グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第42話 リアクト

「俺がお前たちと一緒に……だと」

 

 カリナが言ったことをそのまま復唱する俺に、カリナは「ああ」と相槌を返しながら刀を鞘に収めていた。

 

「……なあカリナ、お前はとっくに俺の正体に気が付いているんだよな?」

 

「もちろん、北のグランダムって国の王様だろう。左右違う瞳の色と腕が立ちそうな魔法生物を何体か連れている時点で分かった」

 

 その言葉に俺は呆れ、頭を抱えそうになるのをこらえながら続けて言う。

 

「一国の王が傭兵団になんか入れると思うのか? お前だってそれくらいわかるだろう! それともまさか、俺に国を捨てろというんじゃないだろうな?」

 

「おっと、言い方が悪かったか。そんなつもりで言ったんじゃないよ。この仕事が終わった後、私たちと一緒に雇い主のところへ行ってみないかって意味。その後はあんたの好きにしたらいい。別に王様をやめろとは言ってないよ。一国の王なら殺しには不自由しないだろうし、むしろ好都合だ」

 

「殺し? どういう意味だ?」

 

 最後の一言の意味が分からずカリナに問いかける。

 殺人を趣味にするような嗜好なんて俺は持っていない。

 だが、カリナが次に言ったことは、俺の想像を絶する内容だった。

 

「エクリプスに適合した人間は()()()()()()()()()()()()

 

「……なんだと?」

 

 思わず聞き返す俺にカリナは構わず続ける。

 

「エクリプスに適合した人間はやがて激しい苦しみと、それに伴う殺人衝動に苛まれるようになる。それに耐えられる奴はほとんどいない。万が一耐えられたとしても、《自己対滅》って現象が起こって死んじまう。私たちは定期的に殺しをしたり、“奴”の処置を受けることでなんとか抑えてるけどね」

 

「……それは……つまり……」

 

 言葉を詰まらせる俺にカリナは言った。

 

「私たち同様、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことさ」

 

 ……そんな馬鹿な。

 あまりにも馬鹿げていて認めたくない事実に打ちひしがれる俺にかまわず、カリナは話を続ける。

 

「私も対滅から逃れるために、いろんな村や街を襲って殺しを重ねてきた。雇い主からの依頼ってのもあるけど、私自身が生きるために仕方なくっていうのが一番大きな理由だ」

 

「ということは、リヴォルタ周囲の村で起きていた虐殺はお前たちが……」

 

 俺の言葉にカリナはこくりとうなずいた。

 

 やはりか。

 虐殺が起きていた村では、村民が一人残らず殺されているほどの状況にも関わらず大群が動いた形跡はなかったが、こいつらが下手人だとすれば納得がいく。

 

 それに何より、エクリプス因子の話が本当だとすれば村人全員を虐殺した理由にも説明がつく。

 何かを奪うためではなく、殺しそのものが目的だったというのか。

 

「ただ、ディバイダーでやられた奴の中には、ごく稀に傷口からエクリプスの因子が入り込んで適合者になる奴がいるんだよ。あんたみたいにね。私は襲撃のついでにそんな奴を拾って仲間に入れたりしてんの。もちろん善意や罪滅ぼしってわけじゃなくて、襲撃をやりやすくするための戦力増強って狙いや、雇い主から適合者を連れて来いって言われてるためでもあるんだけど」

 

「その適合者とやらを集めて結成したのがフッケバイン傭兵隊か……ではまさか、アロンドの家族やヴァルカンの村を襲ったのも」

 

 カリナはそこでニヤリと笑って答えた。

 

「そう、私だよ。アロンドの両親も、ヴァルカンが住んでた村も、それ以外の連中の故郷も、()()()()私がこの手で滅ぼした」

 

 

 

 

 

 

 ヴィータが振り下ろした槌を、素手で受け止めた格好のままアロンドは動きを止めている。

 対するヴィータも驚愕に目を見開き、槌を握った態勢のまま固まっていた。

 

「それ、本当なのか?」

 

「そんなことで嘘なんてつくか。俺の親を殺し、俺を殺しかけたのはあのカリナって女だよ。エクリプスに適合してなかったら俺もあのまま死んでただろうな。で、それがどうかしたのか?」

 

 ヴィータはアロンドが掴んでいる方とは逆の方向に槌を振るい、槌を自分の手元に戻しながら怒鳴る。

 

「いやおかしいだろう! なんで自分を殺そうとした相手のもとで傭兵なんかやってんだ? あいつはお前の親御さんの仇でもあるんだろう!」

 

「まあ普通はそう思うだろうな。俺もあの後で目が覚めた時は、のんきに俺が起きるのを待っていたっていうカリナを殺そうとしたさ。でも逆にあの女にねじ伏せられてエクリプスについて色々聞かされてよ、そこであの女が作ろうとしていた傭兵隊もどきに誘われたんだ。他の奴も大体同じようなもんだぜ」

 

「馬鹿な……そんなあっさりと自分の家族を殺した奴についていくなんて……」

 

 

ヴィータは信じられないものを見る目をアロンドに向ける。

 さすがのアロンドも、ばつが悪そうに頭をかきながら答えた。

 

「そりゃ俺も迷いはしたけどよ。適合者って奴になっちまった俺が生きていくためには、多かれ少なかれ誰かを殺していく必要がある。だが、いくら強くなろうが再生能力を持っていようが、単独で殺しをしていたらいつかはどっかの傭兵団か軍隊に捕まっちまうのがオチだ。他の適合者と組んだ方がいい。そういうわけで俺もカリナたちについていくことにしたわけだ。これで納得したか?」

 

「できるわけねえだろう!!」

 

 吼えながらヴィータは再び槌を振りかぶるが、アロンドはそれを難なくかわす。

 

「何がエクリプスだ! 何が人を殺さないと自分が死ぬだ! そんな馬鹿げた話に乗せられて、自分の家族を奪った奴と同じ穴の狢にお前が堕ちてどうすんだ!」

 

「はっ、お前ら魔法生物やそこらの凡庸な人間どもにはわかんねえよ。自分のまわりにいる奴は手当たり次第に殺してみたい、殺さずにはいられないあの衝動、それを満たさない限りいつまでも続く頭痛、それらを一度でも味わったらカリナが言ってることは本当だとわかるぜ。まあ、かくいう俺も対滅までしちまった奴はまだ見たことねえけどな」

 

 しゃあしゃあと言ってのけるアロンドを、ヴィータはきっと睨みつけて槌を構える。

 それに対してアロンドは短刀を片手で回しながら言った。

 

「さて、冥途の土産はこれくらいでいいだろう。ただ、武器を振り回すだけの戦いもそろそろ飽きてきたな。そろそろ本気でかかるとするか」

 

 そう言うとアロンドは短刀を回すのを止め、何も持たずに空いている左手を短刀に近づける。

 それを見てヴィータは、

 

「まさか? ――させるか!」

 

 昨日と全く同じだ。

 そう思った途端、ほとんど反射的にアロンドの手から短刀を叩き落とそうと、ヴィータは槌を振りかぶるが、その甲斐もなく短刀はアロンドの左手に深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 北区でもティッタとヴァルカンが激しく大剣をぶつけ合っていた。

 

「グランダム軍は村を襲ってないか……どうしてそう言い切れる? お前はその時、騎士になってないどころか軍に加わってもいなかったんだろう」

 

「ディーノとの戦については、アタシも前から調べてたんだ。一応父親が最期に臨んだ戦だし。それで街の人や王都の見回りをしている衛兵からあの戦についておおよそのいきさつを聞いたり、騎士になって王宮で暮らすようになってからは文官さんを捕まえて行軍記録を見せてもらったりしていたんだ」

 

「それで気付いたってわけか」

 

 大剣を振るいながらティッタは「ああ」とうなずく。

 

「グランダム軍は国境の森でディーノ軍を破った後はまっすぐ王都を目指して、そこで併合の宣言や帝国への通達といった戦後処理をしていた。グランダムに帰国する時も同じだ。どこにも寄り道なんかしていない。

 それにあのお兄様やヴォルケンリッターが、戦に関わりがない村や街への襲撃なんて許すはずがない。他の兵士にしたって、何万人もの敵兵を倒したシグナムさんやヴィータを怒らせるような真似なんかするはずないよね。

 グランダム軍の中に村を襲うような奴がいたなんて到底思えないんだ!」

 

 ヴァルカンの大剣をはじいて、ティッタは強く言い切った。

 ヴァルカンは動きを止め顔を伏せ、しばらくして彼はクククと笑いながら言う。

 

「その通りだ。俺がいた村を滅ぼしたのはグランダム軍なんかじゃねえ。あのカリナって女が率いているフッケバイン傭兵隊って奴らだ。あいつらが俺のダチや知り合いを殺したんだとよ」

 

「それを分かっててあいつらと行動を共にしているのか? いや、それはともかく、あんたの村とグランダムは何の関係もないんだろう? それなのに何でグランダムを恨む? 何でグランダム人を執拗に狙うんだ?」

 

「関係ないとは言えねえよ。グランダムがディーノに攻め込んでこなかったら、カリナたちも村を襲うことはできなかったかもしれねえだろう。まあ、あいつらから見ればそこいらの軍隊なんて、ガキの群れとたいして変わらねえだろうし、戦争なんて起こらなくても襲撃は起きていたかもしれねえ。それは俺もわかってる」

 

 そこまで言ってヴァルカンは自虐的に笑い、ティッタは不快そうな顔になった。

 

「要するにあんたは自分がやっていることを正当化したいから、お兄様やグランダムを悪者にしたいだけなんじゃないか。くだらない。そんなんじゃあんたなんかに負い目を感じているお兄様がバカみたいじゃないか。

 ――この逆恨み野郎ぉ!」

 

 ティッタは勢いよく大剣を叩きつける。

 ヴァルカンは自らの大剣でそれを受け止めるが、あまりの勢いと震動付与の技能によって体をふらつかせてしまう。だがヴァルカンは足に力を入れ、その場に踏みとどまることでどうにかよろめくのをこらえ、剣を振り上げてティッタの剣をはじき返した。

 

「~~っ、逆恨み野郎の癖にやるじゃん」

 

「ぬかせ、その減らず口も叩き斬ってやるよ(しかし、あの小娘と剣をぶつけるたびにくらッとしてきやがる。王族や高位の貴族のみが持つ固有技能って奴か? 負ける気はしねえがうっとおしくはなってきたな……そろそろ頃合いか)」

 

 ヴァルカンは片手で大剣を構え、ティッタも両手で大剣を握りしめて構えをとる。

 しかしそこでヴァルカンは剣を横に向け、ティッタは怪訝な顔を浮かべる。

 そこでヴァルカンはにやりと笑みを浮かべ、躊躇なく自身の腕を斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、そんな感じで徐々に仲間を集めていって今に至る。あっちのライラは別だけどね」

 

 そう言って、助太刀もせず建物の屋上でたたずんだままのライラを指さしながらカリナは続ける。

 

「で、あんたも私らと同じ、人を殺さないと生きていけないエクリプス適合者になっちまったわけだが、とりあえず私たちと一緒に雇い主と会ってみないかい? ディバイダーとリアクターくらいはもらっておいた方がいいだろう。

 さっきも言ったがあんたのエクリプスとの相性はかなりのもんだ。まさか適合してすぐに《視界補強》と《再生能力》を手に入れちまうなんてね。私も適合度はかなり高い方だって言われてるんだけどあんたほど早くはない。もしかすればあんたは、雇い主が長年探し求めていた《ゼロ因子適合者(ドライバー)》かも」

 

「ゼロドライバー?」

 

 おうむ返しに呟く俺にカリナは「それはともかく」と言って、

 

「雇い主からディバイダーとリアクターをもらった後は特に何もない。一国の王であるあんたが傭兵隊に入るわけにもいかないだろうし、殺しにも不自由しないだろうしね。ただ、それでも定期的に“奴”から副作用を抑える処置を受ける必要はあるんだが」

 

 “奴”……カリナの口からまたその単語が出てきた。

 どうやらエクリプスの副作用を抑える処置をカリナたちに施している者が別にいるらしい。

 カリナに一連の襲撃を行わせている雇い主とやらか、それとも……。

 

「そこで提案なんだけど、あんたがグランダムへ帰る際に私たちもそこへ連れて行ってくれない?」

 

「――何!?」

 

 カリナの口から出た思わぬ言葉に、俺は眉をひそめる。

 

「ヴォルケンリッターって奴らみたいに騎士として直属に置いてくれてもいいし、グランダムに拠点を置くのを認めるだけでも構わない。もうリヴォルタにはいられないだろうし、拠点を移す必要があると思っていたとこだったんだ。それであんたはいつでも“奴”から対滅を抑える処置を施してもらえて、私たちは新しい寝床を手に入れることができる。お互いにいい話だと思うんだけど」

 

「…………断る」

 

 かなりの間を空けて俺はそれだけを口にした。

それを許せばカリナたちは間違いなくグランダムの各地を襲うようになる。自分たちが生き永らえるためとは断じて認められることではない。

 

「いいのかい? “奴”からの処置を受けないと殺しだけじゃあ対滅化を完全に抑えられる保証はないぞ。私なら“奴”だけでも傍に置くけどね」

 

「悪いがお前たちのような奴らをグランダムに入れるわけにはいかない。それに俺は自分が生きるためだけに誰かを殺す気はない。例え対滅とやらが我が身に起きようとな」

 

 それを聞いてカリナはせせら笑う。

 

「それはそれは、大した覚悟だ。だけどそれまでの苦しみは半端じゃないよ。適合者はなまじ生命力が高い分、普通ならショック死するほどの苦痛でも死ねないんだ。それを長いこと味わって最後には……。それでもいいのかい?」

 

「俺自身が虐殺者となるよりはましだ。それに我が国には腕利きの医者が少なくとも二人はいる。まだ諦めるには早すぎるだろう」

 

 正体不明の因子とやらが相手でも、先史時代の知識を持つシャマルとイクスならもしかすれば。

 ……それでもだめならもはやこの命を自ら断つしか……。

 だが、それでも俺自身が理由もなく民の命を奪う暴君になるよりはましだ!

 

「あっそ。うまくいくといいけどね。で、そうなるとやっぱりまだ私の仕事(殺し)の邪魔をする気なの?」

 

 その問いに俺はこくりとうなずいて剣を構える。

 

「そうかい。残念だよ。あんたとは仲良くなれると思ったのに……まっ、それはそれとしてお互いに適合者同士だと、斬り合いじゃらちが明かないね。そろそろこっちも本気で行かせてもらうよ……ライラ!」

 

「はい、我が主」

 

 カリナに呼びかけられた途端、ライラは瞬時に魔導着らしき白い服を装着して飛び上がり、ものすごい速さで主の横に並んで詠唱らしき言葉を唱える。

 

「シュトロゼック1st……リアクト・エンゲージ」

 

 その瞬間、カリナとライラがまばゆい光に包まれる。

 イヤな予感しかしない。

 

「――フライングムーブ!」

 

 俺以外の動きが緩やかになる。

 カリナたちを覆う光はいくらか収まっていて、カリナとライラは何も身につけていない状態で生まれたままの姿を俺の前にさらしていた。

 カリナの体は今まで衣服に隠れていた右腕と豊満な胸の上に例の刺青を刻んでいる。

 それに対してライラの体は刺青どころか傷跡一つない綺麗な白い肌だった。胸は主以上に大きい。

 だが、カリナの右腕とライラの左腕にはめられている銀色の腕輪は粒子化せず、二人の腕にはめられたままだ。あれがリアクターなのだろうか?

 ――それどころじゃない!

 俺は慌てて二人のもとへ飛ぼうとするが、いつの間にあそこまで飛んでいたのか、技能が発動した頃にはとっくに二人は俺がいる場所よりはるか遠くに浮いていた。

 今は何としてもあの二人を引きはがさないと!

 俺は必死で彼女らに近づこうとする。

 だがその時――

 

「ぐあああああ!!」

 

 突然体中から激痛が走り、俺は思わずそばにある建造物の屋上に降りてその場で膝をつく。

 そして、もしやと思い俺はカリナたちの方を見る。

 案の定、激痛にひるんだことで技能は解けてしまっており、カリナたちがいた場所には一人の女性が浮いていた。

 

「おや、いつの間にかまた瞬間移動しちまったみたいだねえ。念のために距離を空けておいて正解だった。……その様子だと体が技能についていけなかったみたいだね。おかげであんたの技能がどういう技なのかも見当がついたよ」

 

 白い髪を後ろに束ね、赤い瞳で苦痛にもだえる俺を見ている、ライラと一体化したカリナ・フッケバインだった。

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