グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第40話 リヴォルタ各地にて

 リヴォルタ西区。

 中央区同様、聖大陸きっての歓楽街として知られている西区でも、何体かのゴーレムとそれらを召喚したフッケバイン傭兵隊の一人、サガリスによる襲撃を受けていた。

 教会や議員などの富豪が建てた屋敷など、今の街の中でも安全だと思われている場所を目指して人々は必死に逃げる。

 その中には娼館やカジノから着の身着のまま出てきたネグリジェ姿の娼婦やバニーガールなど、あられもない恰好の女性たちもいた。

 

「きゃっ!」

 

 疲労のあまり走る速度を落として、最後尾を走っていたバニーガールの前で地面に亀裂が走り、バニーガールは反射的に足を止める。

 他の群衆は一瞬ためらうものの、すぐに彼女を置いて先へ行ってしまった。

 

「――待ってみんな! 私も――」

「よう」

 

 すぐ後ろから聞こえてきた声に、バニーガールは恐る恐る後ろを振り返る。

 そこには剣()()()()ものを手にした金髪の男が立っていた。バニーガールには見覚えのある顔だ。

 

「……サガリス……さん……」

 

「久しぶりだなあ。相変わらずそそる格好してるじゃねえか。確かこっちのカジノであんたにいい恰好見せようと、つい張り切り過ぎて出禁になっちまって以来だ。あの王様の連れとして、もう一度だけお邪魔する予定だったんだが。あーあ、あいつがもうちょい欲望に素直だったらなあ」

 

「……もしかしてあの時のことを恨んでこんな真似を? あれはあなたが勝手に――ひっ!」

 

 言葉の途中で刃を向けられ、バニーガールは小さな悲鳴を上げてその場にへたり込む。

 対してサガリスは飄々とした笑みを向けたまま、口を開いた。

 

「いや、あれはもう気にしちゃいねえよ。あんたみたいなバニーガールはいないが、中央区にもカジノはあるしな。こいつは雇い主からの依頼と、俺たちみたいなのが生きるためにやってることだ。“食事”と俺たちは呼んでいる」

 

「……い、一体何を言っているの?」

 

 サガリスの言ってることが分からず困惑の表情を浮かべるバニーガールに、サガリスは剣を振り上げた。

 それを見てバニーガールは立ち上がって逃げようとする。だが、どうしても足に力が入らず、立ち上がることができない。

 

「せめて楽に殺してやるから悪く思うなよ」

 

 サガリスはバニーガールに向けて剣を振り下ろす。

 バニーガールは恐怖のあまり思わず目を閉じた。

 

 …………。

 しかし、いつまでたっても何も起こらない。

 不思議に思ってバニーガールが恐る恐る目を開けると、いつの間にか桃色髪の女剣士が自身とサガリスの間に割り込んできて、サガリスと刃をぶつけていた。そう言えば目をつむった一瞬の間に着地音が聞こえた……ような気もする。

 一方でサガリスはさほど驚いた様子も見せずに言った。

 

「そろそろ来ると思ってたぜ。シグナムさんよ」

 

「サガリス。こちらの方に来ていたのはお前か」

 

 鍔迫り合いを続けながら、シグナムはちらりと横目でバニーガールを一瞥して、

 

「早く逃げろ! この男は私が何とかする」

 

「は、はい!」

 

 シグナムに声をかけられた途端、今まで立ちあがれなかったのが嘘のようにあっさりと足が動き、バニーガールは立ち上がることができた。

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言ってバニーガールは、やや後ろめたそうにシグナムに背を向けて走り去っていく。

 もちろんシグナムがそれを恨めしく思うはずはない。彼女が残ったとしても守ることに気を取られて、かえってシグナムが不利になるだけだ。

 バニーガールの姿が見えなくなってからサガリスは刃を引き、相手の刃にぶつけてから後ろへ跳んで距離を取った。

 

「へっ、ご主人様を置いて人助けとは、騎士らしい真似をするじゃねえか。闇の書を完成させるためなら、赤子だろうと平気で殺してきた外道どもがよ」

 

 サガリスの言葉にシグナムは額にピクリと青筋を立てるが、努めて平静を装いながら言葉を返す。

 

「ほう、詳しいな。それとも私たちが今の世に名を広めすぎただけか」

 

「いや、まだそれほどじゃないと思うぜ。お前たちや闇の書に関することは、ほとんど雇い主から聞かされた話だからな」

 

「雇い主だと? もしや、そやつがお前たちに街の襲撃を命じた黒幕か?」

 

 シグナムの問いにサガリスはわざとらしく「おっと」とつぶやきながら、

 

「さあ、どうかな? そんなもんただのはったりで黒幕なんて存在しないのかもしれねえし、いたとしても俺が素直に答えると思うか?

「ならば力づくで聞き出すまでだ」

 

 シグナムは剣を握っている両手に力を込め、サガリスも両手で柄を握り態勢を取った。

 

 

 

 

 

 

 リヴォルタ南区。

 

「きゃっ!」

 

 裏路地を通って逃げようとしていた母娘に向けられた刃を、少女は素手で掴み取った。刃を掴んでいる少女の手からは血がぽたぽたと地面に落ちる。

 母親は自分たちを助けてくれた少女に声をかけることもできず、娘を抱いて一目散に逃げて行った。

 少女、ヴィータは逃げ出す母娘のことなど気にも留めず、左手で短い刃を握りながら、もう片方の手で槌を握り相手に詰め寄る。

 

「アロンド、なんでこんな真似を? カリナに命令されて無理やりこんなことをやらされてるのか?」

 

 母娘を襲い、今はヴィータと対峙している少年、アロンドはニヤリと笑いながら答えた。

 

「いいや、無理やりなんかじゃねえよ。俺様が自分の意志でやってることだ。やっと姉ちゃんから許しが出たんでな」

 

「何だと!? それはどういうことだ? 答えろ!」

 

 怒鳴り声を上げるヴィータにアロンドは短刀を持っている右腕を動かす仕草を見せ、ヴィータは反射的に短刀を離して後ろへ跳ぶ。

 刃を振るったはずみに、刃についたヴィータの血があちこちに舞い散る。

 

「くくっ、人に物を聞く時はそれなりの態度ってもんがあるだろう。これだからぬいぐるみなんかにうつつを抜かしてるガキは。まあそのおかげでこの余興を盛り上げる方法も昨日思いついたんだが」

 

「余興……まさかあれを盗んだのはやはり」

 

 今日の昼間、ヴィータはこの南区にある店で、昨日ケントから贈られたうさぎのぬいぐるみをなくした。

 ただ、あの時ケントは確かにこう言っていた。『背嚢を背負っているアロンドをあの店で見た』と。

 実際アロンドの背中には今も、昨日までは背負っていなかった大きな背嚢がある。

 アロンドは正面を向いたまま、体を少し動かしただけで背嚢を背中から外して地面に落とし、それを斬り裂いて中にある物を取り出した。

 

「――それは!」

 

 アロンドが背嚢から取り出したのは、ヴィータがなくしたうさぎのぬいぐるみだ。

 それをアロンドが持っているということは、昼間あの店でぬいぐるみを盗んでいたのは、やはりアロンドだったのだ。ケントが言っていた通りだ。

 しかし、なぜアロンドがぬいぐるみなんかを? 

 片手で耳だけを掴んでぞんざいに腕からぶら下げている様からは、欲しかったからつい間が差したようにはとても見えない。

 ……イヤな予感しかしない。たまらずヴィータは叫ぶ。

 

「返せよ! それあたしのだぞ!」

 

 しかし、アロンドはぬいぐるみを乱雑に掴んだまま。

 

「おいおい、こいつはケントって奴から無理やり押し付けられたもんなんだろう? だったらこれが別に()()()()()()お前には構わないだろう」

 

 アロンドのその言葉に、ヴィータははっと目を見開き、

 

「お前、それをどうする気だ?」

 

「決まってんだろう」

 

 アロンドは不気味な笑みを浮かべながら両手でぬいぐるみの頭を掴むと、

 

やめろおおおお!!

 

 ぬいぐるみを勢いよく真っ二つに引き裂いた。

 裂かれたぬいぐるみの中からは、白い綿が大量にあふれ出てくる。

 独特な造形だがうさぎの形をしていたぬいぐるみは、アロンドの手によって一瞬で綿のかたまりとなった。

 それを見てニヤリと笑うと、アロンドはぬいぐるみだった物を無造作にヴィータの前に放る。

 

「ほら、返してやるよ。優しい主からもらった大切な人形なんだろう」

 

 ヴィータはぬいぐるみを取ろうともせず顔を伏せ、肩を震わせる。

 ……そして、

 

「このガキャァ! 調子こいてんじゃねえぞ! ぶっ殺してやる!」

 

 ヴィータは槌を構えて飛びかかり、アロンドも空中から落ちてきた短刀を掴んで迎え撃つ。

 ここまではすべてアロンドの思惑通りだった。

 

 

 

 

 

 

 リヴォルタ東区。

 ところどころ異国風の建物が混じっている東区で、白髪で犬のような耳がついている褐色肌の大男と、左手首に藍色の刺青を刻んだ青髪の女が対峙していた。どちらも筋骨隆々のたくましい体つきをしており、そんな二人が睨み合っているのを目にしただけで並大抵の者は逃げて行くだろう。

 

 白髪の男、ザフィーラは青髪の女、トリノに向かって口を開く。

 

「トリノ、まさかお前がこのような凶事に加わっているとはな」

 

「生きるために必要なのでな。まさかと思うがお前ひとりで私を止めに来たのか?」

 

 トリノの問いにザフィーラは「ああ」とうなずく。

 それをトリノは苦笑で返した。

 

「愚かだな。お前たち全員で我らを一人ずつ倒していけば、市民の犠牲は増えても我々を倒すことはできたかもしれんのに」

 

「それこそ愚かな話だ。我ら守護騎士がお前たちごときを相手に、なぜそのような戦い方をせねばならん? むしろ都合がいいというものよ。一対一の戦いで我ら守護騎士が負けることなどありえん。相手が闇の書の主か()()()でもない限りな」

 

 ザフィーラは固く握られた拳を突き出して告げる。

 

「ここでお前を倒してそれを証明して見せよう!」

 

 それに対しトリノも斧を構える。

 

「いいだろう。せめて《リアクト》するまでは持ちこたえて見せろよ」

 

 両者は同時に足を踏み出し、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 リヴォルタ北区。

 街を襲っているゴーレムから逃げようとする数人の男たちの前に、紫髪で険のある顔つきの男が大剣を手に立ちはだかっていた。男の首元には藍色の刺青が刻まれており、それがより一層男にいかつい印象を与えていた。

 

「な、何だあんた!? 早くそこをどいてくれよ。あの化け物に見つかる前にここから逃げないと」

 

 そう訴える男に紫髪の男は冷淡な口調で尋ねる。

 

「お前、グランダムって国から来た人間がどこにいるか知らないか?」

 

「グランダム? それなら俺たちが住んでいる国だけど、あんたもグランダムから来たのか?」

 

「……」

 

「だったらちょうどいい。俺たちと一緒に逃げよう。あんた結構強そうだし、一緒に来てくれるととても心強い」

 

 男はそう誘うものの、紫髪の男は無視してさらに問いかける。

 

「お前たちの他にグランダムから来た奴らは?」

 

「そんなの知らねえよ。化け物がいきなり現れて、みんなあちこちに逃げ回ってんだから。俺たちも早く――ぐああっ!」

 

 逃げようと言いかけた男は体を真上から斬りつけられ、そのまま地面に倒れる。すぐ側では紫髪の男が剣を振り下ろしていた。

 二つ数えるほどの間を置いて、他の男たちはようやく理解する。理解せざるを得なくなる。

 紫髪の男が自分たちの連れを斬り殺したのだと。

 

「うわああああ!!」

「助けてくれえええ!!」

 

 男たちはすぐさま逃げ出す。

 しばらく走ってから男たちの一人が振り返って後ろを見てみると、紫髪の男は自分たちを眺めながら立ち止まっている。

 疲労していて今は走れないのか、あるいは追いかける気はないのか。

 距離がだいぶ開いたこともあって男はつい安堵してしまい、その場に立ち止まって息をつく。すると……。

 紫髪の男はニヤリと口の端を歪めると一歩足を踏み出し、恐るべき速さで迫ってきた。

 驚きのあまり男は口をぽかんと開ける。

 呆ける男に紫髪の男は、

 

「俺の前に現れたグランダムの人間は全員皆殺しだ!」

 

 それだけを告げて紫髪の男は大剣を振り上げる。

 男はそれをただ見ていることしかできなかった。

 だがそこへ、

 

「下がって!」

 

 突然、上から降ってきた女の声に、紫髪の男は動きを止め、襲われていた男も顔を上げた。

 

「セヤァァァァ!」

 

 茶髪の少女が空から降ってきて、手にしていた大剣を紫髪の男へ振り下ろす。

 それを見て男は慌てて逃げ出し、紫髪の男は自身の大剣を前に突き出した。

 二振りの巨大な剣が激しくぶつかり合い、けたたましい金属音があたりに響き渡る。

 茶髪の少女は地に足をつけると同時に後ろへ跳んで、紫髪の男と間合いをとった。

 少女は鋭い目つきで紫髪の男を睨む。

 

「ヴァルカン!」

 

「誰かと思えばお前か。できればあの男とやり合いたかったんだが……まあいい。お前も俺の手で殺してやりたいと思っていたからな。それに身内の生首を手土産に奴に会いに行くというのも面白いかもな。ククッ」

 

「ひぃ!」

 

 生首という単語に反応して、ヴァルカンに襲われていた男はティッタを置いて逃げて行く。

 ティッタも彼には目もくれず、ヴァルカンと対峙し続けていた。

 鋭い目で自分を睨みつけるティッタに、ヴァルカンは肩をすくめて思いもよらないことを告げる。

 

「ただまあ、お前も奴を憎んでいるっていうなら話は別だ。なんなら、これから一緒に奴を殺しに行かねえか?」

 

「何だって?」

 

 ヴァルカンの申し出に、ティッタは思わず眉をひそめる。

 それを見ながらヴァルカンは面白そうに続けた。

 

「俺が見た限りだとお前、前の王が愛人に産ませたガキだろう? 奴と同じ目の色をしているにも関わらず、身なりと話し方が平民のそれと変わらねえ。口の悪さに至ってはスラム育ちといい勝負だ。とても姫として育てられたようには見えねえな」

 

 その物言いにさすがのティッタもむっとしながら、

 

「……そうだよ。アタシは前の王様と王様の妾だった母さんとの間に生まれた子供。いわゆる庶子って奴だ。あいつ(ケント)はアタシにとって腹違いの兄にあたる。だけど、それがどうなって、あんたと一緒にあいつを殺しに行くって話になんの?」

 

 怪訝そうに尋ねるティッタに、ヴァルカンは手を広げて言った。

 

「簡単な話だ。あいつは生まれながらに王子としてまわりの人間にかしずかれ、何不自由なく育ってきた。その上、ディーノとの戦いで、前の王が死んでからは奴がグランダムの国王だ。

 ……だが、それに比べてお前はどうだ。母親が愛人というだけでお前は一介の平民として市井に埋もれ、王家特有の虹彩異色(オッドアイ)を隠すために、騎士になるまでずっと眼帯をつけて過ごすことを強いられてきた。この先もそうだ。もし奴の機嫌を少しでも損ねたら、お前はすぐに騎士の地位を奪われて平民に戻されるだろう。そうなったらまた市井の片隅で肩身の狭い生活に逆戻りだ。必要のない眼帯まで付けさせられてな。

 それに不満を持ったことがないとは言わせねえぜ!」

 

「――っ!」

 

 図星をつかれ、ティッタはついうなりを漏らす。

 ヴァルカンの言うとおり、ティッタは自分と母の存在を隠した実の父、先王を今でも恨んでいる。王子として育った、ケントという腹違いの兄のこともよく思ってはいなかった。騎士としての上官であるシグナムには敬語を使っているのに、主君であるケントにはタメ口で話すのも、先王や彼への敵対心の名残だ。

 

 

 

 

 

 そもそも、ティッタがケントに近づいたのは彼を困らせてやるのが目的だった。

 兵士としてグランダム城に潜り込み、ことあるごとに先王の隠し子であることをちらつかせて、城内における先王とケントの評判をできる限り落としてやり、最後は慰謝料として多額の金を貰ってから王都を去る予定だった。

 

 ティッタはそのために、ディーノ戦から少し間を開けてグランダム城を訪れた。

 だが、そこで国王となっていた腹違いの兄を見てティッタは驚いた。

 彼の隣にはヴィータという子供がいて、対等な物言いを許していたのだ。それを許す代わりにいかがわしい関係を強いている可能性も十分あったが。

 とにかくあの時ティッタが見たケントの姿は、彼女が長年思っていた異母兄の姿と全く違うものだった。

 

 そして決定的だったのはマリアージュの大軍に襲われていた、東端の都市で再会した時のやり取りだ。

 あの都市は亡き母の生まれ故郷であり、コントゥアがガレアに落とされたと聞いてから、ティッタはすぐにあの都市に駆けつけた。

 ティッタはそこで再びケントと再会した。

 どうやら都市を守るために、自ら王宮から飛んできたらしい。政治的な事情のためかもしれないが、ティッタは密かに感心しながらケントに助力を申し出た。

 驚くのはそれからだ。

 ケントはとっくに自分の素性に気が付いており、行動を共にする条件として、自分が今まで右眼に巻いていた眼帯を外せと言ってきたのだ。それは明らかにティッタの素性を公表すると言ってるのも同然。

 その後、ケントはさらに自分を直属の騎士に取り立てその傍に置いた。

 その時にティッタは確信した。

 こいつは明らかに先王とは違う。

 

 だからティッタはとことん付き合ってやることにした。

 なんでもケントは闇の書という、どんな願いでも叶えられる本を持っていて、戦いの合間にその本を完成させるための魔力を集めているらしい。

 その闇の書とやらをケントが完成させたら、彼はそれを何に使うのか、その時グランダムとベルカはどうなるのか、そしてもしケントが聖王や雷帝を下してベルカ全土を支配するようなことがあったら、果たして彼は今のままでいられるだろうか。

 そんな()の行く末を最後までこの目で見届けてやろうと、ティッタは心に決めた。

 

 

 

 

 

「……先王やケントへの不満は確かにあるよ」

 

「だろうな」

 

 思った通りと、ヴァルカンはニヤリと口角を上げる。

 しかし、ティッタが「でも」と続けた途端、ヴァルカンは笑みを消し訝しげな表情になる。

 

「……でも今はそんなことより、あいつがこれから何を為すのか、これからグランダムをどう取り仕切っていくのか、そっちの方がずっと気になるんだ。だからアタシにあいつを殺す気はないよ。あいつに、お兄様にここで死なれてもらっては困るから!」

 

「ちっ、そうかい。先王の子供どうしが殺し合っているところをたっぷり見物してから、まとめて殺してやろうと思ったんだが。じゃあ最初の予定通りお前を殺して、その首を持参しながら奴に会いに行くとしよう……俺が住んでいた国を滅ぼしたグランダム王にな!」

 

 そう息巻くヴァルカンを前にティッタは口を開く。

 

「そう言えばそのことなんだけど、一つ聞いてもいい?」

 

「はっ?」

 

 緊張した空気が漂ってきたところで水を差された気分になり、ヴァルカンは不満そうな声を上げた。

 ティッタはそれに構わずに、

 

「ディーノって国はともかく、あんたが住んでた村を滅ぼしたのってグランダム軍じゃないよね? それは一体誰なの?」

 

 ティッタが言ったその言葉に、ヴァルカンは思わず目を剥いた。

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