蝶結び   作:春川レイ

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少し短めです。





風が吹く

 

 

「……ね、姉さん?」

仕事関係で用事があり、姉の部屋を訪れた胡蝶しのぶは、入った瞬間、あまりの空気にギョッとした。

重い。なんだ、この息が詰まるような、よどんだ空気は。

姉に視線を向ければ、机の上で顔を突っ伏している。一目でかなり落ち込んでいることが分かった。

「姉さん、どうしたの?何かあった?」

「……」

しのぶが声をかけても、何も答えない。少しだけ肩がピクリと動いただけだった。

「ねえ、一体どうしたのよ?嫌なことでもあったの?」

「……」

「姉さん?」

何度も尋ねると、やっと小さな声で答えが返ってきた。

「……嫌われた」

「……?誰に?」

しのぶは不思議そうな表情で聞き返す。しかし、カナエはそれ以上は何も答えず、机の上から顔を上げないまま、夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結火は日本酒の瓶を手に、ゆっくり歩いていた。自分で包帯を巻いたが、足はまだ痛い。足の痛みにため息をつきながら、ゆっくり歩き、隠の仕事部屋に戻ってきた。

「ただいま、戻りました」

「あ、お、お帰りなさい……」

都合のいいことに、仕事部屋に残っていたのは後藤一人だけだった。何故か結火の顔を見て、あたふたしている。

「後藤さん、お疲れ様です。任務は終わりですか?」

「あー、はい。……そろそろ、帰ろうかと……」

「そうですか。お疲れさまでした」

後藤にペコリと頭を下げ、結火は自分の机に向かう。その手を、後藤が掴んだ。

「……それは、やめてください」

「はい?」

結火は首をかしげながら、振り返る。後藤は結火の持つ日本酒を睨むように見つめていた。

「結火様、……最近、呑みすぎです。それは、俺が預かります」

「いや、それは……」

「結火様」

後藤が今度は厳しい目で結火を見つめた。結火も一瞬だけ鋭い瞳で後藤を見る。しかし、すぐにため息をついて、瓶を後藤へ差し出した。

「先輩、今日は厳しいですね……」

「体調が心配なんですよ。本当は、酒なんてダメなんでしょう?あなたの体は――」

「すみません」

後藤の言葉を遮るように結火は謝罪した。そしてもう一度頭を下げ、言葉を続ける。

「……すみません。ちょっと、嫌な事があって…、酒を呑んで、誤魔化そうとしてました。もう、……酒の力を借りるのは、やめます」

「とかなんとか言って、どうせまた呑みますよね?」

「……」

「そこは否定してくださいよ……」

呆れたような後藤に結火は苦笑いしながら、自分の荷物をまとめ始めた。

「それで、何があったんですか?」

「何、とは?」

後藤の問いかけに首をかしげる。

「酒を呑んで忘れたいほど、嫌なことがあったんですよね?どうかされました?」

「……いえ」

後藤から顔をそらしながら短く答える。そして、躊躇いながらも言葉を続けた。

「……少し、嫌なことを、思い出して……、昔の仕事の、こととか……」

「……」

「……自分が決めたことを後悔したことはないんですけど、ね……それでも……」

薄く笑いながら頭巾を脱いだ。

「戦いたかった、なぁ……。何者にもなれなくたって、最後まで、戦いたかった……死ぬことを、覚悟して、鬼殺隊に、入ったはず、なのに……そのつもりだった、のに……」

取り払った自分の頭巾を見つめながら呟いた。後藤は何と言葉をかけていいのか分からず、その場に立ち尽くす。

悲しげに微笑む結火の姿は、あまりにも儚く、今にも消えてしまいそうな灯火のようだった。

 

 

 

 

 

 

それから、数日。結火は蝶屋敷に行くのをできるだけ避けた。左足首を痛めたのを理由に、事後処理や雑務を中心に仕事を請け負っていく。

「あれ、ユウさん?後藤と一緒じゃなかったのか?」

ある現場で、顔見知りの隠にそう聞かれて、結火は首を左右に振った。

「お疲れ様です。後藤さんなら、確か今は任務で山に行っております」

「あ、それは知ってる。てっきり、ユウさんもその山で仕事しているのかと思ってた。あの変な鬼がいるとかいう不気味な山、だろ」

「不気味かどうかは、存じませんが……」

困ったように首をかしげた結火に隠は声を小さくして言葉を続けてきた。

「今さ、大変な事が起きてるらしい。ここだけの、話だけど」

「……?大変な、事?」

「俺も、噂で聞いたんだ。本当かどうかは、分からねえがな」

「……はあ」

「今な、とんでもねえ剣士が鬼殺隊に、いるらしい」

「……とんでもない?」

「ああ、なんでも――」

 

 

 

「鬼になった妹を連れている、剣士がいるんだとよ」

 

 

 

「……まさか」

結火は一瞬だけ目を見開いたあと、小さく呟いた。

「そんな隊員、……お館様が許すわけ……」

「だからさ、今、その隊員と柱が本部にいるらしい」

「……本部に?」

「ああ。こんなこと、前代未聞だよ。どうなるのかねぇ……」

隠は話したいことを話しきり、満足したのかどこかへ去ってしまった。結火は目を伏せながら、静かに考える。

 

 

なんだ、鬼をつれた隊員とは。そんなことが――、

 

 

一陣の風がサッと吹く。胸の中を吹き抜けるような強い風だ。目を一度だけギュッと閉じて、開く。そして、結火は空を見上げた。

 

 

何かが、決定的に変わる。そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






これまでぼかしていましたが、時間軸をはっきりさせました。現在、柱合会議中です。
なぜ、この時間軸でカナエさんが存在するのか。
次回、過去編を始めようと思います。なるべく短く済ませる予定です。
百合成分少なくなるかもしれないです……。


ここで主人公設定

【煉獄 結火】

・24歳
・趣味  一日中風鈴を眺めること  書道
・好きなもの  ようかん 特に栗の入ったようかん











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