グランダムの愚王   作:ヒアデス

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第3話 守護騎士と臨む最初の戦

 《ヴォルケンリッター》。

 闇の書と呼ばれていた黒き魔導書から浮かぶ魔法陣から現れるやいなや、瞬く間に周囲の敵兵を駆逐して何かを奪っていった四人の黒装束の者たちは、そう名乗って俺に跪いていた。

 

「……我が軍に加勢してくれる……ということでいいのか?」

 

「ご命令とあらば。《リンカーコア》に内在する魔力を集める絶好の機会でもありますので」

 

 先頭で跪く桃色の髪の騎士は迷いなくそう言ってくれる。

 リンカーコアとやらの意味は分からない。それはひとまず置いておこう……しかし、

 

「確かに君たちはかなりの凄腕のようだ。言葉に甘えたい気持ちはある。しかし君の後ろの偉丈夫はともかく、他は皆女子(おなご)じゃないか。女子(おなご)が戦場で戦うということは、常に敵の手に落ちる危険があるということだぞ。それは死ぬだけでは済まないかもしれない。その意味が分からない齢でもないだろう」

 

「この身が滅びる時まで主をお守りし、魔力を集め続ける。我らはただそれだけのために存在するのみです」

 

 こっちの忠告を金髪の女性がすげなくはねのけてくる。それに続いて――

 

「勝つか負けるか、生きるか死ぬかってだけの話だろう。あたしらが加勢してやるってんだ。あんたは後ろから命令してりゃいいんだよ。そこで闇の書の頁が埋まるのを待っとけ」

 

「ヴィータ!」

「主の前ではお前は黙っているという約束だったはずだぞ!」

 

 跪く姿勢とは違って、乱暴な口調でそう吐き捨てる赤髪の少女を、金髪の女性と桃色の髪の剣士が咎める。

 しかし、俺が手を平を向けると二人は口を閉じた。

 

「いや構わない。しかし君たちこそいいのか? 戦いには慣れてるようだが、先も長いだろう幼子まで加えて」

 

「それがこの子を含め我らの本分ですから」

 

 また金髪の女性がそう冷たく言い放った。

 冷静を通り越して冷徹というか。

 

「シャマルの言うとおりだ。それにあんた、幼い子供だったら先が長いって本気で言ってんの? この戦乱の時代、若かろうが年取ろうが運が悪けりゃあっさり死んでいく世だ。()()()()()()()()()()()()()()。違った?」

 

「……」

 

 確かに少女の言う通りだ。

 夜盗に襲われる者、戦争のさなか軍隊に虐殺されたり、慰み者にされたり、齢など関係なくこの世に住まう者は皆、何らかの危険にさらされている。

 

 俺が返答に窮していると、一人会話に取り残されていた大男が割ってきた。

 

「主よ、この戦いにおける我らの働きを見て判断なされるというのはどうですかな? どの道退却にはもう遅い」

 

 確かに、むしろ今はここで跪かせたままでいさせる方がマズイ。

 

「わかった。助力を頼む。ただし、危険を感じたら俺に遠慮せずにすぐに逃げること。それが条件だ。それでいいなら、すぐに立って戦いの準備をしてくれ」

 

 俺がそう言うと四人は驚きながらもうなずいて立ち上がり、口を開いた。

 

「ヴォルケンリッターを束ねる将にして、《剣の騎士》シグナム。これより主の剣として、いかようにお使いください」

 

 まず長い桃色の髪を紐でまとめた剣士が、

 

「《鉄槌の騎士》ヴィータ。戦いなんてあたしらだけでどうとでもなる。あんたも戦うなりふんぞり返るなり好きにしていいが、足は引っ張るなよ」

 

 次に長い赤毛を二つに分け三つ編みに結った少女が、

 

「《湖の騎士》シャマル。ヴォルケンリッターの参謀役として、守護騎士への指示と支援を行います」

 

 短く揃えた金髪の女性が、

 

「《盾の守護獣》ザフィーラ。他の騎士と主の補助、防衛に回ります。此度は主のお傍でその身を守らせていただくとしましょう」

 

 なぜか犬の耳と尾を付けた白い髪と褐色肌の大男がそう名乗った。

 そしてシグナムとヴィータとやらは前線の方に身を向ける。そんな彼女たちにシャマルは声をかけた。

 

「待って! シグナム、ヴィータ、まだ《騎士甲冑》が――」

 

「あんな奴らに必要ねえよ! 後だ後!」

 

「同感だな。さすがにそんな余裕はなかろう。……では主、私たちは敵を斬り捨て魔力を集めて参ります。ヴィータの無礼への仕置きもその後にいたしますので」

「それは気にしなくていい。それより、危険を感じたら俺に遠慮せずにすぐに逃げること、これだけは決して忘れないでくれ」

 

 そう言うとシグナムとヴィータは戸惑いながらも、シグナムはうなずき、ヴィータは何の反応も返さずにすぐさま前線へ飛んでいった。

 そして残ったのは……

 

「主は如何なさいます? このザフィーラどこへなりとお供いたします」

 

「主様、何かご入用でしたら私が用意いたしますが。あの程度の軍勢、シグナムとヴィータなら指示も補助もしばらく必要ないでしょう」

 

 ザフィーラとシャマルだった。俺は二人に向き直り……

 

「俺も前線に向かう。申し出に甘えてザフィーラ、共に来てくれ。シャマル、君は風の癒し手と名乗っていたな?」

 

「はい。主様はどこかお怪我を?」

 

 表情一つ変えずシャマルはそう尋ねてくる。オレは首を横に振りながら、

 

「いや、すぐそこに医療用の天幕がある。治療魔法もしくは薬学の知識があるなら兵の治療をしてくれ。動けるようになった途端、ここから逃げ出すかもしれないが好きにさせて構わない。……頼めるか?」

 

「ご命令とあらば」

 

 一礼しそう言った後、シャマルは指示通り負傷者が集められている天幕へ向かう。

 

「では主、前線に向かいますか? ならば私にお捕まりを」

 

 俺が飛行魔法を使えないのを察して、ザフィーラはそう言ってくれるが俺は首を横に振った。

 

「いや、まずは敵の飛行兵を片付けたい。お前たちが先ほど行っていたのは蒐集とのことだが、蒐集した魔法を使うことはできるのか?」

 

「はい。ただし、集めた頁を幾分消費することになりますが」

 

 ただでは使えないか……いや、飛行兵を放っておくわけにはいかない。

 

「構わない。どうすればいいのか教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

「ギガントシュラーク!」

「なっ!? 槌が巨大化――ぐあああ!!」

 

 ヴィータの持っていた槌が巨大化し、何十人ものディーノ兵を圧殺していく。

 槌自体の大きさもそうだが、それを軽々と振るうヴィータの姿も信じられない光景だった。

 

「シュランゲバイセン・アングリフ!」

「がはっ!」

 

 シグナムが剣を振るうとそれは連結した刃となり、複数の敵を切り刻んでいく。

 さらにその刃には激しく熱い熱がこもっており、それが敵兵についた傷を重症化させていた。

 

「おのれ!」

 

 どんどんディーノ兵の数を減らしていく謎の女騎士に空中にいた飛行兵が杖を向けた。

 

「フレースショット!」

「ちっ、パンツァーシルト」

「パンツァーガイスト」

 

 ディーノ兵の放った砲撃を、ヴィータとシグナムがシールドで防ぐ。

 

「次に死にたいのはてめえらか。ならお望み通り――」

 

 飛行兵に向かって飛び込もうとするヴィータだったが、思わぬ方向から、

 

「フレースヴェルグ」

 

 後方から放たれた無数の光弾がディーノの飛行兵を打ち落としていく。

 光弾を放ったのはシグナムでもヴィータでもない。

 

「あんっ? こんな魔法、あたしら知らねえぞ。主のとこの兵士か?」

 

「いや。敵軍の中に使える者がいたようだ。まさか……」

 

 

 

 

 

 

 俺が闇の書から放った無数の光弾は元森の上で、シグナムたちを狙っていた敵兵を一掃していく。

 見るとザフィーラの言った通り、頁から分や式が消えていった。5ページほどといったところか。その代わり、

 

『Sammlung(蒐集)』

 

 闇の書がまたそれを告げると生死問わず、倒れている周囲の兵から光、リンカーコアというらしいものか、あるいはその魔力だけが闇の書に吸収されていく。

 集まったのは15ページ。差し引きで今の攻撃によって10ページは増えたことになる。

 

「ふっ。少々減ったと思いきや、その直後の蒐集で魔力が集まり、結果的には頁を増やすことが出来ましたな。先ほどは失礼、いらぬ口を挟んだだけでした」

 

「いいさ。いざという時は減らす覚悟もしなければならないが、こういう使い方もあると知れた。それでも蒐集するだけでどんな大魔法でも使えるなんて、今の俺には大きすぎるくらいの利点だ」

 

 詫びるザフィーラに本心でそう思って言葉を返す。

 そう。蒐集すればどんな魔法でも使えるようにできるこの魔導書は確かにすごい。しかし、そこで俺の心には密かな疑問が芽吹いたが、この時点ではそんなことにかまっている暇はなかった。

 

「ではそろそろ行こうか……主として闇の書に命じる。我に空を舞う翼を!」

『springen』

 

 闇の書がそう唱えると1ページの半分ほどが消失し、その代わりに俺の体は宙に浮いた。

 

「行くぞザフィーラ!」

 

「御意!」

 

 

 

 

 

 

「おのれ小娘ども、捕らえて女に生まれたことを後悔――ギャハっ!」

 

 突然現れ次々と味方を斬り、または潰していく女騎士に襲い掛かろうとするディーノ兵の後ろから刃が突き刺さった。

 そこには今まで逃げまどっていたグランダム兵が。

 

「女たちのおかげで敵がひるみ始めたぞ!」

「俺たちも負けるな!」

「かかれ! 俺たちはまだ負けていない!」

 

 今までとは一転流れが変わったと見るや、現金にも彼らはディーノ兵に反撃を始めた。

 だが、敵軍もこれで終わらない。彼らの総大将がいる限りは。

 

「ぐはっ!」

 

 勢いづいて前進しているグランダムの部隊が彼らに斬り伏せられた。

 

「調子に乗るな残党ども! 我が兵も情けない! 女が二人増えたくらいで崩されおって。わし自ら手本を見せてやるわ!」

 

 グランダム兵を斬り捨てて現れたのはディーノ王自ら率いる親衛隊だった。

 

「あのおっさんで()()は締めか。シグナムとあたしどっちでやる? どっちかがおっさんを、どっちかが周りにいる兵隊たち担当ってことで」

 

「油断するな。腐っても“ベルカの王”、間違いなく固有技能を持っているだろう。あのそれぞれ異なる色の瞳がその証だ」

 

 王を見つけた途端、これがこの戦の終端と見て軽口を叩くヴィータをシグナムがたしなめる。

 

「舐めるな娘ども!」

 

 いきり立ったディーノ王はすぐさま間合いを詰めてきて、ヴィータに斧を振りかぶる。

 ヴィータは槌でそれを受け止めるものの、衝撃のあまり顔をしかめる。

 

「うっ、確かに見た目通りの馬鹿力――でやあ!」

 

 ヴィータは槌を振り回して、斧ごとディーノ王を振り払う。

 さらにそこへシグナムが王に斬りかかり、彼に手傷を負わせた。

 だが、王に斬りかかった際に見せた一瞬の隙をついて、シグナムの腹に矢が突き刺さる。

 苦痛をこらえて矢が飛んできた方を見れば、王についていた親衛隊の何人かが弓を構えていた。

 

「このヤロウ――ぐあっ!」

 

 それにキレたヴィータが親衛隊に向けて槌を振りかぶるものの、そのヴィータの肩に斧が深く入った。

 

「ふははっ! 見たか娘、これが多勢に無勢というやつだ! 武器を捨てて投降すれば捕虜として我が城に住まわせてやっても構わんぞ。そこの小さい方は少なくとも成長するまでは生かしてやる」

 

「下衆が」

「はっ、気前がいいな」

 

 王の言わんとすることの意味を悟ったシグナムは王を罵り唾棄するが、言葉以上の意味を知らないヴィータはそんなことを言う。しかし、

 

「でも、あたしらは主以外に従うことが許されないんだ。闇の書が完成するまで主のために戦い、戦場で死ぬことを繰り返す。いつか闇の書を完成させる主が現れるまで」

 

「痴れ事を――ならばここで死ねい!」

 

 ヴィータの言葉をただの拒否と受け取った王は、今度こそヴィータを肩から斬り落とすため斧を振りかぶる。

 

「フレースショット!」

 

 だが、空から飛んできた光弾が斧を弾き落とした。

 

「――あれは?」

 

 光弾が飛んできた方の空へ王が目を向けると。

 

 

 

 

 

 

「ヴィータ! シグナム! 大丈夫か?」

 

 負傷したヴィータにディーノ王が斧を振りかぶっているのを見て、俺はためらわず闇の書から蒐集した魔法を王に撃ち放った。

 当たったのは王ではなく斧だったが、それがヴィータへのトドメの一撃を阻止することに繋がったようだ。

 

「王子か……者ども何をしている? 早くあの小僧を撃ち落とさんか!」

 

「はっ! ……射てぇ!」

 

 魔力のこもった矢が俺に向かってくる。

 

「主、そのままお進みください。せいっ!」

 

 だが、ザフィーラの展開した白い障壁が俺とザフィーラに飛んでくる矢を防ぎ、勢いを失った矢はそのまま元森へ落ちていった。

 ザフィーラの手はこれだけでは終わらない。

 

「鋼の軛!」

「ぐぁ!」

 

 地中から延びた白い杭が親衛隊たちを串刺しにしていく。

 

「ザフィーラ! 主!」

「ザフィーラはともかくあの新米主、余計なことを」

 

 とどめを免れたシグナムとヴィータは、各々新たな主に対しそうこぼす。

 さらに――

 

「かかれ!」

「王子、この場は我らが!」

 

 見れば、残ったディーノの親衛隊を、ようやく駆け付けたグランダム兵が取り囲んでいるのが見えた。

 

「馬鹿な……圧倒的に兵数に勝り、固有技能を持ったグランダム王もいなくなったこの状況で、なぜこんなことに……」

 

 囲まれる兵を視界にとらえるや、王は顔をゆがめ歯噛みする。

 俺はそんなディーノ王の前に降り立った。

 

「ヴィータ、シグナム、ここまでよくやってくれた。後は俺がやる」

 

「はあ!? ざけんなてめぇ。あたしがあんなので追いつめられてるように見えたのか? バァカ! まだまだ余裕だっての、守護騎士は人間とは身体の作りが違うんだ。ここで退けるか、やられた分の倍はたっぷり利子付けて返してやる!」

 

 相変わらず主に対してもぞんざいなヴィータの肩をシグナムが掴んだ。

 

「待てヴィータ……主よ、よいのですね?」

 

 そう念押しするシグナムの方を見ず、俺はうなずきだけ返す。

 

「一対一の決闘だ。お前が王、いや父に仕掛けたのと同じようにな。文句はあるか?」

 

 元森で闘っている父の様子を見ていたらわかる。

 父は上空にいる飛行兵に隙を見せて、一か所だけを攻撃し続けていたのだから。もっとも父は敵が決闘の決まりを破ることを察していたのかもしれない。しかし、敗色が濃くなった状況で敵将を討つためにあえて決闘に乗ったのだろう。

 

 俺からの挑発にディーノ王は鼻で笑った。

 

「それでお前の親父がどんな末路を辿ったか見てなかったのか?」

 

「だからだ。お前は卑怯な手で父を討った。だから俺はお前を正々堂々と討つ。そうしなければ勝った気がしない」

 

「たわけが! そんなこだわりがせっかくの好機を逃すのだ。よぉし受けてやる。いつでも来い小僧!」

 

 そう言うとディーノ王は改めて斧を構えた。

 

(ここまで壊滅した以上、もはや撤収せざるを得ないな。せめてここで王子と女どもをあの魔法で吹き飛ばして国に戻るとしよう。そして帝国の軍を連れてグランダムを落とすのだ。恩賞はなくなるだろうがもはやこれしかない)

 

 …………。

 五ほど数えるほどの間を空けて、俺はディーノ王に斬りかかった。

 

「結界魔法・パンツァーガイスト」

 

 だが、その斬撃はディーノ王がまとった結界に阻まれ、たまらず俺の体ははじき返され、後ろに飛ばされる。なんとか踏みとどまることはできたため倒れるのは免れた。

 

「そこだ!」

 

 俺がひるんだのを見逃さず、ディーノ王は斧を振りかぶる。

 俺は剣を振り上げなんとか斧の一撃をふせぐ。

 すごい力だ。腕が痺れる。

 

「貧弱者が!」

 

 ディーノ王は力任せに斧を振るってくるが、俺はその度に剣をぶつけることでなんとかしのぐ。

 そして数回互いの武器をぶつけたことで、ディーノ王は自分と相手の腕力の差を悟り、

 

「死ねい!」

 

 ついに痺れを切らしたディーノ王は、大振りで俺の頭目掛けて斧を振りかぶる。

 この時を待っていた。

 

「シュヴァルツ・ヴァイス!」

 

 俺の剣に紺色の魔力光が帯びる。

 

「だああ!」

 

 俺の剣はディーノ王の斧を弾き王の胸元に迫る。

 それを察した王は俺の後ろの方に向かって叫んだ。

 

「何をやってる!? 早くそやつを撃て!」

 

 ――!

 

 

 

 

 

 茂みに隠れていた兵が王の合図を受け、ケントに向けて杖を構える。

 

「フレースショット!」

 

 その杖から放たれる光線は逸れることなく、ケントに向かって撃たれた。

 

 

 

 

 

 

「主!!」

 

 それに気づいたザフィーラが障壁を展開しようとする。

 

「必要ない!」

 

 だが、俺はそんな彼を一喝する。

 ザフィーラは思わず動きを止めた。その表情は心配ではなく、この主は何を考えているんだ? という困惑の色に染まっている。

 しかし、これこそが俺にとっての好機!

 

「固有技能・フライングムーヴ!」

 

 途端、俺以外の世界の動きが大きく鈍くなった。

 人の動きも光線も緩い。守護騎士とて例外ではない。

 だが、ここでさっきのように相手を斬るような真似はしない。

 それよりもっと大きく打撃を与えられる方法がある。

 だから俺は光線が守護騎士の方には向かってないことを確認して……その場を離れた!

 俺はすぐに技能を解く。すると――、

 

 時間の動きは戻り光線は再び勢いよく射線上を進む。

 しかし、俺はすでに光線の向かう先にいない。その先にいるのは……。

 

「なに? ――パ、パンツァーガイスト!」

 

 ディーノ王は慌てて結界を張るが、光線は十分に展開しきれてない結界を貫き、王はその衝撃を受けて後ろへ倒れこんだ。

 

「ぐあああっ!」

「今だ! はあああ!」

 

 結界が砕けた衝撃でよろめき尻餅をついている王に向けて、俺は剣を振りかぶった。

 だが、王は体勢を立て直しながら、

 

「馬鹿め! 結界ごときが我が技能と思ったか。広範囲冷却魔法・フィンブル!」

 

 王の前にベルカ式の三角の魔方陣が展開する。それを見て俺の背中を撃とうとした兵はこの場から逃げ出すがかまっている暇はない。

 一方、守護騎士たちは棒立ちして俺たちを見守るだけだ。巻き込まれれば彼女たちも助からないはずなのに。

 

 ディーノ王の技能は《魔力運用》。

 己の魔力を節約、圧縮などを通して可能な限り少ない魔力の消費で大きな魔法を、あるいは多く魔法を撃つようにできる。しかも普通より短時間のチャージで。

 グランダム王の技能である巨大化や、俺の技能である止まった時間の中を移動する術に比べると一見地味だが、使い方によっては大きな魔法を使う時に溜めの時間を短くしたり、撃てる回数を増やすことができる。魔導師次第では何よりも恐ろしい能力となるだろう。

 

 ディーノ王が放とうとする魔法に対し俺は――

 

「砲撃魔法・コメットキャノン!」

 

 砲撃魔法を撃つための魔方陣を展開し、さらに――

 

「主として闇の書に命じる。可能な限り書に宿る魔力を我が魔法に上乗せせよ!」

『Verstanden.(了解)』

 

「なに!?」

 

 ディーノ王は驚きに目を空ける。すかさず俺は奴に向けて右手を突き出した。

 

はああああ!!

 

 火弾は闇の書の力で巨大化し、巨大化した火弾はそのままディーノ王を襲う。それを受けて――

 

ぐああああああ!!

 

 火弾を受けた瞬間、おびただしい炎に包まれ、ディーノ王は鈍い悲鳴を上げながらのたうち回る。

 そして魔法の効力が切れ炎が消失したあとには、煙を上げながらうずくまる彼の姿があった。

 

「ほう」

 

「あの主、あたしらの助けも借りず勝ちやがった」

 

「今度こそ闇の書が完成するのかはわからんが、この主、今までとは違うようだ。今回は少し楽しめそうかな」

 

 過去の主と違い、戦場に出ていくだけでなく時には自分たちの力を借りず戦う今の主の姿に、シグナム、ヴィータ、ザフィーラは驚きを隠せずにいる。

 そんな彼らの眼前では、敵の王がうめき声を上げながら憎々しげに俺を睨みつけていた。

 

「最後になって闇の書の力を借りるだと、汚い真似を――」

 

「魔導書は武器だ。そもそもこいつのおかげで独立を続ける羽目になって来たんだ。これくらいは許容範囲だろう。それにお前だってこの戦いでも忍ばせた兵に俺の背中を撃たせようとしたじゃないか」

 

 

 正論を返した途端、ディーノ王は憎々げな体を震わせ――

 

「ふざけるな!!」

「――っ!」

 

 最後の力を振り絞ってディーノ王は何事か俺に仕掛けようとした。

 しかし――

 

「ぐはあっ!」

 

 ディーノ王の胸から飛び出した手がそれを阻み、彼にトドメを刺した。

 

 

 

 

 

 

 己が媒体クラールヴィントが描く渦に左手をのばしたシャマルは、渦の向こうにいる敵に語り掛ける。聞こえていないだろうが。

 

「はいはい。もうあなたはここまで! 万が一この悪あがきで主に死なれても困るし、その主も頁も無駄に使っちゃったりするし、それを補填するためにもあなたはさっさと蒐集されちゃって」

 

 

 

 

 

 

『Sammlung(蒐集)』

 

 そしてまた闇の書はひとりでに頁を開き、ディーノ王や彼だけでなく周りの敵兵からも、リンカーコアまたはその魔力が蒐集されていく。

 さっき逃げた敵兵もいつの間にか自軍の兵に仕留められたようで、屍となった彼からもリンカーコアが抜き取られた。

 そうして今度こそ起き上がっている敵は一人もいなくなった。

 ディーノ王もこの蒐集に耐えきれずこと切れた。

 

「……勝ったのか?」

 

 戦勝というには異様な光景に、俺は思わずそうこぼした。

 

「お見事です我が主」

 

「まっ、少しは骨があるかもな。戦いに出るのは許してやるよ。でも足引っ張ったりしたら承知しねえからな!」

 

「改めて我らヴォルケンリッター、闇の書の完成まで主に仕えることを誓わせていただきます」

 

 シグナム、ヴィータ、ザフィーラが口々にそう労ってくれるも俺の気分はちっとも晴れなかった。

 

 

 

 

 

――『――の魔導書』87ページまでの蒐集を完了。

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