蝶結び   作:春川レイ

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そっくりな姉弟

 

 

「……」

「……」

結火は目の前でポカンと口を開けている音柱・宇髄天元を無言で見つめた。

結火の表情はいつも通り感情が読み取れず、冷たい瞳をしている。

そんな結火を凝視していた宇髄だったが、しばらく経った後、ようやく言葉を出した。

「――煉獄がここにいるって事は、俺はやっぱり死んじまったのか?それとも夢を見ているのか?」

「天元様は死んでおりません!!」

そばにひっついている宇髄の嫁がそう叫び、結火はため息をついて口を開いた。

「――音柱様におかれましては、この度の任務の遂行、誠にお疲れ様で御座いました。心よりお慶び申し上げます」

結火がそう言うと、また宇髄はポカンとして、首を横に振りながら言葉を出した。

「――やっぱり夢だな。煉獄が俺にそんな丁寧な言葉遣いをするとは思えねぇ。煉獄はもっと、こう……、ガサツで荒っぽくて攻撃的で女らしさのカケラもなくて、そのうえ地味で……」

直後に結火が宇髄に薬湯をぶっかけた。

「うわ、くっせぇ!!」

「疲労回復に効果のある薬なので、しばらくそのままでよろしいかと存じます」

結火が淡々と言い捨て、そばで見守っていたカナエが苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊郭にて、宇髄天元一行が上弦の鬼を倒す、という130年ぶりの偉業を成し遂げた。大怪我をした宇髄と、宇髄の連れていた剣士達はすぐに蝶屋敷に運び込まれた。現在、結火も含め蝶屋敷の職員全員で、治療と処置を行っている。

そして、結火は数年ぶりに宇髄と再会した。結火の顔を見た宇髄は、信じられないとでもいうように長い間ポカンとしていたが、結火に薬湯をぶっかけられて、徐々に現実を認識し始めたらしい。カナエの治療を受けながら、結火に話しかけてきた。

「お前、生きてたのか?鬼に喰われたって聞いたんだけど。あ、つーか、なんでここにいんの?」

「お静かに、音柱様。後ほど説明させていただきますので」

結火はカナエに包帯を手渡しながら、淡々と、しかし丁寧に答える。そんな結火を見ながら、宇髄は首をかしげた。

「なんでそんな言葉遣いなんだよ。お前らしくねぇな」

結火はほんの少し顔をしかめて口を開いた。

「現在、私は柱ではなく、下っ端の隊員ですので」

「あ?んなこと気にすんな。元に戻せ」

「……しかし」

「お前にそんな丁寧に話しかけられるのは、逆に気持ち悪いわ」

その一言で、結火は少しだけ目を見開いて、やがて口を開いた。

「――宇髄。相変わらず、だな」

「おう」

宇髄がニヤリと笑う。そんな宇髄を見つめながら、結火は言葉を重ねた。

「よもや、お前が上弦の鬼を倒すとは……昔より強くなったんだな」

「まあな」

その時、カナエが宇髄に包帯を巻きながら話しかけてきた。

「二人は仲良しだったの?」

その問いかけに結火は肩をすくめ、宇髄は苦笑する。

「こいつとは柱になった時期が近くて、たまに手合わせをしたんだ」

「……昔の、話です」

結火は短く答える。処置を続けるカナエの表情が少し固くなった。宇髄はそんな様子に気づかず、今度は結火の方に傷だらけの手を伸ばしてきた。短い髪を一房掴む。

「お前、髪を切ったの?」

「……まあな」

「ふーん。似合わねえな」

「別にお前のために切ったわけじゃない」

「でも昔の長い髪の方が似合ってたぜ。地味だけど、綺麗な髪だった」

宇髄がそのまま結火の髪を撫でたその時、カナエが宇髄の手を掴んだ。

「いってぇ!!何すんだ、胡蝶!」

「宇髄さん。結火さんには触らないでね。次に触ったら、私、とっても怒るから」

カナエは笑顔だが、その圧が怖い。結火はカナエから目をそらし、宇髄はギョッとした。直後、何かに気づいたように口を開いた。

「――えっ?お前ら、そんな仲なの?」

「んなわけあるか」

宇髄の問いかけに結火が素早く答えたが、

「今、頑張って口説いてるのよ~」

カナエがフワフワと答えたため、思わず、

「胡蝶様!」

と大声で叫んだ。

その言葉を聞いた宇髓がニマニマと笑い始める。

「へ~?ほぉ~?なるほどね~。あの堅物の権化のような煉獄に、ようやく春がきたということか。めでたいねぇ……」

「うふふ。まだそういう仲ではないんだけどね」

「祝言には呼んでくれよ。俺がド派手に祝ってやる」

「あら楽しみ~」

宇髓とカナエの頭の痛くなるような会話にうんざりしながら、結火は逃げるように出ていく。

部屋の外ではたくさんの薬を抱えたしのぶが立っていた。怒りに燃える瞳で結火を睨んでいる。

「む、蟲柱様……」

結火が声をかけると、しのぶはワナワナと震えながら口を開いた。

「し、祝言って……、け、結婚なんて……っ、私は死んでも認めませんから!!」

大きく叫ぶと、また結火をギロリと睨み、薬を抱えたまま部屋へと入っていった。

なんでこんなことになったんだ。

残された結火は頭痛がして思わず呻く。そして、大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、宇髄の病室に食事を運んだ結火はそのまま宇髄に促され、蝶屋敷で働く事になった経緯を手短に話した。

「ふーん。病ね……てっきり死んじまったのかと思っていた。隠をしてたのか。今まで気づかなかったわ」

「まあ気づかれないように用心していたからな」

結火が腕を組ながらそう答えると、宇髄は食事をしながら言葉を続けた。

「身体はもう大丈夫なのか?」

「……肺の機能は低下しているから、激しい動きはもう無理だ。これでも、前と比べると、ずいぶん良くなったんだ。ここで薬を調合してもらっているし……」

「愛しの胡蝶に?」

「ぶん殴るぞ、宇髄」

「おお、怖い」

宇髄は怖がるふりをしながら、少し笑う。そして、しばらく沈黙した後、また口を開いた。

「――弟のこと、残念だったな」

宇髄の言葉に、結火はうつむき、短く答えた。

「ああ」

そんな結火を見ながら、宇髄が少し笑った。

「おまえとそっくりな弟だったな」

結火は顔を上げて、大きく目を見開き、宇髄を見返した。

「ん?どうした?」

「――いや」

結火は迷いながら答える。

「……そっくり、なんて……初めて言われた。私達は、あまり似てないから……」

「あ?めちゃくちゃ似てるじゃねえか」

宇髄が呆れたように言葉を重ねた。

「まあ、見目は弟の方が派手派手だったけどな……いつも真っ直ぐで強くて……お前と同じで、いいやつだったよ。それに」

宇髄はニヤリと笑った。

「お前の事を、心から信じていた」

「……」

「俺はお前がとっくの昔に死んじまったと思ってた。でも、あいつは、お前が生きている、死ぬわけがないって、何度もそう言ってたぜ」

「……」

「あいつが、最終選別を受ける時、お前はあいつの強さを信じていただろ?弟は絶対に受かるって。死ぬわけがないって。お前の弟も、そうさ。自分の姉の強さを、心から信じていたんだ」

そして、宇髄は楽しそうに笑った。

「お前ら、本当にそっくりじゃねえか!」

「……」

結火はそっと下を向いた。そんな結火に宇髄は続けて言葉をかける。

「煉獄、炭治郎に会え」

「あ?」

突然そう言われて、結火は顔を上げて眉をひそめた。

「……誰だ?」

「お前も知ってるだろう。鬼になった妹を連れている隊員だよ。今は大怪我をして寝ているけど」

そう言われて思い出した。遊郭で、宇髄と共に上弦の鬼と戦った少年の名前だ。現在、蝶屋敷で治療を受けているが、まだ意識は戻っていない。

「……なんで?」

「あいつは、お前を探している」

その言葉の意味が分からず、ますます困惑した。

「私を?」

「炭治郎は、お前の弟の最後の任務で、一緒だったんだ。その時、何かを煉獄から言われたんじゃねえか?『煉獄さんのお姉さんを知りませんか?伝えなければならない事があるんです』とか言ってたぜ」

「……」

結火は息を呑んだ。

「杏寿郎が?私に、何を――」

「そこまでは聞いてねぇ。とにかく、あいつが目を覚ましたら会いに行け。な?」

結火は戸惑いながらも、ゆっくり頷いた。

「――宇髄」

「ん?」

「……ありがとう」

心から感謝を伝えると、宇髄が再びニヤリと笑った。

「そんじゃあ、これもやるよ。」

「……?」

宇髄が何かを結火に差し出してきた。

「昨日嫁に持ってきてもらったんだ。貴重な物だから大事に読めよ」

それは、大きな本だった。表紙には大きく『身体機能の回復』と記されている。

「なんだ、これ?何かの参考書か?それなら、この屋敷にも文献はあるから――」

「ちげえよ。その装丁は偽装。開いてみ」

「?」

そう促されて、結火は眉をひそめながらペラリと本をめくる。その内容が目に入った瞬間、本を素早く閉じた。

それは、みだらで卑猥でいかがわしさ満点の、道徳上よろしくない物だった。

春本だ。

「……」

「まあ、女同士でも参考になるだろ?今後、胡蝶とそういう事をする時に、きっと役に立――」

結火は無言で、宇髄の得意気な顔に向かって春本をぶん投げた。

「いってぇ!!」

宇髄の悲鳴を聞きながら、結火は部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは……、本当に昔から……、なんだ、あのいやらしい本……」

結火はブツブツと呟きながら、庭に出て洗濯物を干す。全て干し終わり、屋敷に入ろうとしたところ、ふと庭の桜の木が視界に入った。

「……」

ゆっくりと木に近づく。そして静かに見上げた。春ではないので、当然、大きなその木に、花は咲いていない。しばらくそのまま眺めていると、後ろから声をかけられた。

「どうしたの?」

振り向くと、カナエが立っていた。

「――まだ、咲かないな、と思って」

「春ではないもの。桜が好きなの?」

「……」

結火は首を横に振る。そして、迷ったような表情をしてから、また口を開いた。

「――耀哉様に、花を贈りたくて」

「……お館様に?」

結火はコクリと頷いた。

「――昔、よくお花を贈っていたんです。耀哉様は、あまり外に出られなかったので……。昔、桜の花を持っていったら、とても喜んでくれたから……」

小さい頃の事を思い出して、結火は下を向いた。

心の中で、察していた。

耀哉の命は、この桜の花が咲くまで持たないだろう、ということに。

そんな結火をカナエは静かに見つめる。やがて、そっと結火の手を握った。

「――他のお花を贈りましょう。きっと喜んでくださるわ」

「……」

結火は何も答えなかった。カナエはその様子に構わず、今度は結火の髪を撫でた。

「――ねえ、結火さん。昔は髪が長かったの?」

「え、ええ。まあ……」

突然の問いかけに戸惑いながら、結火は頷く。結火の髪は、また少しずつ伸び始めていた。今は肩にかかるほどの長さだ。

「……見てみたいわ。あなたが髪を伸ばした姿。きっと、綺麗よね」

「――あなたの方が綺麗ですよ」

思わずそう呟くと、カナエは驚いたような顔をした後、嬉しそうに笑った。

「ね、また髪を伸ばしてみない?」

「業務の邪魔になります」

「結べばいいわ。あ、そうだ。私とお揃いの髪飾りをつけましょう」

「結構です」

「そんな事言わずに――」

結火とカナエは言葉を交わしながら、屋敷に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、結火は鋏を手に鏡の前に立った。自分の髪を見つめる。

「――黒い、な」

何度も呟いた言葉を、また呟いた。そのまま鋏を髪に当てる。伸び始めたので、また切らなければならない。鋏を動かそうとした瞬間、昼間のカナエの言葉が頭の中で響いた。

 

 

『……見てみたいわ。あなたが髪を伸ばした姿。きっと、綺麗よね』

 

 

「……」

鋏を持った手が固まる。そのままゆっくりと鏡の中の自分と目を合わせた。そして、

「……フン」

と、鼻を鳴らして、鋏を仕舞う。そして、顔をしかめて、その場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あと2~3話くらいでこの章は終わる予定です。更新は不定期になります。
この作品でもキメツ学園パロディ書きたいなぁ……とか考えています。なんか、こう、百合全開の学園ものを書きたい欲が出てきたんですよね。
本編終了後か、番外編として挟むか、今のところ未定です。



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