやちよの祖母が言ったのを皮切りに各々は食事を取り始めた。食事中も楽しげな会話は絶えずその空気は鍋の具材に負けないぐらい華やかだ。

 

 夕飯も食べ終わり、湯船を沸かすために祖母が席を外している時、みふゆが何かを思い出したような顔をした。

 

「そういえばかなえさん、今度ライブをするそうですね!」

 

「…!……なんで知って」

 

「かなえさんの部活のメンバーから聞いたんですよ!"絶対凄いから見にきて欲しい!"って」

 

「……そっか…」

 

 みふゆの発言に対してかなえは少し浮かない表情をする。

 

「…? どうかしたんですか?」

 

 そんなかなえの様子を見て疑問を持つみふゆ。音楽のことに関してはこと普段より話の進むかなえだが、今回は口をつぐんで言葉を詰まらせていた。

 

「……不安なんだ…ら上手くいくかどうか…みんなに喜んでもらえるか…」

 

 そうコーヒーの入ったマグカップに目をやりながらそう自身の気持ちをこぼす。黒と白が中途半端に混ざっているカップを見て更に表情を険しくする。

 

「私にとっては初めてのライブだから…」

 

「大丈夫よ」

 

 やちよが優しくかなえに言う。

 

「最初はそんなものよ。私だってモデルの仕事を初めてした時なんか緊張でガチガチだったわ」

 

「そうですよ!ワタシだって初めて何かをするときはとても緊張しますし、不安にだってなります」

 

「……」

 

 やちよはそばにあった砂糖とミルクをマグカップに入れ、スプーンでかき混ぜる。

 

「それにかなえは今上手くいくために皆んなと練習してるんでしょう?だったら大丈夫よ」

 

「そんなに心配なら本番の日はワタシとやっちゃんが応援に駆けつけますよ!」

 

「…!!……そ、それは、まだダメ…」

 

 そう焦った様子で2人が来ることを拒否する。

 

 「? なんでですか?」

 

 そう疑問を投げるみふゆ。それに対してかなえは髪を指先をいじりながら少し照れ臭そうな様子だ。

 

「……ま、まだ…2人に聴かせられるようなものじゃないから。私がもっと上手くなって、納得する出来になったら……その時に聴かせる……」

 

「そう、かなえがそう言うならその日を楽しみにするわ」

 

「えー、ワタシは見にいきたかったです、かなえさんのライブ」

 

「文句を言わないの、かなえがそうお願いしているんだから言うこと聞きなさい」

 

「むー、わかりましたよ。ですがそのいつかのライブの日は絶対ワタシとやっちゃん、それにおばあさんも一緒で見にいきます!」

 

「そうね、その時はちゃんとライトステッキ持っていかないと…」

 

 そんな2人の言い合いを見てかなえはおもわず笑みをこぼした。

 

「…ふふっ」

 

「あ!かなえさんが笑ってます!」

 

「本当、珍しいわね」

 

「……!…」

 

 2人にそう指摘されたかなえは恥ずかしさからすぐに顔を硬らせて笑顔を戻してしまう。

 

「あー!なんで戻しちゃうんですか!もう一回笑ってください!もう一回!」

 

「…やだ」

 

「あら良いじゃない別に、私も見たいわ。滅多に見られないものかなえの笑顔」

 

「!?」

 

 いつの間にかかなえの後ろにやちよが回り込まれ、肩に手を置かれる。そしてやちよはかなえの頬を摘み、口角を上げようと引っ張る。

 

「ほらほら、私たちに笑顔を見せない悪い顔はこれかしら〜?」

 

「〜〜〜!!」

 

「良い調子ですよやっちゃん!ではワタシも…」

 

 そのままみふゆも混ざり、かなえは顔以外にも色々もみくちゃにされながら大変な目に遭っている。だがそんな状況でもかなえはこんなやり取りも悪くないと思っていた。それはきっと2人の確かな心の温もりをかなえ自身が感じているからだろう。かなえは最低限の抵抗はしながらも、流れに身を任せることにした。

 

 

(…私は幸せ者だな)

 

 

 その顔に確かな笑顔を浮かべて。

 ミルクを入れたマグカップのコーヒーは混ざり切って褪せた色にに染まっていた。

 

 

「やちよ、お風呂沸いたわよ…って、ふふっ、本当に仲が良いわね。3人とも」

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 夕日が沈んでいく時刻、やちよが仕事を終わらせて帰ってきてソファーでゆっくりしている頃、みふゆとかなえが学校から帰ってきた。

 

「ただいまー、やっちゃん、おばあさん!」

「…ただいま」

 

「おかえり、今おばあちゃんは買い出しに出かけているわ。もうすぐ帰ってくるはずよ」

 

「…ん…わかった」

 

「では帰ってくるまでワタシはテレビでも見ながらゆっくり…」

 

 「「「!」」」

 

 瞬間、3人は表情を強張らせる。もはや慣れきったざわりとする感覚、魔女の気配だ。

 

「やっちゃん、かなえさん」

 

「わかっているわ」

「…ん」

 

 基本的に3人は魔女の気配を感じれば直ぐに退治するようにしている。やちよとみふゆは西の顔と言っても過言では無いし、放置しておくと一般人に被害が及ぶ。何より今はやちよの祖母が買い出しから帰宅しているだろう。被害に遭ってもおかしくない。これを無視するという選択肢は3人には無かった。

 

「魔女を倒しにいきましょう。おばぁちゃんが帰ってくるまでにまだ時間があるわ。このまま放置するわけにはいかない」

 

「はい、行きましょう」

 

 そう言って3人はみかずき荘を出て魔女の気配を追う。

 するとみふゆはあることに気づく。

 

「……この気配って」

 

「間違い無いわ、昨日私たちが逃した魔女よ」

 

 やちよたちは先日手負の魔女を一体逃してしまっていた。強さ自体は大したものでは無かったが、うまく隙を作られてまかれてしまったのだ。

 

「こっちよ!」

 

 やちよは3人の中では魔力を追うのは最も得意だ。昨日の魔女の気配はしっかりと記憶しているので、それを頼りに気配の出どころを捉え、そのまま魔女の結界の入り口を見つける。

 

「あったわ」

「流石やっちゃん!」

 

「…早めに終わらせよう」

 

 3人は一斉に結界の中に飛び込む。結界内は昨日と変わらず不気味で奇怪な紋様に包まれている。結界に入った途端、使い魔たちが襲いかかってきた。3人は難なくそれを撃破していくが、ある違和感に気づく。

 

「…昨日より強くなっている?」

 

「確かにそうですね…、手応えが昨日より少し悪い気がします」

 

「……魔女も十分警戒しておいた方がいい」

 

「そうね、2人とも、魔女を見つけたら連携で一気に叩くわよ」

 

 結界内を進み、開けた場所に出るとそこには羊のような風貌の魔女がいた。3人は先日戦った時に魔女に深傷を合わせたのだが、今の魔女にそんな傷はどこにも見当たらないし、弱っている様子もない。

 恐らく一般人などを治癒の足しにしたのだろう。自分たちが逃してしまったせいで犠牲になってしまったであろう人たちを憂うと唇を噛む想いになるが、今はこれ以上の犠牲を出さないためにもこの魔女を倒すことが最優先だった。

 

「行くわよ、2人とも!」

 

 3人はバラバラに散り、それぞれのルートで魔女に接近する。みふゆが幻覚で魔女を足止めしている間に私が周囲の使い魔を殲滅し、かなえが魔女を一気に叩くという作戦だ。

 みふゆの幻覚で魔女の足が止まっている間にやちよが一気に周囲の使い魔を倒し、周囲に魔女だけが残る。

 

「かなえ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 やちよの言葉とともにかなえが煙の中から飛び出し、持っているバールで思いっきり魔女の脳天を殴る。衝撃で魔女の真下の地面はバキバキに砕け、壁や地面に衝撃波が伝わる。かなり良いのが入っただろう。少なくともやちよは今の一撃はかなえの全力だと確信した。

 

「………っ!!」

 

『+<○○×$°>\〒\〆々〒)×○*×=+*×=×ーーー!!!』

 

「かなえっ!」

 

 だが魔女は生きていた。それどころかかなえの一撃をものともしていない様子だ。かなえは暴れ出した魔女の攻撃をうまくかわし、私とみふゆがいるところまで退いてくる。

 

「そんな…、かなえさんの攻撃が効いてない…!」

 

「……流石におかしい。昨日は今より力を込めていなくてもそれなりに効いていたはずだ」

 

「……一晩でここまで成長したってこと?」

 

 いくら一般人を治癒の足しにしていたとはいえ、一晩でこの成長は異常だ。今までもここまで急な成長をした魔女は見たことがなかった。

 

『+¥♪#==○*×=+〆5…|^$=$ーーーー!!!』

 

『!!!』

 

 暴れていた魔女がそのまま光の光弾のようなものを全方位に飛ばしてきた。どこにあたろうが御構い無しという様子で、結界内は光弾によって破壊されていく。

 

「ああっ!?」

 

「みふゆっ!!」

 

 すると攻撃の一つがみふゆに当たって、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「みふゆ、大丈夫!?」

 

「…えぇ、何とか。ですが…」

 

 みふゆは自分の足に目を向ける。足に大きな怪我を負ってしまっていた。グリーフシードもない今、みふゆはまともに動けないだろう。

 かなりまずい状況になった。やちよたちの攻撃が効かないとなれば持久戦では間違いなくこちらが先にやられる。逃げようにも結界の出口までかなり距離がある。何よりみふゆを背負いながら今のあの魔女から逃げ切れるとも考えにくい。

 

「まさかここまで追い込まれるなんて。私の判断ミスね…」

 

 このままでは最悪全滅してしまう。それだけは避けなければいけなかった。リーダーとしてもやちよ自身としてもメンバーを一人たりとも死なせるわけにはいかなかった。やちよは状況を打開しようと必死に思考を巡らせる。

 

「………やちよ、みふゆ、先に逃げてくれ。私が時間を稼ぐ」

 

 かなえが二人を真っ直ぐ見据えながらそう言う。

 

「そ、そんな!無茶ですよ!」

 

「そうよ…!そんなことは認めないわ!」

 

「それでも、これしか方法が無いのは2人が一番よく分かってるだろ。…誰かが囮になって時間を稼ぐしか無いんだ」

 

 そう言ってかなえは魔女に向き合い、手に持ったパールを構える。その目からは強い決意が感じられた。

 

「…私なら結界の入り口まで走る時間は稼げるはずだ。後で私も追いつく」

 

「嫌です!かなえさんを置いていきたくありません!!」

 

「大丈夫だ。…絶対戻ってくる」

 

「………っ!!」

 

 かなえのその言葉を聞いてやちよはみふゆを背負い上げ、そのまま出口に向かって勢いよく走り出す。

 

「なっ!?ち、ちょっとやっちゃん!?」

 

「かなえ!!必ず戻ってきて一緒に帰るわ!!絶対よっ!!!」

 

「……あぁ、約束だ」

 

 かなえは小さく返事をしたがそれははっきりとやちよの耳に入っていた。そのまま私は結界の入り口まで全速力で走り抜ける。

 

「戻ってください!!やっちゃん!かなえさんが!」

 

「……戻って何ができるの!向こうにいれば真っ先にやられるのは貴方なのよみふゆ!…かなえは貴方を守るために囮になったのよ」

 

「でもっ、でもっ!!」

 

 そう喚くみふゆの目からは涙が零れ落ちている。できるのならやちよも戻りたかった。だが今それをすればかなえの決意が無駄になってしまう。かなえはチームを生き残らせるために最善の選択をしたのだ。

 

「私たちがかなえを信じなくてどうするの?約束だってしたのよ。信じましょう、戻ってくるのを」

 

「……はい」

 

 やちよは使い魔を蹴散らしながら結界内を駆けていく。すると小さくだが出口が見えてきた。みふゆを安全なところまで避難させた後直ぐにかなえを助けに行こうと考えていた。

 

『+○♪×=<¥*×=|×$*$|×々×ーーーーーーー!!!』

 

「!?」

 

 背後の壁を破壊して足止めされているはずの魔女が現れた。所々に目立った傷があり、それが原因か腹を立てている様子だ。

 

「な、何で!?かなえさんは!?」

 

「……!!」

 

 魔女はそのままやちよたちに攻撃をしてきた。攻撃のたびに地面が抉れ、砂塵が巻き起こる。砂塵を真正面から突破して結界の入り口の前に急ぐが、あと一歩のところで魔女に回り込まれてしまう。

 

「くっ…」

 

 そのまま魔女は私たち目掛けて攻撃の動作を取り、眩い光と共に攻撃を放とうとする。

 

「はあぁぁぁッ!!!」

 

 ドガンッ!!

 

『+**×=〒×|×+×々||々+♪=×ーーー!!?』

 

「…っ、かなえさん!!」

 

 かなえが魔女の背後から現れ、バールで魔女を殴った。やちよはかなえが無事だったことに安堵しながら、そばに駆け寄る。

 

「……はぁ…はぁ…」

 

「かなえ、大丈夫!?」

 

「…はぁ……ひゅっ……ん……ああ、大丈夫……」

 

「どこが大丈夫なのよ!傷だらけじゃない!」

 

 かなえの体には大量の生傷があり、頭からかなりの出血もしている。呼吸もおかしい。すぐにでも治療が必要だった。

 

『+<×¥*÷〆〆°々|+×$==×ーーーー!!!』

 

「まずいわ…!」

 

「逃げましょう、かなえさん!」

 

「………」

 

 みふゆがそう言うが、かなえは結界の出口が目の前にあると言うのに魔女から目を離そうとせず、立ち止まったままだ。

 

「かなえ!」

 

「かなえさん!?」

 

「……ごめん2人とも。私は一緒に行けそうにない…」

 

「……ぇ? 何、言ってるんですか」

 

 やちよも言葉を続けようとするが、不意にかなえの腕についているソウルジェムが目に入った。既に黒く濁っているそれには大きなヒビが入っていた。

 

「かなえ、貴方それ…!」

 

「………あのの魔女を足止めしてる時にな、……なんでかわからないけど今すごく体が痛いんだ…。まともに動けそうにない」

 

 そう言うかなえの足は震えていた。恐らく立っているのも精一杯なのだろう。ぎゅっとバールを握りしめながら2人に顔を向ける。流れる鮮血で赤に染まってはいる顔はより2人に不吉なものを連想させる。

 

「それに分かるんだ、何となく。…私はもうダメだってこと」

 

「だ、ダメって……どういうことですか…?」

 

「かなえ、貴方っ」

 

 

 

 かなえが何をするのかを察したやちよはかなえに手を伸ばそうとする。だがその前に体を押され、結界の出口の放り込まれた。

 

「かっ、かなえさん!?」

 

「かなえっ!!」

 

 

 

 

「……ごめん、生きて」

 

 

 

 最後に2人が見たのは小さく笑っていたかなえ。直後に真っ白な光が二人の視界を埋める。

 

 

 

 

 

 

 ーー光の中、何かが砕け散るような音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅあ……うぅ…かなえさん…」

 

「………」

 

 衝撃で気を失っていた2人が目覚めた頃にはすべてが終わっていた。周囲にかなえの姿は見えず、近くにはグリフシードが落ちていた。恐らくあの魔女のものだろう。かなえはその身を犠牲にしてあの魔女を道連れにしたのだ。結果自分達は生きて、かなえは…死んだ。

 

「……かなえ」

 

 やちよの中で後悔だけが渦巻いていた。自分がもっとしっかりしていればこんなことにはなっていなかったのではないか。もっと他に手段があったんじゃないか。そんな考えばかりが頭を支配して、悲しみが堰き止められず瞳から溢れる。それを止める手段は今ののやちよには無かった。

 

 

 

 

 その後のことは正直よく覚えていない。気がつけば自分のベッドの上で倒れ伏していた。知らないうちに家に帰っていた。

 

 

 かなえが死んだ。

 

 

 その事実だけがやちよの心を支配し、さっきまでいたはずの彼女の幻影を掴もうとするが、何も掴めない空っぽの手を見て、また泣いた。

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

   

 

 

 

「……そろそろ帰りましょうか。やっちゃん」

 

「もう良いのかしら?みふゆ」

 

「…はい、もう十分です」

 

「そう…」

 

 そう言ってみふゆは荷物をまとめる準備をする。するとそんな二人の側に誰かが近づいてきた。

 

「む、君たちは…」

 

「…十七夜さん」

 

 2人の前に現れたのは和泉十七夜。彼女は魔法少女になって半年ほどではあるが、その実力は折り紙付きであり、東のまとめ役をしているだけあって人望やリーダーシップもかなりのものだ。彼女も今日はお墓参りに来たようだ。

 

「貴方も来たのね」

 

「あぁ、彼女たちに顔を出さないと行けないからな。2人は……雪野か」

 

「えぇ、もう帰るところだけどね」

 

「そうか、私としては2人が息災で何よりだ。少し前までは見ていられなかったからな…」

 

「えぇ、心配かけたわね」

 

「その節はありがとうございます」

 

 2人は現在十七夜と東西の蟠りを修復するためにやりとりを続けている。今のところ順調といえるが、それでもまだまだ道のりは長いのが現状だ。3人は少しお互いに情報交換をする。

 

「じゃあ、また明後日、ウォールナッツで集合ね」

 

「ではまた今度…」

 

「待て」

 

「…何かしら?」

 

「………いや…すまない、何でもない。ではまた明後日の会合で会おう」

 

「?」

 

   

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 「……」

 

 

 十七夜は小さくなっていく2人の姿を見ながら少し前にあった出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 「……」

 

 十七夜はすっかり日が暮れてしまった夜道の道路を歩いていた。その日バイト先の機材トラブルの始末に追われ、かなり遅い時間の帰宅となってしまった。

 

 「……七海たちは大丈夫だろうか…」

 

 

 ひと月ほど前に雪野かなえが死んだ。

 

 かなえとは十七夜も知らない中ではなかったのでその訃報を聞いた時は驚いた。その時に改めて残酷な魔法少女の現実を知ることになり、覚悟を改めたが、心配なのはやちよとみふゆだ。あれだけ仲良くしていた友人が死んだのだ。そのショックは計り知れないだろう。二人に何かができるわけではないが、それでも様子だけでも見にいくべきだろう。二人にはできるだけ早く立ち直ってもらいたい。

 そんなことを考えていると真横を車が通過した。意識を思考に飛ばしていた自分はハッと現実に戻る。

 

「…ひとまず今度様子を見にいくか」

 

 今考えても結論は出ない。2人の様子を見てどうするかを考える、そう思い帰路への足を早める。

 すると前から誰かの姿が目に入った。その足取りは軽快で、何やら愉快そうに歌を口ずさんでる。顔は電灯の逆光で見えないが、見たところ恐らく女学生だろう。こうして今ここにいる自分が言えた立場では無いが、仮に彼女が夜遊びなどしているのであれば不味いだろうと考え、一応注意をしようとすれ違おうとしたところでその人物に声をかけようとする。

 

「少しいいか君、こんな時間になに…を……」

 

「はーないっちもーんめ……ん?」

 

 その人の顔を見た瞬間に自分の思考は完全に停止した。その顔は雪野と瓜二つ。否、そのものだったからだ。

 

「……ゆき…の…?」

 

「!!?」

 

 その瞬間、雪野かなえとそっくりな風貌をした人物は驚いた様な顔をして明らかに動揺する。

 

「あ、いや…えーっと……」

 

「…」

 

「に、逃げるが勝ちぃ!!!」

 

「あっ!」

 

 そう言って彼女は来た道を猛ダッシュで逃げ去っていった。

 十七夜は暫く彼女が走り去っていった方向を唖然と見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

(…一体彼女は何だったのだ?目つきといい髪色といいそっくりさんと言うにはあまりに似すぎている。同一人物と言ってもなんら不思議では無いレベルだ。まさか、本当に生きて……)

 

 そこまで考えた時点で十七夜は思考を切る。

 

(……いや、それはあり得ないな。雪野はソウルジェムを砕かれて死んだのだ。魔法少女は命そのものであるジェムを砕かれれば死ぬ。それは覆ることのない事実だ。きっとあの時の人物も本当に顔が似ていただけだろう)

 

 

 何より自分の知っている雪野はあんなバカ丸出しでは無いからな。

 

 

 あの時の自分の知っている雪野とはかけ離れたイメージの表情を思い返しながらそう結論ずけ、自分は彼女たちの墓に行くために再び歩みを進めた。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「へっくしっ!!」

 

「あれ、風邪なのです?だいり」

 

「いや、そう言うわけじゃないんだけど…ってあっ!卑怯だぞ!くしゃみで怯んでる間に攻撃なんて!」

 

「油断していただいりが悪いのです。勝てば良かろうなのです」

 

 液晶画面を見ながら2人は白熱したバトルを繰り広げていた。

 

「なんだと!だったらこっちも隠しコマンドでフルボッコにしてやる!」

 

「あっ、それはズルいのです!最初にそれは使わないって約束したのです!」

 

「先に不意打ちしてきたのはそっちだ、この勝負勝って何としても小遣いを頂戴する!」

 

「そうはさせないのです!なぎさは勝って今月のカマンベールを確保するのです!」

 

 

 結局2人の勝負は深夜まで続き、次の日家に来たマミに2人ともこってり叱られた。

 

 

 

 

 

 

 




補足

七海やちよ:神浜市の西のまとめ役の1人。実力はピカイチであり、モデルやってるぐらいには美人さんであるが、幼少から仕事関係の苦労が絶えなかった。そのせいかちょっと考え方が年輩気味。チームの中でも苦労人気質であったため、それがさらに年増っぽい印象を加速させている感は否めない。かなえの死後、みふゆと共にソウルジェムが魔法少女の命そのものだと知る。胸はまな板ならぬ胸いt((アブソリュートレイン=

梓みふゆ:神浜市のまとめ役の1人。戦闘力はやちよとタメを張れるほどだがメンタルが少し弱め。おっとりとした礼儀の正しい人物だが、家事全般がダメでその辺りはやちよに一任しているちょっとダメな子。しかしプロポーションはかなり良く、モデルとしてスカウトされた経験もある。時々やちよが恨めしそうな顔で胸を見てくることがあるとか。

雪野かなえ:かつてやちよ、みふゆとチームを組んでいた現だいりの肉体となっている魔法少女。目つきが鋭く、それが原因で不良関係のトラブルが絶えなかったが、2人のおかげで音楽というやりたいことを見つけられた。腕前もかなり上達してきていたので、あのまま生きていたら有名なロックシンガーになっていたかもしれない。現在は生死不明で体を変な奴に使われている。

和泉十七夜:神浜市の東のまとめ役。真面目で厳格な性格をしており、持ち前のカリスマ性で東のテリトリーの管理をしている。真面目ゆえに天然な部分もあり、突発的に理解不能な行動を起こすことも珍しくない。意外と背が低い。
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