そしてまた、此処に堕ちてくる。嘲弄しながら
究極の宇宙の深遠にして、
胡乱なまま、意識が開始する。認識、現在地点……不明。現在時刻……不明。存在理由……
記憶の整合を取り戻し、意識は肉体に回帰するべく行動を開始する。しかし、この“封鎖宇宙”からの脱出方法は知らない。
「────
そんな、足掻く男の背後より響いた涙声は女の声。麗しきメイドドレスの、両の目を抑えて泣くかのような……愛らしい
だが、まともな感性を持つ人間であれば、直ぐに理解できる。この存在の、余りの
「
涙を堪えるかのような仕草で、くすり、くすりと娘が嘲笑う。『
ビスクドールめいた美しさで、計算し尽くされた仕草で。まさにそれは、絡繰人形であった。
「
ただ、嘲笑う。目で見ないからこそ、他者の心情を
だから、人はコレを赦さない。存在を認める訳にはいかない。もし、それを赦せば────自らの弱さを、敗北を認める事となり。
(全くだな、完全にしてやられた。あんなに無様に負けるたァ、流石に参るぜ)
だからこそ、嚆矢は肯定する。ありのままに、あるがままを。何故ならば、彼は『機械』である。対峙する女と同じく、正反対に笑い掛けるように嘆く。
(だが、まだ生きてる。甘いとしか言いようがねェな。キチンと止めを刺さねェと、足元掬われるって事を教えてやらねェと)
「…………」
意気を新たにしながら、そんな事を宣う。『人間じみた機械』と『機械となった人間』、それが『
「……詰まらない。貴方、詰まらないわ。からかい甲斐が無いんだもの、あの御方は貴方の何が良いんだか」
(そいつは手厳しい。ところで、名前くらい聞くのはありかな?)
嘲りを消して今度こそ嘆いた女に次いで、嘆きを消した男の嘲りに。『詰まらない』、と。間違いなく、本心から────娘は、嗚咽するように肩を揺らして振り返り……歩き出す。
刹那、『時間』が進み出す。無限の
「さぁ───機械のように冷静に、チク・タク。チク・タク。機械のように冷厳に、チク・タク。チク・タク。機械のように冷酷に、チク・タク。チク・タク────」
(ッ────?!)
動き、軋み、崩壊する封鎖宇宙。最早、立っているかどうかも分からないのに、転んだ気がする程に。
「……マーテル三姉妹が末妹“テネブラルム”よ、白痴と暗愚の生け贄さん────にゃる・しゅたん、にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅめっしゅ、にゃる・しゅめっしゅ!」
『テネブラルム』と名乗った女が、時間の波間に消える瞬間に口にした祝詞。或いは呪詛。それに、魂が震える。余りの神々しさに、余りの禍々しさに。若しくは、己だけではなく────どこか、違う次元から覗いていた『魔王』すらもが。
《────“
同時に、
………………
…………
……
今度こそ、意識が現実に覚醒する。まず、最初に感じたのは饐えた空気。次いで、湿ったコンクリートと────コンクリートにこびり着いた、赤黒い染み。鉄臭い臭気の、酷く……芳しい香りが。
胸の傷に痛みはない、引き攣れたような感覚を残すのみ。すんでのところで命じた、ショゴスの毒素排出と傷跡の補填が間に合ったようだ。
「おや……目が覚めたかね、
声が、頭上から。
「……
「おう、覚えていてくれたかい? 嬉しい事だ、血気に溢れた若武者の記憶に残るとはな? ハッハッハ……!」
ぱしん、と小気味良い音を立てて。己のスキンヘッドを叩きながら、蔵人は見下すようにほくそ笑む。
それを無感動に眺めながら。状況把握、現在地点……敵地。現在時刻……午後六時予想。存在理由……
身体状態……痺れはあるも、行動制限となる程にあらず。だが、駆動鎧は動かせない。しかして、行動目的に変更無し────佐天涙子の奪還!
「さてさて、疑問に思っているだろう? 何故、私が生きているのか───」
「どうでもいい。涙子ちゃんは何処だ」
「ふぅむ、第一声がそれかい? いやはや、矢張面白いなぁ、貴様は」
クツクツと、喉奥で蛙のように笑いながら。顎でしゃくってみせた、その先に────居た。五・六十もの衆人環視、否、衆
失神か薬物か、はたまた魔術かは分からないが、気を失している様子で。そんな彼女のすぐ近くに、長身の姿がある。黒く変色した返り血に染まった白衣に袖を通し……
「さて……観客も揃った。では、今宵の宴を開くとしような、親愛なる信徒諸君?」
以前の爽やかさの欠片もない、狂気に満ちた嘲笑を浮かべた────
「記念すべき、十二体目────我が教団の審判の使徒が揃うのだ! 崇めよ、奉れ! グラーキを!」
その、空いた左手が虚空より一冊の書物を掴み取る。バサバサと、閉ざされた空間である筈の此処で、何処からか吹き込んできた風に乗る紙片が集う。『ⅩⅠ』と銘打たれた表紙の……“
周囲の亡者、その中でも異様な雰囲気の九体も其々に書を手にする。右から『Ⅲ』、『Ⅳ』と……『Ⅹ』まで。生きたままの男女、下卑た雰囲気の背徳と悪徳の……言わば邪教の宣教師か。
そして、気付く。否、恐らくは、わざと意識していなかったのだ。
「見よ、対馬君。神々しいとは思わんかね? あれが、我らの神だ。死を踏み越える奇跡をもたらすモノだ。末期癌だった私、死に逝くだけの私に、永らえる術を与えてくれた……神だ!」
「ッ────、ッ────?!!」
そんな『モノ』を恍惚と見詰めて、『Ⅱ』の黙示録を携えた槍使いは嘆息する。まるで、日曜礼拝の讃美歌に耳を傾けるように。亡者共の唸り、呻き、悲鳴を聞きながら。
まさに衝撃そのものだ、涙が知らず流れた。感動と言えば感動だろう、恐怖や絶望、自殺衝動であれども感情が動かされたのであれば。
「武錬など、何の意味もなかった。私は私の身体に殺されようとしていた。信じて鍛えた自分自身に負けようとしていた、私を救ってくださったのだ!」
「あ────、あ……!」
見た事を後悔する。一生、夢に見るだろう。死の安寧に微睡むその日まで、ずっと。
その眼差しと、心底からの悪意と見詰め合ったが故に。落涙に吐き気と……失禁だけは辛うじて堪えて、その全てを。
無理だ、膝を折るしかない。自らの強さなど、あんなものの前には無意味だ。無理だ、屈するしかない。自らの存在理由など、あんなものの前には消散する以外に無い。
「あれこそが、我らが神────“
同じく、滂沱の涙を流しながら。蔵人は叫ぶ。その名を、誇るように。本人すら、本心からそうだとは思ってはいまい。しかし、そうでなくてはいけないのだ。
「ッ──あ、れが……」
目を逸らす事無く、それを睨み付ける。
意志を、新たに。戦意を立て直す。そうだ、倒さないと。対馬嚆矢は、佐天涙子を救うのが存在理由なのだから。
──ならば、戦える。立ち向かえる。それが、例え人の認識を越える存在『
だが、膝は立たない。何故なら、重量一トン近い
「無駄だよ、対馬君。
『無理だ』と、蔵人が笑う。黙示録から、黒い十文字槍を抜き出しながら。刹那、背後に揺らめく混沌がある。囁くように、嘲笑うように。
《
(巫山戯ろ、クソッタレが……テメェ、今まで何してやがった!)
背後に現れた“
《
悪態に、悪態が返る。当たり前だ、嚆矢と市媛の関係などはそんなもの。長谷部を押さえ付けられたままに引き抜き、その嫌味を聞きながら。
『
『ギッ……アギャアァァァァ?!』
瞬間、押さえ付けていた
『く、ハッ────あ、た、隊長……?』
「哀れ……せめて、我らが神の身許に」
貫徹した十文字槍が引き抜かれて、蔵人は刺殺した
グラーキの棘に沁みる屍毒に、死体が甦る。その駆動鎧に、銀の筒を携えたミ=ゴが潜り込む。嘗てのように、また能力持ちの駆動鎧に。
「────させるかよ」
「フハッ、種の割れた手品などは通用せぬか。しかし、お若いの。まさか
なるよりも、早く。正座の状態から跳び上がった嚆矢の長谷部により、駆動鎧はミ=ゴごと抜き打ちに両断された。蔵人はしかし、残念がる様子もなく。寧ろ、にたりと笑う。
そして────
「ハッハッハ、聞かれなかったので自ら言おうか。何故、私が生きていたのか……それがこれだ」
槍使いは、祈りを捧ぐ。それはまるで、聖者のように。“
「
足下から、カサカサと。影から涌き出るような、青白い……球形の蜘蛛のような形の異形。掌くらいのサイズで、群を成して。
《成る程のう、“
「ハッハッハ、先に言われてしまったなぁ……簡単に言ってくれたが、大変だったのだぞ? まあ……」
“
「お陰で、
そして、槍を頭上で回す蔵人。その動きに呼応するように、アイホートの雛の群が渦を巻く。
「────
槍使いは渦の中で、厳かに聖句を唱える。雛達は応えて蔵人を包み、形を変え─────
「
「……マジかよ」
その身を、鈍い輝きを放つ青白い甲冑に身を包む────禍々しき奇形の蜘蛛を思わせる、中世ヨーロッパの
《マジも大マジ、糞真面目よ。クトゥルフ神話とは、
身の丈二メートル半は有りそうな巨体。その圧倒的な存在感、禍々しさ。同じサイズの筈の駆動鎧が、縮んで見える程に。もしも先にグラーキを見て、心を凍らせていなければ……今頃、この怪物により狂っていたかもしれない。
だが、だからなんだ。対馬嚆矢の行動目的は、ただ一つ。それは既に、再認識した。
「悪ィけど、眼中ねェよ」
解剖台の上に寝かされた、今にも邪神の饗宴に
《ク、クク……アイホートの苗床の末路は、成長した雛に肉体を食い破られての死。愉しみだ、ああ、愉しみだ!》
「…………」
虚空より感じる、もう一体の『魔王』の気配。蔑み、彼女と嚆矢の死を待ち望む悪辣な虎口を。
「征くぞ、ショゴス……“
『てけり・り! てけり・り!』
《
被服にショゴスを融かし、漆黒の
武者正調の上段、“
《ハッハ────では、改めて。
悍ましき槍騎士が構える。右足を前に出した宝蔵院流の基本、“
「……
《ほゥ、そこにアクセントを置くと言う事は……成る程、西国柳生……福岡派かい? 成る程、それ故に“圧し斬り長谷部”か。忠義な事よ!》
応えたのは、事実。五年間、
互いに、武芸者。
「《────参る!」》
その誇りに掛けて、二人の武芸者は……全く同時に
………………
…………
……
稲光が閃くかのように、まるで数メートルも
以前とは比べ物にもならない速度、加えて
間を開けず、穂先両端の鎌により刀を弾かれた。旋風を思わせる速さの捻りで敵刃を弾く“
だが、その剛力たるや。合気の心得道理に威勢を受け流していなければ、今頃は肩から腕が千切れ飛んでいたかもしれない。無論そうなればその勢いのまま、身体は十文字槍により上半身と下半身が泣き別れている事だろう。
《ハッハ────よくよく芸達者な! 機転の利く男よ!》
「野郎に誉められても、嬉しかねェンだ────よォッ!」
《ぬゥ?!》
仕返しとばかりに、受けたままだった槍を跳ね上げる。一瞬だけ火花を散らし、敵の
その刃は精密に、会心の手応えをもって槍騎士の籠手を打ち────
《……
その青白い装甲に弾き返され、火花こそ派手に散らしたが……傷跡一つしか残せない。まるで、ダメージらしいダメージは与えられていない。
それどころか、必死で付けた傷跡すらも既に癒え始めている。傷跡は、蠢く無数の白い
《ふぅむ、物理的な剛性に加えて魔術的な
「巫山戯んな、テメェなんて頼りにしてねェ────俺だけで十分だ、黙って長谷部の中にでもすっこンでやがれ!」
《おお、怖や怖や。男の悋気など、見苦しいだけじゃて》
叫び、退けたのは、意思を割いている暇すら隙となるから。事実、僅かに稼いだ距離は……寧ろ、此方の動向に気付いた亡者達に取り囲まれる余地となっている。
体内に蠢く邪悪なる
そんな思考の合間にも、様子見など無く生ける屍どもは前後左右から襲い掛かってくる。近いモノは噛み付きや引っ掻き、遠距離のモノは『
「
その内、先ずは背後。電撃を纏いながら噛み付こうとしてきた少年の屍の頸を、右回りに振り向き様に
更に、左の青年。組み付こうとした両腕を、右から返す刃の擦り上げで斬り飛ばしつつ袈裟懸けに。
「
更に、右下段八相からの擦り上げで前方から投げ付けられた火炎を断つ。その流れで、上段からの一太刀を左の中年男性に叩き込み唐竹割りにしつつ飛ばされてきた岩を砕く。。
そして見もせず、左の老人の鳩尾を貫いて抉り────
「“
『その時々で最も早く動いている敵を斬り、活路を拓く』理念による新影流の剣技の一つにて。起き上がってきた、頸無しでも蠢く屍の胴体に潜むミ=ゴを銀筒ごと斬り殺した。
《しかし、死体は斬ろうと死にはせぬ》
「ハッ……死なぬなら────」
《
更に、斬られても尚蠢いている屍が────『
まぁ、嚆矢の腕の方も深刻な凍傷に見舞われているが。もしもショゴスが居なければ、もう腐り落ちていてもおかしくはない。
《
「………………」
言われるまでもなく、死体はまだ蠢いている。先程と全く変わらず、ゆるりと包囲を狭めてきている。先は長い。今の技も多用できない。だと言うのに、余り時間は無いし余力も無い。八方塞がりとはこの事か。
《妬けるなぁ、全く。私一人を相手にしてはくれぬのかい?!》
わざとらしく笑いながら、屍を押し退けて槍騎士が歩み出る。押し退けた腕には、もはや痕すら見受けられない。
同時に、四方八方から襲い来た蛇と触手。それを幾つも斬り、何とか距離を稼いで背後に壁を。
「そ~そ~。邪魔しないでよぉ、お兄さん?」
更に、その槍騎士の背後に続く姿。若い娘、『Ⅵ』の表紙の黙示録を携えた……肥満の長身を車椅子に窮屈そうに押し込めた、無数の蛇の髪を備えた女。
「ひひ、妹さん可愛いねぇ……同志に引きずり込んだら、楽しみだぜぇ」
ニタニタ笑う下半身が長大な触手の塊と成り代わっている矮身痩躯の、『Ⅹ』の黙示録を携えた
直ぐに分かる。槍騎士程ではないが、この二人もまた『融合』を果たしている。それ程に、深い狂気と瘴気。他の黙示録の持ち主共は気にしていないのか、或いは手を下すまでもないと多寡を括っているのか。ただ、儀式を注視している。
《“
「どのくらいの面倒さだ?」
《
呆れたように思念を送ってきた“
《さて、では最後に聞こうかのう。嚆矢よ────勝利の為に、我が『
「………………」
問いは、最後通牒。答えは、致命的。恐らくはあの鎧だけが。あの“第六元魔王”だけが、この状況を打破できる。あの“
ならばこそ、答えは只一つ。対馬嚆矢の存在目的は、只一つだ。先程も、確認した通りに。
「出来るのか? あの魔王、俺もお前も嫌いみたいだけどよ?」
《無論。あの装甲は元々、
何でもなさげに、“這い寄る混沌”の一面が嘲笑う。虚空よりの眼差しが、殺意と共に嘲弄する。それは、これより死すべき敵に向けてか。或いは────罠に足を踏み入れた、愚かな獲物に向けてか。
背後から、気付かれる事無く。敵にも、味方にも、誰にも。悪心の影とまやかしの魔王はただ、燃え盛る三つの瞳と凍てつく六つの眼差しで嘲笑して。
「……じゃあ、先に断っとく。
《《……なんだと?》》
振り向きもせぬまま、まるで見ていたかのような嚆矢の宣言に嘲りを消す。余りに意外だったのか、どちらも目を
『逃げるな、迷うな。信じろ、科学も魔法も……所詮は人外。生まれ持つモノでもない、生後に与えられるモノでもない。本当の人間の力は……お前が選び取る、“生き方”だ』
思い返した、
「対馬嚆矢は、対馬嚆矢だ。“
《《………………》》
片方は、呆気に。もう片方は明確な怒気に。口を開く事もなく、ただ息を潜めて。
《愚か、だぞ。対馬君────自ら生存の可能性を捨てるとは、ね》
「ハッ、阿呆かよ。莫迦じゃあるまいし……テメェらの神様も含めて、こんな邪神を信じるか」
ペッ、と唾を吐き捨てて長谷部を構え直す。この場に集う全員を嘲笑うかのように口角を吊り上げて笑いながら、再び“
「俺が信じるのは────俺が鍛え上げてきた練武のみだ……!」
「生意気ねぇ、貴方ぁ」
「ムカつくな、ねぇ、蔵人さ──」
蛇髪の女と触手足の男が、嘲笑いながら槍騎士に語り掛けて……凍り付く。
《小僧が……よくぞホザイた! では貴様が生きている内に両手両足を削ぎ落とし、あの小娘が自らグラーキの棘を望むまで犯し尽くしてやろうぞ!!》
激昂し、槍騎士は十文字槍を構えて足場を踏み砕きながら肉薄した。足首を狙い、二度三度と繰り出される槍“
もしも足をヤられれば、数に圧殺される。槍騎士の述べた通りとなろう。全くもってゴメンである。
刹那、槍が上段に抉り込まれる。読み違えたのだ、今までのモノは“
即ち、躱しようの無い技であり────
『
繰り出された槍を躱す事無く。命中の瞬間まで、しっかと見据えて。
「“
《ガ────》
最早、十文字槍を見慣れてしまったから。脅威ではあれ、恐怖など無く。
『衣服のみ』を斬らせ、繰り出された
《───────────グァァァァァァァがァァァァァァ!??!》
「く、蔵人さん!?」
「や、やれ……今すぐにあの餓鬼を殺せ、ゾンビども!」
さしもの槍騎士も、眼球を潰されてはのたうち回る他に無い。その有り様に慌てたか、蛇髪の女と触手足の男は、周りの屍どもに指令を下す。
上位存在からの指令に、元々意思を消されている屍は当たり前ながら応える。一斉に、襲い掛かり────
「“永久は無い。永久は無い。汝ら、刹那の夢に揺蕩う者”」
響いた声、饐えた地底の空気を揺らして。それに、屍どもは一斉に動きを止めて。
「な、何をしているの、貴方達!」
「早く、早く、殺せ────」
狂乱する二体の怪物の金切り声、それすら……空しく聞いて。
「“我が声は安らぎ。我が声は安寧。今、この時、在るべき姿に還れ”」
刹那、崩れ去る。緑色の粉となり、崩れ果てる。苦悶と苦痛に満たされた表情をその時だけ、感謝に染めながら。
「……やれやれ、兄貴に“
「……どうやって?」
そして、思わず嚆矢は聞いた。目の前に降り立った翠銀色の髪の、黄衣の娘に向けて。
それに、彼女は“
「“
セラは、溜め息混じりにそれだけ応えたのだ うっすらと、瞼に光を感じた。酷く疲れて眠った翌日のような、起きたくなくなる倦怠感の中で。
僅かに目を開いた涙子、その瞳に映る────
「くっ、『ナイハーゴの葬送歌』だと……魔導師の仲間が居るだなんて聞いてないぞ!」
「っ…………」
緑色の粉塵が舞い散る地下貯水施設の中で黒い棘のようなメスを手にしたまま狼狽する、見覚えのある青年。僅かに間を置いて、その男が自らを担当した医師だと気付いて。
「私の信徒が全て緑の崩壊を……『グラーキ教団』が……クソッ、また一から作り直しだ!」
「…………?」
周りでは妙な本を持つ数人が、その医師に何かを狂乱しながら『どうなっているんだ』とか『話が違う』だのと訴えているが……医師は、全く受け合わず。
神経質そうに喚くだけの、見覚えのある筈の医師を見て、涙子は不思議そうに頸を傾げる。
(……
その瞬間、医師が彼女を見遣る。色濃い狂気にどろついた、腐った魚のような瞳で。逆手にメスを握り直した右手を振り上げて、後は降り下ろすのみの状態に構えた。
「先ずは、君からだ。雑な施術になってしまって私好みではないが……さぁ、グラーキの恩寵を授けよう!」
「あ……」
不浄の猛毒に塗れた鋭利な刃先が、少女の柔肌に迫り────掌ごと、弾け飛ぶ。よく見えなかったが、何か
今度こそ、他の本の持ち主達はその場を逃げ出す。口々に『付き合っていられるか』と吐き捨てながら。
「────
何時の間に現れたのか。早朝に木々をすり抜けるさまを幻視する程に、爽やかな風と共に。
翻る襤褸の黄衣が、清廉な朝の陽射しのように。靡く翠銀色の髪が、優しく鮮やかな白い虹のような。教科書に載る前時代に描かれた宗教画の、『
「……天…………使……?」
その背中に二対四枚の、透明な昆虫の
………………
…………
……
「兎に角、仕事なんだからヤるだけさ────行く」
この場所を突き止めた理由を説明された後、
「はぁ? って、速ッ!?」
今はもう、解剖台の祭壇に。西之医師の右腕を『H&K USP Match』の一発『ハスターの爪』で吹き飛ばして、残る魔書の持ち主どもを狂乱の坩堝に叩き込んで。
風の速さの移動『
「何よ、コレ?! 話が違うじゃない!」
「ど、どうするんです、蔵人さん!」
蛇髪の女と触手足の男が、片膝を突き右の顔面を押さえて
その装甲の内側からは今もまだ此方を見据える七つの紫色の、憤怒に満たされた炯々たる鋭い眼光。低く唸る毒虫のような、怨嗟の響き。殺意が形をなしたような、その邪悪。
「……死にたくなければ失せろ。黙示録を置いて逃げるなら、俺は追わない」
「ひっ、く……」
「ぐう……!」
上段に長谷部を構えたまま、告げる。精一杯の虚勢を張りながら、余裕じみた態度で出口を顎でしゃくって。
形勢が傾いたと見るや、敵は瞬く間に意気消沈した。そんなものだろう、自分の研鑽ではなく、他者から与えられたモノで粋がる小者など。
ちら、と己の魔導書を一瞥した。一瞬、天秤に掛けたのだ。自らの命と、『魔導書を置いて逃げる事』を考えたのだろう。
──そして無論、『見逃す』などは方便だ。背中を見せれば、殺す。殺さなければいけない。この作戦の報酬は『グラーキ黙示録全巻』、そして魔導書とは自ら持ち主を選ぶモノ。現状、
故に、
一瞬、苦味に苦笑する。『柳生新影流を遣って人を殺す』、己の因果に。思い出したのは、紫煙と灼けた金属の匂いを染み付かせた
『何、“魔剣”を教えろ? 阿呆か、お前は……最低でも十年は早ェ』
当たり前のように、金槌染みた拳骨が返る。冗談ではなく、本当に目から火花が出るように硬い拳だった。今にして思えばソレは、コレを予期してのようにも。
『お前は先ず、刀を扱えるようになれ。そうだな……新影流が良いだろう。あ? 何でか、だと? 決まってんだろうが、あの流派の真髄はな────』
二度目の拳骨は、何で殴られたのかは分からなかった。今度は、喋っている途中だったので舌を噛んだ。凄く痛かった、それを今も思い出す。
《“
「ッ…………!」
──結局、“
地の底から響くような槍騎士の声に、刹那、認識を取り戻す。呆けている場合ではない。未だ、窮地なのは此方の方。
《貴様らは向こうに行け。この餓鬼は、私が殺す》
「は、はい!」
「お気をつけて」
迷いを覚えた配下の二人を祭壇に向かわせ、立ち上がる巨躯の騎士に、再度注意を。あの二人は見逃すしかない。無理に斬りかかれば、先にあの槍が此方を貫く。その槍も、見切りさえしくじらねば活路はある。無論、斬りかかりながらなどは不可能な話。
三度、上段構えで迎え撃つ。相も変わらぬ“
「簡単に言ってくれるな、舐められたもんだ。じゃあ此方はテメェの残りの目ン玉七つ、後、涙子ちゃんに向けた暴言分の金玉二つ。合計十個、粉砕してから殺してやるぜ」
《出来るものならやってみろ、莫迦の一つ覚えの“
槍騎士が十文字槍を左手に、石打を地面に突き立てた。基本の“
右足が浮いた。まるで、ポールダンスの踊り子じみた格好。戦には不釣り合いな、その構え。一体、何を狙っているのか……全く解らない。
解るのは────
《
「なッ!?」
そんな当たり前の行動しか取れないからこそ、故に敵の術中に嵌まる。鍛えられた武人であればある程に。未だ、至らぬ若輩であればある程に。
グルリと還った石打に巻き上げられたコンクリートの欠片が、
(目潰し、か!)
顔を振って回避を試みるが、この散弾を前にしては無意味が過ぎる。臍を噛むも、余りに遅い。
上げられた足は
緑色の粉、先程まで屍であった粉とコンクリート片の混じり合ったものが視界を奪う。乾燥した粉末が眼球に張り付いて水分を奪い、更にコンクリ片が鋭敏な眼球の痛覚を抉る。目を擦ろうとする本能を、辛うじて理性で留めて。
しかし止めようのない人体の反射が、異物を洗おうと涙を流してしまう。よって視界は、更なる混迷に。
《仕舞いとしようか────見る事は出来まい、故にその身でとくと味わえ。“宝蔵院の槍、槍の宝蔵院”……その真髄を!》
構える気配がする。或いは、殺気をそう感じたか。何にせよ、
その結果は、火を見るより明らかだ。では、どうやって乗り切るか。対馬嚆矢は、
《死ねェェェェェェェいッッッ!》
裂帛の気合いと共に、その死が。猛毒の槍が、真っ直ぐに突き出された───────
………………
…………
……
気絶しているセーラー服の女学生を背後に、自らが巻き起こした風が巻き上げた緑色の灰を払う。異星生物の死骸の燃え滓だ、穢らわしくて堪らない。
しかし、それでも。目の前に邪悪が有るのであれば────討つ。それが、彼女の……『邪悪を討つ力としてに転写された』“
「……成る程、そうか。君が、『彼女』が言っていた『
右腕を喪った医師が、黒い血をボト、ボトと落としながら。ニタニタと、癇に障る笑顔のままで。
何でもないとばかりに、左手に新たな棘を構えて。
「そうか。あんたも、もう化け物か」
「クッククク……確かに。確かに、化け物さ」
答えた刹那──繰り出された、竜巻を纏うセラの
ニタニタと、癇に障る笑顔のままで。そう、コレもまた、怪物と化したモノ。
「おい、助けに……が、おい、なんだコレ……グラーキ黙示録が、アガ!?」
「くそ、くそっ! なん、コレ……グァァァァッ!!」
更に、二体。逃げなかった二体、蛇髪の女と触手足の男が合流する。同じく化け物、これで三体。何と面倒な話か。
そんな化け物二人が、一斉に苦しみ出す。頭の蛇が、足の触手が、まだまともな人間だった部分を浸蝕していく。
「
そう、魔導書とは自ら持ち主を選ぶ。だから、
『グ、ルァァァァ……』
『オォォおォォォ……』
全身を蛇に、触手に変えて。既に人格など残っていないだろう。瘴気そのもの、邪悪に染まって。ならば、応える他に在るまい。空いた左手で、フードを目深に被って。
「
ゆるりと、前に突き出した右手。そこに集う風、孕む紙片が形を為す。一冊の、黄色い表紙の魔導書を。それを開く。開いた頁を顔に宛てて、その呪文を起動する。
《────“
青白い、狂笑を象った仮面。
………………
…………
……
屍毒にまみれた十文字槍が、獲物を貫く────前に、虚空に浮かぶ玉虫色の祭具『賢人バルザイの偃月刀』よりの防呪印に阻まれた。
しかし、ただ阻まれた訳ではない。第一防呪印『
『てけり・り! てけり・り!』
(分かってる。必ず、“
ショゴスからの
体勢の崩れた槍騎士に向け、左の偃月刀は前方に水平で、右の長谷部は後方に低く地を擦るような下段八相に構える二刀流。
「
《ヌゥッ……!》
槍騎士が構える。どうやら、もう
そして、それは敵の流派にも言える。今恐るべき宝蔵院の槍は、只一つ。
(“
《……なんじゃ?》
先程の決裂から、一度も口を開いていなかった“
(『物理的な剛性に加えて魔術的な
《……是非もあるまい。それを破れば、邪神だろうが聖人だろうが魔人だろうが────この世のモノである限り、滅せぬものの在るべきか》
(そうか。ならば、良し)
嗤う。嚆矢は、悪辣に嗤う。漸く、槍騎士を討ち倒しうる光明を得て睨み合う。偃月刀の刀身に浮き上がっては沈んでいく、血涙を流す無数のショゴスの瞳と……槍騎士の七つの紫瞳が。
《………………》
「………………」
呼吸すら最低限に。互いに────
この時点で、嚆矢の目論見は外された。相手の刺突を左で受け、右の擦り上げで敵を断つ“
じり、と歩を進める槍騎士。突きではなく、薙ぎ払いの距離まで。単発ではなく、そもそも連続攻撃である“
《ふはっ、所詮は小童か……ここまで手を煩わせた事は、驚嘆に値するが。未熟、未熟未熟!》
《武など、所詮はこの程度。奇跡など起こしはしない────そして、命を殺す事こそが武の本懐! 愚かなるかな、始祖胤栄! 柳生一門!》
「テメェ……」
対敵の流派のみならず、あろう事か自らの流派の始祖を嘲弄した。武人にあり得てはならない、敬愛すべき先達への冒涜を。
それに、嚆矢は見えもしない目を開く。鋭く睨み付けるように、槍騎士の居る方へと。
《奇蹟とは、こう言う事だ……さぁ、我が命、我が魂を捧げよう。
「ッ!?」
誓言と共に、槍騎士の生命力が昇華する。可視化する程に高純度な魔力が、空間を軋ませるかのよう。
刹那、視界が歪む。正確には、認識が捻れた。ショゴスの視界に、蜃気楼の如き『揺らぎ』が生まれ────槍騎士の姿が、
《ハッハッハッハッハァ! どうだ、これが“
「ッ……巫山戯やがって!」
正に、切り札だ。どれが本物かまるで解らない。そもそも、見えているモノが誠か否かすら怪しい。
何にせよ、この槍襖の中の
《無駄無駄無駄ァ! この権能は、相手の認識を現実として貴様に反映する! お前が思い描く事は、全て
「チッ────糞チートが!!」
つまり、
では、どうするか。どうすれば、この危地を乗り切れるか。思考を────
《さぁ、そろそろ時間だな……愚かな貴様の! 惨めな死の、時間だ!》
虚空から、嘲笑が聞こえる。六次元の彼方より、此方を嘲笑う刃金の
背後の影は、ただ此方を見詰めている。期待するでもなく、侮蔑するでもなく。ただただ、三つの燃えるような視線を背中に感じるだけ。
《これぞ、
そして、射程に踏み込まれた。撃ち出される槍は、さながら弾雨。否、砲雨だ。
本来は『十連続に見せ掛けた初手必殺』の筈のその技は、これにより『十点射に見せ掛けた初手必殺』へ。避けようはない、詰みである。
では、どうするか。必死に回転させた脳味噌で、得た『答え』は────
「
何だ───────
………………
…………
……
颶風が駆け抜ける。緑色の灰を撒き散らしながら、“
しかし、それもここまで。網目のように絡み合う触手と蛇が、行く手と退路を塞ぐ。舌打ちを一つ、その背に負うセーラー服の女学生を確かめて。そして両腕に、弐挺拳銃を構える。
《
その弐挺が、立て続けに火を吹く。二体の風の邪神の名を冠した拳銃から放たれた銃弾は、過たず────暴風と化して包囲を突き破る。
『ギャァアァァァァ!』
『ギィイイイイイィ!』
そして、天地より絶叫が木霊する。地べたから触手を伸ばす“
その銃弾に仕込まれた呪詛に、風の刃に触手と蛇を寸断されつつ。本来ならば、損傷した端から再生する筈のその二つだが────疫病疾病を媒介する“
何より、その銃弾は繰り返し二体を狙う。風の
《
その翻弄する隙に、黄衣の王は魔導書と『コンテンダー=アンコール』を構える。装填されたのは、
《────
放たれた徹甲弾が、大気の戒めを破る。星を渡る風である“
『ア──────ギ!??』
一閃を躱す事も、反応する事すら出来ずに“
更に、徹甲弾が
《無駄だよ。“
過たず、背から撃ち抜かれた“
後、残るは────
《お前だけだ、“
『クク……』
右腕を再生させて頸無しのままに蠢く医師の、醜悪な姿を睨み付けた。
………………
…………
……
刹那、槍騎士の足が鈍る。それもその筈、それは仕方ない。どんなに訓練したとしても、突き付けられた剣先への恐れが消える筈もなく。ましてやつい先程、目を潰されたばかりならば。
「────“
揺らす長谷部の剣先、まさに波間に浮かぶ船のように。その一瞬の隙に、偃月刀を────長谷部と融合させる。
ショゴスの同化能力をもって、黒燿石の刀身に玉虫色の輝きを灯した長谷部を。
《ヌゥアァァァァァァァァァァァァ───────!!!!》
それと、槍騎士が意気を取り戻したのは全くの同時。二人の武士は、全く同時に各々の得物を。
十の槍襖とたった一つの刃、勝負にすらなる筈もない。待つのは、一方的な蹂躙であり。
「────……」
《────……》
刃を地に突き立てて左手で鍔元を握り、右手で柄頭を持ち、その上に頭を置いた嚆矢。まるで、諦めたかのように。それに、槍騎士が目を見開く。衝撃と焦燥をもって。
武芸者の戦いの真骨頂は、
「
しかし敵十体に対して、嚆矢はただ一撃。嚆矢は本物を見極めつつ槍を躱しながら、射たねばならぬ。
無理、無謀が過ぎる。そんなもの、
「“
《な、に!?》
槍襖が、
一度限りのトリック、二度は通じまい。敵も然る者、もう同時に槍を繰り出す事はないだろう。何より、もう一度など……次は脳への負荷が耐えきれない。
故に、コレで止めとする。故に、出し惜しみなど欠片もなく。真っ直ぐに、『敵』を睨み付けて。
「─────“
《───────…………》
天に駈け昇る朝陽の如き一刀、地に沈む朝月の如き二刀。一太刀目で“
《……どうやって見切った、どうやってこの装甲を破った?》
「テメェが目潰しに使った灰に残る、足跡から。そして、ショゴスの物理無効に長谷部の摂理無効。合わせりゃ、斬れない物は無いと踏んだ」
《道理と……当てずっぽうかい。いやはや》
頭上から降るような声に、返す。せめて、恥知らずの殺人機には過ぎないが……殺したのならば、末期の礼儀は尽くそうと。
吹き出した反り血が、全身を紅に染める。また一つ、命の灯火を潰した。また一つ、“
《く、ふふ……しかし、後世とは恐るべきものよ。まさか、貴様如き小僧めに……我が槍、潰えるとは》
「全くだ……俺程度に負ける程度の腕前が、免許とは」
《ほう……そう言えば、坊主。お前は》
「師、
問いに先んじて答える前に、長谷部を鞘に納めて。懐から、煙草を取り出す。銜え、火を灯し……肺腑で玩んだ紫煙を地下の饐えた大気に吐き捨てる。
思い出したくない事実を、ほろ苦い現実を思い出し、管を巻くかのように。
「『五年鍛えてみたが……お前、才能ねェわ。破門な』」
《────ふはっ!!? ハッハッハッハッハ! そうか、そうか! いや、やはり良い師に学んだようだのう……》
とびきりのジョークを聞いたかのように、快哉を唱えた槍騎士の装甲がひび割れ、砕け散る。
その残骸は、全て……ショゴスに貪られている。誓約の通りに。
「“少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず。未だ覚めず
どさりと、膝を突いた……見るも無惨に老いさらばえた
「長き道を来たが……お主のような若武者に負けたのならば、悔いはない……では、の」
「………………」
そのまま、灯火が消える。呆気なく、命が消えた。確かに悪人であり狂人ではあったが……命だった事に変わりはない。
何か、重荷を手放したように穏やかな死に顔の
「後は、あのクソッタレだけか」
嚆矢は、未だ微睡む“
《嚆矢よ》
(……何だ)
脳内に響いた声、“
《貴様が、生きる目的は何だ》
問いは、彼にとっては心底、どうでも良い内容。今更、そんな事は……どうでも良い。
だが、その声。それは、昔────
『あ?
何処かの誰かが、拳骨を落とされながらも屈強な背中に問い掛けた言葉と同じ、意味であり。
「
《………………》
唯一、抱く願いを。多分、生まれて初めて他人に口にして。黙りこくる“
《
背後に、再び感じる気配。混沌の渦が巻き起こるのが分かる。しかし、違うものがある。背後にいるのは同じ、だがしかし。
《さぁ──────残るは、“
「あぁ……そうか、家賃も払わなきゃだった」
そんな、やたらと即物的な事を考えながら。曲がりなりにも、神を殺す戦いへとその足を進める─────