グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第39話 対峙

「うわああああ!!」

「何だあの化け物は!?」

 

 カリナが召喚した金属でできた異形を目の当たりにして、人々は慌てふためき逃げ出そうとする。

 そんな中俺は守護騎士に向かって指示を出した。

 

「あの異形たちを掃討するぞ。シャマルは地上に残ってバックアップ。特にカリナとライラの動きには注意してくれ。必ず何か仕掛けてくるはずだ」

 

「はい!」

 

 シャマルの返事を聞いてから、俺たちは飛翔して異形たちへと向かっていく。

 

「フレースショット!」

 

 俺の剣から放たれた光弾が異形を打ち抜き。

 

「シュツルムファルケン!」

 

 シグナムは愛剣レヴァンティンを弓の形に変え、そこから射出された矢が異形の体を貫く。

 

「ラケーテンハンマー!」

 

 ヴィータが叫ぶと槌の口が変形して、その中から炎が噴き出し、噴射による推進力で一気に異形の前に到達し、そのまま思い切り槌を振り下ろす。

 

「はああああ!」

 

 同じく異形に迫ったザフィーラは素手で異形を打ち付け、異形はその体に大きく穴を空ける。

 

「せいやあああ!」

 

 ティッタが振り下ろした大剣をもろに受けた異形はふらつき、その隙をついてティッタはよろめく異形に何度も大剣を振り下ろし、異形は真っ二つに割れた。

 シグナムやヴィータと違い、ティッタは自身の武器に魔力を込める術を持たない。だがティッタの固有技能、《震動付与》は金属でできた異形にも通じるようだ。彼女自身の怪力も相まって、技能と合わせて攻撃すれば十分対処できる。

 

 俺たちの攻撃を受けた異形たちは、そのまま爆発して跡形もなく霧散した。俺たちは直感的に異形の死骸から離れて、爆風を避けることができた。マリアージュ戦での経験のたまものだな。それにあいつらよりは爆発の規模が小さい。

 それにしてもこの異形たち、思いのほかあっさりと片付いていくな。

 異形がまとっている金属は見るからに固く、ただ斬りつけるだけなら苦戦は必至だが、射撃魔法や魔力がこもった武器、固有技能を駆使すれば何とかなる程度だ。

 部下たちが駆け付けて来るまでの時間稼ぎにしても弱すぎる。時間稼ぎ……

 ――まさか!

 

《陛下、大変です! カリナさんたちが!》

 

 シャマルからの念話を受けて、俺はすかさずカリナたちがいた方を見る。

 だが、そこにはもう彼女たちの姿はなかった!

 

 

 

 

 

 

 必死の思いで異形から逃げていた市民たちは、自分の目を疑う。

 今まで向こう側に浮かんでいた女二人が、自分たちの前にいたからだ。彼女たちの足は地面から遠く離れており、先ほどまでと変わらず宙に浮かんでいた。

 

「あいつらは化け物と一緒にいた、いつの間にここまで」

 

「あの人、カリナさんじゃないか! たった何人かの傭兵隊を率いているっていう」

 

「本当だわ。私たちを助けに来てくれたのから?」

 

「いや、それにしては様子が……」

 

 騒ぎ立てる市民たちを見下ろしながら、カリナは表紙に銀色の十字架が描かれた白い本を取り出す。

 

 

 

 

 

 

 俺たちが異形を倒している間に、カリナたちは中央区の人々が逃げて行った方に移動していた。

 異形たちと戦っていたとはいえ俺たちも、地上で二人を見張っていたはずのシャマルさえも、カリナたちの動きに気付かなかったというのか? ――いや違う!

 あの二人は恐るべき速さで、瞬時にあそこまで飛んでいったのだ。俺たちが誰一人視認できないほどの速さで。

 

 突然現れたカリナを前にして、思わず足を止めている人々の真上でカリナは本らしきものを取り出し、それを開こうとしている。

 

やめろ!!

 

 それを見て俺はとっさにカリナたちめがけて飛翔した。

 距離が遠い。

 このままだと間に合わない!

 

「フライングムーヴ!」

 

 俺は固有技能を発動し、カリナたちがいるところまで一気に飛んだ。

 カリナは本を開きかけ、人々はそれを眺めているまま、ライラはカリナの後ろで両者を観察している。

 俺はカリナの眼前まで迫って、開きかけている本を払い落とそうと剣を真横に振った。

 しかし、そこでカリナと本のまわりに結界が張られ、カリナと本の前に広がった透明な壁によって、剣ははじかれてしまい、その拍子に俺の技能まで解けてまわりの物体が一斉に動き出す。

 

「キャアアア!」

「な、何だ!?」

 

 不穏な動きを見せるカリナに加え、剣を持った男が突然現れたことに人々は混乱し、一目散に逃げていった。

 

「ケント、いつの間に……」

 

 カリナははるか遠くにいるはずの俺が一瞬でここまで移動したことに、驚きを隠せず目を丸くする。

 しかし、驚いているのはこっちもだ。

 なんだあの本は? 主の意志とは無関係に結界を張るなんて。シグナムたちの武器でもあんな真似はしないぞ。 

 

「カリナ、ライラ、一体どういうつもりだ? 先ほど現れた金属の人外も兵舎の火事も、お前たちの仕業なのか?」

 

 俺はカリナたちに剣を向けて問いを投げかけるものの、カリナは不敵な笑みを浮かべ、ライラは無表情で俺たちを眺めるのみだ。

 そこへ守護騎士たちが遅れてやってくる。

 

「主、ご無事ですか!? カリナ殿、ライラ殿、やはりあなたたちが……」

 

 シグナムの問いにカリナは含み笑いを漏らす。それが答えだった。

 

「貴様っ!」

 

「待てシグナム! 不用意に近づくのは危険だ!」

 

「ヴィータ?」

 

 文字通りカリナに飛びかかろうとしたシグナムを、ヴィータが抑える。

 珍しい光景に思わず俺は怪訝な声をあげた。

 そんなヴィータに対してカリナは、

 

「……そういえばあんたは昨日、長い間アロンドと一緒にいたそうだね。もしかして()()を見ちまったのかい?」

 

「……さあ。あれって何のことだ?」

 

 カリナの問いにヴィータは首をかしげて見せるが、明らかに何か知っている反応だ。だが今はそんなことより――

 

「……ここは俺一人でやる。みんなは急いで他の区画へ向かってくれ」

 

「主?」

 

 シグナムはたまらず声をかけてくる。彼女の方を向かずに俺は言った。

 

「カリナ以外の奴が隠れている気配はない。他の区画に向かったとみていいだろう。被害を最小限に抑えるには、各地区に一人ずつ誰かが行って奴らを止めるしかない。カリナたちは俺が何とかして見せる」

 

「確かにそれはそうですが……しかし」

 

 シグナムは反論しようとするが、返す言葉が浮かばず……

 

「……分かりました。主のおっしゃることにも一理ある。ただし、くれぐれも油断されぬよう」

 

「わかった。早く行ってくれ!」

 

 俺が命じると、シグナムは頷き、騎士たちとともにりヴぉる高口へ飛んでいく。

 そして残された俺はただ一人で、カリナとライラの二人と対峙した。

 

 

 

 

 

 

 リヴォルタ南区、壁門前。

 

 街を覆っている外壁に四か所設けられた門の前には、傀儡兵(ゴーレム)とそれらを召喚しながら自らも殺戮の限りを尽くすフッケバインの傭兵から命からがら逃れてきた市民たちが大勢殺到していた。

 その中には燃え盛る兵舎から逃げてきた傭兵も混じっている。

 

「どけ。俺が先だ!邪魔する奴は叩き斬ってでも払いのけるぞ!」

 

「何言ってんだ! あんた傭兵なんだろう? だったら逃げてないであの化け物を倒しに行けよ!」

 

「俺は飛ぶことができねえんだよ! それに役人から頼まれてる仕事にあんな化け物の退治なんて入ってねえ! わかったらどきやがれ! この剣で斬られたいのか!」

 

 丸腰の市民に対して、傭兵は背中に担いだ剣の柄に手をかけながら凄み、追い払おうとする。市民は嫌悪感をあらわにしながらも引き下がるしかなかった。

 傭兵の目は本気だったうえに、そうしている合間にも傀儡兵やフッケバインの傭兵が迫っているかもしれないからだ。

 先ほどのようにまわりにいる市民たちに凄みながら、傭兵は開かれた門をくぐり抜けて、街の外へ出ようとする。

 だが、街の外が見えてすぐに、彼の体はそこから先へ進めなくなった。まるで見えない壁が彼も前にあるかのように。

 周りを見てみると彼以外にも、不可視の壁に悪戦苦闘している者たちが見えた。

 もしやと思い上を見上げると、やはり塔兵など飛行魔法でここまで飛んできた者も、自分たちの真上で立ち往生ならぬ飛び往生をしている。

 傭兵の後ろにいる者たちはそんなことにも気付かず、

 

「おい、何立ち止まってんだ! 早く行けよ! でないとあの化け物たちが」

 

「わかってる! 俺だって早く街から離れたいんだよ! でもなぜかどうやってもここから先へ進めねえんだ! ――!」

 

 怒鳴りながら後ろを振り向いた傭兵は、自分たちの頭上を飛んでいる傀儡兵の存在に気が付いた。しかも二体!

 それを目の当たりにして傭兵を始め最前線にいる者たちは、必死に見えない壁を抜けようとする。だが、何をどうやっても、そこから先へ足を踏み出すことはできない。

 魔法をかじった者の頭の中には結界という言葉が浮かぶものの、それを認めたくはなかった。結界を破れるほどの力を持っている者がこの中にいたら、すぐにそうしてるだろうし、傀儡兵に立ち向かうこともできるだろう。

 つまり、現状においてこの街から脱出する術はなくなったということだ。その事実を認めることができるほど強い心を持つ者は、脱出しようとする市民たちの中にはいなかった。

 

 不可視の壁に挑む者、逆に街に入りなおして別の逃げ道を探そうとする者、群衆に囲まれているせいで身動きが取れない者たち、門の付近は混乱に陥った。

 慌てふためく人々に向けて、ゴーレムたちは無情にも刃を向ける。

 逃げることもできなくなった者たちはとうとう絶望し、祈るような気持ちで傀儡兵を仰ぎ見た。

 

「――あれは!」

 

 そして気付いた。

 

 空中には傀儡兵の他に、白い魔導鎧をまとった金髪の少女と燕尾服を着た赤毛の執事がいた。

 金髪の少女と執事は傀儡兵の行く手を阻むようにその前を飛んでいる。

 少女は右手を掲げて、手元に金色の光弾を作り出す。

 それを傀儡兵に向けて、

 

「五十四式・槍礫」

 

 少女の手から光弾が放たれ、光弾は少女の手から離れてからどんどん巨大化していき、傀儡兵に迫るころには傀儡兵の体ほどの大きさとなった。

 傀儡兵はなすすべなく光弾に体を貫かれて爆発し、果てた。

 

 主が傀儡兵をたやすく撃破している横では、赤毛の執事がもう一体の傀儡兵と相対していた。

 傀儡兵は執事の何倍もの大きさの剣を振り上げて、彼を真っ二つにしようとする。

 だが、自身に向けて振り下ろされた巨大な剣を、執事は難なくかわし、一気に傀儡兵に迫る。

 執事は右手で腰に収められたままの剣の柄を握り、

 

「シャイニング・ロッソ!」

 

 魔力光で赤く染まった刀身で傀儡兵の体を斬りつけ、中心に大きな切り傷をつける。そこに空いている左の手のひらを向け、

 

「フレース・ファイエル!」

 

 執事の手のひらから火柱が立ち上り、火柱は切り傷に大きな穴を空けながら、そのまま傀儡兵の体内へ入り込み、傀儡兵の体を内側から焼き尽くしそのまま爆発した。

 

 恐ろしい傀儡兵をまるで赤子の手をひねるようにあっさりと片付けた二人を、地上にいる人々は呆然と眺めていた。

 

「つ、強い。なんだあの二人は?」

 

「雷の魔法……あの強さ……まさか、あの方は《雷帝》――」

 

「雷帝だと!? 西にあるダールグリュン帝国を統べながら、自ら戦場の最前線に立ち領土を広げているという……」

 

「あんな少女が? 話によれば、雷帝は威圧感のある妙齢の女傑だと聞いているが? だが、あの技は確かに雷帝の――」

 

 そんなことを言い合っている人々に、少女は西の方を指差しながら大きく声を上げた。

 

「この先に私の別荘があります! 皆様はひとまずそちらに向かってください!」

 

 眼下の人々はすがるような目で少女が差した方を見る。そこには確かに、一目見たらわかるほどに大きな建物がそびえ立っていた。

 それを目にした人々は急いで彼女の別荘だという建物へ向かう。中には少女を疑い、ためらいを見せる者もいたが、結界らしきものが外が外に張り巡らされて街から出ることはできないと聞き、やむなく少女が示す建物に向かって行った。

 

 金髪の少女、エリザヴェータは別荘へと向かっていく人々を見下ろしながら、隣にいる赤毛の執事、ジェフと顔を見合わせる。

 それにジェフは右手を左胸に当てながら一礼して応じた。

 

「傀儡兵の撃退と市民の皆様の誘導、お見事です。エリザお嬢様」

 

 ジェフの賛辞にエリザヴェータはため息をつきながら、

 

「その言葉はすべての傀儡兵とその召喚主を征伐した時に受け取っておくことにしましょう。そちらの方は?」

 

 エリザヴェータの問いにジェフは顔を上げて答える。

 

「今まで別荘に待機していた執事たちの中でも、腕利きの三人を各地区へ向かわせております。ただ、傀儡兵ならまだしも、召喚主たちがあのフッケバイン傭兵隊だとしたら彼らだけでは心もとないですね。特にあの子には」

 

「ああ、ロープですか。確かにあの子にとっては荷が重い相手かもしれませんね。そんなに心配なら南区は私に任せて、あなたはロープの手助けに行っても構いませんよ。お兄様」

 

 ロープを心配するようなことをつい口にしてしまった自分をからかってくる主に、今度はジェフがため息をついた。

 執事とは世を忍ぶ仮の姿で、ジェフの正体は実はエリザヴェータの血を分けた実の兄……というようなことはもちろんない。ジェフと同じく、彼の妹も執事としてエリザヴェータの家に仕えているというだけのことだ。その名をロープという。

 

「お気持ちだけ受け取っておきましょう。これも一流の執事へ至るため、妹に与えられた天の配剤なのかもしれません。ですから私とロープの事はどうぞお気遣いなく」

 

「そうですか。厳しいお兄様ですね。……それにしても、明日には例のギルドに探りを入れようかと考えていた矢先にこんな暴挙に出るとは。連合と帝国が動く前に街ごと隠滅するつもりなのかしら?」

 

 エリザヴェータの推測に、ジェフは顎に手を乗せながら考える。

 

「それにしては襲撃の規模が小さいですね。このまま一晩中襲撃が続いたとしても、リヴォルタが壊滅するような事態には至らないでしょう。被害は小さくはないでしょうが」

 

「そうだとしてもこのまま見過ごすわけにはいきません。この街は帝国にとっても重要な貿易拠点です。それに無辜の民が危機にさらされているのを黙って見過ごすなど、ノブレスオブリージュ(貴族の義務)に反する行いですわ」

 

 そう言いながらエリザヴェータは右手の人差し指にはめられた指輪を、ハルバードの形に変える。

 

「私は傀儡兵を倒しながら中央区へ向かいます。南区は任せましたよ、ジェフ」

 

「はっ! お嬢様もどうかお気をつけて」

 

 互いに言葉を交わした後、エリザヴェータとジェフは別れ、それぞれの役目を果たしに行く。

 もし彼女らがいなかったら、ケントたちに万が一の勝機はなかっただろう。

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