バカが魔法少女になった話   作:わらしべいべー

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ネオマギウス尊い、すき。



それゆけ授業参観!

 

 

「ただいまなのですー!」

 

「んー、おかえりなぎっち」

「おかえり、なぎさ」

 

 軽快な調子でなぎさが学校から帰ってきた。

 昨日から夏休みが終わり、学校が再開した。

 

 夏休み前まではなぎさは学校をあまり行きたがらなかったのだが、今では友達もできたのか毎日楽しげに登校してる。

 なぎさはランドセルを机の上に置いてそのままキュウベェを抱えながらテレビを見ているだいりに駆け寄っていく。

 

「今日は何を見てるのです?」

「プニキュア」

 

 だいりはアニメやゲーム全般が大好きである。

 特にニチアサものは彼女の趣味に合ったらしくこうして平日に見ていることも珍しくない。学校に行くことのないだいりは基本的に家での料理以外の家事をこなしているが、余った時間でこうして趣味の作品鑑賞を興じることが多いのだ。

 テレビに映っているカラフルな衣装をつけた少女たちが敵である怪物を圧倒して、お決まりの手からビームを出す必殺技を決めて倒す。

 

「おぉ!?この必殺技カッコ良くない!?」

 

 高まったテンションでそうなぎさに言う。

 正直だいりはなぎさから見ても少し子供っぽい。カッコいいと思った物があればいつも年頃の男児のように目を光らせて喜ぶし、近所の子供達と一緒に遊んでいる場面もよく見かける。ある意味純粋な心を持っているだいりだが、その見た目のせいで大きな子供という印象がなぎさのなかでは拭いきれないでいた。

 

「……かっこいいのです?」

 

「かっこいい!やっぱビームは男のロマンだよなー!」

 

「女のくせに何言ってるのです」

 

「女でもビームはでも撃ちたいんだよ!なぁロリコン!魔法少女でもビーム撃てるよな?」

 

「まぁ不可能ではないけど、今の君が使うのは難しいんじゃないかな」

 

「えー、やっぱり?」

 

「今の君はまだソウルジんむ!「うおぉーー!ストップ!ストップぅ!」

 

「そうる、なんなのです?」

 

 危うく自分の事情について口を滑りかけるキュウベェの口をとっさに塞ぐ。キュウベェに声帯はないのでこの行為自体にあまり意味はないが。

 

(ちょちょちょーい!何か口滑らしかけてんの!?知られたらやばいって言ったのロリコンでしょ!?)

 

(……あぁ、すまない。失念していたよ)

 

 しっかりしてよね。とだいりは言葉を切るとなぎさに向き直る。

 なぎさは意外と勘が良いのだ。ボロを出せばそのまま問い詰められて芋づる式で事情を洗いざらい吐かされることだろう。なぎさはジト目でこちらをじっと見ている。

 

「ど、どうした?なぎっち」

 

「……だいり、なぎさに何か隠し事をしてるんじゃないかなのです?」

 

「そ、そんなことないぞ!」

 

「…怪しいのです」

「怪しくない!」

 

「怪しい」

「怪しくないやい!」

 

「怪しい」

「怪しくナッシング!」

 

 だいりはなぎさにジリジリと滲み寄られる。

 まずい、なぎさが完全に問い詰めモードに突入してしまった。こうなってしまうとなぎさが納得するまで尋問が続く。以前だいりがなぎさに無断でコミケに行った時は自白するまでの10時間、延々となぎさがこちら無言でをじっと見られたのだ。いつもの暴力的な印象とはまた違った静かな態度が一層恐怖心を煽るのでだいりはこの状態のなぎさは少し苦手だ。何より目が怖い。

 

「……だいり、なぎさは隠し事が嫌いなのです。さっさとゲロった方が身のためなのです」

 

「げ、ゲロるも何もそもそも吐くものがないから」

 

「………」

 

「ち、ちょっと!?無言で来ないで!怖い!」

 

「なぎさ!」

 

 ついにはだいりに馬乗りになり、あと少しで2人のでこがぶつかる瞬間、キュウベェがなぎさを呼び止めた。

 

「…何なのです?」

 

「これを見るんだ!」

 

 そう言うキュウベェの手には白の空箱とその中に銀の包装らしきものがあった。箱には『見滝原店舗☆高級苺チーズケーキ』とポップな書体で刷られており、更には『なぎさ』と可愛らしい文字で書かれた紙があってある。

 それを見てなぎさは目を見開く。

 

「あ、あーーーーっ!!!そ、それはなぎさが楽しみに取っておいた高級苺チーズ!!楽しみに取っておいたのに一体誰が食べたのです!!」

 

「だいりだよ」

「ちょ」

 

「だぁーーいーーりぃーーーーっ!!!」

 

「ぐえぇぇぇぇぇ!!?」

 

 なぎさはだいりの腹の上で思いっきり飛び跳ねた。だいりは腹からの鈍い衝撃で蛙のような声を上げる。

 

 あの苺チーズはなぎさが自分用に買っていたもので後で食べようと楽しみにしていたものだ。しかも数量限定のレア物なのでそれを奪われた怒りは計り知れない。

 

 実際の真相はだいりが食べたわけではなく、昨日家に来た杏子に食べられただけだが。

 

「さっきから怪しかったのはそう言うことだったのです…」

 

「ま、まって…、ごっ誤解…!」

 

「うるせぇ!チーズの恨みを思い知るのです!!」

「あんぎゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

 そのまま罪をなすりつけられただいりはなぎさの関節技を受けることになった。ここ最近なぎさの関節技のキレが上がりつつあるなとだいりは思いながらも節々への痛みに悶える。

 なぎさの気が済んだ頃にはだいりは痛みと痙攣で動けくなっていた。

 

「あばば…」

 

「罰として今日の晩ご飯はチーズ一色なのです!反省しろなのです!」

 

 そう言って怒ったなぎさはランドセルを持って二階の自室に戻っていってしまった。床に倒れているだいりのもとにキュウベェが近づく。

 

「だいり、無事かい?」

 

「これが無事に見えるとでも?とんでもねー濡れ衣着せてくれやがって…」

 

「まぁ結果オーライだよ」

 

「俺っちは今アンタをあの世に往来させたい気分だけどな」

 

 だいりはゆっくり体を起こしながらキュウベェを睨む。

 

「それにしてもらしくないな。ロリコンがあんな凡ミス」

 

「……そうだね。まぁ偶にはこう言うこともあるさ」

 

「んー、それもそっか、誰しもミスはするよねー!」

 

 キュウベェは基本無機質で非感情的ではあるが、時折人らしい反応を見せてくれることもある。だいりはキュウベェのことを完全に身も蓋もない機械的な性格とは思っていなかった。本人は否定している様だが。

 

「じゃ、なぎさの機嫌取りのために旨そうなチーズでも買ってこようかな」

 

 そうだいりは立ち上がって外出の用意をしようとする。すると目線の先の床にくしゃくしゃになった1枚の紙が落ちていることに気がついた。だいりはその紙を拾って軽く目を通してみる。

 

「…なんだこれ、『授業参観のお知らせ』?」

 

 紙にはなぎさの学年で授業参観が行われるという旨が書かれていた。

 

「どうやらなぎさの物らしいね。大方さっき上がるときに落としていったんだろう」

 

 肩に乗ってきたキュウベェがそう答える。

 

「ほーう、子供の授業を親が見に行けるのか…」

 

 だいりはそのままプリントを読み進めていく。プリントには参観の日程と、行く時刻が書かれていた。

 

「って、これやるの明日じゃん」

 

 プリントに書かれている日程は明日だ。だいりは一応、なぎさの親ポジションとして学校側からは認識されている。この授業参観は親としても重要なイベントの一つだろう。ぜひ行くべきだ。というか行きたい(なぎさを弄るために)。

 だが、なぎさは昨日このプリントを貰ったにも関わらずだいりに見せなかったのだ。このくしゃくしゃのプリントとさっきのなぎさの様子を見るに恐らく今日も見せる気は無かったのだろう。つまりそれはなぎさが保護者無しの授業参観を受けると言うことだ。

 だいりは何故わざわざなぎさがこれを隠す様な真似をしたのかな疑問を持つ。

 

「何でなぎっちは授業参観のことを教えてくれなかったんだ?」

 

「そうだね、僕が今まで見てきた限りでは授業参観は好きな人と嫌いな人でははっきり分かれるね」 

 

「あー…、見られるの恥ずかしいから?」

 

「大多数がそうだろうね。他にも不真面目な態度を見られたくないとか、親に見られているから常に気を張らないといけなくて辛いとか、理由は様々だよ」

 

「ふーーーん」

 

 だいりは以前こっそりなぎさの学校に不法侵入してなぎさの授業の様子を見たことがある。その時の様子を見る限りなぎさはサボっている様子も無かったし、真面目に勉強もしていた。勉強もついていけているだろう。

 その証拠に学期のテストはかなり高得点だった。そのテストを見せてきたときに褒めちぎったなぎさの笑顔がとても可愛らしかったのを覚えている。

 つまることろなぎさがだいりにこれを隠す理由が見当たらなかった。

 

「まぁ、なぎさにも何かしら事情があるんだろう」

 

「へーーなぎっち、俺っちのことは許さない癖に自分は隠し事してますってか?ほーーん」

 

 だいりは不服そうな表情を浮かべるがすぐいつもの笑顔に戻り、肩のキュウベェに顔を向ける。

 

「よし、これは行くしかないな!内緒で行ってなぎっちを驚かせてやろう!」

 

「どうでも良いけどまた僕を巻き込むのかい?そろそろ僕も他の魔法少女を…、

「そんな変態行為は許さん!そんなんだからいつまで経ってもロリコンなんだぞ!」

 

「訳がわからないよ」

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

  

 

 

 今日も今日とて学校の登校日だ。

 夏休みが終わったとは言え、残暑はまだ残っている。早く学校に行って冷房の効いた教室に行きたいと思っているからか、その足取りは少し早い。

 学校の屋上あたりが見えてきてもう少しペースを早めようかと考える。

 

「おーい、ナギサ!」

 

「あっ、ゆま」

 

 すると同じく学校に行く途中のゆまになぎさは呼び止められた。2人は軽く挨拶を交わすと楽しげに話しながら歩き始める。

 

 なぎさとゆまはあの虐待事件の一件以来、クラスが同じなこともあってかかなり友好な関係を築いていた。今ではなぎさにとってクラスで一番仲の良い友達である。

 今ではゆまは実家の祖母と祖父に可愛がられながら優しく育っている。ゆまは以前、実母父に十分な栄養を与えられていなかったことでなぎさよりも背が低くく痩せ細っていたが、今ではすっかり年相応の背丈になっていた。何気に胸囲もなぎさより大きい。

 

「それにしてもナギサ、今日どこか体が悪いの?」

 

「え、そんなことないのです。どうしたのです急に」

 

「だってナギサ、いつもより元気がないよ。もしかして家で何かあった?」

 

「あっ、そうなのです!昨日だいりの奴がなぎさが大事に取っておいた高級苺チーズケーキを勝手に食いやがったのです。せっかく楽しみにしてたのに…」

 

「ナギサ、チーズ大好きだもんね」

 

「当たり前なのです!まったく、だいりの奴も困ったものなのです。今度から釘を刺しておかないとなのです!」

 

「…でもナギサ、ダイリのことも大好きだよね」

 

「え」

 

 ゆまの言葉になぎさは固まる。

 

「だってダイリのこと話すときのナギサ、どんな話よりもずっと楽しそうだよ?それこそチーズの話より」

 

「そ、そう見えるのです…?」

 

「うん、すっごくあからさま」

 

「ひぃぃ…」

 

 そう言われたなぎさはみるみる顔を赤くする。

 なぎさは自分が無意識にそう振舞っていた自分に対して羞恥心を感じる。ゆまにそう思われていると言うことは他のクラスメイトや先生にもそう思われている可能性が高いだろう。急に学校に向かう足が重くなる。

 

「恥ずかしがる必要ないよ!ゆまだっておじいちゃんとおばぁちゃんは大好きだもん。それとおんなじだよ!」

 

「そ、そうなのです?……うん、きっとそうなのです」

 

 なぎさは今となってはたった1人の家族であるだいりのことを大事に思っている。それを奪おうとする織莉子に対して本気の敵意をむき出しにするくらいには。

 だがそれを含めてもなぎさとしてはあまり周囲にそう思われていると言うことを知られたく無かった。そういう年頃なのだ。

 ゆまにその家族愛を肯定されたことでなぎさは何とか自分の中に納得できる様に落とし込む。

 

「それに今日は授業参観だからおじいちゃんとおばあちゃんも来るの!なぎさもダイリが来るよね」

 

「あ、あー……、実はだいりには今日のこと言ってないのです」

 

「え、何で!?」

 

「…えーと………昨日喧嘩して忘れていたのです」

 

「えー!?久しぶりにダイリに会えるの楽しみにしてたのに〜!」

 

 ゆまはだいりにかなり懐いている。最初こそ顔が怖いからとだいりに怯えていたが、だいりの人柄もあって時間が経っていくうちに姉妹の様に仲良くなった。だからこそゆまは今日だいりが来ることを期待していただけにショックを受ける。

 

「ご、ごめんなのです。今度遊びに行く時に一緒に連れてくるから許して欲しいのです!」

 

「仕方ないなー、わかった!絶対連れてきてよね!約束だよ!」

 

「…うん、約束なのです!」

 

 すると学校から予鈴のチャイムが鳴り響いた。立ち止まっていた2人は驚いて学校の方に振り向く。

 

「あっ!まずいのです!」

 

「いそげー!」

 

 2人は慌てて学校に向かって走っていく。

 蹴った石ころが軽快に跳ねて溝に落ちた。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「おはよーっ!」

「おはようなのですっ」

 

「あ、ゆまちゃん、なぎさちゃんおはよー!」

「ギリギリセーフだね」

 

 教室に着いた2人は近くにいる友人と挨拶を交わす。

 あと少しでHRということもあって教室には既に来ているクラスメイトで賑わっている。その話題はもっぱら今日の授業参観についてだ。誰もが自分の親のことや、来たときにどうするかなどを話している。

 今日の授業参観では授業中は自分の保護者に見られるので誰も喋らず、張るような空気になることだろう。そんな緊張を授業前に少しでも解したいと言う魂胆が見える。

 2人は隣同士の自分の席に行き、背負っているランドセルを下ろす。

 

「はぁ、何とか間に合ったのです…」

 

「ゆっくり話し過ぎちゃったね」

 

 炎天下の中で全速力で走った2人の顔は汗だくだ。思わず自分の席にもたれかかる。冷房の効いたこの空間は今の2人にとって何よりも心地の良い空間だ。

 

 すると本鈴のチャイムが鳴り、担任である中年の女性の先生が教室に入ってくる。

 朝の挨拶をして出席をとった後、先生は今日の授業参観があることを確認がてらに話すと、生徒に激励を送り一旦教室を後にする。

 

 授業参観は1眼目と2限目に行われる。最初の授業から参観が行われるからか、クラスメイトたちのテンションはやや低めだ。少なくともいつものHRの騒がしさは無い。

 親が普段自分たち子供と先生しかいない教室という空間に来ると言うことはクラスメイトにとってはプレッシャーとなるのだろう。

 

(ま、なぎさには関係のない話なのです)

 

 今日保護者の来ないなぎさにとって今回の授業参観はただ他人の親が見に来るだけの行事にすぎない。ゆまの祖父母が少し気になりはするが、その程度だ。いつも通りに授業を受ければ良いだけである。

 そう思って一眼目の国語の準備をする。

 

 すると授業開始のチャイムが鳴り、国語の教師が入ってくる。といっても国語の担当はこのクラスの担任と同じなので入ってきたのはHRで説明を行った担任の先生である朝倉先生だ。

 

「それじゃあ、授業を始めたいと思います」

 

 いつもならば静かになるどころか全員が着席するのに数分かかるが、今日ばかりはクラスメイトも静かで素直だ。既に教室の後ろには何人かの保護者が訪れているからだろう。その親の子であろうクラスメイト数人が冷や汗をかいている。

 

「…と言いたいところですが、その前に今日一日の授業の補佐をしてくれる先生を紹介したいと思います」

 

 教室内が騒つく。なぎさも驚いている。そんな話今日まで聞いていなかったからだ。

 

「はい静かに。それじゃあ入ってきてください」

 

 しんと教室が静まると、ガラリと戸を開いて誰かが入ってきた。

 黒いスーツを着た整った身なりをしており、体つきから見て恐らく女性だ。大きめの胸に少しクセのある金髪の髪、ガラの悪い顔つきに鋭い眼光………ん?

 

 

 

 

 

 

「めでたく今日一日このクラスの授業の補佐役になった雪野だいりでーす!ヨロシク!」

 

 

 なぎさは椅子からすっ転げ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 だいりとキュウベェはなぎさのいる教室を探して小学校の廊下を歩いていた。

 しかし廊下から見える教室に生徒の姿は見えず、騒ぎ声も聞こえず、それどころか教師の姿すら見えなかった。つまりだいりは開校前の学校に来ていたのだ。

 当然こんな時間から参観の受付など行われていない。つまりだいりは今学校に不法侵入しているのだ。外はまだ日が上ったばかりの時間帯だ。

 

「さーて、なぎっちの教室はどーこかな」

 

「……後でどうなっても知らないよ」

 

 「ダイジョーブだって、今の時間は丁度防犯も動いてないし、人もいない」

 

 だいりは職員室前にあった学校の地図を見ながらなぎさの教室を探す。一度来たことがあるとはいえこの学校はだいりから見ればかなり広いので場所を完全に把握できていないでいた。

 

「それになぎっちにはこれくらい大胆にいったほうがいいんだよ」

 

「常々思うけど君は本当にバカだね」

「俺っちはバカではない」

 

 だいりは今回なぎさを驚かせるために参観に来た。しかしただ驚かせるだけでは物足りないと感じたのだろう。だいりはなぎさを驚かせるためのブービートラップをなぎさの机周りに仕掛けまくろうと画策していた。だいりの背中にそれらの諸々セットの入ったリュックを背負っている。

 そして授業中にその光景をカメラに納めてそれをダシにしこたま弄ってやろうと考えていた。

 

「くくく…、俺っちを溺れさせた報いはきっちり受けてもらうぞなぎっち」

 

「まだ根に持っていたのかい…」

 

 悪人顔になっているだいりを横目にキュウベェは呆れたトーンで呟く。どうでも良いことに無駄に力を入れる様はだいりらしいとも言えるが、それに付き合わせられる自分の気持ちにもなって欲しいものである。

 

「おっ、あったあれだ!」

 

 だいりはなぎさの教室を見つけたらしく、早速懐から取り出した針金を取り出してピッキングを仕掛ける。

 ガチャリと音が鳴るのを確認するとそのまま扉を開けて教室に忍び入る。

 

「(おはよーございまーす)」

 

 だいりは教室を一望して、謎のチーズの置物が置いてある机を見つける。

 

「あったあった。あとはこの机にしこたま罠を仕掛けるだけ…」

 

 そのまま机まで足を運ぼうとした時、突然ガラリと教室の扉が開いた。

 

「あら?開いてるわ」

 

「!!?」

 

 咄嗟にだいりは教卓の下に隠れる。

 

「おかしいわね、鍵はかけたはずなのだけれど…」

 

(やっべ誰か来た!?来るの早くないかぁ!?)

 

 現れたのはなぎさの担任だ。確か名前は朝倉先生だったか。なぎさがよく話していた姿を思い出す。

 

(やべーよ、こんなに早く先生が来るなんて…!)

 

 

(…それよりも早く抜いてくれないかい?)

 

 キュウベェはだいりが急いで教卓台の下に隠れた際に教卓の引き出しに無理矢理詰め込まれていた。幅がキュウベェの体ギリギリなのでまるで玩具箱に詰められた人形のようにぎゅうぎゅうだ。

 

「警備の人が閉め忘れたのかしら?後で担当に言っておこうかないと」

 

 そう言うと朝倉先生はカゴからテキパキと何か取り出して準備していく。そしてそれを持ってだいりの隠れている教卓台まで歩いてきた。

 このままでは見つかってしまう。見つかればほぼ確実に警察沙汰だろう。

 

(うおぉぉぉ!やばいやばい!ロリコンなんとかしてー!)

 

(流石に無理だよ。潔く諦めるんだ)

 

(いやあぁぁぁ!お縄にかかりたくなーい!!)

 

 教卓台に荷物を置くとなぎさの担任は何かの影があることに気づく。

 そしてふと教卓台の下を覗いてみるとー、

 

「……」

 

「……お、おはようございまーす…」

 

 

 

 学校に悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「どんな理由があっても勝手に学校に入ってはいけないのですよ。わかっていますか?」

 

「はい…すんません…」

 

 結局見つかっただいりは朝倉先生にこってり叱られていた。この状況で言い逃れができるはずもなく、だいりが持ち歩いている罠セットを見つけた先生は厳重注意ということで現在だいりに説教をしている。

 

「あなたもう体も大きいのだからいつまでもこんな悪戯ばかりしてはダメよ」

 

「はい…」

 

 しょんぼりと教室の床で正座をしながら説教を受けるだいりの背中はどこか哀愁を感じる。だが結局は自業自得なのでキュウベェの目には酷く滑稽に映った。

 

「はぁ、ひとまずあなた、名前は?」

 

「雪野だいりです…」

 

「雪野だいりさんね………だいり?」

 

「?」

 

「…あなたもしかして百江さんがいつも話してるだいりさん?」

 

「なぎっちが話してるだいりなら多分俺っちでーす」

 

 「やっぱり」と呟いて何か考えるような仕草を見せる先生。

 どうやらなぎさはだいりのことを担任にも話していたようだ。だいりはちょっぴり嬉しい気持ちになる。

 

「ところでだいりさん、今日は参観に来るつもりだったの?」

 

「そりゃあたぼーですよ!なぎっちの姉的存在ですからね!」

 

(尻にひかれている君が姉…?)

(お黙りっ!)

 

「親御さんも亡くなってしまってから私も心配していたのだけれど、百江さんはあなたのことを話すようになってからとても元気になったのよ」

 

「…そういえばなぎっちて前は学校でどんな感じだったんですか?」

 

「そうね…最初はなんだか暗くて、そっけないから気難しい子だと思ったわ。誰とも話さないし、そもそも関ろうともしなかったわ」

 

「……」

 

「だからだいりさん。あなたにはとても感謝しています。このクラスのの担任としても私自身としても」

 

「おぉ、な、なんか照れるね…」

 

「感謝は受け取っておくものですよ」

 

「えへへ…、じゃあ俺っちはこれで…」

「話は終わっていません」

 

 なぎさの担任の横を通り過ぎてさりげなく逃げようとするだいりを服の襟を掴んで止める。

 

「ぎゃー!やめてー!警察はやだー!」

 

「おちついてください。話は最後まで聞くものですよ」

 

「はぇ?」

 

 

 

 

「だいりさん、もし良ければ1日だけ教師をしてみるつもりはありませんか?」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「だいりだー!」

「だいりのねーちゃんだー!」

「なんでー!?」

 

「わぁー!ナギサ!見て見てダイリだよ!」

 

「???」

 

「ふっふっふっ、俺っちはアンタらのために今日1日だけ教職にグレードアップしたのだ!つまり今日の俺っちは唯のだいりではない、teacherだいりだ!」

 

 そうかけてあるメガネをクイッとあげるだいり。

 「おぉ」と声を上げるクラスメイト。

 いや意味不明である。保護者役として来るならともかく何故教師?一体どうやって?というかそもそも勉強教えられるの?など疑問は尽きないがともかく今は、

 

(だ、だいり!!オマエなんで今日の参観のこと知っているのです!?)

 

(ふっ、間抜けにも参観の紙を落とした自分を恨むんだな。こんなからかいがいのあるイベントを俺っちが見逃すわけないだろう?)

 

 さ、参観の紙!?

 そういえばいつの間にかポケットになかったような……。よりによってだいりの手に渡るとは…!

 隣のゆまもだいりの登場に嬉しそうだ。

 

「じゃあ早速授業を始めたいと思いまーす。補佐役って言われたけど基本的には俺っちが授業を進行していって、朝倉先生がみんなのわからないところを聞いて回るぞ。質問があったら手をあげるように!」

 

 未だ教室にはざわつきが残っている。この教室の中にはだいりとよく遊んでいる面子もいるのだ。というよりこのクラスにいる大半の生徒はだいりのことを知っている。それほどだいりは小学生とは交流を深くしていた。といっても子供らしく追いかけっこや駄菓子屋で子供と混じって遊んでいるだけだが。

 すると朝倉先生がパンパンと手を叩く。

 

「はい静かにしてください。先ほどだいりさんも言いましたが、授業の進行はだいりさんが行います。ですがまだ拙い部分もあると思いますのでいざと言うときは私が加筆を行います。親御さんもそれでよろしいでしょうか」

 

 うなずく保護者たち。保護者としては無難に授業を進行してくれればそれで良いと大半は思っている。教鞭の方針になにがしを言うつもりはなかった。

 

「よーし、じゃあ早速授業を始めるぜ」

 

 どこからか取り出した玩具のステッキを手にしてだいりの授業は始まった。

 

(不安しか無いのです…)

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 結果から言うとだいりの授業はめちゃくちゃわかりやすかった。

 

 普段のバカらしい彼女の態度からは想像もできないくらい的確で理解のしやすい授業だった。時折挟むふざけた態度も授業を生徒たちを飽きさせないものにしていた。

 授業後、保護者の顔にも思わず笑顔が浮かんでいたのを見るに生徒共に満足度は高かったと見るべきだろう。

 

「…マジかなのです」

 

 なぎさはだいりはてっきり勉強ができないものと思い込んでいたので授業を受けて文字通り度肝を抜かれた。

 他にも算数や英語、生活などの授業もしっかりとこなせていた。ここまで来ると頭が良いという印象より教え方が上手いとなぎさは感じた。

 

 もしかしたらだいりは教師の才能があったのかもしれない。

 そんなだいりは現在クラスメイトと共に昼の給食を食べている。

 

「うまっ!ここの給食美味いな!」

 

「それにしても意外すぎたのです。あんなにだいりが教えるのがうまかったなんて」

 

「そりゃ、前は教師希望だったからな。こういうノウハウは一通り持ってるつもりだぞ」

 

「前は、なのです?」

 

「うん、今は色々あって諦めちゃったんだけどね」

 

「それならあの指導力にも納得なのです」

 

「うん!ダイリの授業、すっごく楽しくてわかりやすかったよ!」

 

「それにしても勿体無いわ、諦めちゃったなんて」

 

 朝倉先生から見てもだいりの指導力には目を見張るものがあった。特に物事の伝え方に関しては自分よりも上だろう。

 

「まぁ、仕方なかったんすよ。今は別にやることもありますしね」

 

「うーん、それなら仕方ないわね。でも時々またこうしてお願いしても良いかしら?」

 

「そりゃ当然良いですよ。やって損することも無いですしね!」

 

「なーなー!だいり!今からあそぼーぜ!」

 

「お、いーぞ。あと今の俺っちはteacherだいりだ」

 

 時刻はもうすぐ休み時間だ。給食を食べ終わった生徒たちがだいりを遊びに付き合うため、だいりは皿に残っている給食を口にかき込む。

 

「ごちそうさまっ。よしっ、なぎっち、ゆまっち!一緒に外行こうぜ!」

 

「うん、いーよ!行こっナギサ!」

「え、あっ」

 

「あっ!百江が一緒に遊ぶらしいぞ!」

「めずらしー!」

「じゃあ、なぎさはウチのチームな!」

「あっ!ずるい!私のチームになぎさちゃんは入るの!」

 

 なぎさは遊びに飢えているクラスメイトにもみくちゃにされた。見るからに大変そうだし、普段のなぎさなら嫌がるような空気だが、不思議となぎさは満更でも無い表情をしていた。

 生徒たちは遊ぶためにグラウンドへと行き、教室には朝倉先生だけが残った。

 教室の窓から生徒たちがドッジボールで遊んでいる様子が見える。そんな中、なぎさの姿を見ながら朝倉先生は少しだけ思いを馳せる。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 百江なぎさは孤独な子供。朝倉先生の最初の印象はそんな感じだった。だから朝倉先生はこのクラスを持つようになる前から、なぎさのことを気にかけていた。

 なぎさは友達も作ろうとせず、本ばかりを読んでいた。雰囲気や態度も暗かったし、笑顔も見たことが無い。そんな状況のなぎさをどうにかしたいと思ってはいたが、本人に聞いても何も教えてくれないし、一向にクラスのみんなとも関わってくれないのだ。

 

 

『百江さん、他の皆んなとは遊ばないの?』

 

『別に良いのです』

 

『でも本ばかり読んで誰とも話さないから先生心配よ』

 

『本を読む方が楽しいから話す必要なんてないのです』

 

『そんなことないわ。……それに親御さんも心配してるんじゃない?』

 

『……心配なんてしてないのです』

 

『え?』

 

『…っ!』

 

『あっ』

 

 なぎさはそのまま読んでいた本を持って教室を出てしまった。

 

『百江さん…』

 

『ねぇねぇ、やっぱりなぎさちゃんって反応悪いよねー…。先生にもあの態度だよ?』

『うん、暗いし、話しても態度は素っ気ないし面白くないよねー』

 

 

『……』

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 …正直に言うとなぎさが家庭でどういう扱いを受けているのかはある程度想像はついていた。前にそれらしいことを口にしているのを聞いた。だがなぎさの母親が入院していてそんな母親の元に親身に足を運んでいるなぎさの姿を見ているとどうしてもそのことを聞けずにいたのだ。

 

 しかし、そんなある日なぎさの母の訃報を聞いた。

 

 なぎさは3日ほど学校に来なかった。当然朝倉先生はなぎさのことをとても心配した。自分から見ても母親がなぎさの心の支えになっていることは明らかだ。そんななぎさが母親を無くせばどうなるか、想像は容易だった。

 

 自宅に尋ねることも考えていたその日、なぎさが学校に来た。しかし朝倉先生の心配とは打って変わって、少しだけ明るい雰囲気だったのだ。

 

 その日を境になぎさのみんなに対する態度はどんどん明るくなっていき、今ではあの頃とは比べものにならないほどよく笑うようになった。

 相変わらず自分のことはあまり話さないが、新しく家族になったと言う『だいり』という人の話をよくしてくれた。一際嬉しそうに話すなぎさの様子を見てその人がなぎさの新しい心の支えになってくれたのだと気づいた。

 

 なぎさの母親が亡くなってから何があったのかは分からない。けど、少なくともなぎさに良い変化をもたらしてくれたのは確かなようだ。あの雪野だいりが。

 生徒に寄り添い生徒の心を支えることこそが教師の本懐だと朝倉先生は考えている。母親が入院してから日に日に弱々しくなっていくなぎさを朝倉先生は見ていられなかった。しかし自分はなぎさの苦心を理解することができず、むしろ余計な重圧をかけていたのかもしれない。

 そんななぎさをだいりは救ってみせた。朝倉先生は教師という立場にいる自分を情けなく思うと同時に少しだけだいりに嫉妬した。

 

 そしてクラスメイトからもその『だいり』と言う人物のことを聞き始めた頃、今日本人に出会った。

 最初は不法侵入した泥棒か何かだと思ったが、名前を聞いて分かった。彼女が『だいり』なのだと。そして気になった、彼女がどんな人間なのか。

 だから人手が足りないことを理由にだいりを今日一日授業を補佐を頼んだのだ。知りたかったからだ。何故そこまでなぎさが彼女を信頼しているのかを。

 

 そして今日一日見て分かった。彼女は稀有なほどに優しい人間だ。それは寄り添うものでもあり、共に歩いてくれる優しさ。

 

 そしてだいりはとても生徒に好かれている。それは彼女と生徒との距離感が近いからなのかもしれないし、その性格ゆえなのかもしれない。

 教師としてのスキルも中々に高い。…まさか授業一つをまともに教えられるとは思わなかった。

 生徒に寄り添い歩き、共に楽しむ。これもまた自分が目指した教師なのかもしれない。

 

「…偶には私も遊びに混ざろうかしら」

 

 グラウンドで生徒と一緒に遊んでいるだいりを見て、彼女のことを少し見習いたいと朝倉先生は思い、席を立った。

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

   

 

 

 授業も一通り終わり、窓から見える日も茜色に染まっている。朝倉先生は書類をまとめに職員室へ行ったので教室にはだいりとなぎさ、そしてゆまの他にちらほら生徒がいるくらいだ。

 

「ほれ、ここ間違ってるぞ。これは砂岩層じゃなくてれき岩層だな」

 

「あっほんとだ!ありがとダイリ」

 

 なぎさたちは明後日が休み明けのテストなので希望者が放課後に残ってだいりを教師とした勉強会を開いていた。

 

 未だにさらさらと何かを教える姿のだいりに慣れていないのかなぎさがチラチラとだいりのほうに顔を向けている。それに気づいただいりはなぎさに顔を向けて、周りに迷惑にならない程度の声量で声をかける。

 

「どーした、なぎっち。なんかわかんねーの?」

 

「…そういうわけじゃないのです」

 

「なぎっち勉強できる方だもんな」

 

「……」

 

「それよりもどうっだった?今日は」

 

「どうだったって何がなのです?」

 

「何がって驚いたかどうかだよ。今回それ目的で来たんだから」

 

「…そりゃびっくりしたのです。

 …もしかして今回それだけのために教師になったのです?」

 

「うん」

 

「バカなのです」

「俺っちはバカではない」

 

「まぁ一番は頼まれたからなんだけどね。朝倉先生に」

 

「先生に?」

 

「おう、何でも今日一日いつもの補佐役の教師の人が風邪ひいちゃったらしくてな。代わりに俺っちが入ったってわけ。このスーツも貸し出しものだし」

 

「いつの間に…」

 

「今日の朝」

 

「…今日の朝ってそういえば今日は珍しく朝家に居なかったのです。まさかあの時から学校に?」

 

「ま、まぁねー」

 

 本来はなぎさの席に罠を仕掛けようとしていたことを思い出し、少しだけ後ろめたい気持ちになるだいり。そんなだいりの様子を見て後で問いただしてやろうと思うなぎさ。

 すると一人の生徒が手を挙げる。

 

「だいりせんせー!ここわかんなーい!」

 

「はいはい、あと今はteacherだいりだ」

 

 だいりはその生徒に向き直り不明点を教えようとする。

 

「えーと、歴史か」

 

 すると生徒は持っていた歴史の教科書を開けてだいりに見せる。

 

「うん、それでね。これをどうやって覚えていいかわかんなくて………せんせー?」

 

「……………」

 

 だいりの顔からは表情が抜けきっていた。渡された教科書のページから全く目を離さない。

 

「ねぇ、せんせー!」

 

「……あっ!ごっめん!ぼうっとしてたわ」

 

「もー、しっかりしてよ!」

 

「悪かったって。えーと、これが覚えられないんだな。じゃあこれをこうしてー…」

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 日もすっかり沈んでしまった頃、なぎさとだいりは帰路についていた。

 ゆまを含めた他の生徒は日が登っている頃に帰り、結局最後まで残ったのはなぎさだった。

 私服に着替え、1日だけの教師体験を終わらせただいりは歩きながらゆっくり背を伸ばす。

 

「いやー、疲れたー!」

 

「それはこっちのセリフなのです」

 

 ただでさえだいりが教師としてやってきて目を丸くしたというのに、普段は本を読んでいる休み時間まではちゃめちゃにはしゃいだのだ。魔女退治以外の身体的な疲労を久々になぎさは感じる。

 

「暫くはしゃぐのはごめんなのです」

 

「でも楽しかったでしょ?」

 

「……まぁ、悪くはなかったのです」

 

 ああして気持ちの昂るままにはしゃいで遊ぶのもなぎさとしては悪くないと思っていた。前まではこういう風に考えるのはあり得なかったなと思いながら。だいりのはちゃめちゃにいつも付き合っているのでそれに慣れたとも言える。

 

「……そういえばなぎっち、俺っち今日ずっと聞きたかったことがあるんだ」

 

「?」

 

「なんで俺っちに参観のこと言わなかったの?」

 

「………」

 

「なぎっち約束したよな、俺っちが家族になるって。授業参観って基本的に親や家族が行くものだよな。だったら何で言ってくれなかったんだ?」

 

「忘れて…」

「ダウト」

 

「…っ」

 

「だったらあんな風に参観の紙くしゃくしゃにしてないだろ。なぎっち案外几帳面だし」

 

 何よりだいりが見てきた誰よりも家族に飢えているなぎさが家族絡みの行事を想うところこそあれど、忘れるということは考えにくかった。

 

「……」

 

「………あー、もしかして俺っちまだ家族として信用されてない?」

 

「っ! それは絶対に違うのです!!」

 

「じゃあ、何で?」

 

 なぎさは下を向く。ランドセルを握っている手に力が入り、ぎゅっと音がなる。そのままぽつりと言葉を呟く。

 

「………なぎさは今までお母さんとお父さんに授業を見てもらったことが無かったのです」

 

「…」

 

「来て欲しいってお願いしても適当にはぐらかされて結局きてくれなかったのです」

 

 ピタリとなぎさは歩みを止める。

 

「……怖かったのです。だいりに言ってももしかしたら来ないかもしれないって、思っちゃうのです。なぎさにとってだいりは家族なのです、本物の家族なのです!だから…、もしだいりが来てくれなかったらだいりはなぎさの家族じゃなくなるって思ったのです…」

 

「………」

 

「なぎさはっ!まだっ家族を、だいりを無くしたくないのですっ!!……わかってるのです、そんなことあり得ないのです。けど思っちゃうのです。もしだいりが来てくれなかったらって!だから怖くてだいりに言えなかったのです…」

 

 目の端にうっすら涙を浮かべながらなぎさは言の葉を終える。

 なぎさにとって今まで授業参観はあって無いものと同じだった。いつかは来てくれる、そう信じていても結局きてくれない親。それを自分が悪いからと思い込んでいたなぎさはいつしか親が来ないことが当たり前と思うようになっていた。

 

 しかし今はだいりという新たな家族ができた。だが、そんなだいりも来なければ?そう考えた時にはなぎさは言いようのない恐怖に支配された。

 もし、もしだいりが来なければ自分はどうすれば良いのかが分からない。永遠に迎えの来ない迷子になった子供のように彷徨い続けてしまうだろう。なぎさはそんな状況になってしまう自分を恐れてだいりに参観のことを言えないでいたのだ。

 

 

 

「…うっ、ぐすっ…」

 

「なぎっち!」

 

「…え、わっ!」

 

 だいりはなぎさに想いったら抱きついた。

 

「だっ、だいり!?ちょっと苦しいのでふっ」

 

「なぎっち、俺っちはここにいる」

 

「え?」

 

「今なぎっちは俺っちに抱きつかれて痛い。なら俺っちはここにいるし、離れてもいない」

 

「…あ」

 

「それに今日俺っちはなぎっちに教えられてなくても学校に来た。つまり俺っちはどんな時もなぎっちの元に来れるってことだ」

 

「……ぁ」

 

「だから、大丈夫。俺っちは絶対にぜーったいに、なぎっちから離れない!なぜならそう!今やたった1人のなぎっちの"家族"だからな!」

 

「………ゔん」

 

 ボロボロとなぎさの瞳から大粒の涙が溢れていく。不安と共に押し出されたそれを止める術をなぎさは失っていた。しかしだいりはそれを自身の体で受け止める。

 

「よしよし」

 

「うっぐ、あぁぁぁぁ」

 

 久方ぶりになぎさは泣いた。

 そうだ、今この温もりは確かに自分のそばにある。だいりはどこにも行かない、ずっと隣に居続けてくれる。

 

 

 

 

 だってそう"約束"したのだから。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ帰りになぎっちのチーズケーキでも買って帰るか!」

 

「じゃあなぎさの行きつけのお店に行くのです!あそこならなぎさの舌を満足させるチーズケーキがあるのです!」

 

「おっ、いいね、決まりだ!じゃあ早速行くか!」

 

「わかったのです!」

 

 2人は手を繋いで市街を歩いて行く。

 街の光に当てられながら仲睦まじく歩く2人の姿は本当の家族のように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

「どうしたのです?

 

「ロリコン学校に忘れてきた…」

 

「……え」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「………訳がわからないよ」

 

 *後日無事救出されました。

 

 

 

 

 




補足
雪野だいり:今回は教師バージョンだぜベイベー!何とだいりは勉強ができた。意外と天才肌。しかし苦手なものはとことん苦手という得意不得意が分かれてるタイプ。

百江なぎさ:だいり大好き幼女ちゃん。前まではクラスに馴染めていなかったが、今ではクラスの毒舌担当という確固たる地位を手に入れている。

キュウベェ:良くないなぁ…、そういうの(置き勉)は…。

朝倉先生:なぎさのクラスの担任。生徒思いの良い先生。何かとなぎさのことを気にかけていた。因みに朝倉先生の作るテストは超鬼畜なことで生徒間で有名。

千歳ゆま:クラス内ではなぎさと一番仲が良い。背もあの時と比べてかなり伸びており、ぶっちゃけなぎさより色々大きい。なぎさは内心かなりショックを受けていて、毎朝会うたびに見せつけられている。チクショー!!


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