蝶結び   作:春川レイ

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燃える瞳

 

 

しばらく会話を交わした後、後藤は手を振りながら仕事へと戻っていった。結火は少し息を吐いて、そのままその場から足を踏み出す。カナエはどこに行ったのだろう、と考えながら足を進めた。

――よりにもよって、職場で馬鹿なことをしてしまった。少し頭を冷やさなければ。

心の中で深く反省しながら廊下を歩いていたその時、近くの部屋の障子が開いたのが見えた。それに気づいて足を止めると、

「……」

部屋の中から、顔を真っ赤にさせたカナエが現れた。モジモジしながら口を開く。

「後藤さんは……帰った?」

「……はい。どうやら、いろいろとお忙しいようで」

「そ、そう……」

淡々と答える結火に、カナエは羞恥心を誤魔化すように言葉を続けた。

「な、なんだか、後藤さんに申し訳ない事をしちゃったわね」

「……そう、ですね」

なんと言えばいいのか分からず、結火は短く答える。カナエは赤い顔のまま、結火の手を握ってきた。

「……続き、する?」

その言葉に、体中の血が顔の中心に集まってきたのを感じた。カナエの手が、今度は結火の顔に触れてくる。フワリと頬を優しく撫でられて、結火は震えながら口を開いた。

「……お止めください。猛省、しているんです」

「あら、どうして?」

不思議そうな顔をするカナエに対して、結火は顔をしかめながら言葉を重ねた。

「職場で、浅はかな事をするべきではありませんでした。あのように……あんな、……まるで、獣の、ような」

結火の言葉にカナエが息を吹き出した。そのままクスクスと小さく笑う。しかし、

「……とにかく、仕事中はやめましょう」

結火がそう言うと、カナエは残念そうな顔をして口を開いた。

「……誰もいないところなら」

「ダメです」

「ちょっとだけ、ね?」

カナエが甘えるように結火の白衣を掴み、上目遣いをする。その顔があまりにも愛らしくて、結火は一瞬言葉に詰まった。

「……分かってやっているのか?」

「え?」

思わず敬語も忘れてそう問いかけると、カナエはきょとんとした。

無自覚なのか、とため息をつきながら結火は頭を軽く抑えた。

「……とにかく、あまり刺激の強いことは」

そう続けようとしたその時、幼い笑い声が聞こえた。ハッとしながら慌ててカナエを部屋に押し込む。

「あら」

カナエが驚いたような声を出したが、それに構わず素早く障子を閉めた。

「ねえ、そっちのお仕事は終わった?」

「もうちょっと!」

「早く終わらせて、何か食べよー」

賑やかな声がすぐ近くで聞こえた。きよ、なほ、すみの三人が廊下を歩いているようだ。

結火は声を息を潜めて三人がいなくなるのを待った。別に隠れる必要はなかったな、と考えているうちに三人の声は遠くへと行ってしまい、結火はホッと安堵の息をついた。

「申し訳……」

結火がそう口を開くのと同時に、突然カナエが強く腕を引っ張ってきた。結火は驚いて目を見開く。戸惑っているうちに、いつの間にか結火はカナエに押し倒され、息を呑んだ。

「何をしているんです?」

「うふふ」

結火の真上で、カナエが楽しそうに笑う。

――なんだか既視感がある。前にもあったな、こんな事が。

結火がそう考えていると、カナエが口を開いた。

「前にもあったわね。こんなこと」

「……」

カナエも同じ事を考えていたらしい。結火がどう答えようか迷っていると、カナエはそのまま言葉を続けた。

「でも、あの時と比べて、……大きく変わったわ」

「……」

「あの時は、あなたのこと、何も知らなかった。あなたの素性も、お顔も、……名前さえも。でも今は……」

カナエが結火の唇を人差し指でなぞる。結火はビクリと震え、身体を硬直させた。それを見つめながら、カナエは耳元に顔を近づけると小さく囁いた。

「今は、こんなにもあなたが近くにいる。私の、腕の中にいる」

「……」

「分かる?今、私がどんなに幸せか……だから、……もっと一緒に過ごしたいの。あなたは、ちがうの?」

その言葉に、結火は強く唇を結ぶ。そして、目を微かに泳がせた後、小さく呟いた。

「……ちがわ、ない」

カナエが嬉しそうに顔を輝かせ、クスクスと笑う。そして、ゆっくりと身体を起こした。

「ここがダメなら、時間を作って、どこかに行きましょうか」

「……」

「ああ、でも、もう少ししたら、ちょっとお客様が来ることになっているのよね。そちらの対応が――」

カナエが身なりを整えながら言葉を紡ぐ。その姿を見つめながら、結火も身体を起こした。

「……カナエ」

「うん?なあに?」

カナエが首をかしげながら微笑む。結火が口を開こうとしたその時、

「――姉さん?どこ?薬がもうないんだけど!」

しのぶの声が聞こえた。慌ててカナエは立ち上がる。

「あら、お薬が切れたのかしら……?」

カナエが迷うように結火に視線を向ける。結火はその姿を見て、

「――早く行ってください。困っているようですし」

その言葉にカナエは、

「ごめんなさいね」

申し訳なさそうにそう言って、結火を残して部屋から出ていった。

残された結火は思い悩むように大きくため息をついて、顔を伏せた。そして、腕を振り上げると、部屋の壁を強く殴った。ガンッと、大きな音が小さな部屋に響く。鋭い痛みが腕に広がるが、それに構わず、結火はゆっくりと顔を上げる。

その瞳の中で、炎が激しく燃えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室へと戻り、目を閉じて、結火は大きく深呼吸をした。全身の神経に集中しながら、ゆっくりと息を吸い込み、そして吐き出す。心を落ち着けるように、また力強く息を吸い込んだ。

「――コホッ」

小さな咳が出たが、構わずに、そのまま深呼吸を繰り返す。

そして、静かに瞳を開けると、立ち上がった。自室の押し入れを開け、その中に入っていた物へと手を伸ばす。

「……」

結火が取り出したのは、日輪刀だった。鞘に入ったまま、長い間眠っていたそれを結火は食い入るように見つめる。ゆっくりと鞘を撫でると、再び目を閉じて、日輪刀を強く抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝、カナエが洗面所へ向かうために自室を出て廊下を歩いていた時、突然声をかけられた。

「胡蝶様」

振り向くと、そこには結火が立っていた。いつも通り、何の感情も浮かんでいない顔をカナエに向けている。

「結火さん、おはよう」

カナエが微笑みながら挨拶をすると、結火も軽く頭を下げた。

「おはようございます」

そのまま、結火は真っ直ぐにカナエを見つめてきた。

「結火さん……?どうかしたの?」

不思議そうな顔でカナエが問いかけると、結火はゆっくりと口を開いた。

「……少し、お話が。業務の後、お時間を頂けないでしょうか」

その言葉にカナエは首をかしげながら口を開いた。

「ええ、構わないけれど……お話って?」

「……今後のことについて、です」

結火がそう言うと、カナエはますます不思議そうな顔をした。

「分かったわ。それじゃあ、午後の診療の後でいいかしら?」

カナエの言葉に結火は無言で頷く。そしてそのまま軽く頭を下げると、仕事のために療養者の元へと向かって足早に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

療養者の記録を書類に書き綴りながら、カナエは朝の結火の様子について思いを馳せた。

無表情だったが、何か思い悩むような顔をしていた、気がする。一体何を悩んでいるのだろう。

なんだか、嫌な予感がする。得体の知れない何かが、起こりそうな。

不安がどんどん胸に広がっていき、カナエは声に出して呟いた。

「……今後の、こと……私達の、今後のこと、とか?」

言葉に出すと、不安が増したような気がして、カナエは無意識に筆を強く握りしめた。

「……結火さん」

再びそっと呟いたその時、

「姉さん」

突然後ろから声をかけられた。慌てて振り向くと、しのぶが扉の前に立っていた。

「姉さん、仕事、終わった?」

「え、ええ」

慌てて書類を仕舞いながら、カナエは頷いた。そんなカナエを見つめながら、しのぶが言葉を続ける。

「それじゃあ、行きましょうか?」

「あ、夕食?ごめんなさい、私、ちょっと――」

カナエが断ろうとしたその時、しのぶが眉をひそめた。

「ちがうわよ。結火さんのところ」

「え?」

カナエがしのぶの言葉に驚いて目を見開くと、しのぶは首をかしげた。

「――あの人から、聞いてないの?」

「え、聞いてないって……何を?」

カナエの言葉にしのぶは小さくため息をついた。

「ああ、もう。あの人、何も言ってないのね……」

「しのぶ?一体……?」

不思議そうなカナエに対して、しのぶは少し苛々したように頭を抱え、言葉を重ねた。

「とにかく、こっちにきて」

しのぶがそう言ってその場から足を踏み出す。カナエは慌てたようにしのぶに続いた。

しのぶが足を向けたのは、薬の調合室だった。静かに扉を開けると、そこには、

「――結火さん」

結火が椅子に座って、静かに待っていた。しのぶとカナエが部屋に入ってくるのを、感情の浮かんでいない顔で見つめてくる。

しのぶが準備していたらしい椅子にカナエも腰を下ろした。結火と正面から向き合うように座ると、おずおずと声をかける。

「あの、一体、どうしたの……?」

その問いかけに、カナエを真っ直ぐに見つめながら、結火は口を開いた。

 

 

「――蝶屋敷から出ていく許可をいただけませんか?」

 

 

その言葉に、カナエは心臓が凍りつくのを感じた。あまりの驚きに声を出す事ができない。カナエが呆然としている間に、結火は淡々と言葉を重ねた。

「蟲柱様の毒が、効力を発揮しました。肺の機能が戻ってきています。少しずつ、ですが。恐らくは、鍛練さえすれば、――戦えます」

「――本当、なの?」

カナエが震えながら問いかけ、それにしのぶが答えた。

「ここしばらくの間、結火さんの診察をしていたの。……だいぶ遅れたけど、ようやく毒の効果が出たみたい。まだ時々吐き気とか眩暈はあるみたいだけど、……でも肺の機能は確実に高まってきている」

しのぶの言葉に、結火は少し顔を伏せた。

「――ですが、もう何年もの間、刀を握っていません。あまりにも長い間、戦いから離れていました。今のままでは、足手まといにしかならないでしょう。ですから」

少しだけ深呼吸をする。そして、しっかりと頭を上げて、再び真っ直ぐにカナエを見た。

「屋敷を出て、外で、鍛練をしてきます。どれほど力が戻るかは分かりませんが……恐らくは昔のように戦うことはできないでしょう。それでも、私は……」

強く唇を噛み締め、立ち上がり、言葉を紡いだ。

「――戦いたいのです。護るために。弟のために。だから、どうか、どうか……蝶屋敷を出る許可を頂けないでしょうか。早めに鍛練を始めたいと思っています。できれば、明日にでも」

そして、その場に膝をついて、ゆっくりと頭を下げた。

「勝手な事だと承知しております、本当に。ですが、どうか、お願いいたします……」

しばらくそんな結火を見つめた後、カナエも椅子から立ち上がる。その場にしゃがむと、結火の肩をそっと撫でた。

「顔を、上げて。結火さん」

「……散々世話になっておいて、申し訳ありません。ですが……」

「ええ、分かってる。あなたの思いは。……あなたが自分で決めたこと、なのよね」

その言葉に、結火は顔を上げて、大きく頷く。カナエは微笑みながら、結火の肩をポンポンと優しく叩いた。

「――分かったわ。あなたのこと、心から応援してる。頑張ってきてね」

カナエの言葉に、結火は再び深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調合室から出た後、無言で廊下を歩くカナエにしのぶは声をかけた。

「姉さん……」

「――私、夕食はいらないわ。アオイに伝えておいてくれる?」

カナエの声が僅かに震えているのが分かって、しのぶは思わずカナエの着物の裾を掴んだ。

「姉さん、……大丈夫?」

「……ええ」

カナエは小さくそう答え、フラフラと自室へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、カナエは思い詰めたように机に顔を伏せていた。暗い淵に引きずり込まれたように、目の前が真っ暗で、何も見えない。

結火が自分から離れていく。戦うために。

あの場では必死に取り繕って、結火に応援の言葉をかけたが、本当はあまりの衝撃に打ちのめされていた。心の中で悲しみが渦を巻き、グチャグチャになっていく。

喜ぶべきだ、と分かっている。結火の人生が再び開いたのだから。きっと結火なら大丈夫だ。彼女は、強い人だから。

そう心の中で自分に言い聞かせるが、それでも絶望と喪失感が広がっていく。自分ではもう止められない。

ずっと、このまま穏やかな暮らしが続くのだと思っていた。明日も、明後日も、その先の未来でも、結火はすぐそばにいて、カナエと共に生きてくれるのだろう、と勝手に思っていた。

いや、ちがう。カナエはそう思いながら、瞳を閉じる。

結火は、剣士だ。刀が振るえなくても、最後まで戦う事を選ぶ人間だ。誰よりも、『剣士』である人なのだ。

だから、結火の決心を、進む道を、否定してはいけない。

 

――それでも、私は

 

カナエは何かを決心したように、目を開いて、ゆっくりと立ち上がる。そして、自室の障子に近づき、勢いよくそれを開く。そして、

「あ」

思わず声をあげた。そこには、結火が立っていた。障子の向こうから現れたカナエを驚いたように見ている。

会いに行こうとしていた彼女が、そこにいることに驚き、カナエは目を見開いた。

「あ、結火さん……ど、どうしたの?」

その問いかけに結火は一瞬目をそらした。しかし、すぐに気まずそうに顔をカナエに向ける。そして、

「あ…………」

結火がモゴモゴと何かを言う。その声が、あまりにも小さいため、耳に届かず、カナエは首をかしげた。

「え?なんて言ったの?」

結火は一瞬怒ったような顔をしたが、すぐに少しだけ声を大きくして言葉を紡いだ。

「――あなたと、過ごしたくて」

その顔は相変わらず無表情だったが、微かに紅潮していた。カナエの顔も熱くなる。

「入っても、いいか……?」

結火の言葉にカナエは慌てて頷き、結火を招き入れる。パタンと障子が閉まった瞬間、カナエが結火に向かって腕を伸ばした。

後ろから結火を抱き寄せる。その首筋や肩に唇で触れると、結火が小さく声を漏らした。

「待って、くれ……少し、話そう」

その声にカナエが一瞬ピタリと動きを止めた。そのまま結火の身体を強く抱き締める。何も言わずに、結火の身体を包み込むように、ただ抱き締め続けた。

「カナエ?」

結火が声をかけると、ようやくカナエは口を開いた。

「ごめんね。ごめんなさい……っ」

小さく、悲痛な声がカナエの唇からこぼれた。

「何が?」

突然の謝罪に、結火が聞き返すと、カナエが震えながら言葉を続けた。

「――応援するべきよね。祝福するべき、なのよね。でも、私、心からそうできない。……あなたの、身体が心配なの。ここにいてほしい。どこにも行かないで。戦わないで……」

結火がカナエから身体を離し、後ろを向く。

カナエは肩を細かく震わせて、泣いていた。カナエが泣いている姿を見るのは初めてだ。大粒の透明な雫が次々と落ちていく。

この人は涙さえも美しいのか、と思いながら、結火はその雫を指で拭った。

「――ありがとう。私のために泣いてくれて。本当にありがとう。ここであなたと生きるという道もあるのだろう。それでも、……私は、それを選択しない。誰かを護るために戦うということ、……それが、私の生き方なんだ。生きる道、なんだよ、カナエ」

涙を拭った後、ゆっくりと両肩を掴み、真っ直ぐにカナエを見据える。そのまま言葉を重ねた。

「未来が、すぐ近くに来ている。待ち望んでいた太陽が、もうすぐ昇る。――とうとう、夜が明けるんだ」

カナエは結火の瞳を正面から見て、息を呑んだ。

 

――ああ、燃えている

 

――もう揺らめくような儚い灯火ではない

 

――激しい炎のように、この人は燃えている……!

 

カナエは、煉獄結火という人間の本質を、初めて真っ直ぐに見たような気がした。

「命を護り、心を燃やし続ける――例え、焼き爛れようとも、燃え尽きて灰になろうとも、……燃やす、燃やす、心を、燃やす!それが、私の使命であり、責務だ」

幼い頃の思い出が、母の言葉が、心に蘇る。

 

 

生きている限り、戦う。

心を燃やすと、そう誓った。

自分を信じて、戦う。

例え、どんな結果になったとしても。

 

 

「私は、私という存在が少しでも役に立てるのであれば、……最後まで燃え続けたい」

「……結火さん」

涙を流し続けるカナエの頬に触れると、唇を重ねる。

そして、カナエの身体を強く抱き締め、結火は口を開いた。

「あなたに、頼みがある」

「……なあに?」

カナエの髪を優しく撫でながら、結火は言葉を続けた。

「……待っていてほしい」

「……」

「約束しただろう。どこかに行ったとしても、私は必ず最後はここに帰ってくる」

その言葉に、またカナエは涙を流した。

「……本当?」

声を震わせながらそう聞き返すと、結火は大きく頷いた。

「ああ、絶対だ。あなたの元へ、帰ってくるよ。だから、どうか――待っていてくれ、カナエ」

結火の言葉にカナエは何度も頷き、強く抱き締め返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、結火は一睡もせずに布団の中でカナエを見つめていた。カナエは疲れたのか、結火の隣でぐっすりと眠っていた。美しく、穏やかな寝顔だ。

朝の気配を感じ取り、障子へと視線を向ける。最後に、再びカナエに視線を向けると、起こさないように、その長い黒髪をゆっくりと撫でた。そして、柔らかい唇に口づけをして、静かに身体を起こした。

音をたてないようにしながらカナエの部屋を出て、自室へと向かう。素早く着がえを済ませると、用意していた荷物と日輪刀を手に持ち、そのまま玄関へと向かった。

「――行ってしまうんですか?」

後ろから声をかけられ、振り向く。しのぶが複雑そうな顔でこちらを見ていた。

「はい」

短く返事をすると、しのぶが少し怒ったような顔をして口を開いた。

「――何かあったら、鴉を飛ばしてください。それから、先日の診察の時に説明した事は忘れないように。あなたの身体は、……本当にかなりギリギリなんですから」

しのぶの言葉に結火は無言で頷く。そんな結火に、しのぶは視線を鋭くさせながら、言葉を重ねた。

「ああ、それから、姉さんを悲しませたら、……私が殺しますから」

物騒な事を言うしのぶに、結火はやはり無言で頭を深く下げると、クルリと背を向ける。

そして、玄関の扉を開けた。くっきりとした朝の光に包まれる。

――ああ、私は生きるのだ。この美しい世界を護るために、私は新しく生きるのだ。

そう思いながら、結火は口を開いた。

「――鬼殺隊隊士、煉獄結火……参ります」

そう声に出すと、朝の輝きへと向かって、一歩、足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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