Shangri-La...   作:ドラケン

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前回投稿から随分と間が空いてしまいました…………グランドオーダーが面白くて、ついm(__)m
次回は早めに投稿できるように頑張ります。あと、感想でご指摘があった設定を鋭意制作中です。こちらも早めに上げられるよう、努力します。


八月十日:『虹の雲耀』

 

 時刻、十七時。場所、第七学区表通り。微かに太陽が赤みを帯び始めた頃、風紀委員(ジャッジメント)の活動は終わり、委員達は帰途に就く。無論、嚆矢達も例外ではない。

 いつも通り、紳士気取りの嚆矢は黒子と飾利を送る為に同道する。いつも通り、飾利は恐縮して。いつも通り、黒子は『送り狼ですの?』と邪険に扱う。諦めたように溜め息を溢した美偉と共に。

 

 

 本当にそれは、いつも通りの日常の一コマで。

 

 

「おう、見るんだぜマグラ。ロリコンが居るんだぜ」

「おう、見てんだなジュゼ。ロリコンが居るんだな」

 

 

 背後から話し掛けてきた二人の学生…………嚆矢の親友であり、母校の『弐天巌流(にてんがんりゅう)学園』の剣道部主将である錏刃 主税(しころば ちから)と相撲部主将である土倉 間蔵(つちくら かんぞう)の二人の姿。

 部活帰りか、剣道着に竹刀の先に防具を吊るした痩身矮躯と、髷を結い浴衣で扇子を持った肥満巨漢の二人が。

 

 

「いきなりご挨拶だな、ジュゼ、マグラ。どうもご紹介に預かりました、ロリコンの嚆矢です。じゃあ、行こうか皆」

 

 

 それに面倒そうに、戯けた仕草で返した中背。心底、『空気読めよ、俺のささやかなハーレムを壊すな』と言った表情を、二人にだけ見せて。

 

 

「あら、お久しぶりですね、二人とも」

「こんばんはなんだな、固法。いつもコウが世話を掛けてるんだな」

「本当ならオイラ達がコウの手綱を取るんだぜけど、流石にこの時期は忙しいんだぜ。悪いんだぜ、固法」

「………………お前らは俺のかーちゃんか………………」

「お気になさらず、もう慣れましたから」

「えっと、あの、固法先輩、この方々は?」

「ああ、そうね、あなた達は初対面よね。錏刃くんと土倉くん、二人とも以前は風紀委員(ジャッジメント)だったのよ」

 

 

 だが、一行の動きはそこで止まる。七月半ばの嚆矢の時とは違い、楽しげに話し始めた美偉が二人の紹介を始めて。不貞腐れたように嚆矢は舌を打って、亜麻色の髪を掻いて。

 こんなところで『硬派な自分』を知る友人らと出会ってしまった事で、『軟派な自分』を()()()事に嫌気が差して。

 

 

「っと、そうなんだな、コウ。明日は忘れてないんだな?」

「たりめーだろ。夏休み最後の乱取(テスト)受けねぇと、ウチは補講と言う名の懲罰(シゴキ)が待ってるんだからな」

「だったらいいんだぜ。次はコテンパンにノして、我が剣道部が学園一に返り咲いてやるんだぜ、コウ」

「そっくり返してやるよ、合気道舐めんな道場剣術。七月末のケリ、きっちり付けてやるぜ、ジュゼ、マグラ」

「ぶふぅ、どっちもオイラの相撲が捻り潰すだけなのにご苦労様なんだな。じゃあ、またなんだな」

 

 

 最後にそう、友人らは意地悪く笑って。それに意地悪く笑い返して。本当に偶然通り掛かっただけだったのだろう、二人は去っていく。

 風紀委員の面々には手を振り、嚆矢には中指を立てて。無論、手を振り返した風紀委員の面々に対して、嚆矢も二人に中指を立て返して。

 

 

「…………さて、邪魔者も居なくなったし。帰ろっか、皆。そうだ、飯でも奢るよ――――」

 

 

 と、振り替える。その刹那、縦一線に鼻先を掠めた旋風が一縷。余りにも見覚えのあるその剣筋に、翻る麦穂色の金髪に、笑顔のままの嚆矢から血の気が一気に引いた。

 

 

「――――ふぅん。自宅では可愛い義妹(いもうと)が夕食を用意して待ってるのに、随分酷いこと言うのね?」

 

 

 いつの間にそこに現れたのか、呆気に取られる風紀委員(ジャッジメント)の面々の前に立つ娘。雨でもないのに折り畳み傘を携え、あまつさえルーンの刻まれたそれを振り下ろした、義妹・対馬弓弦の群青菫(アイオライト)の瞳に睨まれて。

 

 

「――――待て、ユミ。これはあれだ、あくまでも風紀委員の同僚として親睦を深める為であって疚しいところなんて一切無いぞ!」

 

 

 それはまさに蛇に睨まれた蛙の構図。最早、恥も外聞もない。瞬時に土下座の体勢を整えた彼は、時の許す限り弁解を口にして。

 

 

義兄(にい)さん、構えて」

「――――ッ! そうだ、なんなら俺の部屋に皆を招待してお前の燕麦粥(オートミール)を御馳走しような! それで万事解決じゃないか、な!」

 

 

 傘を大上段に構えながら突き放すように告げられた、弓弦の言葉に凍り付きながらもおべっかを口に。その合間にも、首飾りの『幸運の護符(ラビッツフット)』から、可能な限り身体を強化する『大鹿(アルギズ)』を励起して。

 

 

「“()()()()()()()”」

「………………」

 

 

 だが、聞き入れられる事はない。再度、今度は有無を言わさぬ“正統源語(ゴドーワード)”による勅命に、諦めたように立ち上がって――――その右手を開手のまま、構えて立つ。

 

 

――ヤるしかない。既にルーンは刻んだ、後は俺の技量次第。この前は不意討ちで反応できなかったが、今回は可能性はある。なら、俺の『確率使い(エンカウンター)』で掴める。(いや)…………掴まなきゃいけないんだ。掴まなきゃ、物理的に死ぬからな。

 

 

 それは、極基本的な合気道の構え。何の変哲もない、その武道を習う者が最初に教わる基礎的な構えだ。

 だからこそ、それは心魂に染みて。情報しか知らない、上っ面をなぞっただけの者には至れぬ極致がある。幾万、幾億の実践を熟さねば、決して辿り着けない『慣れ』という名の極致が。

 

 

 そもそも、武道とは『学問』。そこに王道等はない。ただ地道に、ただひたすらに。ただ直向きに取り組んだ者だけが、辿り着く場所が。

 

 

 合気道家、対馬嚆矢は其処に在る。僅か五年の歳月ではあるが、それは魔術にも科学にも侵せはしない。重ねた時は、決して裏切らない。

 

 

「“贋作魔剣(グラムフェイク)――――螺旋雷虹(カラドボルグ)”」

「ちょっ――――」

 

 

 そう、()()()()()()()()()。十年以上もの間、贋作とはいえ魔剣を振るってきたその少女に敵わないのは明白で。

 

 

「“示現流兵法奥伝(ジゲンリュウヒョウホウオウデン)――――『雲耀(ウンヨウ)』”」

「待っ!?」

 

 

 大上段から振り下ろされた『雲耀(ウンヨウ)』の一撃に、乾坤一擲、見舞った白刃取りは空を掴み――――凄まじい音と虹色の光と共に、嚆矢の意識を頭蓋から叩き落とした。

 

 

義兄(あに)がご迷惑を掛けました…………それじゃあお邪魔しました、固法さん」

「えっ、あ、はぁ…………またね、対馬さん」

 

 

 大の男を一撃で打ち倒しながらも悠々と傘を縮めて仕舞った金髪(ブロンド)の娘の放った言葉に、さしもの美偉も生返事を返す。黒子も呆気に取られたままで、飾利に至ってはあんぐりと口を開いたまま。

 ぺこりと頭を下げた弓弦は、失神している嚆矢を苦もなく肩に担ぐと、そのまま歩き去っていく。

 

 

「…………あの、先輩。今の方は?」

「対馬君の義理の妹さん、そして婚約者…………らしいわ。詳しいことは知らないけど」

「はあ、義理の妹で…………」

「こ、婚約者!?」

 

 

 そして漸く、黒子が紡いだ台詞。それに飾利も、赤べこのように首肯だけを返す。それに美偉は、ずれた眼鏡を直しながら。

 

 

「素行はアレとは言え、あの対馬先輩を一撃だなんて……世の中って広いんですのね」

「そうね…………」

「こ、こ、婚約者…………!」

 

 

 後ろ姿を見送った三人は暫くの間、そうして立ち尽くしていたのだった。

 

 

「…………」

 

 

 路地の影から一部始終を窺っていた、薄緑色の軍用ゴーグルの仄かな光に、気付く事はなく。

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