グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第10話 妹

「師団級の飛行部隊を確認。殲滅行動へ移行――」

《待て!》

 

 敵軍の出現を確認し、自身が率いている僚機に命令を下そうとした軍団長の脳裏に、宰相の声が響き渡った。

 宰相が使う魔法《超距離通話》だ。

 

《敵の飛行部隊なら私もコントゥアから確認した。数千程度の先鋒など放っておけ。本格的な攻撃に備えて、(マリアージュ)を増やすのが先だ。このまま進み住民どもを喰らえ》

 

「了承しました。操主」

 

 宰相に命じられた途端、軍団長はあっさり僚機への命令を破棄しそのまま足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

「陛下、異形たちは我々を差し置いて市民を襲っています。このまま攻撃を続けるのですか?」

 

 飛行兵の言う通り、マリアージュと呼ぶらしい異形はどれだけ俺たちに攻撃されても反撃しなくなり、市民を襲って仲間を増やすことを優先し始めた。

 八千程度の部隊がどれほど攻撃しようと痛くもかゆくもないということか?

 しかし、シグナムやヴィータの攻撃は、十万以上のマリアージュにとっても予想外の痛手だったはずだと思うのだが。

 とはいえ、襲われる市民を捨て置くわけにもいかない。

 

「飛行兵はこのまま空中から攻撃を続けろ! シグナム、ヴィータ、ザフィーラは地上に降りて市民を救助! シャマルはここで待機しながら指示などのバックアップを頼む!」

 

「御意!」

「「はっ!」」

「おう!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「あなたたちも」

「イクスヴェリアの」

「糧になりなさい」

 

「うわああああ!」

「た、助けてくれぇぇ!」

 

 地上に降りたシグナムの眼前に三体のマリアージュと、それらに襲われている市民たちの姿があった。

 

「下がれお前たち!」

 

 シグナムは駆けながら市民に向かってそう叫び、愛剣レヴァンティンに手をかける。

 

「シュランゲバイセン!」

 

 鞘から抜いた瞬間、剣は連結状に伸びマリアージュ一体の胸を貫く。

 

「――」

 

 すかさずシグナムは連結した刃を引き戻し、元の刃に戻した。

 

「右腕武装化、形態戦剣」

 

 敵の出現を確認した残り二体のうち、一体の腕は即座に剣に変わったが、空での戦いでマリアージュたちが腕を弓に変える所を見ているシグナムは今更動じない。

 シグナムとマリアージュの一体が切り結ぶ。

 その後ろで、もう一体のマリアージュが腕の形を変えていた。

 

「右腕武装化、形態戦弓」

 

 後ろのマリアージュはシグナムに狙いを定め、魔力で具現化した矢を引き絞る。

 刃を受け止めながら、それを横目で見ていたシグナムは舌打ちしながら後ろへ跳躍してマリアージュたちと距離を取る。

 だが、マリアージュは縦横無尽に位置を変えるシグナムに向けて、寸分の狂いなく狙いを定め――矢を放った。

 

「こしゃくな。陣風」

 

 それに対し、シグナムは矢に向けて刀身を振るう。

 矢を叩き落とすつもりだったのか、しかし矢はまだ剣の間合いに入っておらず剣は虚しく空を切り、矢はシグナムに向かって一直線に飛び続けている。……と思った刹那、剣を振るった際に生じた炎が矢を焼き落とした。

 同時にシグナムは、矢を撃った直後で硬直している方の敵に向けて踏み込み、

 

「紫電一閃!」

 

 その首を斬り落とし、残り一体の懐へ飛び込む。

 それを見て最後のマリアージュは刃の腕を構えるものの、敵を倒したばかりでもなおシグナムの勢いは止まらず、シグナムの剣は三体目のマリアージュの腕を貫通し体ごと一刀両断された。

 

「――マリアージュは壁の兵、死したその身も」

「黙れ!」

 

 死を目前にしてなおも何事かつぶやくマリアージュの首をシグナムは容赦なく斬り落とす。

 

「……た、助かったのか? 俺たち」

「す、すげえ」

 

 マリアージュたちが倒された途端、戦いを傍観していた市民たちから安堵の声が漏れる。

 しかし、シグナムの方はある違和感を持っていた。

 倒されたマリアージュは屍から黒い血を流しており、マリアージュを斬り伏せたシグナムも黒い返り血だらけだった。

 

(この黒い血……何より血から漂う匂い……まさか――)

 

「ありがとよ騎士さん。あんたのおかげで――」

 

 シグナムへ礼を言うために、彼女に近づこうとする市民。彼らに向かってシグナムは――

 

来るな!!

 

 そう叫んだ直後、シグナムのまわりで横たわっていたマリアージュの死骸が激しい勢いで爆発した。

 

 

 

 

 

 

「右腕武装化、形態戦槍」

 

「でやあああ!」

 

 ヴィータは弾丸(カートリッジ)を消費して、槌アイゼングラーフを『ラケーテンフォルム』に変形させ、加速させた槌をマリアージュに叩きつける。

 頭を押しつぶされたマリアージュはそのまま果てた。

 

「残り九体」

 

 ヴィータもシグナム同様マリアージュに襲われる市民を見つけ、彼らを助けるためにマリアージュと戦っていた。

 

「右腕武装化、形態戦弓」

 

 ヴィータとの位置を測って、後方にいるマリアージュの何体かは腕を弓に変える。しかし、

 

「めんどい!」

 

 ヴィータは再び弾丸をリロードし、槌を巨大化(ギガントフォルム)させる。

 

「ギガントシュラーク!」

 

 そして巨大化した槌を大きく振りかぶり、残りのマリアージュに叩きつけた。その衝撃で周囲に土埃が舞う。

 それを見届けると槌を引き戻しながら、ヴィータは弛緩した。

 

「ふぅ――ぐぁ!」

 

 だが、そこへ突然、土埃の向こうから槍が伸びてきて、無防備なヴィータの横腹を貫いた。

 

「あなたもイクスヴェリアの糧に」

 

 その言葉とともに、残っていた一体が土埃から姿を現す。

 

「てめえ! でりゃあああ!」

 

 頭に血が上ったヴィータは腹の痛みも忘れて槌を振りかぶり、

 

「フランメ・シュラーク!」

 

 魔力のこもった一撃をマリアージュに叩きつけた。

 

「……ったく、手こずらせやがって」

 

 燃焼効果のあるフランメ・シュラークの影響で生じた炎を背中に、ヴィータは今度こそ敵の全滅を確信し、槌を肩に掲げ一歩歩き出そうとした。

 

「――んっ、何だこの匂い?」

 

 だが、炎の中からする異臭にヴィータは思わず顔を後ろに向ける。

 その瞬間、ヴィータを巻き込み、辺りは大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

「でやああああ!」

 

 ザフィーラの拳で胸を貫かれマリアージュはこと切れる。

 袋小路の中、僚機の一体を失い残った四体は限られた判断能力をめぐらせ、この相手には遠距離からの攻撃が有効と判断し、距離を取ろうと身をひるがえた。

 逃げようとするマリアージュたちを見て、ザフィーラは白い魔法陣を展開し、

 

「鋼の軛!」

 

 その直後、マリアージュが逃げようとする方に白い杭が落ちてきてマリアージュの行く手をふさいだ。

 

「――作戦変更」

「遅い!」

 

 距離を取るのをあきらめ、振り返ったマリアージュの視界に太い腕が映る。それがその個体が見た最後の光景だった。

 マリアージュを追いつめたザフィーラは敵に対し、相手が動かなくなるまで殴る。それを何度も繰り返した。

 この場にいる敵をすべて倒し終え、ザフィーラは肩を鳴らしながら、つかの間の勝利に浸る。

 しかし、ザフィーラの鋭い嗅覚がそれを許さなかった。

 

「――ちっ!」

 

 ザフィーラは即座にその場から大きく跳躍する。

 その直後、マリアージュの死体が爆発し、辺り一帯を爆風で包んだ。

 それを目の当たりにしたザフィーラの背に冷たい汗が流れる。

 

(こんな機能までつけていたのか。あの主やその助手どもらしいといえばらしいか。奴らが造ったものなら警戒してしかるべきだったやもしれん)

 

 眼下の惨状を視界に収めながら、ザフィーラは思念をある者に向けた。

 

《シャマル。今マリアージュを倒しているところだが、すぐにでも主と他の騎士に伝達してほしいことがある》

 

《なに、伝達って?》

 

 思念を送ってからすぐに、ザフィーラの脳裏にシャマルからの返事が返ってくる。

 そこへ――

 

《それは私が伝えたかったことと同じだろう》

 

《シグナム!》《シグナム!》

 

 ザフィーラとシャマルの思念通話に割って入ってきたシグナムに、二人はそろって驚きの念を上げる。

 

《マリアージュは破壊されると同時に爆発するようにできている。私も危ないところだった。お前の方もそれを伝えたかったんだろうザフィーラ》

 

《うむ。そちらも無事で何よりだ》

 

《爆発!? 本当なの?》

 

 シャマルは驚いたようで、思わずそう聞き返してきた。

 

《ああ。あの主たちが造ったのなら納得できる》

 

《確かにあの主ならやりそうね。わかった。私もすぐに陛下とヴィータにそれを伝えるわ》

 

《頼む。私も引き続きマリアージュを倒していくつもりだ。今度は自爆にも気を付けてな。シグナム、武運を祈る》

 

《お前もな、ザフィーラ。ではシャマル、主とヴィータへの伝達は任せた》

 

《ええ。陛下たちの事は私に任せて、あなたたちはマリアージュをお願い。ただし、()()()()()()()()()()()()()()してちょうだい》

 

 

 

 最後に釘を刺してから、シャマルはシグナムとザフィーラとの思念通話を切った。

 

(自爆機能ですって? あの(オヤジ)、余計なものを! せっかく倒しても自爆なんてされたらリンカーコアが取れないじゃない! でも十万もの敵から魔力を取れる機会を逃すわけには……待てよ、陛下が最初の敵将から蒐集したあの魔法なら……とにかく今は陛下とヴィータにマリアージュが自爆することを伝えないと!)

 

 

 

 

 

 

 しばらく空からマリアージュを攻撃してから俺は地上に降りる。

 

 それと同時に俺の目に飛び込んできたのは、五体のマリアージュと、マリアージュたちに殺されている市民五人の姿だった。

 

「この――!」

 

 俺はマリアージュたちのもとへ駆け出すとともに、愛剣ティルフィングの柄に手をかけて魔力を込める。

 

「――右腕武装化……形態、戦剣」

 

 ()の接近に気が付いたマリアージュたちは、ある者たちはそのまま俺の方を向き、ある者たちは襲っていた市民から離れ、何体かが右腕を剣に変える。

 俺はマリアージュの一体にとびかかり、剣と剣をぶつけた。

 

「シュヴァルツ・ヴァイス」

 

 己が振るう剣に魔力を込める。

 紺色の魔力光を帯びた剣を相手に、マリアージュは圧し負け刀と化している腕の力が緩むのを感じ取った。

 それを見逃さず俺は剣を一度引き、再度相手の剣にぶつける。

 俺の剣はマリアージュの()を斬り落とし、そのまま相手の胸元に入り込んだ。

 

「だああ!」

 

 マリアージュは黒い血をまき散らしながら倒れ伏す。

 ――くっ! やけに臭い血だ。いやそんなことよりまだ四体!

 血の匂いに顔をしかめながら、俺は残りのマリアージュと向かい合った。

 その時!

 

「だあああああ!!」

「――!」

 

 突然女が現れマリアージュたちに飛びかかる。 

 女はマリアージュの一体に向かって、右手に持っていた大剣を振りかぶると同時に、

 

「固有技能・《震動付与》――せいやぁ!!」

 

 何らかの技能を発動させながら、女はその剣を相手に向けて振り下ろす。

 女の一撃をもろに喰らったマリアージュはそのまま吹き飛んでいき、仲間を巻き込みながら瓦礫となった建物に激突した。 

 

「よくも母さんの故郷で好き放題やってくれたな化け物ども、ここからはこのあたしが相手だ!」

 

「ティッタ!」

 

 短い茶髪、緑色の左眼、右眼を覆う眼帯。

 突然現れた女は、数日前に仕官したいと言って王宮にやって来たことのある少女、ティッタだった。

 

「どうしてお前がここに? 早く逃げるんだ!」

 

「助けに来たのにそういうこと言う? あんた一人じゃこいつらは厳しいと思うけど。それにさっきも言ったけど、この街はアタシの母親の故郷なんだ。これ以上好き勝手されてたまるか」

 

 俺の忠告に聞く耳も貸さず、ティッタは敵を見据えて拳を鳴らす。

 ……それにしても固有技能か、この女やはり――。

 

「――うっ」

 

 その時、ティッタの右側から向かってきた刃が、彼女の右のこめかみをかすめた。

 

「このっ!」

 

 たまらず俺はティッタを押しのけ、彼女を斬りつけた相手と剣をぶつける。

 その後ろにはさらに、

 

「――こいつら! さっき殺された人たち!?」

 

 俺と剣を交えているマリアージュの後ろには、さっきまで死体として倒れていた市民が鉄や鋼だらけの体になって起き上がっていた。

 俺はマリアージュと剣を交えながらティッタに言った。

 

「こいつら、マリアージュというのだが、こいつらに殺された人間もまた、マリアージュとなって人を襲うようになる」

 

「……」

 

 俺はまた相手の腕ごとマリアージュを斬りながら言葉を重ねる。

 

「俺たちは今こんな異形と戦っている。他にもとんでもない力を持ってるかもしれない。それでもやるというのか?」

 

 そこまで言うとさすがにティッタは唖然として、しばらく沈黙する。

 だが、やがて気を取り直したように、

 

「当然! ここで退いたら持って生まれたあたしのこの怪力、宝の持ち腐れになっちゃうよ」

 

 力こぶを作りながらそう返すティッタに俺は嘆息した。

 もう何を言っても無駄らしい。

 

「いいだろう。ただし、今後は一切眼帯は禁止だ。お前の素性を公表することになっても構わない。その条件が飲めるなら手を貸してくれ」

 

 そこで一瞬俺はティッタの方を振り返った。

 さっきこめかみをかすった際に眼帯が切られ、露わになったその右眼の色はやはり金色だった。

 ティッタは口の端に笑みを浮かべて観念する。

 

「……やっぱり気付いてたか()()()。……わかったよ。それじゃあ早速……」

 

 ティッタは黒い血を流し続けているマリアージュの死体に足をかけて、

 

「せい!」

 

 おもむろにマリアージュを蹴り上げ、俺の前にいたマリアージュたちにぶつけた。

 それと同時に俺の脳裏に誰かから思念が届いてくる。

 

《陛下ご無事ですか? マリアージュの事でご報告したいことが――》

 

 相手はシャマルだった。だが、彼女が何事か言おうとしたのと同時に、つんざくような爆発音があたりに響き渡る。

 

「油臭いと思ったらやっぱりか。こいつら死んだら爆発するみたい」

 

「驚いたな。――悪いシャマル、今ちょっと取り込んでいたんだ。それで報告したいことというのは何だ?」

 

《いえ、私もその爆発のことを伝えようと思ったんですが……あの陛下、他にもどなたかいらっしゃるんですか?》

 

 呆気にとられながらも、シャマルは俺以外の人物の存在に気付き、そう聞いてくる。

 それに俺は、

 

()が助けに来てくれた。それだけだ。後で紹介するよ。じゃあ何かあったらまた連絡してきてくれ」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 


 愚王ケントに仕える騎士の中には彼の異母妹がいた。

 《グランダムの聖騎士》ティッタ・セヴィル。

 兄とは違い優しい心を持ち、民のために戦った正義の女騎士としてグランダム滅亡後も名を残し、後世の人々から讃えられている。

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