グランダムの愚王   作:ヒアデス

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この話で初めて白雪という技が出てくるんですが、Forceを何度見返しても頁を舞い散らす理由が分からない。


第43話 生きた禁忌兵器

 ライラ・シュトロゼックと融合し、変貌を遂げたカリナ・フッケバインがケントの前にその姿を現している頃、彼らが対峙している中央区を囲む各地区でも、カリナの部下たちと戦っている守護騎士たちの目を疑うような出来事が起こっていた。

 

 

 

 

 

「――それは!?」

 

「《ディバイダー940 ボクスター・リアクテッド》。リアクターを埋め込んだこの刀の真の姿だ」

 

 唖然とするシグナムを前に、二本の黒い剣を振りながら赤い魔導着のような服をまとったサガリスはそう告げる。

 

(サガリスが刀で自分の手を切った途端、奴の刀が今までとまったく違う形に。変形機能とは違うようだが――)

 

 いぶかしみながら対峙するシグナムに、サガリスは笑みを浮かべ――

 

「驚くのはまだ早いぜ。リアクターによって性能を引き出したディバイダーには恐るべき能力があってよ。ベルカ中に出回っている禁忌兵器(フェアレーター)にだって引けを取らねえ。だからか、これにはいくつか呼び名があってよ。それは――」

 

 

 

 

 

 

「《ディバイダー720 ケイマン・リアクテッド》。こいつをお前に見せるのは二度目だな」

 

「てめえ……」

 

 持ち主の血を浴びて黒い剣となった武器を持ちながら、サガリスと同じ赤い魔導着のような服を着たアロンドはヴィータを挑発する。

 昨日ヴィータが賊の拠点で見た時とまったく同じだ。

 

(形が変わっただけじゃねえ。あたしが見た限りではあの武器には魔法を打ち消す力がある。だからか、あいつはあれを――)

 

「じゃあこの《魔導封じ》の力をお前にも味わわせてやるか。もっとも《魔導封じ》ってのはいくつかあるディバイダーや俺たち適合者の異名の一つにすぎねえんだがな」

 

「へえ、他には何て呼ばれてんだよ? お前が死ぬ前に一度だけでも聞かせてくんねえか?」

 

 挑発混じりの問いに、アロンドは機嫌を悪くすることなく笑いながら答える。

 

「ああ、それは――」

 

 

 

 

 

 

「《ディバイダー690 ハイブリッド・リアクテッド》。無手でここまで凌いできたところ悪いが、そろそろこちらも全力を出させてもらうぞ。無論お前も武器を持っているのならそれを使っても構わないが」

 

 見るからに硬そうな赤い鎧をまとい、先ほどよりも一段と大きくなった斧を突き出して、トリノはそう言ってくる。

 それに対して、

 

「ではお言葉に甘えてこの拳を使わせてもらうとしよう。私にとってこれ以上の武器は存在しない。そんな鎧で身を守ったつもりなら大きな間違いだ」

 

 ザフィーラは拳を構えて、大斧を持ったトリノに向き直った。

 そんな相手にトリノは苦笑をこぼす。

 

「そうか。お前みたいな男は嫌いではない。うちのボンクラ(サガリス)と交換してほしいくらいだ。お前と戦うことになったのは実に残念だ」

 

「それはこちらも同じだ。昨日お前と酒を酌み交わした夜は、本当に楽しいひと時であったぞ。もう一度聞こう。武器を引いて我らに下るつもりはないか? シャマルやイクス殿なら、エクリプスがもたらす衝動を克服するすべを見つけられるやもしれん。そうすれば我らとそなたたちは、今後も良き友で在り続けられると思うのだが」

 

 ザフィーラからの提案に、トリノは苦笑を浮かべたまま首を横に振る。

 

「あの清廉そうなお前たちの主がそれを許すと思うのか? それにエクリプスはそんなに甘いものではない。我らのように因子を取り込んだ者だけが分かる。あの衝動に抗えるものなどいない。抗える者がいたとしても最後は自己対滅によって、無残な死を遂げるだけだ。それに打ち勝つ手段などありはしない。――おそらくエクリプスというものは、人間を兵器に造り変えるために造られたものなのだからな」

 

「人間を兵器に造り替えるためだと!?」

 

 ザフィーラの復唱にトリノはこくりとうなずいた。

 

「ああ。ディバイダーや我々にはいくつか呼び名があるが、ディバイダーと共に人間兵器となった我らの事を雇い主などはこう呼ぶ。――」

 

 

 

 

 

 

「《ディバイダー930 カイエン・リアクテッド》。さあて仕切り直しと行こうか。それともさっきの言葉を取り消して、俺に詫びでも入れるか? その場で土下座して許しを乞うなら考えてやるぜ……楽に殺してやるかどうかくらいはな」

 

 赤い魔導着のような服をまとい、もはや巨剣と呼ぶべき程に巨大化した剣を片手で持ちながら、ヴァルカンはティッタに凄む。

 さすがにティッタもひるみかけるが、彼女は果敢にもそれをおくびに出さずに、肩をすくめるそぶりを見せる。

 

「さっきの言葉? ああ、逆恨み野郎ってこと? 別にいいけどあれ以外に適当な言葉なんてなくない? 自分の故郷とは関係がない国の王や人々を仇とか言ってつけ狙うなんて、逆恨み以外の何物でもないと思うんだけど」

 

「ハハッ! リアクトした剣とこの《鎧装(がいそう)》って魔導着もどきを見ても、悪態が付くだけの威勢が残っていて安心したぜ。これくらいですくみ上るようじゃ痛めつける甲斐がないってもんだからな」

 

「ふん、そうかい。じゃあとっとと戦いを続けようか。それとも剣が重すぎて実はもう立ってるのが限界か?」

 

 大剣を向けるティッタに、ヴァルカンははっと鼻を鳴らす。

 

「んなわけあるかよ。俺たちは魔導封じ、そして雇い主って奴らから――と呼ばれてる存在なんだぜ」

 

「何だって!?」

 

 ヴァルカンが言った言葉にティッタは思わず声を上げる。

 彼の口から出た言葉は、現在ベルカ中を騒がせている禁忌兵器を含めた単語だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 固有技能、フライング・ムーヴの反動に耐えきれず、目の前にあった建造物の屋上に降りて、膝をついている俺の前に現れたのは、髪と目の色がライラと同じものに変化したカリナだった。

 変わったのは髪と目の色だけではない。

  服装も赤く露出が多くなったものに変貌しており、今まで隠れていた胸元とへそのまわりが露わになっている。

 そして今まで腕と胸元にしかなかった藍色の羽根を模した刺青のような模様は、今では彼女の全身と右頬にまで広がっていた。

 そんなカリナ、いやカリナたちの変貌を眺めながら俺は立ち上がった。全身の骨が砕けたような激痛は嘘のように消えている。これが再生能力か。

 

「《ディバイダー001 シュトロゼック・リアクテッド》。通称《赤の女王》。私がリアクトしているところを見ることができる奴は滅多にいないんだ。死んじまう前によく見ておくといい」

 

「リアクテッド……まさか、リアクターというのはライラ自身の事だったのか?」

 

「ピンポーン! ライラ自身が銀十字の書の力を引き出すリアクターだったってわけさ。びっくりした?」

 

 カリナのおどけた問いに、俺は返事もうなずきも返さずにカリナを睨む。

 それに構わずカリナは話を続ける。

 

「もっとも人の形をしているのは、銀十字の書に対応しているリアクターだけだがね。《シュトロゼック》はリアクターの中でもかなり特別なんだ。何せ闇の書とともに造られたっていう融合騎を模倣したものらしいからね。本当に知らないのか?」

 

 カリナからの問いに俺は「ああ」とだけ答えた。

 

「本当に知らないようだな。長い年月の間にいつの間にか消滅してしまったのか、あるいは何らかの理由で封じられたのか……まあいいや。じゃあ改めて二回戦……の前に一つだけ聞いてもいいか?」

 

「……何だ?」

 

 互いに剣を抜いたところで問いを投げられ、わずかに気勢を削がれたように思いながら俺は問いを返す。

 そんな俺にカリナは、

 

「さっき私たちがリアクトしている時なんだけど、あんた、もしかして私とライラの裸を見たんじゃない?」

 

「――なっ!?」

 

 カリナの口から出てきた思いがけない言葉に、俺はそれを否定することも忘れて唖然としてしまう。

 ぽかんと口を開けている俺を見て、彼女はにんまりと笑う。

 

「やっぱりね。あんたの顔に赤みが残っていたから、もしやと思っていたけど……聞いたかライラ? あんたは今日初めて(製作者)以外の男に裸を見られてしまったらしい!」

 

 カリナはライラに向かって声をかけるが反応は返ってこない。

 だが、カリナからは刺々しい殺意が伝わってくる。当のカリナ自身はにやにやと面白そうに俺を眺めているにも関わらずだ。

 ということはこの殺意を放っているのは……

 

「じゃあそろそろ本当に二回戦を始めようか。ケント、死ぬ前にちょっと痛い思いをすると思うけど許してやってね」

 

「ちょっ、ちょっと待て! あれはわざとじゃ――」

 

 俺は思わず釈明をしようとするもののカリナは待ってくれず、カリナはすごい速さで俺の前に現れ刀を振り下ろした。

 俺はそれを剣で受け止めるが、あまりの衝撃に思わず「ぐっ」と声を漏らしてしまう。

 さっきよりも一段と重い。

 その刀の重みはリアクトというものによるものなのか、それとも裸を見た俺に対するライラの殺意によるものなのか……おそらく両方だろう。

 カリナはすかさず銀十字の書を取り出し、大量の頁を周囲にまき散らす。

 それらの頁が持つ殺傷力を知っている俺は頁の方に注意を向けた。

 

「“白雪”!」

 

 そんな俺にカリナは刀による鋭い突きを何度も繰り出してきた。

 俺はとっさに剣でそれを受け止めるがすべての攻撃をさばくことはできず、胸を何度も突かれてしまい、たまらず苦悶の声を上げるものの、何とかその場に立ち続けることはできた。

 その場で俺は剣に魔力を込める。

 

「シュヴァルツ・ヴァイス」

 

 紺色の魔力光を帯びた剣をカリナに叩きつけるが、カリナはそれを避けることもせず刀で受け止める。

 俺は後ろへ跳んでカリナと距離を取った。例によって胸の痛みはすでにない。おそらくもう傷も塞がっているだろう。

 

「魔力が込められているはずの剣を、ただの刀で受け止めただと」

 

「リアクターによって真の力を引き出したディバイダーはその名の通り、持ち主に向けられた魔力を《分断(ディバイド)》することができるのさ。だからあんたがその剣にどれだけ魔力を込めようと、私たちにとってはただの剣と変わらないってこと。

 この力を雇い主とかは《魔導封じ》って呼んでる。他にもいくつか呼び名はあるけどね」

 

 《魔導封じ》、ベルカのような魔法を主力とする世界では脅威の存在だな。

 俺がそんなことを思っていると、カリナは再び銀十字の書を取り出して無数の頁をあたりに舞わせる。

 しかし、先ほどのような突きを繰り出すには、俺とカリナの距離は開きすぎている。猛速度で俺の眼前まで来て攻撃をしてくるつもりか?

 カリナが何を仕掛けてくるつもりなのか、必死に頭を巡らせている俺の前でカリナは口を開いた。

 

「“灰被り”!」

 

 まさか!

 直感に従い俺はほとんど反射的にその場から飛び上がる。

 それと同時に俺たちがいた場所では大爆発が起きた。

 屋上は消し飛び、建物自体も爆発の衝撃で柱などの支えを失って、みるみるうちに崩れ落ちていく。

 カリナはどうした?

 ふとそう思った俺は崩れていく建物から空中へと視線を移す。

 そこにはいつの間にか空中へと身を移していたカリナの姿があった。

 さすがに自分で起こした爆発に巻き込まれるほど考えなしではないか。

 

「今度はうまく避けたか。いいねえ、そうこなくっちゃ」

 

 カリナは余裕そうにそんなことを言ってのける。

 俺の方はカリナの軽口に応じず、この状況について考えていた。

 今、俺とカリナは地上からはるか高く離れた空中にいる。

 地上で逃げ回っていた市民たちは、すでにどこかへ逃げたらしく、あたりには人っ子一人いない。

 今なら誰一人巻き込まずに広範囲の大魔法を放つことができるのではないか。

 魔導封じといったところで、せいぜい武器に込められた魔力を打ち消したりするのが関の山だろう。

 まさか()()()()()()()()()()()()()()()()わけではあるまい。

 

 そこまで考えて俺は自分からカリナに飛びかかり、剣を振り上げた。

 カリナは刀を突き出して難なくそれを受け止める。

 俺はそんな彼女の腹を思い切り蹴り上げた。

 

「ぐっ!」

 

 まさかここで蹴りが来るとは思わなかったのだろう。

 カリナは腹を蹴られた衝撃と驚愕で表情を歪めて俺を睨む。

 俺は後ろへ飛んでカリナから距離を取った。

 そして、

 

「フライングムーヴ!」

 

 それを唱えた途端、時間は緩やかになり、そして体の節々に痛みが走る。

 もうすでに一度の戦いで使える限界を超えているのか。エクリプスによる再生能力がなかったら、この時点で体中の筋と骨は砕けて寝たきりになるのは免れなかったかもしれない。

 エクリプス因子とやらにわずかほど感謝して、俺はカリナに向けて三角の魔方陣を展開する。

 技能を発動させた途端、カリナは静止したまま身じろぎ一つしなくなった。

 エクリプス適合者でも技能までは無効化できないのか。もしできたとしてもこの技能は発動者自身に作用するものだ。カリナたちでもこれを止める術はないだろう。

 魔方陣から魔力があふれ出してきた。技能を解除すればいつでも撃てる!

 俺は技能を解除するとともに――

 

「冷却魔法・フィンブル!」

 

 魔法陣から勢いよくあふれ出てきた吹雪がカリナに襲いかかる。

 

「――これほどの魔法を一瞬で? いや、もしやまた」

 

 迫りくる吹雪を前に何事か呟いて、カリナは吹雪に飲み込まれた。

 それを見て俺は心の中でやったかと叫んだ。

 

 あの魔法はディーノ王から蒐集した、俺の父の命を奪った忌まわしき魔法であると同時に、数万体のマリアージュを討ち取って我が国を救った最大の切り札だ。

 あれをまともに喰らって生きていられるものなど、この世界、いや全次元に置いても存在するわけがない!

 いたとしたらそいつはもう人間ではなく……。

 

「なるほどねぇ。通常、広範囲に及ぶ魔法の構築には時間がかかるから、接近戦には向かないものなんだが。あんたの固有技能はその弱点を補うのにも使えるのか」

 

「……嘘だろう」

 

 思わずそうこぼしてしまった。

 それはそうだろう。

 ベルカ中の国々を震え上がらせていたマリアージュを撃退するほどの大魔法を、俺が持ちうる最大の魔法を喰らったはずの奴は……。

 

「なかなか面白い戦い方をするじゃないか。私じゃなかったら勝負は決まっていた」

 

 あの吹雪に飲まれたはずのカリナは平然と宙に浮いたままだった。傷一つ負っている様子はない。

 この時点で俺は確信した……せざるを得なかった。 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 こいつらはもはや魔導師、いや人間と呼べるものではなく……。

 

「何だお前は? お前たちは一体?」

 

 もう何度目になるか、俺は再びその問いを投げつける。

 それにカリナは、

 

「さっき言った通り、私らには魔導封じの他にも色々呼び名があってね。雇い主とかからは《ベルカを滅ぼせる毒》……そして《生きた禁忌兵器(フェアレーター)》とも呼ばれているよ」

 

「生きた禁忌兵器?」

 

 その言葉は俺の口から出たものではなかった。

 俺は思わず後ろを振り返る。

 

「生きた禁忌兵器って一体何を言っているの? それにこんな時になぜ戦いなんてしているんですか? まさかあの傀儡兵(ゴーレム)を召喚していたのは……」

 

「……エリザ」

 

 俺の背後に現れたのは昨日はこの中央区で、今日は南区の店で会ったダールグリュン帝国の貴族令嬢、エリザだった。

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