グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第26話 虐殺の夜

 自由都市リヴォルタから南方の村。夜も更けたこの村落は野盗らしき二人の男女に襲われていた。

 

 倒れた篝火が家々を焼き、そのまわりを赤く染め上げる中、賊の一人である女は手に持っている斧を振るい、目についた村人を次々と斬り殺していった。

 女は短い青髪で瞳は黒く、体のいたるところが筋肉で膨れ上がっており、左の手首には羽根を象った刺青が彫られている。

 ほとんどの者が子供などを連れて逃げていく中で、突然現れた賊に立ち向かおうとする者もいた。

 

「――ほう!」

 

 殺戮に手を染める女の前に、二、三人ほどの男が武器を持って彼女に迫る。そこへさらに別の方からも男たちがやってきて、いつしか女は十人()()の男に取り囲まれた。

 

「武器を捨てろ。こんな鍬でも人一人は十分殺せるんだ」

「たった二人で村を襲おうなんて舐めた真似しやがって。都市の自警団に引き渡す前に、女の身で盗賊まがいの事をしたことをたっぷりと後悔させてやろうか」

 

 農作業用の鍬を、または自衛用の剣を、ナイフを持ちながら男たちは女ににじり寄る。

 女はそれを見て舌なめずりをした。

 追いながらちまちま殺していくのが億劫になってきたところで、獲物が自らやってきてくれた。

 

「ありがとよ!!」

 

 礼を言いながら、女は一振りで三人を斬り殺していく。

 

「くそっ!」

「かかれ!」

 

 観念するどころか、更なる殺戮に手を染める女に男たちは怒り狂い、各々持っている武器を振り上げて女に叩きつける。

 それらに対し、女は斧を持っていない方の左腕で体をかばった。

 鍬や剣の刃をまともに食らった彼女の左腕は斬り落とされて体から離れ、地面に落ちる。

 それを見て男たちは勝利を確信した。

 だが、次に彼らの目に飛び込んできたのはとても信じられない光景だった。

 

「ふん!」

 

 女が気を込めると、切断面から失ったはずの腕が生えてきたのだ。

 

「なっ!?」

 

 男たちは驚愕のあまり呆気にとられる。

 女は即座に斧を振るい、呆けて棒立ちしている男たちを叩き斬る。今の一振りで五人は絶命し、そのうち二人は上半身が丸ごと斬り落とされ、足から上がなくなった下半身が自然に地面に倒れていく。

 

「さぁて、後二人か」

 

 口を三日月形にしてニヤけながら、女は残った男たちに向かって一歩踏み出した。

 

「ひっ! バ、バケモノ!」

「に、逃げるんだ!」

 

 残った男二人はたまらず背を向け、女から逃げ出そうとした。

 それに対して女は男たちに向かって数歩踏み出す。

 

「えっ!?」

「なっ!?」

 

 その一瞬後に女は男たちに肉薄し、その胴体を斬り飛ばした。

 

(さて、残りの村人はあいつ()が狩っている頃か。まあ、最後の最後で戦いの真似ができただけで良しとしておこう)

 

 

 

 

 

 

 賊の襲撃を聞き、一目散に村から脱出するべく逃げてきた村人たちの前に、ようやく村を覆う防護柵が見えてくる。彼らのうち何人かは木で作られている柵を斬り倒さんと、剣を取り出し柵に何度も打ち付けて、ようやく何ヶ所かの穴ができた。

 

「隙間ができたぞ!」

「今の内だ。女子供から先に出ろ!」

 

 柵を斬り倒した男たちに言われるまま、子供を抱えた女たちが柵の間に出来た隙間を縫って村から出んとする。だが、

 

「――キャッ! 何?」

「どうなってるの? 先に進めない!」

 

 外に出ようとした女に何かがぶつかり、彼女らの行く手を阻んだ。女たちの前には何もないようにしか見えないのに!

 

「どうしたのママ?」

「早く外に出ようよ。怖い人がすぐそこまで来てるんでしょう!」

 

 母や姉、行きずりの夫人に抱えられたり手を引かれて連れてこられた子供たちは、彼女らが何に悪戦苦闘しているのか知らずに文句を言い、それが女たちの焦りをますます増大させていく。

 

「うわっ!」

「ギャア!」

 

 そうしている間に誰一人村から脱出できないまま、とうとう賊の一人が迫って来て男たちを殺し、それから女と彼女らが抱える子供に近づいていく。

 賊は男だった。金色の瞳を持ち、その眼と同じ色の髪を長く下ろしていて、右手には剣のような武器を持っており、その剣を振るって、逃げようとする女子供を守ろうと立ちはだかる村の男衆を斬り殺していった。

 その際、髪がなびいてたまに露わになるうなじには、青髪の女と同じ模様の入れ墨が彫られてあるのが見えた。

 男の持っている剣はベルカで使用される剣と違い、刃が片方に反り返っていて、それを収める柄は変わった形をしておりどこか芸術的でもあった。もちろん、今その剣を向けられている村人たちにとっては、自分たちの命を無慈悲に奪う凶器以外の何物でもないのだが。

 

「キャア! 助けて!」

「せめて子供たちだけ――うぐっ」

「痛い、痛いよ――ぅ」

 

 男は女子供が相手でも躊躇なく剣を振り下ろし、その命を奪っていく。彼女らの口から出てくる命乞いなど、男にとっては断末魔と同じ音楽でしかない。

 瞬く間に村の端にいたほとんどの人間を切っていった男は、周囲でたった一人残った若い村娘に目を留めた。

 眉一つ動かさずに他の村人を惨殺していく男を前にして、娘は身を震わせていた。

 殺されるという恐怖ももちろんある。それに加えて娘には別の身の危険を感じていた。

 娘の容姿は傍目から見ても美しく、この狭い村の中男たちから求婚されたことは数知れない。だから娘は自分が美人という自覚もあったし、いつか村を出て北にある都市リヴォルタで大商人かその子息に近づき、玉の輿に乗ろうと密かに目論んでいた。

 しかし、今はその容姿が恨めしい。他の村娘より顔が整っている自分はこれから男に犯され、その後はさんざん嬲りものにされながら殺されるのではないかと。

 だが、不幸中の幸いにも、娘が抱いている不安の片方は外れる。

 

「――あ゛!」

 

 男は剣を振るい、娘を肩から斜め下にかけて切りつけ、その命を絶ったのだから。

 

(もったいないねえ。こんな体になってなければ楽しませてもらう所なんだが、今はとにかく殺したくて仕方ねえ。まあ、そのおかげで楽に死ねたんだからありがたく思えよ)

 

 

 

 

 

 

 外で青髪の女と金髪の男が村人たちを血祭りにあげている頃、村内にある小さな教会には多くの村人が駆け込んできて、明かりもつけずに息をひそめていた。

 これは今回この村でのみ見られる光景ではない。

 先史時代の知識や文明が失われた現代のベルカでは、雷や嵐といった気候、地震や土砂崩れのような災害、人間をはじめとする動植物の誕生と死、そして病……そういった現象を引き起こす原理が忘れ去られ、多くの自然現象が神や聖霊の意志によって引き起こされると信じられている。

 盗賊に身を落としたならず者や、戦を隠れ蓑に私腹を肥やそうとする兵士たちも例外ではない。

 抵抗する術を持たない村人や市民を殺すことに罪悪感を感じないような彼らでさえ、神罰を恐れ、教会のような宗教施設は見逃すことが多いのだ。

 故に今夜のように賊や軍隊が村を襲った時、教会の近くに辿り着くことができた村民は、そこにかくまってもらう。

 しかし、賊のような不埒者の中には神の威光が通じない連中もいる。

 不運なことにこの村を襲った賊たちもそうだった。

 

 

 

 

 

「――うっ」

 

 短刀が少年の喉を斬り裂き彼の命を奪う。

 その短刀を振るっているのは、餌食になった少年よりさらに一回り小さい少年だった。

 瞳の色は青く短い黒髪で、半袖半ズボンから露出している手足の内、右腕には二人の賊と同じ刺青を掘った、齢は十に満たないだろう少年。

 二人の少年のまわりには、先ほどまで賊がこの村から去っていくのを祈りながら隠れていた村人たちの骸が積み重なっている。

 例外はただ一人。

 

「ア、アロンド君、どうして君が」

 

 壁際に追いつめられたシスターが、尻餅をつきながら少年の名を呼ぶ。

 

「雇い主に頼まれたからだ。それにこうしないと俺たちは生きていけない。言葉通りにね」

 

 少年、アロンドは淡々とそう返事をする。

 

 彼は今日の昼間、いつの間にか村の子供たちに混じって遊んでいた少年だ。

 村の誰も彼の顔を知っている者はいない。しかし、自分から子供たちの輪に入って遊ぶ少年の無邪気な姿に、村の子供たちも大人たちも彼に気を許した。

 少年の右腕に彫られた羽根の刺青を見ても、子供たちは興味を引かれ、大人たちもどこかの国から来た旅人や行商人の子供だろうと思ったくらいだ。

 少年は日が暮れても村に留まり続け、他の子供たちが各々の家に帰っても、自身はどこかの家にも宿にも入ることなく広場に居続けた。

 そんな少年を見咎めたシスターは、彼を親とはぐれた迷子だと思い、一晩教会で預かることにした。

 この時はシスターも他の誰も夢にも思わなかった。

 アロンドと名乗る少年が、二人の仲間に先んじて下見にやって来た賊の一味だとは。

 

 アロンドはシスターに向かって一歩踏み出す。

 

「ひっ!」

 

 シスターは後ずさりしようとするも、その後ろには壁があり、これ以上逃げることはできない。

 そんなシスターを見下ろしながらアロンドは迷った。

 

(首にしようか、胸にしようか)

 

 そんな迷いが頭に浮かびアロンドがつい視線を宙に向けた時、シスターはこれを好機だと思った。

 

「――あああああ!」

 

 シスターは大声を上げながらアロンドに飛びかかり、彼の首を絞める。

 

「――ぐっ」

「死ね! 死ね! 死ね!」

 

 シスターに首を絞められ、アロンドは苦しげに口元から唾液を垂れ流し、空気を求めて息を吸おうとする。

 

「死ね、恩知らずのクソガキがあああああ!」

 

(これなら首を狙うしかないな)

 

 空気を求めて呼吸を続ける口とは逆に、アロンドの右手はしっかりと短刀を握り続けており、その短刀をシスターの首側面にめがけて突き刺した。

 

「死――うぐっ」

 

 白目を剥き口から泡まで吹いてシスターは絶命し、アロンドに覆いかぶって倒れる。その死体をアロンドは乱暴に蹴り上げて自身の上からどかした。

 起き上がったアロンドは床に唾を吐いてから口元を手で拭う。

 アロンドの耳に扉が開く音が聞こえてきたのはその時だ。

 

「サガリス、トリノ」

 

 アロイスが名前を呼ぶのと同時に、開けた教会の扉から長い金髪の男と青髪の女が入ってくる。

 

「よぉ。そっちは終わったみたいだな。ちゃんと頭は傷つけずに殺したか?」

 

「最後の獲物はずいぶん手こずったようだな。我ら同様《エクリプス》の洗礼を受けたとはいえ、所詮はまだ子供か」

 

「うるせえよ。どこを刺すか迷っている間にババアが調子づいてきただけだ……まあ、ただ殺すよりは面白かったけど」

 

 トリノという青髪の女にそう言い返しながら、アロンドはシスターの死体を足蹴にして笑った。

 軽口を叩き合う二人をよそに、サガリスという金髪の男は、教会に重なっている死体の山を見回す。

 

「確かにみんな頭はキレイなままのようだな……だが生命反応を示す者はいない。今回も成果はなしか」

 

「こんなちんけな村で“適合者”なんて期待できねえよ。みんな俺たちの肥やしになっただけだ。リアクターと適合する奴を見つけたいならもっと大きな都市を襲う許可を出せっつうの」

 

「それこそ期待できん話だ。聖王が出した《起動宣言》に反発した各国が、雇い主から大量に商品を買い入れているらしいからな。これから客になるかもしれない国の都市を襲う許しなど、あの男が出すとは思えん」

 

 アロンドのぼやきにトリノがそう説明する。

 

「起動宣言といっても、今の時点ではただの脅迫だがな。《聖王のゆりかご》など、実在が疑われている兵器の名前だけを出したところで、各国が屈するわけがない。ああいう宣言を出すのは、件の兵器を衆目の前に引き出してでなければ効果がないんだ。それなのにゆりかごの起動宣言だけをしてきたという事は、起動ははったりでそんなもの存在しないのか? それとも、聖王はよほどそれを出したくはないのか?」

 

「どうでもいいだろそんなこと。聖王ってジジイがバカなこと言いだしたおかげで、俺たちは殺しと副業(バイト)がやりやすくなったんだから。聖王陛下様様だ」

 

 聖王を嘲るアロンドに、サガリスもトリノも笑みをこぼす。

 それについては同感だ。

 多くの独立国は彼らの雇い主から《禁忌兵器(フェアレーター)》を大量に購入するなど、聖王連合を攻撃するための準備を着々と進めている。

 この聖大陸全土に及ぶ戦乱は遠からず幕を開けるだろう。

 そうなれば都市や村が滅びたところで、それが戦乱による虐殺なのか、彼らによる殺戮なのかは誰にも判別できなくなる。

 今は都市襲撃の許可は下りていないが、各国が兵器を買い付ける時期が過ぎればそのうち――。

 

《皆さん、そろそろ“食事”と適合者探しは終わりましたか?》

 

 三人の脳裏に何者かから思念が届いてくる。サガリスがそれに応えた。

 

「フォレスタか。腹ごなしは終わった。だが、この村にも“適合者”はいない。全員死んでる。悪いな、お前には村のまわりに結界張ってもらったのに、無駄骨に終わっちまった」

 

 その結果をフォレスタという思念の送り主は予想していたようで、すぐに念を返してくる。

 

《いいんですよ、いつものことです。それより事が済んでいるのなら三人ともすぐに街に戻ってください。彼が目を覚ましたらしく隊長がそっちへ向かっていて、僕らは全員本業をほっぽり出してる状態なんですよ。こんなことが市長に知られたら――》

 

「たしかにそれはまずいな。わかった。できるだけすぐ戻る」

 

《お願いしますね。副業の雇い主ほどではないにしろ、市長からもそれなりにいただいてますから――それでは》

 

 フォレスタからの指示にトリノが応じた後、思念通話は切れる。

 わずかな沈黙を挟んで、アロンドはフォレスタの言っていた彼について切り出した。

 

「一月前ディーノで拾ってきたあいつ、ようやく起きやがったか。何週間もうなされながら寝続けてたから、そのまま肉塊になっちまうと思ってたぜ」

 

「うむ。私もそうなると思っていた。しかし、そうなると奇妙な偶然だな」

 

「あん、何がだ?」

 

 トリノの言葉にアロンドは疑問の声を上げる。

 それにトリノは、

 

「なに、大したことじゃないんだが、お前たちは知っているか? 姉貴と雇い主が持ってる本の“原典”とかいう魔導書の持ち主の事を」

 

「さあな。姉ちゃんが持ってる本なんていちいち気にも留めてねえよ」

 

 アロンドは肩をすくめて知らないと流す。

 その一方、サガリスはある噂を思い出しハッとなった。

 

「姉貴が持つ《銀十字の書》の原典――《闇の書》のことを言っているのか? そう言えばリヴォルタの北にある国の王が、そんなものを持っていると噂で聞いたな」

 

 それを聞いてトリノは口の端に笑みを浮かべながら答える。

 

「ああ。その王は闇の書から召喚された四人の騎士を従えてディーノを奪い、ガレアとの戦いでまた一人の騎士を迎え入れたらしい。つまり……」

 

「闇の書を持つ向こうは今六人。そこへ、銀十字の書を持つ俺たちの方もちょうど六人目の仲間を手に入れた……まさかお前、そんなことが言いたいんじゃねえだろうな?」

 

 アロンドは今までと打って変わって面白くなさそうに問いを返した。

 トリノは変わらず笑みを浮かべたまま聞き返す。

 

「だとしたら?」

 

「くだらねえ。数がかぶってるだけじゃねえか。闇の書から召喚なんてのもはったりだろうし、本当だとしても俺たちの敵じゃねえ。なんなら今からその国に乗り込んで、そいつらと白黒つけてもいいくらいだ」

 

「俺も同感だが、そうもいかんだろうな。さっきトリノが言った通り、その国が雇い主の新たな客になる可能性もある。俺たちはまたしばらくこんな小村で適合者を探しながら、殺しを重ねていくしかない」

 

 忌々しく吐き捨てるアロンドに同調しながら、サガリスは首を横に振る。

 話は終わったと判断しトリノは立ち上がりながら、

 

「ではフォレスタもやきもきしてるだろうし、いい加減街へ飛ぶか。誰か姉貴の援護に行くか?」

 

「はっ、必要ねえよ! あれでも俺たち適合者を束ねる《フッケバイン傭兵隊》の隊長様だぜ」

 

 彼女の問いかけをサガリスは鼻で笑いながら一蹴した。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、リヴォルタ市街北区。

 北区の一点にある中規模の宿。その宿はいつもこのぐらいの時間帯に、宿泊客同士が談笑したり、情報交換を行い、そんな客たちを宿で働く使用人がもてなしたりしていてにぎやかな時間だった。

 だが、今は違う。

 今夜の宿は静かだった。

 宿に泊まっている宿泊客も使用人、主人も皆二度と目覚めぬ骸となって、床の上に横たわっていたのだから。……ただ一人を除いて。

 

 犠牲者たちを横目に、男はただ一人出入り口へ向けて足を進める。

 

(また頭が痛くなってきた。もっとだ、もっと殺さなければこの痛みは消えない……そうだ。殺される前に、奪われる前に、俺カラ殺シニ――)

 

 紫髪の男は上半身に何も身につけないまま宿にいる人間を皆殺しにし、それでも飽き足らず更なる獲物を求めて外に出ようと、扉に手をかける。

 その瞬間、男が立っている床を突き抜け、地中から伸びてきた蔓が男をがんじがらめに拘束した。

 蔓から逃れようと男は体をねじらせる。

 そんな彼の後ろから――

 

「はーい! ちょっと止まって! さすがに今、街中で騒ぎを起こされるわけにはいかないのよ」

 

 背後から女の声がして、男はそちらの方を振り向く。

 男の背後にはいつの間にそこにいたのか、女が二人いた。女たちの側面にある窓が割られていたので、おそらくそこから侵入したのだろう。宿の人間を殺めこそしたものの窓を割った覚えはない。

 女二人組のうち一人は黒く長い髪を後ろに束ね、右手首に銀色の腕輪をはめた黒眼の若い女。

 もう一人は白い髪を長く伸ばし、左手首に銀色の腕輪をはめた若い赤眼の女。

 男に声をかけてきたのは黒髪の方だ。そちらの方には男も見覚えがある。

 

「お前……俺たちの町を襲った奴らの……」

 

「ええそうよ。そして、あそこで唯一生き残ったあんたをこの街まで連れてきたのも私。あっ、感謝はしなくていいよ。雇い主から頼まれたことだし、あんたみたいな適合者を仲間として抱え込むのは私たちの方針でもある」

 

 女の身勝手な物言いに男は身を震わせる。

 

「仲間だと……ふざけんな、お前が……お前たちが俺たちの町を……お前たちがあああ!!」

 

 体の中から沸き上がってくる力を全身に込め、男は蔓を引きちぎった。

 

「殺シテヤル……オ前タチモ……俺ノ目ノ前ニイル奴ハ全員」

 

 殺意に身を任せる男を前に、黒髪の女はこれを予期していたように、余裕の笑みを浮かべる。

 

「ったく、この時点であんたも私たちと同類になっちまってるのがわかんないかねえ。まあいいや。ライラ、手伝って」

 

「はい、我が主……シュトロゼック1st、リアクト・エンゲージ」

 

 黒髪の女の命令に白髪の女が答えると、彼女は白い粒子となって主と同化した。

 そして残ったのは……

 

「いいよ、かかってきな。フッケバイン傭兵隊を立ち上げて数年間、あんたみたいなのは何人も相手にして、そのたびに身内に取り込んできたんだ。リアクターもディバイダーも持たないあんたごときが、このカリナ・フッケバインに勝てると思ってもらったら困るね」

 

 髪と瞳が相方と同じ色に染まった姿に変貌した女、カリナ・フッケバインだった。

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