グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第44話 介入

 ライラと融合し、エクリプス適合者としての真の力を発揮したカリナとの戦いのさなかに現れたのは、ダールグリュン帝国の貴族令嬢、エリザだった。

 彼女は昼間着ていたワンピースではなく、白い鎧に装いを変え、戦いやすいようにスカートは短くしており、黒いタイツに覆われた脚が露わになっている。

 そして彼女の手には、槍の穂先に斧頭を取り付けたハルバードという武器があった。

 いずれも明らかに有事に備えて用意された代物だ。

 

 エリザは動揺を隠せない様子で、俺やカリナを見比べている。

 

「あなたたち、こんな時になぜ戦いなど、それに《生きた禁忌兵器(フェアレーター)》とは一体?」

 

「……エリザ、なんで君がここに?」

 

 俺に名前を呼ばれたエリザは「えっ?」と怪訝な声を上げながらこちらに視線を移す。

 

「あなたこそなぜわたくしの名前を、一体あなたは……?」

 

 エリザは俺に疑いの眼差しを向けながらそう尋ねてきた。

 あれから一日も経たずに俺の事を忘れてしまったのかと内心で憤慨しかけたが、視界に青みがかかっていることに気付いて思い出した。

 カリナ曰くエクリプス因子のせいで俺の瞳は青く染まっているらしく、そのせいでエリザも俺に気が付かないのかもしれない。

 エリザはまじまじと俺を見てすぐに大きな声を上げる。

 

「あなた――もしかしてケント様なの!? どうしたんですかその瞳? 昼間に会った時は確かに金色と緑色の虹彩異色(オッドアイ)だったのに?」

 

「いや、これには色々と事情があって」

 

「どんな事情があったら瞳の色が変わるようになるんですか!? それにこんな時になんであの人と戦いなんてしているんですか? まさか傀儡兵(ゴーレム)が街を襲っている状況に気が付いていないわけではありませんよね?」

 

 満足に答えることができずにたじたじになる俺にかまわず、エリザは次々に問いを投げてくる。

 そんな俺たちをカリナは呆れた目で見ていた。

 

「ケント、そのお嬢さんは誰だ? あんたの知り合い?」

 

 声をかけられたことで、俺とエリザはカリナの方に視線を向ける。

 エリザはコホンと咳払いをしてからカリナに向かって言った。

 

「これは失礼しました。わたくしはエリザ。この方とは偶然お昼をご一緒することになっただけで、決してそれ以上の関係ではありません」

 

 所々を妙に強調しながらエリザは説明する。

 昼間の言い争いをまだ気にしているのか、それとも俺のような男と親密だと思われたくないのか俺には判別できない。

 一方、カリナはあきれるように肩をすくめながら返事を返した。

 

「それはご丁寧に。私はカリナ・フッケバイン。フッケバイン傭兵隊の隊長として、部下ともどもこのリヴォルタで自警団をして()()者さ」

 

「あなたがフッケバイン? ……あなた方のお噂はかねがね私も耳にしております。ですが、この非常時になぜ市民を守らずにその方と戦っているんです?」

 

 エリザの問いにカリナは面倒そうな表情をしながら、

 

「まあ色々あってね……それで、用が済んだのならさっさと退いてくれないか? こいつの知り合いまでむざむざ殺す気はないんだ。私はまだケントを仲間にすることもあきらめていないからね」

 

「そうはいきません! まさかとは思いますが、あのゴーレムを解き放ったのもあなたたちなのですか?」

 

「そうだと言ったら?」

 

「ただちにすべての傀儡兵を止めて配下ともども投降なさい! あなた方の罪は決して軽い物ではありませんが、自らの行いを悔いる気持ちがあるのなら寛大な措置が下されることもあるでしょう」

 

 そんな言い回しで投降を促すエリザに、カリナは嘲笑を浴びせながら、

 

「寛大な処置ねえ。処刑の際、楽に死なせてくれるとかそんなのかい? まあ私らの場合、頭を砕かない限りどんな殺し方でも死ねないんだけど」

 

「何をわけのわからないことを。このまま襲撃を続けるというのなら、リヴォルタと縁のある家の者としてわたくしも黙ってはいませんよ!」

 

 その言葉を聞いてカリナは口の端に笑みを浮かべながらエリザに刀を向ける。

 

「箱入り娘が言うじゃないか。だったら話は早い。力づくで私たちを止めてみな! 生かしてやる保証はできないけどね」

 

「おい待て! 彼女は関係が――」

 

「望むところです。あらかじめ申し上げておきますが、箱入りと侮って簡単に勝てるなどとは思わないことです。こう見えても武術に関してはそれなりに鍛錬を積んでいますから」

 

 止めようとする俺を遮って、エリザもハルバードの先端をカリナに向ける。

 彼女が持つハルバードの刃は稲妻がパチパチと弾けていた。

 帝国貴族で雷撃魔法の使い手……まさかとは思うが。

 

 

 

 

 

 

 中央区の戦いにエリザが介入するのとほぼ同時刻。

 各地区でも守護騎士と適合者の戦いに割って入る者たちがいた。

 

 

 

 体のあちこちから血を流し、満身創痍のシグナムに一太刀入れようとしたサガリスの剣は、第三者が突き出した剣によって阻まれた。

 

「あん? 何だてめえは?」

 

「――あなたは!?」

 

「ご無事ですかお嬢様」

 

 シグナムを助けたのは、白いシャツを着た灰色の髪と眼の色をした男だった。

 

「いいところで邪魔すんじゃねえよ!」

 

 有効打を阻まれたサガリスはもう片手に持っていた剣で男を斬り捨てようとするが、

 

「パンツァーヒンダネス」

 

 男はシールドで覆った左手で剣を受け止める。

 それによってサガリスは思わず左手の方に力を入れて、右手の力を緩めてしまい、男はその隙を逃さず剣を持った右手に力を入れてサガリスの剣を弾き、

 

「飛錘!」

「ぐおお!」

 

 がら空きになったサガリスの胴体を突き刺した。

 その合間に男は後ろに下がって、サガリスから距離を取りシグナムと並ぶ形になる。

 

「かたじけない。助かったぞ」

 

「いえ、思わず体が動いてしまっただけですから。お嬢様こそ大丈夫ですか? ここは私に任せてお逃げになった方が」

 

「そうはいかん。我が主から何としても奴を倒せと命じられているからな。それまではここを離れることができん。それよりお前は一体……」

 

 シグナムの言葉に、男は淡い笑みを浮かべながら言った。

 

「申し遅れました。私はとある貴族令嬢にお仕えしているスコットという者。よろしければ私もあなたとともに戦うことをお許しください」

 

「願ってもない! 遠慮なく手を貸してもらうぞスコット殿!」

 

 そんな言葉を交わしながら剣を構えるシグナムとスコットを前にして、サガリスは薄笑いを浮かべた。

 

「ふっ、時代遅れの中古品は助けでも借りないと俺たちと張り合えねえか。もっとも、そんな細身の優男じゃ大して役に立たないと思うがな。せいぜい足手まといになってやるなよ」

 

「言っていろ。数で押すのも戦略のうちだ。戦において卑怯などとは敗者のたわごとにすぎん」

 

「お見せしましょう。帝国貴族に仕える執事にとっては必修とされるほどの伝統を誇る《ヴェンディチカ護衛剣術》を」

 

 シグナム、スコット、サガリスの三者は相手に剣を向ける。

 そんな中、シグナムの後ろにひっそりと現れた黒い渦から伸びてきた手が、スポイトでシグナムの体に付いていた血を採取していたが、それに気付く者は誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

「きゃっ!」

 

 巨大な斧によって剣は弾かれ、執事服を着た青髪青眼の女は尻餅をつく。

 

「終わりだ。これで楽になるがいい」

「――っ!」

 

 トリノは女に斧を振りかぶる。女は死を覚悟して思わず目をつむった。

 

「ロープ殿!」

 

 だがそこにザフィーラが二人の間に割り込んで、トリノの斧を素手でつかみ女をかばうように立つ。

 

「ぬっ!?」

「ザフィーラさん!?」

 

「ぬおおおおお!」

 

 ザフィーラは空いている右手でトリノの顔を思い切り殴りつけ、トリノは後ろに吹き飛ぶ。

 その合間にザフィーラはちらりと横目を向け、倒れ込んだままのロープに声をかけた。

 

「大丈夫かロープ殿?」

 

「は、はい! でもザフィーラさんの方が」

 

 ロープの視線は血が流れているザフィーラの手に向いている。

 しかし、ザフィーラはそんなことを気にする素振りもない。

 

「戦ではよくあることだ。それよりロープ殿も早く立ち上がられよ。退くにしろ戦うにしろそのままではどちらもままならん」

 

「あっ――はい!」

 

 ザフィーラの叱咤を受け、ロープは慌てて剣を取り立ち上がる。どうやら逃げるつもりはないようだ。

 

「申し訳ありませんザフィーラ様。みっともないところを見せてしまいました」

 

「よい。そなたが無事で何よりだ。その代わりと言っては何だが、もし私が奴の手にかかりそうになったら同じように助けてもらえるとありがたい」

 

「は、はい。それはもちろんです!」

 

「なに二人だけでぺちゃくちゃ喋ってんだ。そろそろ続きと行こうじゃないか」

 

 そこへ戻ってきたトリノは苛立った様子でザフィーラたちに斧を向ける。

 

「おちおち話している暇はないか。行くぞロープ殿!」

 

「はいザフィーラ様!」

 

 ザフィーラとロープも拳を、剣を、構えて戦いを続けようとする。

 ザフィーラの隣にいるロープの顔は赤みがかかっていたが、ザフィーラがそれに気付くことは最後までなかった。

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