蝶結び   作:春川レイ

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最後の贈り物

 

医師の診察を受けた次の日から、結火は仕事を休んだ。仕事終わりの後藤が様子を見にきてくれたため、部屋に招いて、医師からの診察結果を後藤に話す。結火の話を聞いた後藤は大きく目を見開いた。

「そんなに、お体の具合が……?」

結火はうつむきながら小さな声を出した。

「――恐らくですが、……隠として現場で働くのは、もう不可能です」

「……」

「後藤さん、申し訳ありません」

正座をして、深々と頭を下げた。後藤が慌てたように声を出す。

「ゆ、結火様!やめてください、頭を上げて――」

「……今まで、こんなにも、よくしていただいたのに、結局このような形で辞めることになります。本当に、申し訳ありません」

「いや、そんな!結火様、本当に頭を上げてください!」

後藤の言葉に、結火はゆっくりと頭を上げた。後藤が困惑したように声を出す。

「結火様……、その、……本当に無理なんですか?」

「はい。体力の必要な仕事は、もう無理だとはっきり言われましたから………、現場で、また体調を崩して、他の隊士の方に迷惑をかけることはできません」

後藤を真っ直ぐ見ながら言葉を続けた。

「でも、鬼殺隊は辞めませんよ。内向きの仕事を志願するか、それか、藤の家紋の家で仕事を探そうかと……」

「大丈夫、なんですか?」

後藤の問いかけに、結火は大きく頷いた。

「はい。絶対に、鬼殺隊は、辞めません。心の炎を自分から消すことは、しません。私の心は鬼殺隊と共にあります」

そして、後藤を真っ直ぐに見て、言葉を続けた。

「燃やし続けます。この命が尽きる、その日まで」

後藤はしばらく結火を見つめていたが、やがて大きく頷いた。

「分かりました。結火様、今までありがとうございました」

「私の方こそ、本当に、お世話になりました。後藤さんがいなければ、きっと、私……」

結火の言葉が詰まる。後藤は慰めるように結火の肩を優しく叩いた。

「他の隠達には、俺から適当に説明するので……」

「皆さんに、御礼を伝えてください。いろんな人に、お世話になって、たくさん支えてもらって……」

「大丈夫ですよ」

後藤の言葉に安心して、結火はホッと息をついた。

「――でも、結火様。胡蝶様は……」

後藤の言葉に顔をしかめた。

「……あの方には、私から手紙を出します。一身上の都合で辞めた、と説明しますので……、納得していただけるかどうかは分かりませんが……」

「――なんとなくですけど、納得しない気がします」

「でも、もう私があの方と会うことはないでしょう……、きっと、そのうち、私のことなど忘れます」

結火がそう言うと、後藤は悲しそうな顔をした。

「残念です。本当に……」

その言葉に、微かに微笑む。

「後藤さんに、そう言っていただけて……本当に嬉しく存じます……ありがとうございました」

そう言って再び頭を深く下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎹鴉から届いた手紙を読んで、カナエは顔が真っ青になった。

近くにいたしのぶがその様子を見て、不思議そうに問いかける。

「姉さん、どうしたの?」

しのぶの問いかけに何も答えず、カナエは勢いよく立ち上がる。そして、

「え、ちょっと、姉さん!?」

慌てたように蝶屋敷から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の業務が終わり、後藤を含めた何人かの隠達は言葉を交わしながら仕事部屋へと歩いていた。

「それにしてもユウさんが辞めるなんて……本当に残念だな」

「しかし、突然ですね。何かあったのでしょうか?」

「後藤さんは何か事情を知ってるの?」

同僚に問いかけられた後藤は淡々と答える。

「いろいろ、あるんだよ。まあ、俺もよく知らないけど……」

などと誤魔化しながら歩き続けた。そして、仕事部屋にたどり着いた所で、

「胡蝶様!?」

胡蝶カナエが部屋の前に立っていた事に、驚きで目を丸くした。

「ど、どうされました?何かありましたか?」

他の隠達も慌てたような様子でカナエに声をかける。

「……後藤さん、ちょっとお話しましょう?」

カナエに声をかけられた後藤は思わずその場から逃げ出しそうになった。

「えっ、えっと、あの、俺、まだ仕事が残っているので――!!」

しどろもどろにそう答えると、カナエが他の隠達に視線を向けた。

「それは後藤さんじゃなきゃダメなお仕事なの?他の方にかわっていただくことは可能かしら?」

そう言われた後藤以外の隠達はすぐさま声を出した。

「とんでもございません!俺達が後藤さんの分まで請け負いますので……!」

「ちょっ、やめて、……本当に……」

後藤は真っ青になりながら同僚にそう言うが、そんな後藤に構わずカナエは、

「よかった。さあ、後藤さん、こちらに来て。聞きたいことがあるのよ――いろいろと、ね?」

と言って後藤の肩を強い力で掴む。そして、

「ああっ、すみませんすみませんすみません!勘弁してください!!本当にお願い……!」

そう悲鳴をあげる後藤をズルズルと引きずっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後藤さん」

「……はい」

カナエに呼びかけられた後藤は小さな声で返事をする。声は優しいのに、威圧感がすごい。何も悪いことはしていないのに、この場で土下座したくなる。

あ、ヤバい。俺、今日死ぬわ。

後藤は本気でそんな事を思った。

「――今日ね。悲しいお手紙が届いたの」

「は、はあ」

「ユウさんからよ」

「……」

そうか、結火様の手紙が今日届いたのか。

だから胡蝶様はこんなに荒れてるのか、と後藤は納得した。

「――ユウさんが、隠を辞めたって」

「……はい」

小さな声で返事をすると、カナエが後藤へ一歩踏み出した。

「――なぜ、辞めたの?」

「……」

「後藤さんは知ってるのよね?」

まるで確信しているかのようにカナエが尋ねてきた。後藤は生唾を呑み込んで、短く答える。

「……存じ上げません」

カナエの鋭い視線に屈しそうになったが、後藤は必死に耐えた。

「……いいわ。じゃあ、せめて、ユウさんの居場所を教えて」

「は……いや、それは……」

後藤は困惑してカナエの顔を見上げた。

「直接話したいの。だから、どこにいるか教えて」

後藤は震えながらも、カナエの目を見返した。

「……お答えいたしかねます」

そして、これ以上は絶対に喋らないぞ、とでも言うように、口を閉じた。その様子を見て、珍しくイライラした様子のカナエが、なおも質問を繰り返す。

「どうして……?こんなに突然辞めるなんて……。理由が知りたいの!」

「……」

「それに、この間とても体調が悪そうだったわ。何か関係してるの?」

「……」

「教えて…、あの人に何があったの?一体、今、どこにいるの!?」

どんな質問にも後藤は何も答えず、口を閉ざし続けた。

「……何も、答える気はないみたいね」

やがて、カナエが大きく息を吐きながら、そう呟いた。そんなカナエに対して、ようやく後藤が口を開く。

「――約束、したので」

「……?」

「あの人が、俺の部下になった時、……誰にも、言わないと、約束したので」

そして、カナエから目をそらした。そんな後藤を、カナエは無言で見つめていたが、

「……そう。これ以上何を聞いても、無駄、という事ね」

と、囁いた。後藤は何も言わずにそのまま深く頭を下げた。しかし、

「でも諦めないから」

カナエの言葉に顔を上げ、口をポカンと開ける。

「……はい?」

「私は、諦めるつもりはないから。あの人の唯一の手がかりが、あなただわ。どんなに時間がかかっても、……必ず、絶対に、あなたの口を割らせてみせるから」

カナエが宣言するようにそう言った。

真っ白になった後藤はその場で失神しそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結火は診療所から処方された薬をチビチビ飲んでいた。

ここ数日、診療所へ通院し、今後の生活について医師と相談したり、薬を処方してもらったりと、やや忙しかった。薬のおかげもあってか、咳はほとんど出なくなったし、胸の痛みも、もうない。

まだ新しい仕事は決まっていないが、少しずつ新しい生活への見通しが立ちつつある。

そろそろ仕事を探さないとな、と考えた時だった。

「カァ――!」

鎹鴉が飛んできた。その姿を見て、結火は驚く。

「芯?どうしたんだ?」

結火の元鎹鴉の芯だった。なんだか嫌な予感がして、結火は顔をしかめる。

「また何かあったのか?」

芯はその問いに何も答えず、足を差し出してきた。

「ん?」

足には手紙が付いていた。結火は急いで手紙を開き、それを読む。そして、大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結火が隠を辞めてから、一ヶ月ほど経った。その一ヶ月は後藤にとって地獄のような日々だった。

「ご、後藤さん?大丈夫か?」

隠達が心配そうに後藤を見てくる。

「……大丈夫……大丈夫…」

血走った目をした後藤はどう見ても大丈夫じゃなかった。

あれから、カナエは仕事の合間を縫って何度も後藤を尋ねてきた。手荒な事は何一つされていないが、執拗に結火の事を聞かれ続けて、後藤はその対応に疲労しきっていた。

「後藤さん」

また今日も、カナエが後藤の元へやって来た。

「……何も存じ上げません」

「まだなんにも聞いていないわ」

「……何も存じ上げません」

同じ言葉を繰り返す後藤に、カナエは優しく声をかける。

「ねえ、お願い。どこにいるかだけでいいの。教えて、後藤さん」

「……」

「もちろん、あなたから聞いたって言わないわ。迷惑は絶対にかけないから。だから、お願い」

後藤はげっそりしながら口を開く。

「――勘弁してください……。俺から言うわけにはいかないんですよ……、あの方にはいろいろと事情があって……」

その言葉にカナエが眉をひそめた。

「……後藤さん。どうして自分の部下の事を“あの方”なんて呼ぶの?まるで部下というより目上の人みたい……」

「……あ゛っ」

後藤がしまった、というように口元を手で抑えた。カナエが訝しげに声をかける。

「後藤さん、あなた……」

「失礼いたします!!」

後藤は大声でそう叫び、その場から素早く逃げ出した。カナエはその姿をポカンと見送り、一瞬追いかけようか迷ったが、結局諦めたように蝶屋敷へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ~……」

蝶屋敷に戻ったカナエは机に突っ伏して大きなため息をつく。

「――なに、そのため息」

いつの間にかしのぶが部屋に入ってきて、声をかけてきた。

「また、ダメだったわ。後藤さんは、すごくお口が固いの……」

泣きそうな表情で顔を上げて言葉を続けた。

「……ユウさん、どこにいるのかしら」

その言葉に、我慢ならないとでも言うようにしのふが声を上げた。

「姉さん、いい加減に目を覚まして!!あの人に騙されていたのよ!!」

「騙すなんて、そんな……」

「だって姉さんだけじゃなくて、甘露寺さんまで狙って……」

その時だった。しのぶの鎹鴉が窓から飛んできた。カナエが少し笑いながら、しのぶに声をかける。

「ほらほら、しのぶ。お仕事の時間よ」

「もう、姉さん――!」

その時、鎹鴉が叫んだ。

「カァー!伝令、伝令!胡蝶カナエ及ビ胡蝶シノブ、オ館様ガオ呼ビダ!!今スグ本部へ向カエェッ!!」

その言葉にカナエとしのぶは同時に声を上げた。

「え?」

「え?」

現役の柱であるしのぶはともかく、カナエを呼び出すとは、一体どうしたのだろう。

二人揃って困惑しながら顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに隠の隊服に袖を通し、頭巾を装着する。そして、結火は数年ぶりに鬼殺隊本部の産屋敷邸へ足を踏み入れた。

「……」

鎹鴉の芯が運んできたのはお館様である耀哉からの呼び出しの手紙だった。

また、ここに来るとは思っていなかったな。

そんな事を思いながら、おかっぱの子どもに付いていく。

「煉獄結火様がいらっしゃいました」

「……ああ、開けておくれ」

久しぶりに聞いたその声に懐かしさを感じながら頭を下げる。

「失礼いたします」

襖が開く。すぐにまた声が続いた。

「頭を上げて、結火」

「はい」

結火は言われた通りに顔を上げる。耀哉の姿を目にした瞬間、顔には出さなかったが、拳を強く握った。布団から上半身を起こした状態で結火を待っていた耀哉は、結火が知る彼ではなかった。身体中ににただれが広がっており、その瞳は恐らく何も見えていないのか真っ白だった。

耀哉の側には、奥方であるあまねが控えていた。

「……お前達は外へ。二人きりにしておくれ」

その言葉に、あまねとおかっぱの子どもは頭を下げて部屋から出ていった。

「結火、入ってくれ」

そう言われて、ゆっくりと部屋に足を踏み入れる。静かに布団の側に正座した。

「……ごめんね、突然呼び出して。それも、こんな所に……、本当は、きちんとした場で、話したかったんだけど……」

「とんでもございません。御体の加減は――」

結火の言葉に、耀哉が微かに微笑んだ。

「うん。驚いただろう?こんなに変わって……」

「……いえ」

耀哉は微笑んだまま言葉を続けた。

「――君と話がしたかったんだ、結火。……恐らく、君と会うのは、今日が最後になると思う」

結火は耀哉を静かに見返した。

「もう、そんなに長くは、もたないんだ」

「……はい」

「最後に、どうしても君と話したくてね。――昔みたいに」

耀哉はもう見えない瞳を、結火に向けた。そして、

「結火。最近、何か楽しいことはあったかい?」

幼い頃に戻ったようにそう声をかけてきた。その言葉に耐えられず、涙が出そうになる。

「……ありました、耀哉様。あなたと、こうして話せること。それが、とても楽しいです」

そう答えると、耀哉が嬉しそうな表情をした。

「――ごめんね、結火」

突然謝罪されて、結火は首をかしげた。

「何が、でしょうか?」

「僕は君に、何も返せなかった」

言葉の意味が分からず、結火は眉をひそめた。

「――昔から、君にもらってばかりだ。覚えているかい?あまり外に出れない私が少しでも楽しめるようにと、花や木の実や虫を持ってきてくれた。それで槇寿郎にひどく怒られたね」

「……はい」

「昔の君は本当にお転婆だったな。それに、手紙を何度も送ってくれた。嬉しかったよ。本当に、嬉しかったんだ……」

「……はい」

「大人になってからは、剣士として僕を支えてくれたね。どんどん強くなって……、柱にまでなって。君は、本当にすごい人だ」

「もったいないお言葉です……」

目を伏せながらそう答えた。耀哉が穏やかに言葉を続ける。

「だからこそ、本当に、申し訳ないと、思ってるんだ。こんなにも鬼殺隊に尽くしてくれた君の、剣士としての終わり方が、あんな形になってしまって……」

「耀哉様の責任ではありません!私が――、」

「多分ね、君には才能があったんだ」

結火はその言葉に驚いて顔を上げる。

「はい?」

「まだまだ成長の途中だっただろうけどね……、君は剣士としては、誰よりも才能を持っていた。もっともっと強くなる可能性が、あったと思うよ。本当に。きっと、槇寿郎も、心のどこかで、それが分かっていたと思う……」

「……そんな、まさか。そんなこと……」

「だからこそ、本当に残念に思っている……。ごめんね、君から居場所を奪ってしまうことになって……」

「違います……!」

結火は大きく叫んだ。

「逆です、耀哉様!あなたは、家を出た私に居場所を与えてくれた……!私は、ずっと、ずっと、あなたに支えられてきたのです……!」

そして、深く頭を下げた。

「――ありがとう、ございました」

目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。そんな結火に、耀哉がゆっくりと口を開いた。

「……結火。また、体の調子が悪いのだろう?」

「……はい」

頭を下げたまま、答える。

「もう、隠としても、厳しいのかな?」

「はい」

「……そうか」

耀哉が穏やかに言葉を続けた。

「――君に、僕から、贈り物をしたいんだ」

「贈り物?」

突然の言葉に戸惑いながら顔を上げる。

「うん。僕から君へ、最後の贈り物だよ。受け取ってくれるかな?」

「もちろんです」

考える前にそう答える。耀哉が嬉しそうに笑った。

「よかった。僕から君へ、最後にできること、だからね」

「……何でしょうか、贈り物、とは」

「うん。新しい、居場所だよ」

「居場所?」

「噂を聞いてね。君、カナエと仲良しなんだろう?」

その言葉に驚いたその時だった。

「お館様、胡蝶カナエ様と胡蝶しのぶ様がいらっしゃいました」

襖の外からその言葉が聞こえて、結火は目を見開いた。

「えっ……」

「ああ、待っていたよ。入っておくれ」

耀哉がすぐにそう答えて、襖が開く。

「失礼します」

襖の向こうでは頭を深く下げたカナエとしのぶの姿があった。困惑する結火に構わず、耀哉が口を開く。

「二人とも来てくれてありがとう。頭を上げて、こっちへきてくれ」

そう言われた胡蝶姉妹が頭を上げる。そして、耀哉のそばにいる結火の姿を見て、驚愕して口をポカンと開いた。

「え、え、ユウさん?」

カナエが戸惑いながら小さく呟いた。

「さあ、カナエ、しのぶ、こっちへ」

耀哉にそう言われた二人がおずおずと入ってくる。そして、結火と向かい合うように座った。

「カナエ、しのぶ。彼女の事は知っているね?」

「は、はい」

二人が揃って頷いた。耀哉が微かに微笑む。

「今日、君達を呼び出したのはね、お願いがあるからなんだ」

「なんでしょうか、お館様」

しのぶが冷静に言葉を返す。耀哉がチラリと結火を見て、ゆっくりと口を開いた。

「――彼女は、体の調子が思わしくない。もう隠としては、働けないんだ。そこで、なんだけどね」

にこやかに微笑んで言葉を続けた。

「蝶屋敷で、看護や治療専門の隊士として、受け入れてもらえるかな?」

「……はっ?」

結火は思わず大きな声を上げた。カナエとしのぶも驚いたような顔をする。一瞬遅れて、結火は慌てて耀哉に声をかける。

「耀哉様、……そ、れは……」

「とっても働き者で真面目だからね。きっと役に立ってくれるよ」

「ちょ、ちょっと……」

戸惑う結火を遮るように、カナエが素早く返事をした。

「もちろんです。お任せください」

「姉さん!!」

しのぶが大声を出す。しかし、そんな様子に構わず、耀哉は話し続けた。

「カナエ、どうか、彼女をよろしくね。僕の大切な友人なんだ」

「ゆ、友人!?」

ギョッとしたような声を出すしのぶに耀哉は頷く。

「ああ。僕達は幼馴染みでね……。とても仲良しだったんだ。彼女の事が心配でね……だから、蝶屋敷で受け入れてもらえるなら、本当に安心できるよ」

驚いたような表情をする胡蝶姉妹をよそに、結火は慌てたように耀哉に声をかけた。

「か、耀哉様!なぜ、突然、そのような……、職なら自分で探します!」

そんな結火に耀哉はキッパリと言った。

「いや、君は蝶屋敷に行くんだ。その方がいい」

「な、な……」

「君の新しい居場所だよ」

結火はもう何も言葉を返すことが出来ず、呆然とした。

結火から視線を外し、今度は胡蝶姉妹に顔を向ける。

「きっと、彼女は蝶屋敷にとっても必要な人材だからね。仲良くしておくれ。いろいろと」

「はい!」

カナエが嬉しそうに返事をして、しのぶが苦虫を噛み潰したような顔をした。

そして耀哉は再び結火に視線を戻し、声をかけた。

「……それじゃあ、そろそろ頭巾を取って、二人に顔を見せておあげ」

その言葉に結火はビクリと肩を震わせる。静かに耀哉を見返して、やがて諦めたように手を動かした。胡蝶姉妹の強い視線を感じながら、ゆっくりと頭巾を剥ぎ取る。

そして、その顔が露になり、結火は真っ直ぐに前を見た。正面からカナエとしのぶを見据える。結火の顔を見た瞬間、カナエがハッと何かに気づいたような顔をした。大きく目を見開く。

耀哉が穏やかな顔で口を開いた。

「改めて紹介しよう。彼女の名前は、煉獄結火」

「れ、れんごく……?」

しのぶが驚愕した声を出す。

「杏寿郎の実姉にして……元炎柱だよ」

耀哉の声が響く。

結火とカナエは、真っ直ぐにお互いを見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




たくさんの評価、お気に入り、感想をありがとうございます。
主人公の蝶屋敷メンバー加入が決定したところで、この章は終わりです。次に番外編をいくつか挟んで本編に戻ります。
更新は不定期になりますが、今後もよろしくお願いいたします。







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