それぞれの世界が歩む道   作:???

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第四話になります。

誤字脱字や間違いありましたら教えていただければ幸いです。

これで一先ず一章が終わります。次回から実際に介入し始めることになります。

今後ともよろしくお願いします


第四話 介入準備

・西暦3020年 08月02日 星間国家「日本」第7殖民惑星 天国(あまくに) 統合軍第7惑星駐留艦隊基地「曙」  現後詰艦隊基地 艦隊司令官執務室

 

季節は夏真っ盛り、地上であれば季節を感じながら仕事をするだろう中その場所は、季節など知ったことかというような様相を呈していた。

 

シーンと静まり返り、暖かすぎず寒すぎずちょうど良く調整された広い部屋の一番奥、常在戦場と書かれた書が収められた額縁の下、少し大きめに作られた机の上に表示されるディスプレイには、この後の壮行会に参加する将兵の名簿が表示されていた。

 

ディスプレイは表示される内容を、音も立てず持ち主の視線に忠実に従い次々と情報を表示していく。

 

そして、ページの終わりに到達すると、一度深く座り背もたれに寄りかかって大きく伸びをし、筋肉の緊張をほぐし掛けていたメガネを外すと目頭を押さえた。

 

今度は椅子にゆったりと座りなおし、終了とディスプレイに告げ電源を落とすと視線を左へと向けるそこには、真っ暗な世界に輝く恒星の光を背景にして、いくつもの人工的な光がホタルのように飛び交い消えていく姿が目に入った。

 

座り続けて固まった腰をほぐしながら席を立ち、執務室から見える光景を間近で望む為近づいていく。

 

そこからは地表の宇宙港へ降下していく降下船、ステーションに発着する輸送船、これからどこかに向かうのだろうゲートへと次々に向かう輸送船が見て取ることができる。

 

思わず笑みがこぼれる。そこに広がる光景には、この星はこれからさらに発展していくそう思わせるには十分な力があるように感じさせるものだったからだ。

 

加藤は今、ゆっくりと開発が進む日本の七番目の植民惑星天国の艦隊司令官執務室の主としてその場所に立っていた。

 

戦時特例で大将へと昇進させられ、第二艦隊改め、援異第二艦隊の司令官となって……

 

大本と司令部で話してから、二日後彼は再び軍司令部へと呼び出され天国へと第二艦隊を進める辞令を受け取った。

 

そのことを部下に話すと「そうなると思ってました。用意はできています」と返され、その手際の良さに苦笑いを浮かべるしかなかったのを思い出し再び苦笑いを浮かべた。

 

彼らが現地についてから一月、国は異例の速度で異世界救援の方針を国民に開示し、法案を施行し行動を開始した。

 

そして、この曙は本国における国の最重要後方基地とり、第二艦隊は援異第二艦隊へとその名称を変えることになったのである。

 

 

 

加藤は、窓から遠くに見える漆黒の闇に昼夜を問わず煌々と照らし出される跳躍空間力場制御装置の建造現場へと目を向けた。

 

その大きさは、縦10㌔、横20㌔との巨大の長方形の枠が一つ目が既に3分の1ほど完成している。

 

最終的には今後、これが行きと帰りの二つ対で建設されることになることだろう。

 

こいつが作られる理由は簡単だ、物資が集まっても送るべき場所への道が整備されていなければ、効率の良い物資輸送等できないからだ。

 

また、その建造速度が異常に早いのも理由があった。もともと国は既に長期目標としてすべての跳躍空間力場制御装置の更新を10年かけて進め惑星間交通を改善しようと計画しており、今年度分を既に多くの企業へとパーツ毎に発注を行っていた。

 

今回は、その発注済みのパーツを使うことにしたのである。その他にもこの件にかかわる全ての人員の指揮が高く建造スピードは本来の2倍ものスピードで進んでいた。

 

建設が終われば、効率の良い物資輸送が期待でき、そうすれば兵站、支援物資両方がスムーズにやり取りできるようになる。

 

其の為の跳躍空間力場制御装置だ。

 

異世界側でも同じものが建造されているが、やはり本職には敵わないのか少し遅れている。

 

両側の装置が完成すれば、こちら側の支援の準備は完了する。

 

それまでにどれだけ輸送計画を練る事ができるのか、それが目下一番の懸案事項になる。

 

輸送物資事態についても考えなくてはならない、眼下に広がるまだ人工の光も大八島等の初期植民惑星に比べ少なく緑と蒼コントラストで占められる美しい星へと視線を移すと同時につぶやく「あの星に集められた物資のどれだけが異世界のの同胞達に届くのだろうか」と…………

 

今あの星には、すでに彼の世界の日本が4年間無補給で戦い続けられる量の物資が集められていると聞く。

 

其の多くは民間からの援助物資だ、事のあらましが報道関係によって拡散されてから一月でこの数、国民のこの事態への関心の高さと本気さがよく解る。

 

だが其れだけではない、国外からもかなりの量の支援物資が届いているという。

 

聴いたところでは其のスピードは衰えることを知らず、国内の輸送業者がうれしい悲鳴を上げているという。

 

それでも追いつかないぐらいの勢いで続々集まっているらしく、既に大八島の倉庫群には、凄まじい量の物資が山積みにされていると本国の知り合いが語っていた。

 

だが、加藤にはそんな物資も一番必要としている異世界の同胞に届くのだろうか心配でしょうがなかった。

 

どんな絶望的な世界でも富に執着するものは存在し、その為に必要な物資はあるべき場所へと届かず人々は困窮し続ける。

 

加藤は、よく其の事を理解していた。

 

彼がこの要職に就くまでいくつもの、平和維持軍や紛争地域へと派遣されつぶさにその現状を経験し、指揮する立場になってからも幾度も部下より報告され、その度に苦い思いをしてきたからだ。

 

ある国は、武器を手に支援物資を奪い法外な値で売り捌く、その為に届けるべき人々が買う事ができず数万人が凍死や餓死する事になった。

 

またある国は、国の人々へ送られたはずの支援物資をトップが売り払い兵器や自らの欲に変わった。

 

正直、虫唾が走る思いだが人類の歴史においてこんな話は枚挙に遑がない。

 

近いうちに派遣されてくるという、外務省の役人と十二分に協議して行かなければならないと改めて心に留めておくことにした。

 

 

しばらく外を眺めながら思いを巡らしていたが、休憩をとり続ける訳にもいかず再び一月で自らの定位置となった席へと戻り、ディスプレイへと起動開始を指示する。

 

画面が展開すると先程の資料とは別の資料を呼び出す、すると画面には真新しい艦が複数要塞内のドックに係留されている様子が映し出された。

 

その中で、一際巨大で、その船体にこれでもかと武装が施された戦艦が目を引く。

 

其の船は、やまと級多目的戦艦一番艦 やまと と呼ばれていた。

 

この戦艦は先の戦争から日本の威信をかけて建造されていたが、結局戦争に間に合わなかった。そして3ヶ月前やっと、就航し首都防備の要である第1艦隊に配備されていた戦艦である。

 

歴史に載る悲劇の戦艦だが日本人なら誰でも知っている戦艦の名を与えられた山本指揮する派遣軍総旗艦になる予定の戦艦であり、このあと異世界へと派遣される。

 

正直、山本が羨ましい………単艦で小国を滅ぼせる程の戦力と称される艦なら、男ならいや、船乗りなら一度は自らの座上艦としてみたいと考えるだろう。

 

だがその一方で今回の配備は過剰戦力なのではないかとも考えていた。

 

恐らく異世界の人間と接触するに当たり、此方の力を様々な意味で誇示する意味も込められているのだろうが…逆にその威容がいらぬ警戒心を抱かせないかが心配だ。

 

さらに異世界騒動で、建造中止が決まっていた二番艦むさしと幾つかの艦艇の建造も再開され、恐らく就航後、此方へと配備されるだろうという話も聞く。

 

少し戦力の増強を急ぎすぎているきらいは無いだろうか…些細な違和感程度のものでしかないが、何かの意思が働いているような気もしていた。

 

一度、首都にいる情報部の阿部に話を通しておいた方がいいかも知れないな……そう考えながら増援艦隊の状況を確認する作業へと戻った。

 

そうこうしているとコンコンと一人静かな部屋にいるせいだろうか控え目ながら扉を叩く音が響いた。

 

ディスプレイを見つめ続けながら、そのままの姿勢で「おう、入れ」と入室許可を与えると若い秘書官が入室し、

 

「失礼します。お時間です。第三講堂へお越しください。」

 

と言われ「わかった」と言葉すくなに答え、机の上においていた将官用制帽を脇に抱えると執務室を後にするのだった。

 

執務室を出るさなか、建造途中の跳躍空間力場制御装置が目に入った彼は「制御装置の建造完了までにおよそ一月………長いな」と支援体制が整うまでの長さに独り言ちるのだった。

 

 

 

 

 

 

・西暦3020年 08月02日 星間国家「日本」第7殖民惑星 天国(あまくに) 統合軍第7惑星駐留艦隊基地 現後詰艦隊基地 第三講堂

 

一足早く援異第1艦隊と合流し当初の戦力へと増強する為増援として派遣される、やまと、以下15隻の壮行会が行われていた。

 

それなりに大きい講堂によく響くように設置されたスピーカーから「加藤大将訓示」と言う進行役の士官の声が響き渡り、壇上に向かって加藤は進み出ていく。

 

壇上に立つと加藤の眼下には、衣擦れ以外の一切の物音をさせず、約5000名の将兵が加藤の立つ中央の舞台を中心に毅然とした態度で講堂に整列していた。

 

目の前に整列している将兵に向かって、顔を向ける。

 

一度眼下を見まわしてみるそこに広がるこちらへと向けられる顔には、緊張、興奮、とまどい等様々だが、特に緊張しているものが多いようだ。

 

これから送り込まれる地は、未知の生物との戦場だそれも当たり前か……

 

一度目をつむり、一拍置いてから目を開き加藤はその場の総員に語りかける。

 

「これより異世界へと向かう諸君、緊張しているものや、思うところが有るものもいるだろう。私からの諸君へと願うことは只一つ、同胞を守り、そして生きてこの世界に帰って来る事だけだ。諸君勘違いしないでもらいたい、彼らを助ける為に無理して死ぬ事の無い様にしろ。忘れてはならない、君らの命も救うべき同胞と同じ価値のある命であると言う事を忘れないでほしい………もう一度言う生きて帰れ、生きて帰って家族に元気な顔を見せてやれ、無駄に死ぬなよ。あがいて、あがいて生き抜いて見せろ、私は諸君にならはそれができると確信している以上だ」

 

そう短く訓示を贈り締めくくる。

 

其の後、スピーカーから「きおつけ、頭~中」と響く、其の声とともにその場にいる全将兵が一糸乱れぬ動作で加藤に向かって敬礼し加藤は、ゆっくりとその将兵達の顔を見回してから、彼らの敬礼に対し少し頷き答礼を返すのだった。

 

その後次々と様々な軍関係者が言葉を送っていく、そんな中加藤はその姿を眺めながら来賓として参加している多くの企業関係者を一瞥する。

 

今回の、異世界騒動をビジネスチャンスと見た各企業が、この一月で天国《あまくに》の支社を拡大している、特に軍事産業の拡大は目覚ましい。大企業等に至っては、すでに研究所の設置も始めていると聞く、今後何らかの形で異世界へと進出しようと考えているのだろう。恐らく彼らはそんな企業の社員だろう。

 

彼らを加藤は冷ややかな目で見つめ、「こんな所までハイエナどもめ………」とぼやき、再び今だ続く壮行会に様々な態度で臨んでいる士官たちへと視線を移す。

 

加藤には、これより先異世界へと渡る彼ら一人一人の運命は予想がつかない。だが恐らく様々な困難に会うだろう事は容易に想像する事ができる、其れゆえ考える「これから異世界へと送り込まれる若者たちの幾人が無事に故郷へと帰ってくる事ができるのだろうか」と…………

 

今だ続く壇上からの言葉を遮るように、加藤はかぶっていた帽子を目深にかぶり直し壮行会が終わるまで、腕を組み目をつぶり会の終了まで過ごすのだった。

 

 

 

・西暦3020年 8月3日 星間国家「日本」首都惑星 大八島 財務大臣執務室

 

首都である大八島の官庁街において、財務省もその例に漏れる事無くその場に存在し、その場から日本の財務を動かしていた。

 

その財務省の庁舎に入ってすぐエントランスにある階段を三階まで上がり、左手の通路を進んだ一番奥のにその部屋はあった。

 

部屋には、大量の財務関係の大量の書籍とファイリングされた資料が所狭しと収められた本棚と皮張りの接客用のソファーとテーブル、そして一人の男が執務机で仕事に勤しんでいた。

 

財務大臣星野次郎(ほしのじろう)は、悩んでいた。

 

もともと星野は今回の出征に反対だった、財源が無いとは言わない。それを作り出すのが仕事だ………が、妥結点の見えない戦いは、国の成長へ少なくない影響を与えることになるであろう、その為あくまでも財務大臣としてだが反対した。

 

もちろん日本人だ助けたいという気持ちを多少なりとも持たなかったかと言われれば嘘になる。

 

しかし、自分以外の閣僚が、日を追うごとにそれぞれの立場から賛成に回ってしまった為しぶしぶ賛成に回るしかなかった。その時、正直日本人としての心は軽くなったのも事実だった。

 

そのため今、賛成に回った結果として今回の出征や支援の為にかかる資金を何処から捻出し、自分の仕事の管轄では無いが何を持って出費を利益へと変え、いかに損失を減らすかを考え悩む事になってしまていた。

 

まず最初に考えたのは技術の輸出による貿易だ。だがこれは現実的ではない。相手の技術との差が激しすぎてそのままでは輸出は難しい。では段階的に技術を給与するか、これは利益度外視でやらないとならないだろう。しかも時間がかかる。同じ価値観を植え付けるにはそれなりの時間とインパクトが必要だ。そして、これが出資から利益へと変わるにはさらに時間を要すことになるだろう。

 

では、中古の兵器を大量に売り払うか?いや、これもダメだ。規格がそもそも合わないだろうし、技術差もあるだろうから、売れるかどうかも分からない、もし奇跡が起こったとして我が国の兵器をそのまま採用して貰うことができて売れたとすると、相手方では一切の整備ができないはずだ。必然的に整備も此方が受け持つことになるだろう利益という点では、戦費を補填するだけ稼ぎ出すことはできるかもしれない。だが、この戦争が終わったらその武器を此方へと向けない可能性は無いとは言えない。

 

次に考えたのは、技術を段階的に給与し、その対価として資源衛星の所有権で手を打つか?という事だった。一番現実的かもしれない、資源という面では無いよりもあった方が良いだろう、だが此方の世界まで持ってくるのはかなりの費用が掛かる。そうなるとやはり現地で加工して持ってくるかのが一番だ、技術もある程度浸透すれば現地企業に、安く作らせてから買い入れることも可能だろう。そうなれば現地で売り払う方事もできるようになっているはずだ。

 

そんな取り留めもない事を考えながら思考の海に埋没させていた彼の意思は、秘書からの一本の電話によって現実へと戻された。

 

その電話は今頃、自分の管轄省庁で働いているはずの経済産業大臣の新沼秀雄(にいぬまひでお)と日本経済会の大物堀一郎(ほりいちろう)がやってきたと言うものだった。

 

普段であればアポイントを取ってからでなければ合わないのだが、同じ大臣と経済界の大物が来てしまった以上追い返すわけにもいかず、部屋に通す様に伝える。

 

彼は来訪の理由もわからず困惑したが、うすうすさっきまで考えていた事についてでは無いかという気も心の片隅ではしていた。

 

5分程立っただろうか、しばらくすると執務室のドアを叩く音が響き返事をすると秘書が、新沼と堀をつれてやってきた。

 

星野は、すぐさま仕事を一時中断し立ち上がって、やってきた二人を部屋へと通し、ソファーに座るように促す。そして、秘書に飲み物を持ってくるように支持を出すと自らもソファーに座った。

 

「いやはや、お忙しいところアポイントも取らず急に押しかける形になって申し訳ない。お久しぶりです星野さん」

 

「いえいえ、御気になさらないでください。ちょうど休憩でも入れようかと思っていたところですから」

 

そう言って、堀から差し出された手を握り返し軽く握手を交わしてからも世間話は続く。

 

「それにしても毎年この時期の大八島は暑いですな。この年になると本当にこの暑さは堪えます。お若い星野さんが羨ましい」

 

「いやいや、堀さんもまだまだお若いでしょう」

 

「そんなことありませんよ、最近では節々が痛むようになりましてな、年には勝てませんそろそろ引退を考えなければと思っているのですよ」

 

「堀さんにはもう少し頑張っていただかねば困りますな。新沼さん」

 

そう言って新沼に同意を求める。

 

「ええ、ご老体にはまだまだ現役で頑張っていただかねばなりません。」

 

「ははは、そういわれてはもう少し老体の身ですが、もう少し頑張ってみましょうか」

 

そう言って堀は笑った。

 

しばらくそんな歓談を続けていたが、一向にこの場に来た理由を話そうとしない二人に焦れた星野は、話が途切れるのを待って切り出した。

 

「それで今回はどういったようなご用件でしょうか。」

 

「いやいや、そうお急ぎなさらんで時に星野さん今後の我が国の経済どうなると思ってるかね?」

 

先を促した自分の質問に質問で返され、「ち、さっさと要件言いやがれ………」と感じながら少しムッとし

 

「………私は、今後の我が国の成長は、今のままであるなら後200年は続くでしょう。ですが速度は必ず鈍ると考えております。特に今回の派遣は間違いなく我が国の成長速度を絶対に鈍らせると考えています。軍に関しては私は門外漢ですが、恐らく異世界の戦い半世紀は終らないと考えます。我が国………いや、此方の世界が支援を行うとした時、彼らが自力で地球から他の惑星へ反攻作戦に出るまでに恐らく20年から30年。特に、宇宙戦用の艦隊、宇宙戦用の機体は、数で勝るBETAでしたか、そう彼らを圧倒するだけの戦力を作り出す間、間違いなく我らは支援し続けなくてはならない。皆さん簡単に考えていらっしゃるが、その間の経済的な貿易等、微々たるものです。利益が上がり始めるのは月まで取り返さない限り無理でしょうね。負担にしかなりませんよ。異世界をすぐ救えて利益も上がるなんて夢のまた夢ですよ。」

 

今までため込んでいた鬱憤といっしょに吐き出すかのごとく吐き捨てる。

 

新沼はその意見に苦笑しながら賛同し星野に続く。

 

「ええ、声高らかに異世界支援を口にする連中は、何もわかっちゃいない。我が国の経済や政治は確かに今は順調だ………だが、その順調さは周りの国が安定していたから全力で経済に力を注ぐことができていた為だった。それにこの世に絶対はない。一度傾いた経済を立て直すことの難しさは並大抵の物じゃない。しかも支援をするという事は、今まで使えていた資金を少なくない金額そちらに回すしかない。それも長期間、将来その見返りが返って来るかさえ分からない。我が国は、昔それをいやと言うほど思い知ったはずなんですがね………」

 

そんな二人の大臣のボヤキを聞いていた堀は、薄く笑いながら切り出した。

 

「おっしゃる通りだと私も思ってます。ですが、今後10年間、軍事以外の異世界支援,経済界で肩代わりすると言ったらどうですか?」

 

星野はその突然の言葉に、戸惑いながらも堀の言葉と表情にうすら寒さを感じ始めていたが、気にせず尋ねる。

 

「ほう、何故国の負担を軽減してくださるのか………私には、あまり財界の皆様に利益があるとは思えませんが」

 

星野が訪ねると新沼が堀に視線を向け、堀がうなずくとその問いに応じる。

 

「実はですね、堀さんがおっしゃるには異世界にある文化的資源、自然資源の両方が目的だそうなのですよ………」

 

「ん?申し訳ない。いまいち良くわかりませんが?」

 

今度は堀が応じる。

 

「簡単に言うとですね。この20世紀からの10世紀の間に失われた文化資源、すでに絶滅してしまった生物のサンプル、希少金属を含む小惑星の自然資源これらが欲しい。特に絶滅危惧種のサンプルを研究する事で新素材が製造できるかもしれない、希少金属は埋蔵場所が解っているのだから調査費が安く済むという事から是非欲しい訳ですよ。」

 

「確かに資源としては優秀であるかもしれません。ですがそれだけで10年。しかも、当初の支援という事もあって一番費用が掛かるはずの時期の肩代わり、それだけでは私には、あなた方、財界に利する所が少ない気がするのですが」

 

「ええ、もちろん其れだけで終わりではありません。後はできるだけ早い段階で、あちら側での我が国の企業が企業活動を行えるように取り計らっていただくことです」

 

「ほう、早く進出して市場を確保したいと」

 

「ええ、異世界が今後こちらと同様な世界となりうるのであれば、その市場規模は計り知れない。なら早めに進出するのが得策でしょう。その際に我々財界が支援をしたとなれば、多少なりとも現地の住民感情に寄与することができるわけです。資金は後で回収できるわけですから、我らにとって損には決してならんでしょう。損して得取れですよ。はははは」

 

そう言って堀は笑いだす。

 

この申し出は、財務大臣である星野にとっては渡りに船であった。一番つらい時期の10年間を肩代わりしてもらえるのだ。

 

ただ、星野にはこの話自体の危険性もよく理解していた。それは、異世界で自国企業が経済競争に勝ちすぎた場合の異世界側の反発だ。技術格差が激しい中で、経済競争をしたら恐らく我が国の価値は揺るがない。だが、一人勝ちは恨みを買う事になりかねない。そこの調整は絶対に行わなければならない事だ。手綱はしっかりと占めておかねばならない。なら、自分も参加してその手綱をしっかりと握っておく必要がある。そう決意を固めると

 

「解りました。その話お受けしましょう。ですが、今回の件私が陣頭指揮をとらせていただきます。が宜しいか」

 

と問うと二人は頷き、「その為に来たんですよ」と言ってカラカラと笑った。

 

 

 

 

 

・西暦3020年 8月5日 星間国家「日本」 第11長期殖民惑星調査任務艦隊所属移動要塞「暁」 展望室

 

5日前に本国から一つの通信があった。

 

法案の可決、そして艦隊は指示があるまで現状を維持せよと言うものであった。

 

そうして、本日艦隊に一つの命令が下った。

 

第11長期殖民惑星調査任務艦隊は、本日付で解散し、そのまま第1援異艦隊に再編となると言う辞令であった。

 

又、司令官山本は戦時特例の元に、二階級特進させ元帥に昇進させられることになった。

 

これは現地軍に、支援艦隊が組み込まれることが無いようにという為の措置であった。

 

そして、やまと級多目的戦艦一番艦 やまとと惑星強襲揚陸艦も送られてくると言う。

 

辞令を正式に受け取ってからの山本の行動は早かった。

 

すぐさま、かねてから研究していたコロニー等の後方施設の作成を本国に打診し、即日許可された事により目を付けていた衛星の確保及び移動とコロニー3基の建設を指示し、戦隊の派遣を命じる。

 

その際、佐藤が建造途中で廃棄されたコロニーが、本国でその事実をマスコミにすっぱ抜かれ問題になっていたことを思い出し、どうにか其の廃棄コロニーを使えないかと問い合わせたところ、連絡を受けた国土交通省は渡りに船とばかりに、すぐさま許可を出し、急いで跳躍可能な大きさまでパーツごとに分解を始めたと本国から報告された。これには上層部全員苦笑するしかなかった。

 

結果として磯崎と野島達が作成した支援計画の開始時期を大きく短縮する事に後々なってくる。

 

また、即日支援艦隊への任務変更を全艦隊乗員に公表し

 

「本国や世界の国々がこの世界の人々の支援の為に動き出し、その代表として派遣第1艦隊として我々が選ばれた。諸君我が艦隊はこれより本格行動を開始する。諸君のより一層の奮励努力に期待する。」

 

と言う訓辞を行った。

 

情報部には、各国に設けた情報網から最初に接触をかける人物の選定をさせ、一人の男に白羽の矢を立て、同時に接触方法を研究させるのだった。その男の名は彩峰 萩閣といった。異世界における日本の陸軍中将であり、日本の現朝鮮半島派遣軍の司令官、また日本の上層部とのつながりのある人物でもある。山本はこの人物を皮切りにまずは日本との接触を試みる事を基本方針とすることとした。

 

 

それらの仕事が一段落し、要塞の展望室で目の前に広がるくすんでしまった地球を、二人で眺めながら山本は玉露を佐藤は紅茶を飲んで休憩を取っていた。

 

「始まりましたね。これから大変だ。もう後戻りはできない」

「そうですな、始まりましたな。」

 

そう言って二人は頷きあった。

 

「ところで司令長官、今回の戦争落としどころ、どこになるとお考えでしょうか?」

 

佐藤は、とうとう支援に動き出すことになったこの生存競争に、今後どこまで自分たちが手を貸すべきなのか尋ねる。

 

「そうですね、私はおそらく太陽系の安全の確保までが私たちの仕事になると考えています。おそらく20年は終わらない」

「それは、こちらの人間が、自分たちだけで抗する力を得る時間ということでしょうか?」

「ええ、そう考えています。」

「でわ、戦力の提供はどこまでとお考えでしょうか?」

「おそらくは、火星までのラインでしょう。火星まで攻め上がるにはそれなりの戦力が必要でしょうから、しかも電撃戦でやらねばいけない。対応策を敵に取らせる時間を与えてはいけない。そんなことをすれば、今の地球と同じ泥沼です。それにここの人たちに宇宙での長期作戦は無理でしょうから。佐藤さんはどう見てるんですか?」

「私は月までで良いかと………月を拠点としつつ、絶対防衛圏を構築し後は彼らに任せるという考えです。」

「ほう、月までですか?その根拠は?」

「月まで上がれば一先ずの生存権の確保はできるでしょう。また、現在の状況で宇宙からの増援を絶てているので月自体に、降りたたせなければ問題ないと考えます」

「ふむ、確かに一理ある」

「まあ、これは今後の動き次第でしょうから研究させておく必要がありますね」

 

そう言って「長い戦いになりますな。」と言い「ええ、私達の代では終わらないでしょう」と山本が返すのだった。

 

 

しばらく二人とも無言だったが、湯飲みを見つめていた山本が佐藤に向かって話し始めた。

 

「佐藤さん、私は今少し後悔しているんですよ」

「何故ですか?」

 

佐藤は理由がわからず、すぐさま問いただした。

 

「今回の調査結果を、はじめの段階で私が黙殺していれば、もしかしたらこれから失われるかもしれない命が助かったかもしれない。それにこの世界だって我々が手を、出したからと言って救えるとは限らない。いたずらに希望を抱かせる結果にならないとは言えない。ただ私は兵士たちの命を無駄に散らせる決断をしただけなのかもしれない。それに調査戦隊が戻ってきた時に、そのすべての情報を黙殺するという事もできたはず………引き返せる機会は多くあったはずなんだ」

 

そう、確かに今回のことは、山本が調査命令を出さずに再跳躍して戻っていれば、少数の人間だけが遭遇した不思議な出来事で終わったかもしれない。また、調査戦隊が戻った時に山本の言うとおりに実行していればそうなったかもしれない。だがしかし、佐藤は調査を命令された事を間違ってないと感じていたし、彼の部下も上申書まで作ってよこした者までいるのだ。

 

「ですが、もうすでに賽は投げられたのです。司令長官がおっしゃったとおりもう後には引けません。たとえ後世の学者が何と言おうと、司令長官の行動を私は指示します。いや、参謀一同司令長官の行動を支持いたします。士官たちの多くも支持してくれるでしょう。ですからあまり自分を責められないようしてください。士気にも関わります。」

 

そう言って叱咤してくれる佐藤に

 

「ありがとう、今のは忘れてください」

 

と答え、もう一度二人の前に広がるくすんだ地球に視線を移すのだった。

 




2010年 11月10日 にじファンにて初投稿
2012年 10月06日 加筆修正の上投稿

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